第二話 番長、女神に会う
「ここは、どこだ」
俺は目を覚ます。
見渡す限り白い世界で俺だけが立っている。
訳がわからねえ。夢でも見てるのか。
その時、目の前に眩い光が集まり、やがて人の形になった。
それはまるで魔法のように人の輪郭を作り、下から上へと光が消えると同時に女の身体へと変わっていった。
「んだテメエは。ここはどこだコラ。」
とりあえず挨拶とこの場所を尋ねてみる。
「私は女神、そしてここは世界と世界のの狭間、あなた方の言うところの死後の世界です」
「なんだと?つまり俺は死んだってことかコラ」
「その通りです。あなたは死んでしまい、この狭間で次の行き先を決めるのです」
(なんだそりゃ、俺は死んだ記憶も無ければ天国に来れるほど善人でもねえぞ)
「天国というものは存在しません。あるのは世界と世界、そしてこの狭間だけです」
「あ!?」
(なんだこいつ。俺の考えていることを読んだのか?)
「そうです。私には貴方の考えている事が分かります。つまり乱暴な言葉遣いをしても私を威圧する事はできませんよ」
そう言ってニコリと微笑む。
どうやら俺は本当に死んじまったみたいだ。
★
とりあえず死んだ事は理解したし、次の世界に行くということも分かった。
しかしそれならわざわざ俺を呼び出す必要は無く、そのまま放り込めばいいだけの話だ。
「その通りです。恐そうな見た目と違って頭は悪くは無いようですね。」
「あぁん!テメエ女だと思って調子こいてるとぶっ飛ばすぞコラ!!」
女は殴らない主義だがナメられるのは我慢ならねえ。
とりあえず軽く注意しておく事にする。
「はいはい、ごめんなさい。馬鹿にしたんじゃないわよ?本当にそう思っただけ。」
クスクスと笑いながら楽しそうに話す女神。
(心を読まれるってのはやりにくくてしょうがねえ)
「先程の疑問に答えましょう。貴方をこの狭間に呼んだのはある世界に行って欲しいからです。」
「ある世界だ?んだよそれは。」
「《魔法世界アズガルド》、剣と魔法、そして魔物や魔王の存在する世界。
そこで貴方に人種として転移し、人類を救って欲しいのです。」
「・・・。」
(なんのことだかさっぱりわからねえ。なんつーかゲーム?みたいなやつか?俺はやらねえからわかんねえが)
「そうですね。貴方のいた世界ではゲームのような御伽噺のような世界です。」
「なんでそこに俺が行く必要がある。」
「今アズガルドでは魔王による侵略が始まっています。
このままでは世界は魔族により征服され邪神の思うがままの地獄に変えられてしまうのです。」
目を伏せ悲しげに語る女神。
「『俺』である必要はなんだ?」
伏せていた目を開き俺と目を合わせながら語り始める。
「私が求めた条件は二つです。まず一つは強い事、
それも普通の人間ではなく天才とも言えるほどの戦闘能力がなければ魔族と戦う事は出来ません。」
「そして二つ目、戦いを望んでいる事です。どんなに強い人間であろうと戦えなければ意味がありません。」
「・・・。」
再び黙り込む俺。
「貴方にぴったりじゃありませんか?」
「・・・。」
(条件としては当て嵌まっている。たしかに俺は喧嘩が好きだし一度も負けた事がねぇ。
だがなんでよく知りもしない世界で魔族とやらと戦わなわないといけない。)
「理由がねえ。戦う、理由がねえ。」
「罪もない人類が滅ぼされようとしているのですよ?それでは理由になりませんか?」
まるで聖職者の戯言のようなことを言ってくる。
「理由になんぞならねえよ。弱いから殺される、それが自然の摂理だろうが。」
鼻を鳴らしながら答える。
「そう言うと思いました。これはあくまで女神の職務として聞いただけです。貴方の思っている事は理解していますよ。」
そして謝らねばなりません。貴方に用意された行き先は2つ。
一つは先ほど説明したアズガルド。もう一つは全く争いの無い平和な世界です。」
「なに?全く争いが無い?」
「そうです。人々は手を取り合い、争いのない完璧に幸福な世界を実現しました。
そして争うという意味も忘れ去られ、平等で誰もが不満を抱かずに生きています。」
女神は言う。だがその表情には喜びは見出せなかった。
そして俺は女神が謝った理由を理解した
「争いが無い。つまり欲が無い。まるで家畜だなオイ」
馬鹿にするように言い放つ。
だが女神は怒るでもなくそれを認める。
「家畜・・・は言いすぎですが、人間は産まれた段階で『処置』を受けて限りなく欲望を抱かない状態にされます。
その後徹底的な監視下で生活を送り思想の統制が行われます。
それがその世界の常識ということになります。」
ろくでもねえ世界だ。それが俺の率直な感想だ。
あまりにも両極端な世界を用意したのは恐らく女神とやらの思惑だろう。
(気にいらねえ。実に気にいらねえ。だがそんな地獄みたいな世界に行くぐらいなら、俺が選ぶのは・・・)
「アズガルド・・・だったか。お前の事は気にいらねえ、が勝手にクソ平和な世界なんぞに送られるよりはマシだ。
上等だよ。魔族だか魔王だかしらねえが喧嘩売ってくるならブッ殺すまでだ。」
完全にこのクソ女神の思うがままに操られているがもう覚悟は決めた。後は突き進むのみだ。
「ありがとうございます。そしてよろしくお願いします。」
そういって手を前に組み、お辞儀をする。日本式の礼だ。悪い気はしない。
「それではアズガルドに行くにあたり、祝福を授けたいと思います。」
「なに?」
「祝福とは、神から与えられる特殊な能力、ギフト、チートそういった類の物です」
「ぎ、ぎふ?ちー、なんだそりゃ。そんな訳のわかんねえもんはいらねえよ。」
俺は英語とかそういうのはわかんねえんだ。そんなもんくっつけられたらたまんねえ。
「具体的には言語理解。アズガルドの言葉を理解できるようになる祝福です。
そして鑑定。人や物の詳細を知る事ができる祝福です。これらが無ければ向こうの世界では苦労するでしょう?」
女神はそういって楽しそうに笑う。
「あー、言葉が通じねえのは困る。見たこともねえ物もわからねえと確かに苦労しそうだ。」
(俺は物覚えが悪ぃからな。正直助かったぜ。)
「これらはあくまで貴方を補助するためであり世界のバランスを崩すことではありません。
私にできることはこのぐらいの事なのです。申し訳ありません。」
「いいってことよ。そんだけあれば充分だ。さっさと送ってくれ。」
そう言い腕を組んでいつでも来いと仁王立ちする。
「わかりました。どうか貴方の行く先に幸がありますよう祈っています。」
こうして俺は異世界に行く事になった。