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第10話 黒縁眼鏡

 炎が四方、十字路の彼方に吸い込まれ消えた。濡れた岩肌は乾き、全体的に薄いヒビのようなものが入っている。天井からぱらぱらと粉が落ちてきて、ヴァレンタインの鼻先をかすめた。

 笑い声が聞こえる。

 ヴァレンタインは歓喜の声を聞いていた。

 力を振るう喜び、圧倒的開放感に満たされた巨人の声……。


「ヴァル!」


 レイルの声にヴァレンタインは我に返り、振り返る。レイルが片膝を突き、ランスで体を支えていた。他の者は皆、倒れている。


「今のは……何だ!」


 レイルの顔は疲れていた。そして不安、驚きが混ざり合っている。


「わからない……。この指輪が……」


 ヴァレンタインは神器の指輪を見た。赤い光はなくなり、色がくすんでいた。

 不思議に思い、もう一方の手で触れるとヒビが入り砕けた。地面に落ちて、黒い砂になってしまった。


「……」


 マクベスに怒られるかもしれない。


「……まあいい。詳しいことはあとだ。今は態勢を立て直す」


 レイルがランスに力をこめ、ぐっと立ち上がった。


「ヴァル、お前も手伝ってくれ」


 協力して他の者を起こす。皆が目を覚ましたところで、改めて各自の状態を確認した。

 ヴァレンタインに異状はなかったが、先ほどから眠気を感じている。

 レイルは疲労、戦うには問題ないと言った。ジョージとエドも疲労だが、顔色や声の張り具合から中度の疲労だと思われる。

 残るはルーシィだが、彼女は横になったまま動けなかった。明らかに顔色が悪い。


「レイル様、ごめんなさい。何だか力が入らなくて」


 レイルはふっと哀れみの眼差しを向けると、すぐさまいつものようにきりっとした表情に戻った。自分の髪型、七三頭を整え、何でもないように立ち上がると言った。


「ジョージ、エド、二人ともルーシィに肩を貸してやれ。立たせるんだ」


 二人はルーシィを肩に担ぎ、立たせた。


「よし。ここは一旦、退却する。坑道の外に出るぞ」

「カインはどうするんだ?」

「今は不測の事態だ。このような怪物が現実のものとして存在する以上、サミュエル隊長に報告して指示を受ける必要がある。私の独断で動くわけにはいかない」

「……意外だな。あれだけ任務について熱くなっていたのに」

「確かに任務は大切だが、今回の場合は部下の身の安全を優先させる」

「副隊長……」


 感動しているのか、ジョージとエドが涙目になっている。ルーシィはなぜか悲しげだ。


「……そうだな」


 ヴァレンタインはそう呟きながらも、クレアの顔を思い浮かべた。

 カインを連れて帰れなかったこと、この坑道に怪物がいたこと、これらのことを彼女が知れば、きっと不安に感じるだろう。

 ヴァレンタインの表情から何か察したのかレイルが励ますように言った。


「……不本意ながら、お前の先ほどの『陣形』を駆使した指揮能力は認める。もしかしたら、このまま任務を続行しても良い結果が得られるかもしれない。だが、それでも、私としては安全策を取りたい。軍人として部下を無事に連れ帰るため、ここで起きたことを部隊で共有するためにも」

「……わかった」


 ヴァレンタインは頷いた。


「レイルに従うよ。そうと決まれば、まずはあの空気の膜をどうにかしないと」

「そうだったな。とりあえず私のランスで突いてみるか……」


 レイルが膜のほうに向かって歩き出すと、突然、十字路の中央に光の柱が現れた。

 レイルがとっさにランスを構える。


「新手か!」

「下がって」


 ヴァレンタインはクロークの裾をなびかせ、ルーシィたちを庇うようにダマスカスの小剣を構えた。

 光で囲まれた地面に銀色の頭髪が現れる。

 すっと上に移動して、黒縁眼鏡をかけた若い男が姿を現した。銀色のきらきらした服装をしている。

 前面が開いた丈の短い上着、白いボタン付きのシャツ、首に巻かれた赤い布切れ、ほっそりとした薄布のズボンに黒い靴、やや猫背で、脇には四角い板のようなものを抱え、両手をズボンのポケットに突っ込んでいた。

 眼鏡の男は空中で止まり、ヴァレンタインたちを見下ろした。

 光の柱が消え、両足を地面に着ける。ポケットから両手を出し、前に揃えると頭を下げた。


「いらっしゃいませ、お客様」

「何?」


 レイルは眉間にしわを寄せ、いつでも突撃できるように腰を沈めた。


「待てレイル。君は……?」ヴァレンタインは聞いた。

「私の名前はコールマン。このダンジョンを管理しているSEです」

「えすいー?」

「……なるほど、久しぶりのお客様なので言葉が少々古くなりましたか」


 コールマンは脇に抱えていた板を手に持ち、見た。長すぎる前髪が眼鏡にかかる。もう一方の、空いたほうの指先で板をこすった。


「申し訳ありません。こういうことはいつも部下のアネシスに任せっきりなもので……初見殺しで一見さんになってしまう方がほとんどなので……そうですね……お客様の言葉では……多分これかな?」


 顔を前に向けた。


「『職人』といえばお分かりいただけますか?」

「職人? 何のだ?」


 緩いやり取りにレイルの警戒も若干緩んだのだろう、ランスの先端を下げた。


「このダンジョンを役割に沿って創り動かす『職人』です」

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