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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第三章 動き出す歯車編
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第11話 輪廻と巡り合い

 今回の話は難産でした……。時間を掛けましたが何とか書けました。

 甘い人間なのだろう……覚悟を決めたはずなのに。

 出来る事をした? 否……やれることを全部やってない。葛木の生死を確認した時に、きちんと止めを刺しておけば! 俺の……俺の甘さが招いた結果がコレ(・・)だ。

 俺の腕の中で冷たくなった春香ちゃんをギュッと抱きしめる。


 俺が守るからと春香ちゃんに言った。

 俺が守るからと(・・・・・・・)……。

 イスティの時とは違い、俺には誰かを……春香ちゃんを守れるだけの力は有ったはずなのに! 俺は()に泣き、()を求めた? 救いの手を差し伸ばす人を救えず……涙を流した。どうする事も出来なかった自分を悔やんだ……出来なかったもしも(・・・)を思い描いた。出来なかった故に……力が無かったから救えなかったと。

 今の俺には誰かを救える……守れるだけのスキルが! ビックオ氏が俺の為に授けてくれた()が有るはずなのに!

 全ては行動の先にある確かな現実。力が有ろうが無かろうが出来る事を……やるべき事をしなかった俺が招いた結果だ。

 出来る事をしなかった()が春香ちゃんを殺したんだ。



 守りたかった。


 守りたかったんだ。


 どうしようも出来ない状況で誰か(・・)に縋るしか出来ない人を守りたかった。


 俺が……その誰か(・・)になりたかった。


 誰でも無い俺が! 俺が助ける……救う……守れる人間になりたかった! 何の為の力か! ……いや、違うか……力だけでは駄目だったんだ。

 俺には行動が伴っていなかったんだ……力が有っても出来る事をしていない俺では誰も救えない。

 殺すと覚悟を決めたなら、迷わずに葛木に止めを刺すべきだったんだ。何が忌避感だ! 殺す事に怖気ついただけだろうが! 葛木は俺を殺す『覚悟』があると言っていた。奴なら迷わずに俺に止めを刺していただろう。

 俺の弱さだ……甘さが……春香ちゃんを……。


 そう葛木を。


 殺せば良かった。


 コロセば良かった。


 コロセバヨカッタ。


 コロセバヨカッタダケナノニ!!


「アァァァァァァアアア!!」


 俺の心を黒い何かが埋めていく気がする。

 黒い衝動に身を委ねていく感じが心地いい……。

 時は戻せない……現実は止まる事無く……俺の事など気にせずに……ただただ時間という針を進めていく。

 あぁ……たった一つの事が出来なかった為に世界から色が消えていく……止まる事を知らない時間が俺に囁き掛けてくる。

 ――全てはお前が悪いと。


 『俺の腕に抱かれている春香ちゃんが息をしていないのは?』


 オレガワルイカラ……


 『春香ちゃんが死んでしまったのは?』


 オレガカツラギニトドメヲササナカッタカラ……。


 『何故止めを刺さなかった?』


 オレガオジケヅイタタメ……。


 『殺せば良かったのに……』


 コロセバヨカッタ?


 『そうだ……殺しておけば……春香ちゃんは助かった』


 コロシテオケバ……。


 コロシテオケバ……。


 コロセバ……。


 『殺せるだけの力は有っただろ?』


 …………。


 『殺す勇気がなければ……』


 …………。


 『(おれ)を解放すれば済んだモノを!!』


 心の奥底より自分では無い、だけど確かに自分の声が聞こえてくる。

 沁み渡る様に……黒い感情が……スポンジが水を吸うが如く俺の心の隙間に入り込んでくる。


 あぁ……俺では出来ない事もやってくれるのか?


 『出来るさ……(おれ)なら!』


 心の奥底より湧いてくる声を聞いていると自然と身体に力が入らなくなっていく……。このままこの声に全てを委ねてしまった方が楽になれるんじゃないだろうか……。


 『さぁ…おれの名を呼ぶがいい』


 『(おれ)の名は――』


 俺が心の内に響く声に全てを委ねようとした瞬間


「――ハル君!!」


 誰かに強く……強く抱きしめられた。






 俺は今何をしていた? 今……己の中に湧き出る心の声を聞いていた気がする……。

 俺は誰かに強く抱きしめられる事によって現実に引き戻されたのだろう。

 息をしていない冷たくなった春香ちゃんを抱きしめている俺を優しく包み込む様に誰かが……春香ちゃんごと俺を抱きしめている。

 俺は顔をゆっくり動かし現状を確認する。

 目の前には目尻に涙を溜めて心配そうな顔をしたエレナ隊長の顔があった。


「エ……エレナ隊長……。俺は……お……おれは……春香ちゃんを……守れま……せんでした!」


 向い合うエレナ隊長に、自分は真実のみを伝える。

 俺は守るべき人を守れなかった……。


「…………」


「俺が……! 俺が守ると……いったのに!」


 もう、俺の視界は涙の所為で世界が歪んで映る状態だった。情けなくも涙が止まらず発する声にさえも嗚咽が混じってしまっている。


「知ってる……知ってるよ……ハル君が頑張ったのは知ってる」


 俺はエレナ隊長の腕を振りほどくかのように抱きしめている春香ちゃんの身体をエレナ隊長の前に差し出す。


「守れませんでした……。春香ちゃんを守る事が出来ませんでした! 俺では……最後は俺が守られる形で春香ちゃんは……春香ちゃんは!!」


 情けない……何が俺が守るだ……。

 確かな現実は俺の腕の中にある……背ける事叶わない現実が!。俺の腕に抱かれた冷たい(・・・)春香ちゃんが全てを物語っている。

 またも……またも俺は! 守れない……。俺には誰も(・・)守れないんだ……。


 エレナさんは、俺が差し出す様に抱いている春香ちゃんの物言わない顔に手を当て優しく頬を撫で、そっと瞼を下ろしている。

 瞼を下ろした手を、そのまま春香ちゃんの頭に乗せ二度、三度と頭を撫でる。


「――光葬」


 エレナさんの優しい言葉と共に春香ちゃんの身体が光の粒子に変換されていくを、ただただ見ている事しか出来ない。

 俺は腕の中で重さ(・・)を減らしていく春香ちゃんの身体をギュッと抱きしめ、消えゆく彼女を涙で見えない視界で懸命に……脳裏に焼き付ける。


「私が駆け付けた時には彼女……春香ちゃんの魂は、既に天に昇っていたわ。このままでは魂無き骸はモンスターと化す……そうなる前に私のスキルで彼女を葬儀しました」


 俺の腕から重さが消え……残るのは一抹の光の残滓……元は片倉春香という人物だった何か。

 俺はそっと消えゆく光の粒子を抱きしめる。

 俺の慟哭など無い様に光は消えていった……俺が守りたかった想いと共に全てが消えていくようだ。


「エレナ隊長……俺では……俺じゃ誰も(・・)救えない……守れないです……。俺は何の為に力を手に入れたんでしょうね……」


 エレナさんが悲しそうな顔を俺に向けている。

 俺の心情を理解して同情してくれているんだろうか……。


「これじゃ……春香ちゃんが報われない……俺が……俺が彼女を殺したんだ!!」


 その時、俺の左頬に乾いた音と共に微かな痛みが走る。

 何が起きたのか分からなかったが次第にエレナさんに頬を叩かれたのだと気付く。

 そりゃそうか……自分の失敗をウダウダと垂れ流しにしていればエレナ隊長にとっては煩わしいだけだろう。

 分かってる……分かっているが! それでも……。


「――ハル君は頑張ったよ。春香ちゃんを守る為に戦った事は知ってる……私は知ってるよ! ハル君がそれじゃハル君を守って死んだ春香ちゃんが!  春香ちゃんが悲しむよ……」


 叩かれた左頬に走る微かな痛みは、確かに微かでしかない痛みであるが俺の心に重く……重く響いてくる。


「そんなの分かんないですよ!!」


 重い痛みが……想いを、俺の思いを発してしまう。


「彼女の事は……何にも知らないけど! それでも! 助けてと……誰かに助けを求めなくてはいけない程に追い詰められた彼女は! 彼女は……助けられるべき人間だった! 俺は……俺では助けられなかった!!」


「――分かるよ!! 分かるよ! 彼女は……春香ちゃんは確かにハル君に助けてもらった! 嬉しかったんだよ! 分かるよ……傷付き……それでも尚……その身一つで助けてくれようとしていたハル君の姿を見ているんだよ!!」


 そんなのもは救済では無い! 行動の先にある……確かな現実は彼女の死だ……、助けられてこそ……生を繋いでこそ……生きる事で救われるはずだ! 


「それこそ生きるべきだったんだ!! 生きたかったに違いない! 彼女は、春香ちゃんは……!!」


 俺を守って死に逝くべきではなかった……俺さえ守ろうなんて思わなければ……!


「彼女は――()は嬉しかったよ! 知ってるよ……分かるよ! ハル君が、お兄ちゃんが私の為に傷付きながらも戦ってくれた事知ってるよ!!」


 ……エレナさんは何を言っているんだ?

 俺は頭が回らない……思考が働かない状態のままエレナさんに顔を向ける。


「私が死んだのは私のマガママだよ! お兄ちゃんが悔やむ事じゃ無いんだよ! 私の為に泣いてくれる事は嬉しいけど……私はお兄ちゃんを守って逝けた事に後悔は無いよ!」


「エ……エレナ隊長?」


「ようやく……この時が来た……。神様と交わした制約は解かれる……私が私に為れる時が来た。ハル君……いや、お兄ちゃん。私だよ? 私、片倉春香(・・・・)だよ。長い時間の中で私は、この時を待ってたよ。だから……泣かないで……私の王子様」


 エレナさんは俺を優しく……優しく抱きしめてくる。

 エレナさんは何を言っている? 片倉春香だって? 彼女は俺の腕の中で死んだんだ……碌に働かない頭が余計に動かなくなっていく……。


「お兄ちゃん……、私は転生したんだよ。お兄ちゃんの腕に抱かれて息を引き取った私はホーネスト王暦180年に転生したの。18年前(・・・・)に私は転生したんだよ、お兄ちゃん!」


 え? エレナ隊長が片倉春香? 


「前も言ったけど、転移者は横軸スライドの移動。転生者は縦軸スライド(・・・・・)での転生だって。私、片倉春香はエレナ・スカーフィールドに転生したんだよ」


 俺を優しく抱きしめるエレナ隊長の言葉に次第に頭が追い付いて来た。

 俺が物資運搬中継用城塞都市ケンロウモンでエレナさんからされた説明を思い出す。

 長ったらしい説明だったが覚えている。


「片……倉……春香。エレナさんの転生前が片倉春香なのか?」


 そう言えば一回もエレナさんの転生前の名前を聞いた事が無い。

 俺の記憶にあるのはカトリアちゃんの転生前……地球で生きていた時の名前だけだ。


「そうだよ! 私は片倉春香だよ。あぁ……私の為に頑張ってくれてありがとう、お兄ちゃん」


 そういってエレナさんは俺の唇を己の唇で塞いでくる……為すがままにキスをされてしまう俺。いきなりの事で動く事も出来なかった。


「今でも私は覚えている……私の為に戦うお兄ちゃんの姿を。確かに片倉春香としての私は死んでしまったけれど……私が救われないなんて事は無いんだよ? 私はお兄ちゃんに救われた! 私を守ってくれた事実は消えない! 最後の最後は……私のマガママだった。その所為でお兄ちゃんを苦しめてしまったけど……私は言ったよね? 何が有ってもハル君は()が守るって。私……片倉春香としてもエレナ・スカーフィールドとしてもハル君を守ったわ。お兄ちゃんが私を守った様に、私が大きくなったらハル君を……お兄ちゃんを守るって約束したもんね」


 軽い気持ちで……少しでも気が紛れるだろうと、その場で交わした口約束を片倉春香は、エレナ・スカーフィールドは守ったとゆうのか? ただ……あの時の約束を守ってくれたのか……。


『いつか大きくなったら俺も守ってくれよな?』


『うん! 私も大きくなったら、お兄ちゃんみたいに格好良く誰かを助ける!』


 俺の顔を両手で挟む様に優しく撫でるエレナさんは、もう一度俺の唇を塞いだ。

 ただただ優しく……俺の慟哭を打ち消す様に……全てを優しく包む様に。




「泣かないで……私の……王子様」


これで何とか第一章の伏線を少し回収出来ました。次話はもう少し伏線を回収できたらいいなと思います。……いつからテレサやソフィがメインヒロインだと思っていた? 須くヒロインの座はエレナにある!! ここに来て真のヒロイン爆誕!!

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