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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第四章 自分に出来る事を編
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第3話 スタートライン

「うぉぉぉぉぉぉっ!!」


 目の前に迫りくるゴーレムに掌底を当て勢い良く吹き飛ばす。

 俺は視界に映る数十……いや、百に達するだろう土塊の人形(ゴーレム)達を睨み付ける。見渡す限り俺を取り囲む様にゴーレム達が埋め尽くしている。

 一体倒そうが、数十体倒そうが無限に沸いてくるんじゃないかと錯覚させるほどの質量に嫌気がさしてくる。


「シッ!!」


 一番近くに佇むゴーレムに接近し右手で腹部に向かって掌底を繰り出し、腕を引く間際に生じる力の流れ……筋肉の連動を活かす様に左の拳によるフックを頭部に当て、振り切る力のまま流れようとする身体を制御しながら左足を軸に右足の後ろ回し蹴りをゴーレムの脇腹に当てる。

 少しは格闘家らしい動きが出来てきた俺の攻撃をモロに受けたゴーレムは、その場でボロボロと無機質な土塊に還っていく。

 荒い息を吐きながら、俺を取り囲むゴーレム達の奥で余裕の笑みを浮かべるルークリシュアとソフィを睨み付ける。

 俺は勘違いしていた……勘違いしていたんだ。

 何時もルークリシュアとの訓練は厳しいもので俺は命懸けで訓練に励んでいた。ルークリシュアとの訓練も俺が目指す理想に近づく為のモノで、確実に歩は遅くとも理想に至る道を歩んでいるモノとばかり思っていたが、訓練が一ヶ月を過ぎた辺りから更に過酷度が跳ね上がった。

 死に物狂いで訓練をこなしていた俺に『さて……大まかな準備運動は終わったな。これより本格的な訓練に入る!』と笑顔で言い放ったルークリシュアを恨みたい! なにが準備運動だ! そもそも俺はスタートラインにすら立って無かったと宣言されたようで悔しさが胸に込み上げてきたのを今でも忘れてない。毎日……そう毎日だ! ルークリシュアに見た事無い、触った事が無い武器や王道な武器達で瀕死に追いやられ、スキルを使わず対処しろと無茶振りに必死に応え、言われるがままに何度も死に目に遭ってきたのに……少し対処が出来る様になった途端に、今までの訓練は訓練じゃなくて準備運動で本当の訓練はこれからよ! みたいに言われたら誰だって怒るよ!

 ルークリシュアに言いたい事が一杯あったが、余りの事に口が動かなかった。ほぼ強制的に訓練という名の地獄は、只々過酷さを増しただけだった。

 俺が今まで訓練と思って励んできた事はルークリシュアにとっては本当に準備運動に過ぎなかった。

 訓練中は手加減してくれていると思っていたがルークリシュア曰く、例えるなら屈強な大男が恐る恐る生まれたての赤子を撫でるくらいにしか力を出してなかったそうだ……。俺は生まれたての赤子同然の存在なのか! と大声で叫びたい衝動に駆られるが過酷さを増した本当の訓練で嫌というほど、自分の実力を思い知る事になった。

 カナリア・エルエンジュ・ルークリシュア……王国の攻撃の要である1番隊隊長は伊達ではなかった。『一騎当千』、『武器庫』や『武の坩堝』のユニークスキルを差し置いても経験という壁が俺の前に高く……高くそびえ立っていた。

 本格的な訓練に入るにあたって俺のシュードスキル『輝星憧憬』の『一鬼闘殲』の使用を許可された。許可と言っても使用できるのは二段階目の強化まで。なんでもかんでも俺が『一鬼闘殲』に頼り切ってしまわない様に規制を掛けた上での訓練。

 俺のスキル『一鬼闘殲』を簡単に説明しよう。大仰な名前が付いているがスキルの効果は身体強化……つまり運動能力強化だ。

 知っている人は知っていると思うが運動能力の多くは、膂力、持久力、聴力、視力、瞬発力など諸々な事を指す。俺の『一鬼闘殲』は運動能力の強化……単純計算だが『一鬼闘殲』の一段階目の強化で俺の運動能力は成人男性の平均より1.5倍強くなる。二段階目で成人男性の平均の2倍……三段階目で3倍、最終強化で約4倍の強化を施してくれる。

 分からない人にはピンと来ないかもしれないが、『一鬼闘殲』もチートに分類されるスキルなんだ。握力を例に出すと成人男性の平均は大体48㎏で俺が『一鬼闘殲』で二段階強化を自身に施したら単純計算で大体96㎏に相当するんだ。因みにだが俺は握力なら55㎏ある……単純計算で話をするなら俺の握力は110㎏に相当するだろう。何で握力計算で話をしているかっていうと打撃力や破壊力の平均は出せないから、一番簡単な握力で例えたんだ。

 今、握力×体重×スピードを頭の中で思い浮かべた奴は漫画の読み過ぎだと指摘したい。有名な漫画に喧嘩を売る訳では無いが、破壊力を式で完璧に表せないんだよ……攻撃の当て方一つで破壊力は変わってくるんだ。握力×体重×スピードは破壊力を示す限定的(・・・)なものと思って貰って構わない。

 だけど……それでも運動能力が倍になるということは常人から超人の枠に足を踏み入れているといっても過言ではないだろう。まぁ、一概に運動能力全部が全部2倍になるとは言えないが『一鬼闘殲』での二段階強化は普通の人が思っているより凄い事なんだ。とても現実的なチート能力(・・・・・・・・・)『一鬼闘殲』を以ってしてもルークリシュアは鼻歌まじりで俺を降すだけの経験という実績を積んできている。

 強化された身体で攻撃を繰り出そうが、俺より多くの戦いの経験を持つルークリシュアにしてみればテレフォンパンチに等しい攻撃に見えるそうだ。戦闘(・・)に素人な俺は色々な情報を相手に教えてしまっているとの事。

 目線や筋肉の動き、攻撃態勢や位置取りから戦いのプロは攻撃を読み取る。攻撃を読む事だけ(・・・・・・・・)なら豊富な戦闘経験からの予測、または先読み能力で素人相手だと確定された未来を見るのと代わらないとルークリシュアに笑顔で言われた。

 俺は悔しかったので一撃入れるつもりで我武者羅に攻撃を繰り出してみたけど、悉く避けられてしまった……コイツは化物か!! 


『誰が化物か!!』


 内心で悪態を吐いたのに、まるで俺の心の声が聞こえたかのようにルークリシュアにキレられた時は本気で焦った。

 ルークリシュアに言わせれば、表情に出ているそうだ。そういえば王都フィリアロックに来る際、エレナさん達にも注意を受けた気がする。そんな簡単に表情に出るのだろうか?

 少し試してみよう……誰が見ても真面目な顔と答えてくれそうな感じに表情を引き締め、目の前に立つルークリシュアを見つめる。

 いきなり無言で真面目な顔を作った俺をルークリシュアは見つめ返してくる。

 よし、実験開始だ。ルークリシュアを見つめながら深く、深く思考の海にダイブしていく。

 長年培ってきた妄想力よ……爆ぜろ!! ルークリシュアが戦闘訓練中に見せてくれたサービスシーンを鮮明に! 鮮明に思い起こせ! 俺なら出来るはず……いや! 出来なかった事を出来る事に変えてやる! 俺の思い、想いを……意思を舐めるなっ!! 意志として成し遂げてやるんだ!

 次第に思い起こされる記憶の中で、一番鮮烈に焼き付いているスケスケな黒い下着をはっきりと思い出す。まだだ! これだけでは終わらんよ! 俺の妄想力の果て……未開の領域を見ろ! 思い出した下着の対となる様にスケスケの黒ブラをイメージする。ただイメージするだけなら誰でも出来る……俺の理想に至る道で立ち止まる訳にはいくまいっ! 細部までデザインを創造していく。

 ルークリシュアもテレサと劣らぬ巨乳、ならばフロントフックのブラに違いあるまい! 完璧にイメージできた一対の下着を目の前で怪訝な顔を浮かべるルークリシュアに重ねていく。

 ここからが俺の真骨頂! 一瞬の内に脳裏に映像としてルークリシュアを焼き付ける。後は邪魔な兵士服を除外し怪訝な顔を、恥じらう表情に脳内転換する! これで俺の脳内では下着姿で恥じらいの表情を浮かべたルークリシュアの完成! どうだ!! 完璧と言って良いほどの俺の妄想力……俺はエロを突き通す者! 意識のフォーカスを脳内から目の前に佇むルークリシュアに戻す。

 互いの目線が重なり合ったと思った瞬間、アイアンクローで蟀谷(こめかみ)を掴まれる……痛い! 痛いです! 頭が割れる!!


『目線がエロい! 知っているか? 目は口程に物を言うと諺があるようにハル君の目線が何を考えていたか教えてくれているんだ! 例え真面目な表情をしても目線でバレると知るがいい!!』


 蟀谷を掴まれたままルークリシュアに説教された……。

 俺はバレない自信があったのだが、顔に表情を出さずとも目線が全てを物語っていたのか……そんなにエロい視線向けてないと思うのだが、指摘された時点でルークリシュアの言葉の方が正しいのだろう。

 目は口程に物を言う……か。それならルークリシュアに攻撃を読まれたのにも納得がいく。


『君の場合、攻撃方法が限られているのだから目線も含め体の動かし方一つから何をするか私に教えてくれている……スキルで3段階、または4段階目の強化をすれば少しは戦えるかも知れないが、それではダメなんだ。同じ(・・)ステージに立つ者が現れたら、今みたいに攻撃が当たらないかもしれないぞハル君?』


 アイアンクローで蟀谷を掴んでいたルークリシュアが手を離し、俺を真面目な顔で見てくる。ついつい妄想など不真面目な事をしてしまったが訓練の途中なのだ。真面目に訓練を受けないといけない。

 ルークリシュアのいう事は分かるが、俺が出来る攻撃など選択肢は少ない。攻撃を読まれなかろうが出来る事が少ないのでは、ゆくゆくは手詰まりになるのは見えている。


『ですが……、俺に出来る事など殴るか蹴るか……スキルで魔力を飛ばすだけですよ?』


 俺は自分が出来る手札をルークリシュアに進言する。現実的なチート能力を持っていようが、経験の差で覆されたら俺にどうする事も出来ない。

 一応ルークリシュアが言っている事は理解できるが持てる手札で何とか戦うしかない。俺に残されている数少ない手札でだ。


『君は殴るか蹴るか、魔力を飛ばすだけ(・・)と言うが、君のスキル運用はそれだけだと思うのか? ……今から君に教えるのは、君の新しい戦い方だ。いいか? 今から教える戦い方を上手く使えば君は切り札となる手札を多く残せる。そして二段階目の強化でも戦いの幅が広がるだろう。これは攻撃だけでは無く、防御にも役立つだろう……今から言う事しっかり聞き……訓練の中で自身の戦う術として覚えろ。いいか、君のスキル――』


 俺はルークリシュアの言葉を聞きながら、己に出来る事を増やす為に言葉を咀嚼していく。





 俺は過酷さを増した訓練の中、ルークリシュアが提示してくれた新しい戦い方を完璧とまではいかないが使いこなすまでに至った。

 訓練を始めて2ヵ月とちょっと。因みに準備運動期間も含めての2ヵ月だが……それでも俺の中に引き出しが増えた。戦う術を学ぶ事が出来た!

 ゴーレムの先に立つルークリシュアとソフィを睨みながら荒い呼吸を落ち着かせていく。

 今日の訓練はルークリシュアとソフィが企てた変則ゴーレム組手。土塊の魔女と呼ばれるに相応しい土系統のスキルを網羅したソフィが無尽蔵にゴーレムを生成し、組手をさせられる。

 俺のスキル使用状況などを見極め、その都度生成されるゴーレムの数が変わる変則組手。ルークリシュアが俺の動きなどを見ながらソフィに指示を出す。

 この組手は中々に厄介な代物なのだ……ゴーレム一体の強さは変化自在で成人男性の平均位の強さから、下手したら転移者に肉薄できる強さまで任意で作れるそうだ。強いゴーレムを生成しようと思うと数に限りがあるとかソフィが教えてくれたが今の状況では何の役にも立たない。

 目の前に迫ってくるゴーレムの強さは体感で成人男性の平均より強い気がする。そんなゴーレムに囲まれている……見渡す限り視界を埋め尽くすゴーレム達。

 今日の訓練は俺がルークリシュア達の下に辿り着いたら終了となっているのだが、これがまた全然ゴーレムを倒せない。

 一切スキルを使っていないと数体倒すのがやっとだな……ここはアレ(・・)を使う場面なのかもしれない。


「何をしている! さっさとアレ(・・)を使え! 判断が遅い!!」


 俺が新しく覚えた戦う術を使うか迷っているとルークリシュアから叱咤が飛んでくる。

 それじゃやりますかね!!


「シュードスキル解放……『一鬼闘殲』、二段階強化!」


 ゴーレムを視界に納めながらスキルで身体を強化する。ここまでは今までと変わらない、ここから俺の新しい戦い方を見せてやる!

 低く腰を落とし右手を身体に引き寄せた状態で一番近くに居たゴーレムに接近する。

 俺が接近してきた事でゴーレムはプログラムされた動きの様に右手を振りかぶってくる。俺は左手による掌底をゴーレムの腕に繰り出し掌底が当たる瞬間、スキル『魔砲』を発動する。

 俺の『魔砲』と強化された肉体から繰り出される掌底によりゴーレムの腕は粉々に吹き飛ぶ。

 ルークリシュアが考えてくれた新しい戦い方、零距離からの『魔砲』と強化した身体から繰り出す攻撃を合わせた攻防一体技……ルークリシュア命名『砲掌(ほうしょう)』だ!

 この世界、エルドランドでは敵の攻撃を紙一重で避けるのは愚か者のする事だそうだ。この世界では魔法が存在する……スキルが存在する。もし武器や肉体に魔法を纏わす事が出来る奴がいたら? それが視認しにくい風魔法やスキルだった場合、紙一重で相手の武器や肉体の攻撃を避ける事は出来ても、魔法やスキルを避ける事は叶わず倒される可能性がある。だから攻撃を避ける場合は安全マージンをより多く取らないといけない。しかし、今後どうしても攻撃を避ける事が叶わない状況や場面に出くわす事もあるだろう……そこで、ルークリシュアが考えた砲掌が役に立つのだ。仮に武器や肉体に魔法等を纏わす事が出来る敵が相手なら、結局のとこ防御も意味は成さない。けれど魔法スキルなら対処は出来る……俺の『魔砲』は威力はそれ程では無いが、大岩にヒビを入れる事は出来る位の威力はある。ただの魔力の塊を放つだけのスキルだが、使い方によっては色々出来るんだぜ!

 武器や肉体に魔法を纏わせようが『魔砲』で弾く事は出来る。零距離で魔砲を放つ事で武器や肉体による攻撃を逸らす事は可能なのだ。更に攻撃に転換する事も出来る……ゴーレムの腕を吹き飛ばした左手を引きつつ右手の掌底をゴーレムの腹部に放ち、当たる瞬間に魔砲を放つ! 零距離で爆発する魔力の塊を手の平で制御しながら掌底を振り抜く。轟音を伴いながらゴーレムが砂城が崩れるみたいにボロボロと崩れる……まただ! 荒れ狂う魔力の奔流を制御しきれなかった! 本来なら俺の砲掌を喰らったゴーレムの腹部は爆散する様に弾け飛ぶはずだったのに!

 俺が砲掌を完璧に使いこなせていない所為なのか、爆発する魔砲の威力に指向性を持たす事に時々失敗して本来の威力の半分も発揮出来ず、不完全なダメージを敵に与える時がある。

 しかし大岩で実験した時、完全に砲掌が決まると簡単に大岩を破壊する事が出来た。

 点で攻撃するパンチに比べ面で攻撃する掌底……単純的に考えれば掌底より一点集中型のパンチの方が威力的には分がある。けれど『魔砲』を体技と同時に運用した場合、面攻撃でありながらも二重に衝撃を重ねられる砲掌に軍配が上がる。

 『魔砲』の大岩にヒビを入れる事が出来る威力に『一鬼闘殲』の二段階目の強化を合わせたなら、俺の『一鬼闘殲』で三段階目の強化した打撃と遜色無い威力を叩き出す。

 完全に使いこなせてないでれど、今は完璧に俺が砲掌を運用できるようになる為の訓練なのだ。一々失敗を恐れてどうする? 心中で自分に叱咤を飛ばし、周りを囲むゴーレム達に突撃する。

 砲掌でゴーレムを倒す……荒れ狂う魔力を制御して掌底で敵に押しやり打ち抜く感化を身体に刻み込む作業に没頭する。

 一撃、また一撃とゴーレムを砲掌で土塊に還していく。


「――ソルフィナ! アレ(・・)を!!」


 俺は取り囲むゴーレム達からソフィに指示を出しているルークリシュアに目線を移す。

 ルークリシュアの事だ、今のゴーレムでは俺の訓練にならないと判断して今より強いゴーレムをソフィに創造させる気だな! 予想通り俺を囲んでいたゴーレムが一体、また一体と土塊に還っていく。

 さてはてソフィは、どんなゴーレムを創造する事やら……。囲んでるゴーレムが数十体になった時、地面が振動で揺れる。

 目線を彷徨わすと、前方の地面が脈打つように隆起していくの視界に映る。……この振動規模の感じだと大体2~3m級のゴーレムかな? 俺の予想通り高さ3m位はありそうな大きなゴーレムが地面から誕生していた。


「ハル君! 目の前のゴーレムを倒したら、今日の訓練は終了だ! さっさと倒して飯でも食べに行こう!」


 遠く離れた場所に立つルークリシュアから声が掛かるが、簡単に言わないで欲しい。目の前に立つゴーレムの腕は下手をしたら俺の胴体位の太さを有している。ゴーレムの動きを確認しながら全体像を視界に納める様に立ち位置を移動する。

 少し後退したら目の間に悠然と立つゴーレムの大きさに呆れそうになった。何て大きさのゴーレムを創造してるんだソフィは! 心が折れそうになるが泣き言は言ってられない! 地面を踏みしめ悠然と立つゴーレムの接近する。

 思っていたよりゴーレムの反応は良く、直ぐに右腕での振り下ろしを俺に仕掛けてくる。

 動き自体も先程まで相手をしていたゴーレムより早く、右腕が俺を地面に沈める為に勢いよく迫ってくる。さすが土系統スキルを網羅した土塊の魔女が創造しただけはある! 身に迫る危険に身体中が警報を鳴らしているかのように粟立つが、ここは冷静に対処する場面だ。

 俺は身体を右に捻りながら、迫りくるゴーレムの腕に左手での砲掌を当てる! 俺が思っていたよりゴーレムの腕は硬く少ししか軌道を外せなかったが、それでもいい! その場で独楽の様に回転しながら右腕の手甲部分で追撃をゴーレムの腕に喰らわし完全に攻撃を流す事に成功する。これだけ図体が大きいのだから、懐に入られたら動きづらいだろ? 空いたゴーレムの右脇腹に密着する様に一歩踏み出しゴーレムに肉薄する。ゴーレムも反撃しようと攻撃を仕掛けてくるが、図体の大きさが邪魔をして取れる選択肢が少ないようで、両腕で抱きついてこようとしている。

 今がチャンスだ! これだけの図体の大きさなのだ、更にゴーレムの下に潜り込んだら俺を見失うだろう。俺を抱きしめようとした両腕を掻い潜る様に、その場で大きく沈み込む。

 ギリギリで俺の頭上を通過していくゴーレムの腕を見ながら身体中のバネを活かす様に勢いよく伸び上がりながら、右手での砲掌をゴーレムの下顎に喰らわす! 爆音を伴いながら巨体なゴーレムが少し後ろに倒れ込んだのを見逃さず、追撃で右足で後ろ回し蹴りを入れ左手で砲掌を腹に当てる。

 連続で攻撃を喰らった事によりゴーレムの態勢が崩れる。最後の仕上げ! 右足を地面を踏み抜く勢いで出し体重を乗せた両手での砲掌を繰り出す。両手での砲掌の威力は絶大で、ゴーレムは腹部を完全に破壊され身体を土塊に戻しながら後ろに倒れていく。

 ふぅ……何とか倒せた。大きく息を吐きながら完全に土塊に還ったゴーレムの先に立つルークリシュアとソフィに目線を向ける。


「うん、まぁ、今日の訓練は終了だな。まだ本格的な訓練に入って日が浅いが、少しはサマになってきたようだな……ソルフィナもそう思うだろう?」


 俺が目線を向けた事により、ルークリシュアが今日の訓練終了を告げ隣に立つソフィに俺の戦いぶりについて同意を求めている。


「……確かに、ここまで戦える様になっているとは驚きだわ。しかも本格的な訓練を始めて間が無いとは……まだ強くなるのハル君?」


 先程まで浮かべていた笑顔を消し、真面目な表情を浮かべるソフィを見つめる。

 ソフィからの問い掛けに答える俺の言葉は決まっている。


「ルークリシュアから言わせれば、俺はまだスタートラインに立っただけ。俺は走り出してなかったんだ……だから俺は自分が決めたゴールまで辿り着くまで走るよ。この世界に来て……目的など無いままに、言われるがままに軍に入った。何かしたい事が有る訳じゃなかった俺が成し遂げたい事を見つけたんだ。目的を……目標を……自分の意思を、意志を見つけた。だから、俺が掲げた理想に辿り着けるまで強く為る」


 これが俺の答えだ。

 俺の言葉を聞いていたソフィは少し表情を曇らせる。色々思う事もあるのだろう……彼女には無様な姿を晒しているしね。俺がシュードスキル『輝星憧憬』を手に入れた時、俺はソフィに力を求めた理由を話せなかった。だけど、今は素直に話せる……自分の心の内を曝け出せる。心境の変化かな? 俺がソフィを見つめているとルークリシュアが近づいてきて俺の肩に手を置く。


「真面目な話は嫌いじゃないが、今は休息しよう。もうすぐ昼時だ……飯を食べに行こう。この後も2番隊のお世話になって勉強するんだろ? 腹ごしらえは大事だぞ?」


「そうですね……そうしましょう。行こうソフィ!」


 先に歩き出したルークリシュアを追いかける様にソフィに声を掛け俺は歩き出す。

 今、俺は理想に至る道のスタートラインに立った。俺がゴールまで歩いて辿り着くのか、全力で駆け抜けて辿り着くのかは分からないけど諦めずに辿り着こうと思う。

 

 

 更新遅くなりました。ポンコツ週間の遊司籠です。寒いと思ったら雪が降っていたんですね……風邪を引かないように皆さんも気を付けてくださいね。

 もう一つ報告が遅れましたが、雲ノ上様の「アクセス数=強さだ!!」とのコラボをしました。面白い話を書けたと思いますので、時間が有れば一読してみてください!

 雲ノ上様の作品「アクセス数=強さだ!!」も面白いのでオススメしますよ! でわでわ!!

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