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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第四章 自分に出来る事を編
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第5話 舞い込むは救援要請

 仄かに魔法灯に照らされる路地を全速で駆け抜けていく。


 任務として夜の見回りを終えた俺に届いた突然の念話。内容は、まだ分からないけれどソフィが緊急の仕事と言っていたのだ……厄介事が起きたのだろう。

 何が起きたかはソフィと合流してから聞けば分かるのだから、俺はさっさと合流地点である門の所まで向かえばいい。


 息も途切れ途切れのままに、人が寝静まった閑静な住宅区を越えてソフィから指定されたフィリアロック正門まで辿り着く。

 走った為に荒くなった息を整えつつ、正門で待っているだろう人物の姿を探す。


 エルドランドに来て、本格的に訓練をするようになった俺は煙草を止めた。

 少しでも自分に出来る事を増やす為に煙草を止めて、基礎体力を非喫煙者の人達と遜色ない程度まで戻そうと思ったわけだが、直ぐに体力が元に戻る訳では無くて、ちょっとした運動をすると直ぐに息が上がる……残念な事に、俺はシュードスキル『輝星憧憬(キセイドウケイ)』を発動しなければ同年代の非喫煙者とでさえ体力に差がついてしまう存在なんだという事は分かった。

 本当に嫌になる……何かを成し遂げたいと願った俺がいるのに、現実の俺は自分で自分の選択肢を狭めてしまった愚か者だった。

 俺は喫煙者自体を悪者とは言わない、別に煙草を吸うのは個人の勝手だろう。本人が()してして煙草を吸っているのだから身体の事などは本人の責任であって他人からとやかく言われたら堪ったもんじゃない。

 まぁ、俺の考えは元喫煙者の考えだから非喫煙者の方にとっては忌避したい考えだというのも理解しているつもりだが、ここでは多くを語らない。そうだね……語ったとして非喫煙者の方と少しは意見の歩み寄りは出来るかも知れないが、最終的に平行線の意見の羅列に落ち着くのは目に見えているからこそ、俺は語らない。何せ元喫煙者だからね。


 煙草を吸っていた為に自分に出来る事の選択肢を狭めていたのは事実なのだから認めるし、反省もしている。

 煙草は俺が思い、想った事を成すには妨げにしかならなかった。だから止めたんだ。

 目線を彷徨わすと、俺を招集した人物が視界に映る。


「遅れて、すみません」


 念話を受けてから大して時間は経ってはいないが、一応謝罪の言葉を言いつつソフィの下に駆け寄る。


「夜の見回りを終えたばかりなのに、すまないね」


 俺の謝罪の言葉に、形式的な言葉を返してくるソフィ。

 普段のふざけた感じが一切感じられない……最近はソフィと不真面目な会話をほとんどしてい事に内心気付きながらも外面の体裁は上司と部下の形を作っておく。

 最近は王都に来たばかりの頃の感じを懐かしいと思う俺がいる。あの時は、何も考えずに言われるがままの事をやっていれば良かっただけだからな……。自分で何かを成そうと想ってからは、必死に自分に出来る事をやってきたと思う。俺の甘い認識を変えるに至る出来事が多く……そう……多くあった。

 俺が望まない出来事が多かった故に、自分に出来る……為したい思いが出来た。思いがあったが力が無く、成し遂げられなかった想いがある。力があったが想い虚しく、成し得なかった思いがある。苦難の一言に凝縮出来ない出来事の先に見つけた願い。

 俺が勝手に望む願いであり、自分の心の中に芽生えた想い。意思として思い、意志として(こころざ)す願いが俺には有る。

 有るが故に、何も考えなくて良かった日々を懐かしく思う俺がいる。

 意識を変えるに値するであろう出来事に直面するまでは、俺は……この世界、エルドランドで馬鹿をやって生きていくものと思っていた。色々突っ込まれると答えに困るが、それでも俺は転生物の小説を読むが如く、気付いたら俺TUEEEEEEE無双して大団円を迎えると思っていた。

 しかし、現実はそんなに簡単では無く、俺が思っていた以上の苦難を投げ掛けてきた。出来ない事が多過ぎたんだ。

 俺が憧れた星……物語の主人公には俺は為れなかった。為れなかった故に、憧憬したんだと思う。知識やスキルが無かった事など色々あるけれど、イスティの事が一番最初の切っ掛けなのは分かっているつもりだ。

 あの時から思い・想いだけでは出来ない事を知って、片倉春香の時に力だけでは成せない物があると知った。

 出来ない事を出来る事に変える為、自分に出来る事を頑張ってきたんだ。


「いえ。夜の見回りの前に軽く睡眠を取っているので、体力的に問題は有りませんよ」


 硬い口調のソフィに己のコンディションを伝える。

 軽く目線をソフィから外し、俺以外のメンバーを探すと、俺以外に“ござる”少女ことエルミアが居るのが視界に映る。


「今から数十分前に、イックル村と言う集落から緊急の救援要請が鴉隊に届いた。余程、慌てて救援要請を出したのだろう……大事な事が殆んど記載されてない。取り敢えず、現地に滞在する冒険者には手に負えないとしか書かれていないから、現地に行くまで詳細は分からない」


 ソフィの説明を聞きつつ初めて任務で一緒になるエルミアに目線は奪われたままである。俺が目線を向けているのに気付いたのか、一瞬エルミアとは視線が重なったが直ぐに外された。残念な事に、俺はソフィやテレサ意外と関わりが薄い。俺が王都に着いてから鴉隊のメンバー紹介の時以来、ほとんどのメンバーと接点が無かったりする。

 今はエルミアの事は置いておいて、任務について集中するべきだ。

 外していた目線をソフィに戻し、質問を投げ掛ける。


「救援要請を出してきたイックル村は、王都からどれだけ離れているんですか?」


 緊急の救援要請……現地でどの様な事が起きているか分からないが、早く向かうべきだろう。


「そうだな……私の体感だと王都より30km程離れた所に存在する村かな?」


 30km……遠いな。

 今、気にしている場合じゃないのは分かっているのだが、どうやって王都に要請を出したのだろう? 念話の有効範囲は広く見積もっても10kmは届かない……馬を走らせたのだろうか? 頭の中で色々考えていたら、ケンロウモンでエレナさんが使用していた黒い板(・・・)を思い出した。あの時使用していた転送装置を使えば、王都に救援要請を出せるだろう。有効範囲は分からないがケンロウモンからフィリアロックまで届くのだ、相当範囲は広いはず……。

 けれど、どんなに離れている場所に直ぐに救援要請を出せたとしても俺達が間に合わなければ意味が無い。こうやって話している時間すら惜しい状況じゃないんだろうか? 説明を受けている時に、違う事を考えていた俺が言える事じゃないけど。


 任務に集中しようと思った矢先に、全然集中出来て無いじゃないか俺は……。このままじゃダメだ、きちんと切り替えよう。

 

「結構遠いですね……。救援要請が出ているなら早く向かわないと間に合いませんよ?」


 ホーネスト王国が持ち得る技術、魔導式の乗り物で現地に向かっても時間が掛かる。今も尚、刻一刻と時間は失われている。要請が掛かっているのだから至急現場に向かうのだ正しい判断と思うのだが……。


「直ぐにでも現地に向かいたいのだが、今ティナがこちらに向かって来ている。彼女と合流次第、四人でイックル村に向かう。多少の時間のロスが発生しても挽回出来るさ」


 何か魂胆があるのだろう……ソフィの顔には焦燥感が出ていないから、そう判断したまでだ。

 緊急の救援要請に焦らない胆力が有るのか、ただ単に楽観視しているのかは分からないけれどね……。

 この状況で、俺だけ焦っても意味が無い。今は心中で気持ちを落ち着かせ、任務に支障が出ないように徐々に戦闘態勢に頭の中を切り替えていく。

 冷たい水面に沈んで行く様に、静かにゆっくりと思考を冷たさに慣れさせていく。

 ルークリシュアとの戦闘訓練の際に教えて貰った思考の切り替え方だ。戦いの場に置いて自分の手を汚す覚悟を決める準備だと思ってくれていい。思考をなるべくクリアーにして自分に出来る事(・・・・)確実に(・・・)する覚悟をする。

戦いは遊びではない、何せ命の遣り取りだからね……誰かを守るには何かを捨てなければいけないんだ。何を守るのか、誰を助けるのか自分で選択する時があるんだよ……誰かを守り、助けるって事は誰かを助けない状況に出くわす可能性も有るし、命を奪うって事だ。俺が助けるは誰かに救いの言葉を求めるしか出来ない人だ。窮地に立たされた誰かの為に、自分に出来る事をやる為の儀式。


 ゆっくりと深呼吸を繰り返す……完全に気持ちを切り替えた。前回の様に忌避感に囚われない。今の俺は只々自分に出来る事を遂行するだけだ。

 気持ちや思考を切り替えが終わったタイミングで、住宅街から荒い息を吐きながら走って来るティナちゃんの姿が見えた。

 まず最初に目線が奪われたのが、全力で走っている所為か重力に逆らい縦横無尽に暴れる、漢の浪漫であるオッパイであった。

 ……今から任務に向かう為に切り替えた思考が考えるの止めた。

 卑怯だぞ! 全力疾走でオッパイを揺らすとは!! あぁ~……アカンのじゃ~……俺のダメな部分が表に出てくるんじゃ~……。


 縦横無尽に揺れるオッパイ……プライスレス!!(心の中でサムズアップ)


 クソッ! 今はそんな事を考えている場合じゃあ無い! 俺よ……落ち着け! 何とか気持ちを元に戻すように努力する。ルークリシュアから何度も指摘された事なのだが、俺は気持ちの切り替えが下手な部類の人間だそうだ。熱くなりやすい感情が人の生き死にの場面では邪魔に為るから口酸っぱくルークリシュアから事務的に、そして機械的で在れと言われた。だから時間を掛け気持ちや思考を冷たい水面に沈めたのに……もう一回、心を冷たくする必要があるな。

 再度、冷たい水面に感情を沈めていきながら、最後の合流者であるティナちゃんを眺める。次第に冷たくなっていく俺が、次に捉えたのは彼女に不釣り合いな背中の獲物だった。


 余りにも不釣り合いな武器……二股に別れた騎兵用の槍だった。ランスと呼ばれる武器は騎士を連想させるぐらい有名な武器であり、長細い円錐の形にヴァンプレイトと呼ばれる笠状の鍔が付いたものが一般的ではあるものの、俺が知り得る知識の中では初めて見るタイプのランスだった。

 例えるなら牛の角の様な形をした音叉を頭の中に思い描いてくれて構わない。そうだね、“さすまた”を凶悪にした物が近いイメージかな。

 さすまた状の槍、それが彼女の武器か……武器の形もそうだし、身体的特徴も含めてティナちゃんは牛の獣人なんだとアピールしているのかな?


「遅れて、すみません! 久々の出動だったので愛槍ツノザイクを取り出すのに時間が掛かりました!」


 弾む息のまま俺達の下に駆け寄ってくるティナちゃん……だが、敢えて突っ込みを入れたい! 彼女は知らないのだから槍に角細工って名前を付けたのだろうと推測するが、角細工って江戸時代の隠語で張形の事を指すんだぜ? 女性が使用する淫具を張形(はりこ)と言って、牛の角から連想されるから角細工と呼ぶ。張形は牛の角から作られるからとも言われている。


 おいっ! 折角、落ち着いて来た感情が爆発しそうだぜ! 心の中で何度も、何度もティナちゃんに向かって突っ込みを全力でいれる。

 この場面で、声に出してティナちゃんに突っ込みを入れたら俺が悪者になってしまう。ここは心の中でと留めておく事なんだ。ただ単に俺の勘違いかも知れないしね!


 ――俺はルークリシュアから指摘された様に、本当に俺は感情の振れ幅が酷いな。三度目となる気持ちの切り替えに専念するよう意識を集中していく。


「私が声を掛けたメンバーが全員揃ったし、今から現地に向かう」


 ティナちゃんが合流した事により、ソフィが口を開いた。

 俺は気持ちを切り替える作業をしながらソフィの言葉に耳を傾ける。先程言っていた時間のロスを挽回する方法を聞こうじゃないか。


「私の奥の手である、大精霊化で一気に現地まで飛ぶ! みんな私の近くまで来てくれ!」


 大精霊化? 初めて聞くワードに頭の中にクエッションマークが沢山浮かぶ。現地に一気に飛ぶ? 俺は理解が追い付かない為、ソフィに分かりやすい答えを求める様に目線を投げ掛ける。

 俺と目線が重なったソフィが、はにかんだ様な笑顔を向けてきた……その笑顔は可愛らしいが、今俺が求めているモノでは無い!


「大精霊化って?」


 目線だけで意思疎通が難しいと諦め、言葉で直接聞いてみる。


「ハル君は一回見てると思うんだけど……説明しないと、やっぱり分かんないか。前、ハル君が盗賊に襲われた事件があったでしょ? あの時、念話を私が受けてから現地に来るまで異様に早かったと感じなかった?」


 俺がテーピン盗賊に襲われた時の事を言っているんだろうな……。あの時は色々切羽詰まっていた為に何も感じなかったけれど、今思うと不自然な程にソフィが現場に来るのが早かったな。言われるまで気付かなかった……あの時の状況と大精霊化は関係ある?


「言われれば不自然な程、俺の念話を受けてから現地に到着まで早かったですね」


 俺の言葉を受け、ソフィが得意げな笑顔を向けてくる。

 これ以上、言葉を掛けていると無駄な時間が出来てくる……再度目線でソフィに“大精霊化”についての催促をする。

 今度は意思疎通が出来た様で、俺の言葉の後に続きソフィも口を開いてくれた。


「私のユニークスキルの一つ……『大精霊化』の御蔭だな! 少しの時間だがエルドランドに顕現する土の大精霊の位を拝借できる驚きスキルだ! 大精霊化には使用した後の制限等が付きまとうが、大精霊の位を拝借した際には他精霊達の迷惑にならない程度に土地の掌握が可能になる。大まかにだけれど、大精霊化した私が掌握できる土地は、条件付きでホーネスト王国全土だ。土地の掌握してしまえば、そこは私の領土となり、移動が自由になる! まるでテレポートするが如く場所の移動が可能なのだよ! 今回は、私が大精霊化して皆を現地まで運ぶのさ!」


 自慢げたっぷりに俺に言い聞かせてくるが、ソフィが自慢したいのは分かる。大精霊化……とんでもスキルだな! これは勝手な予測になるのだけれど、きっと大精霊化した際の恩恵は大地の掌握による場所移動の他に何かあるはず……ユニークの名を冠するスキルの内容としては弱いからな……。絶対他にも恩恵があるはずだと俺は思う。まぁ、公言出来ない能力があっても不思議では無いな。奥の手ってのは最後まで取っておくから奥の手なんだ。


 自慢げに話していたソフィが瞼を閉じ、数回に渡り深く呼吸を繰り返し始めた。

 ソフィの大精霊化が始まるのか? 深呼吸を繰り返すソフィを取り囲む俺達の中に自然と静寂が訪れる。

 この状況で言葉を発する勇気ある馬鹿は存在しないだろう。現在進行形で危機に陥っている人達がいる……緊急の救援要請を出した人達が待っている。

 今まで使ってしまった時間は返ってこない。損失した時間が命取りになる場面が出てくるかもしれない……俺は冷たい水面に沈めた思考で考えを巡らす。

 今から向かうイックル村で、俺はどの様な選択を迫られるかは分からない。緊急の救援要請と聞いているが、現地に向かったら大した問題が起きていなかったって場合もあるが、物事は何時も最悪に考えるべきだろう。

 俺の出来る事をしよう……俺が願った思い、想いの為に。


 淡い金色の光に包まれ始めるソフィ。

 彼女のユニークスキルが発動を始めただろう。ソフィを取り囲む様に対峙する俺達に見守られながら、徐々に彼女の姿に変化が起きる。

 綺麗な色合いをしたショートの銀髪がゆっくり伸び初め、ひざ裏に達するほどに髪は伸び身体からは金色の光が溢れだしている。

 何て言えばいいのかは表現に困るのだが、ソフィが纏う雰囲気は侵しがたい清廉さに包まれている。これが大精霊化……俺は変身系魔法少女みたいな変身バンクを挟みながら大精霊化すると予想していたが、現実は違ったようだ。


 ソフィは完全に大精霊の位を拝借し終えたのか、閉じていた瞼を持ち上げ俺達を見渡す様に目線を動かす。


「――それじゃ、一気に飛ぶわよ!!」


 俺達を取り巻く静寂を打ち消す様に放たれたソフィの一言に、メンバー全員が一斉に首を縦に振る。

 まるで俺達が首を縦に振ったのが合図かの様にメンバー全員を淡い金色の光が包み込んでいく。

 光に包み込まれると、まるでエレベーターが動き出した時の様な浮遊感に襲われる。久々に感じる懐かしいような感覚に戸惑いつつも、完全に切り替えた冷たい心で己の覚悟を確認する。


 必要な時が来たならば誰かを助ける為に、誰かの命を奪う覚悟を――!!

久々の更新です。今月は仕事の関係上、勤務的に執筆している時間が取れず更新遅れました。

 相変らず展開が遅いですがお付き合いの程、よろしくお願いします! でわでわ!!

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