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第11話 没個性

 コールマンは板を脇に抱え、両手をズボンのポケットに突っ込んだ姿勢でヴァレンタインたちの前を行ったり来たりしている。


「私たちは『カンパニー』。彼、お客様の世界で言う『太陽王』から依頼を受け、このダンジョンを制作した職人たちの集団です。その経緯、方法、このダンジョンの具体的な仕組みについては私たちの世界の法律によりお教えできませんが、それ以外についての情報ならば特定の条件を達成次第、開放できます」

「太陽王? って、あの神話の、ですか?」

「はい。そうです」

「おい、待て。お前は太陽王に会ったことがあるのか?」

「ええ。ありますよ」

「……あなた、何歳?」

「それは紳士の秘密です」


 見た目は若い。二十代か。ヴァレンタインは聞いた。


「じゃあ、コールマン?」

「はい。何でしょう、お客様」

「君たちがこのダンジョンを創ったと言うが、そのようなことをして君たちに何の得がある?」

「損得ではありません。私たちの世界では労働こそ最高の誉れ。生き甲斐なのです」

「わお。信じられない」


 エドが頭の兜に乗せた盾をショートスピアで弾いた。くるくる回転する。


「俺は労働なんてまっぴらゴメンですね。生き甲斐にするなら労働のあとの酒がいい」


 コールマンは笑った。


「私たちの世界にもそういう人はいますね。でも基本、皆は勤勉で働き者です。他にやることもないですから」


 コールマンはその怪しげな格好、眼鏡の向こうにある切れ長の目から、冷たい感じに見えたが話してみるとそうでもない。人当たりのよい青年だった。

 ヴァレンタインたちはそれからいくつかの質問をして、ダンジョンについて理解を深めた。

 コールマンの説明によると、このダンジョンには、神話にあるように、『神器』があり、そして『モンスター』がいるという。

 モンスターとはコールマンの世界の言葉で怪物という意味らしい。おそらく先程の骸たちのことだろう。


「それで、これはちょっと私たちも想定外のことだったのですが」


 コールマンが言うに、モンスターは長い時間をかけて、層ごとに独自の生態系を形成しているらしく、『ボス』が存在するらしい。

 この『ボス』という言葉もコールマンの世界の言葉で、ぬしかしらを意味する。


「本来、モンスターには種族ごとに能力差がありますが、同種族内に限って言えば能力差は存在しません。個体差はないのです。ですが現に、これは私たちのモニタリングからもわかっていることなのですが、モンスターの同種族内に優劣が発生していて、その頂点にいる存在が層のボスとして君臨している。これは想定外の現象です」

「想定外? なぜだ? 君たちが創ったダンジョンなのに原因がわからないのか?」

「いいえ。もうすでに、我々の分析により原因はわかっています。この現象は神器の力によるものです。モンスターの一個体が神器の力に影響され、同じ種族だけでなく他の種族までをも従え、層の頂点に立っているのです。全く皮肉なことです」


 コールマンの表情はなぜか憂いを帯びる。


「皮肉? どういう意味だ?」


 ヴァレンタインの問いにコールマンは首を振り何も答えなかった。

 レイルがランスを肩に担ぎ、空いた手を腰に当てた。


「モンスターについてはよくわかった。だが、まだそれ以外についても聞きたいことがある」

「開放できる情報は条件達成次第です」

「わかっている。私が聞きたいのは、私たちよりも先にこのダンジョンに入った者がいるはずなのだが、それについては開放できるか?」

「そのことですか、はい、それならば問題ありません。確かにいます。私の部下アネシスが担当していて、現在は……」


 コールマンが板を触る。


「……これはすごい。かなり深くまで潜られていますね」

「深く? それは今の私たちが追いつけるような深さか?」

「はっきりと申し上げれば、現時点でのお客様の装備、能力では不可能かと……ですが、先程の太陽王を彷彿とさせる見事な『陣形』を駆使すれば、あるいは……」

「……そうか。わかった。では改めて聞く。私たちがこのダンジョンから出るにはどうすればいいんだ?」

「それはもちろん、ボスを倒してください」


 ヴァレンタインたちはボスを倒さない限り、次の層に進めないし、戻ることもできないと言われた。


「ただし例外はあります。詳しくは特定の神器を手に入れられたら開放します」

「随分と親切に教えるのだな」

「そういう約束ですから」

「太陽王との?」

「はい」

「……そうか、やはり太陽王の神話は虚構などではなく実話なのか……」

「ちなみに、これは私の独り言ですが」


 コールマンは黒縁眼鏡のブリッジに指先を当てる。


「ダンジョンはどこから入ろうと全て共通です。ただ入り口が違います。お客様の世界の月と太陽、そして星々の位置関係から影響を受け、入り口の発生場所、構造など刻々と変化するよう設計してあります。ですから、最初から高位のモンスターと遭遇する不幸もありますが、私が見るに、今回生成されたこのダンジョンの入り口は初心者に易しいようです。私たちの世界で言えばチュートリアルにあたります。証拠に階下にいるボスは低位で、それほど難しい相手ではありません。もし、お客様が特定の神器をお持ちでしたら事前にボスの情報を開放してもよかったのですが……。流石にお持ちではないようですね。残念です」


 コールマンはちらり、ヴァレンタインたちから視線を外し、天井を見上げた。


「今からお客様六名でボスを倒していただくことになりますが、準備はよろしいでしょうか?」


 釣られてヴァレンタインたちも天井を見上げた。青い岩肌が見えるだけでとくに変わりはない。

 ルーシィが眉間にしわを寄せた。


「六名? 何を言ってるの? 私たちは五人よ」


 コールマンが言っているのは、おそらくジェイドのことだろう。

 ジェイドの隠形おんぎょうを見破る者がいるとは、初めてのことだ……。

 ヴァレンタインはあえて言及せず、コールマンに言った。


「ボスはどこにいるんだ?」


 コールマンは脇に抱えていた板を見た。指先を当て、なぞる。背を向けた。コールマンの足元で地面が光る。階段が現れた。


「この下にいます」

「一体これは何なのだ……。私は何を見せられているのだ……」


 レイルが言葉を失った。

 ヴァレンタインたちはコールマンに促され階段を下りた。下りた先にコールマンが立っていた。

 ジョージとエドが驚きの顔で階段の上を見上げ、また階下のコールマンを見る。

 その動きは全く同じで鏡に映っているかのような正確さだった。


「一体何なの? 頭が痛くなってきたわ」


 ルーシィがこめかみを押さえた。

 下の階にいるコールマンが板を見る。


「今からボスを出現させますが、よろしいですか?」

「少し待ってくれ」


 ヴァレンタインは制止した。


「レイル、ここは俺が仕切るが……」


 レイルが不満げな顔をする。


「……わかった。だが、今回までだ。次からは私が指揮をとる。それから……」

「……何だ?」

「ミリア村に帰ったら、その『陣形』について私に教えてくれ、ヴァル」


 そう言ってレイルは笑みを浮かべた。

 ヴァレンタインも笑う。頷いた。


「わかった」

「ルーシィ、戦えるか?」

「はい! レイル様!」

「では喚び出します」


 コールマンは板を操作し、姿を消した。

 何が来るか――。

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