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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第三章 動き出す歯車編
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第12話 エレナ・スカーフィールド!

 今回は説明回になってしまいました!

 エレナさんの口から齎された情報に俺の脳はフリーズ寸前になる。

 俺を守って、俺の腕で息を引き取った片倉春香は今より18年前に転生したそうだ。……俺の脳が上手い事働かない為にエレナさんの言葉に反応出来ていない。

 確かに……確かに物資運搬中継用城塞都市ケンロウモンで、エレナさんの口から転移者と転生者の時間軸の話は聞いている。聞いているが……それを信じろと? 誰も守れない俺を憐れんで、エレナさんが一芝居打った可能性もあるのでは? 俺の半信半疑の目線を浴びていたエレナさんは、俺の心中を向けられている目線から読み取ったかのように言葉を掛けてくる。


「お兄ちゃん……信じてないの? 私は何度も言うけど片倉春香だよ?」


 俺を抱きしめ目線を合わせてくるエレナさんが首を可愛らしく捻ねっている。


「何を根拠に信じればいいのか分からないんだ……」


 俺はエレナさんの言葉に、今感じたままの感想を述べてしまう。

 俺に優しく微笑むエレナさんは、俺が出会った時のエレナさん本人だとは思うけど……。俺と出会った時に自分が片倉春香と俺に教えてくれても良かったんじゃないのだろうか? まぁ初めて会った時に名前や死んだ経緯を俺に話されても、俺は信じなかったかもしれないけれどね。


「私はお兄ちゃんの腕の中で息を引き取ってから、神様と出会ったの。このエルドランドという世界を創った偉大なる神様……創造神エルド様に。私の事を天界から見てくださっていたエルド様は、死んで尚貴方の事を……ハル君の、お兄ちゃんの事を心配する私を不憫に思ってかチャンスをくださってくれました。転生という名のチャンスを」


 エルド様……何時ぞや聞いた覚えがある。確かテーピン盗賊団に襲われた時に聞いたはずだ。


「私は迷う事無く転生を決意したんだよお兄ちゃん? エルド様は転生を選ばなかった場合の私やお兄ちゃんの未来を見せてくれようとしたんだけど、驚いた事に転生を選ばなかった私は存在しなかったそうなの。どんな状況下、どんな言い回しをしても私はお兄ちゃんの為に転生を選んでいる。数多の選択肢が存在する膨大な類似世界……ありとあらゆる世界で私は転生を選んでるの。もう一度……もう一度お兄ちゃん(ハル君)に出会う為に」


 俺と合わせていたエレナさんの瞳が濡れている。

 熱を帯びたかのような瞳に吸い込まれそうだ……まともに目線を合わせていられないが目線を外す事は俺には出来なかった。


「転生先は選べなかったけれど、エルド様はお兄ちゃんがエルドランドに墜ちてくるだろう時代の近くに転生させてくれると仰ってくださったので、あんまり心配はしていなかったんですが……まさかお兄ちゃんがエルドランドに来る18年も前に転生するとは思いませんでした」


 ケンロウモンで俺に説明をしてくれていたエレナさんは神様に転生してもらったと言っていた。

 あの時は何気なく聞いていたが、全ては繋がっていたのか……。


「前にも言いましたが、転生させてもらう際に色々スキルを頂いたんですよ私。全てはお兄ちゃんの為に考えて、考えてスキルを選んだの。まぁ、『光盾』は私が編み出したスキルなので神様が粋な計らいをしてくださってユニークスキルに格上げをしてくださったのですよ。光盾は君を体現するに相応しいスキルだとかなんとかって仰っていました。その御蔭で強力なスキルを持ったまま転生出来ましたけど……。生まれては直ぐに自分が()なのかは分からなかったんですが、1年もすれば自分が誰に転生したのか分かりました」


「それが……エレナ・スカーフィールドだったと?」


 俺はエレナさんが、いや……春香ちゃんが言っている事に相づちを打つ。


「ええ。周りの人の話とかを聞いてる内に、私がエレナ・スカーフィールドなのだという事は理解出来ました。その時に私は確信しました! 全てはこうなる運命だったのだと。私という存在は常にお兄ちゃんと共にある。私は、もう一度お兄ちゃんに出会えるのが何時になるのか分からなかったから必死になって色々勉強したわ。勉強だけでは無く自分磨きも頑張ったの! いつお兄ちゃんと再会してもいい様にね! 物資運搬中継用城塞都市ケンロウモンで再会した時は嬉しかった。でも、エルド様との約束……制約の所為でお兄ちゃんに私の素性を明かす事が出来なかったの」


 今から話の核心に迫るのは分かるのだが……先程から大人の(・・・)エレナさんから必要にお兄ちゃん(・・・・・)と連呼されると、何だかムズ痒い気持ちになってくる。次第に働いてくる思考が危険だと警鐘を鳴らしている……ここは馴染みのあるハル君と呼んでもらった方がいいのでは?


「えっと、話の途中でなんですが……エレナさん、今まで通りに『ハル君』って呼んでもらえませんか? その姿(・・・)で、お兄ちゃんってのも違和感が半端ないですから……」


 話の腰を折られたエレナさんが一瞬呆けた顔をしたが、直ぐに今までと同じ笑顔を浮かべ目線を向けてきた。

 中の人格が片倉春香と知っている今だと浮かべる笑顔の違いに戸惑いを覚えてしまう。

 俺の先程まで見ていた片倉春香の笑顔は純粋無垢な好意と表現できたが、今のエレナさんが浮かべる笑顔は蠱惑的と言えばいいのか……危うい美しさを漂わしている。見慣れたエレナさんの笑顔のはずなのに……。


「お兄――……ハル君。ハル君がこっちの呼ばれかたの方が好きなら、そうする事にします。……まぁ、そうよね……私も立派な女性……ハル君にとっても恋愛対象……恋人……嫁候補……いいえ! 正妻として見てくれているのねハル君! そうよね! 妻から『お兄ちゃん』って呼ばれるのは周りから変な目で見られるものね! ……『お兄ちゃん』は夜のプレイの一環って事で取っておきます!」


 ……エレナさんが壊れた! あれ? おかしいな……俺は選択肢を間違えた気がする。

 俺が知っている気高い気品を持ち合わせた隊長は、どこにフェードアウトしたんだ! 俺の記憶の中にいたはずの凛々しいエレナさんよ返ってこい!

 妄想の世界かどっかにトリップしたのか俺を抱きしめたまま身体をクネクネ捩っている……。

 ええい! このままでは埒が明かない! 何とかして軌道修正しなければ! 俺は話の続きを促す為、悶々と意味不明な言葉を羅列するエレナさんに声を掛ける。


「ところでエルド様の制約ってなんですか?」


 俺の言葉を聞いて、違う世界にトリップしていたエレナさんがフェードインしてきたようだ。次第に虚ろだった目に力が宿っていく。


「ウオッホン! ンン! えっとですね、当然私が片倉春香と名乗って転生の経緯を話してしまうと、ハル君が事前に片倉春香の事……帝国から逃げ出した私の死という結果を知る事となり、もしハル君が片倉春香の死を回避しようとしたら……エレナ・スカーフィールドの存在が矛盾となり本来の時空列と異なる歪んだ世界に世界が再構築されてしまい、全てが無かった事になるの……。タイムパラドックスを回避する為、神様の制約により私は転生前の名前と迷いの森で起こる結末(・・)や帝国の情報などを話せない状態にされました。まぁ……裏道というか裏技というか、私の死という結末を回避しなかったら、ある程度の事は話せるんですけどね」


 何かややこしい話になってきたな……。


「覚えていませんか? ケンロウモンの門を通った際『さっきから私の胸ばっか見てんじゃねーよ! この変態!!』って私が言ったのを」


 あぁ……言われたわ。歓迎ムードの中、いきなり俺に浴びせられた罵声だったから覚えている……ついでに良い笑顔浮かべていたねエレナさん……。

 実際エロい目で見ていたから、あの場はエレナさんの笑顔もあって何も弁解出来なかったけど……。


「あの時は嬉しさの余り、私が覚えているハル君の記憶で一番印象に残っていたエレナ・スカーフィールドとハル君のやり取りを思い出して言ってみたんですよ? まぁ、実際あの時のハル君は私の胸ばかり見ていましたもんねぇ。いえ……私をエロい目で見てくれてもいいんですよ? だって私は、ハル君の為に一生懸命育ったんですから……この胸を含めてね」


 あぁ……暗い雰囲気になっていた片倉春香の気分を変える為、エレナさんが言った台詞か……。今思うとエレナさん……片倉春香は自分で自分の雰囲気を変える為に言ったんだよな。

 自分の言葉を一番印象深く覚えているっていうのも何だか不思議な感じだな……。あと、さり気なくエレナさんが『当ててんのよ』をしてくるのが気になる。もう俺の身体にこれでもかって位に当ててくる……何を当てているのかは言わないが。

 本当に、俺が知っているエレナさんじゃないみたいだ……。

 確証たる確証は無いが、言い始めたらキリが無いだろう。だって相手は転生者なのだから……。


「えっと……分かりました。今はエレナ・スカーフィールドは片倉春香の転生した姿という事で納得します。納得すると言っている今でも完全に信じられませんが」


 俺の言葉を聞いたエレナさんは少しムスッとした顔をして可愛らしく方頬を小動物……リスみたいに膨らませ納得してませんアピールをしてくる。

 なに? この可愛いの? 自分が片倉春香の転生体である事を俺にバラしてからのエレナさんが滅茶苦茶可愛いじゃねーか!!

 あんまりエレナさんは俺の事が好きじゃないと思っていたから、こんな反応されると意識してしまうだろうが!


「まだ信じてないんだ……ハル君のバカ。私はいつもハル君の事を気にしていたのに! ロックスキンベアに襲われた時も一番心配したのに!」


 ロックスキンベアに襲われた時ね……そう言えば俺の所為でゴブ郎と言い争いになってスカウトの話が完全に流れたはず。まさか俺の事(・・・)を最優先に考えていた為にゴブ郎と言い争いになったとか? でも……まさかな……だけど今思うとエレナさんの行動の一部を除外して思いだすと色々腑に落ちる。

 俺の軍スカウト、狙った様に王都フィリアロック帰還、今俺が使用している手甲然り。

 テレサの『隊長も決断が早いよね。これじゃハルの為に帰還するようなもんじゃない』って言葉を思い出した。

 全ては俺の為……冒険者との勉強も何もかもエレナさんが俺の事を気にしての行動だったら? 


「エレナさん……俺の軍スカウト、ケンロウモンから王都フィリアロック帰還、俺が使用している手甲等々は全て俺の為ですか?」


 真意を確かめる為、恐る恐る聞いてみる。


「うん、そうだよ! 全てはハル君の為! 初めてケンロウモンで再会した時は私が覚えているハル君と違って“のほほ~ん”としていたから、私なりに色々考えて行動したんだよ?」


 エレナさんから紡がれる言葉を聞いていると、何故片倉春香はここまで俺に執着……拘るのだろうか? 少し度が過ぎているんじゃないかな?


「どうして……どうして、そんなにも俺の事を?」


 流石に気になったので確かめる為に言葉をエレナさんに投げ掛ける。さて……どんな答えが返って来るのやら。


「……それはね。ハル君が私の白馬の王子様だからだよ。迷いの森の中で、どうする事も出来ずに誰か(・・)に向けて助けと呟く事しか出来なかった私をハル君は助けてくれた! 誰にも聞こえないはずの私の願い(・・)を聞き届けた様にハル君が颯爽と助けに来てくれた! 今でも鮮烈に、苛烈に色褪せる事無く覚えているわ。私の『誰か助けて』の言葉を……救いの手をハル君が握ってくれたんだよ! その後も傷付きながらも私の為に戦う姿が瞼の裏に焼き付いているかの様に!! 私の為(・・・)に戦うハル君は……まさに私の王子様」


 一気に言葉を捲し立てたエレナさんが紅潮に頬を染めている。まるで勇者の冒険譚を聞いた子供のような昂揚の仕方をしている。

 そんなにも濡れた瞳で俺を見つめないで! 今更だがエレナさんから白馬の王子様と呼ばれると照れてしまう俺がいる。

 俺はそんな大層な役どころじゃないよ! 純粋な気持ちを向けてくれるのは悪い気がしないけど……。

 けど……一部の行動は俺の為とは思えなかったモノもあったけど。ついでだし聞いてみるか。


「でも、俺に裸見られた時凄い形相で殴ってきたよね?」


 忘れるはずが無い……今でも鮮明に覚えている。エレナさんの素晴らしいおっぱいとスケスケのレースパンティの事を! あと死を覚悟したエレナ式記憶消去術を!!


「えっと……それはですね。やっぱりちゃんと段階を踏んで相思相愛になってラブラブの時にハル君に見てもらいたかったの。あんな想定外の時に裸を見られたなんて思うとショックで、つい記憶飛ばそうと頑張りました!」


 成る程これで少しは合点がいった。

 まさに、全ての行動は俺の為にしているんだエレナさんは。まぁ、裸見て殴られたのは仕方ないけどね……。


「そうなんだ……」


 エレナ・スカーフィールド……片倉春香は俺の為に今まで頑張ってきたんだろう。もう一度俺に自分は転生したんだと、何も救われなかったんじゃないと俺の行動は無駄じゃなかったと教えてくれる為に。

 確かに俺は守れなかったけど、俺がした……頑張った事は無駄ではないと少し思える。

 今回はエルド様に救われたんだ俺も春香ちゃんも。今度は同じ轍を踏まないように俺が出来る事をすればいい……春香ちゃんが死んだ事は覆せないけど今後の教訓になる! 


 俺は誰かに助けを求める人の、誰か(・・)になって救いの手を差し伸ばし助ける……守れる人間になってみせる!

 決意を新たに、今も尚俺を抱きしめてくるエレナさんに声を掛ける。


「取り敢えず皆と合流しよう。他の皆が心配だ」


 俺の言葉を聞き、エレナさんが立ち上がり右手を差し出してくる。

 俺は差し出された右手を掴みエレナさんに並ぶように立ち上がる。まだ作戦の途中だ……気持ちを切り替えエレナさんに目線を向ける。


「行きましょうハル君!」


 二人で足を踏み出す……片倉春香だったエレナさんと共に。

 これで一応第一章の伏線は粗方回収出来たと思います! エレナ……恐ろしい子!

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