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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第三章 動き出す歯車編
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第7話 齎された情報

 テレサが先に戻った皆の所に、少し遅れて俺も戻るとマーガレット隊長やエレナさんに事情聴取されていた子供達が直ぐに俺の下まで走って来て、皆の視界から隠れる様に俺の後ろに回ってしまう。

 エレナさん達の方に目線を向けると、困り顔で俺の後ろに隠れた子供達に目線を送っている。


「どうしたんですか?」


『どうしたんですか? じゃないわよ。この子達に何故追われていたのかを聞こうとしたんだけど視界からハル君の姿が見えなくなった途端、何も話してくれないのよ』


 俺は何か問題でもあったのかとエレナさん達に声を掛けると、すぐさまエレナさんから念話が届く。


『何も話さない?』


 俺はエレナさんが念話で伝えてくる事に直ぐに理解が追い付かずオウム返しの様に念話を返してしまう。


『そうなのよ。特に女の子の方がハル君が近くに居ないと話さないって頑固なの。何を聞いても『さっきのお兄さんが居ないと話さない』の一点張り。ようやくハル君戻って来たし、これで事情を聞けるわ』


 何故俺が近くに居ないと話せないのかは知らないが、このままじゃ埒も明かない上に折角転移者達から距離を稼いだ意味も無くなる。聞ける事だけ聞いて次の行動に早く移らなければ、あっという間に追いつかれてしまうだろう。

 後ろに回った子供達の頭に手を置き俺の横に移動させエレナさん達の前に行く。


「とりあえず君たちの名前は?」


 俺が子供達を連れてきたことにより滞っていた事情聴取が再開され、まずは名前確認からとマーガレット隊長から2人に名前を問い掛けられている。


「僕は中道 忍(ナカミチ シノブ)です」


「私は片倉 春香(カタクラ ハルカ)です。今年で12歳になります!」


 二人とも自己紹介をしてくれるのはいいのだが、忍君はエレナさんやマーガレット隊長達の方に向かってハキハキと自己紹介しているのに対して何故か春香ちゃんは俺を見上げながら俺に向かって(・・・・・・)自己紹介をしている。

 なんか凄く自己アピールを俺にしている気がしてならない。聞いてもいないのに歳まで言ってきたし……。

 俺に視線を向けてくる春香ちゃんをまともに見ないように目線を彷徨わすとテレサと目線がぶつかる。

 あんまり言いたくはないのだが……凄い形相で俺を睨まないでほしいものです。


『何睨んでんだよテレサ? 俺何かしたか?』


 今の状況で俺がテレサに睨まれる理由が無さ過ぎるだろ? 気になった為、念話を飛ばしてみる。


『私はハルを睨んでる訳じゃないわよ! そこな小娘を威嚇してるだけよ!』


 そっか、そっか。てっきり俺を睨んでると思ったよ……じゃ無い! 何で幼気な少女を睨んでるんだよテレサ!


『おい、やめろ。何威嚇してるんだ! 怯えたらどうするんだよ?』


 俺は今も尚、目線を投げかけてきているだろう春香ちゃんを守る為テレサに注意を入れる。


『ハルは鈍いから気付いてないんでしょうが、その子……ハルに惚れてるわ!チッ、嬉しそうにメスの顔してやがります! きっと私の窮地を救ってくれた王子様とか心の中でほざいてるに違いないわ!』


 あのなテレサよ、相手は子供だぞ? 何がメスの顔なんだよ……もっと言い方考えてほしいものです。

 俺はテレサから目線を外し春香ちゃんを見たら……すげーキラキラした瞳と少し頬を赤らめた嬉しそうな顔を俺に向けていた。

 ごめんなさいテレサ様! 何となくテレサが言いたかった事を理解できました!

 今もエレナさんやマーガレット隊長達の質問に対して2人はちゃんと答えを返しているのはいるのだが、春香ちゃんは全ての答えを俺に向かって返してきている。

 質問しているのは俺じゃなくて隊長達だからね? 俺に答え返しても意味ないよ。

 それでも尚、凄くグイグイと俺に対してアピールをしてくる……そこら辺の肉食男子も顔負けのアピールだな。

 俺はロリコンでは無いので、グイグイ来られても対応に困る。こういう言い方は誤解を招くかもしれないが、俺は子供は嫌いじゃない……むしろ好きな方だが当然そこには恋愛感情は存在していない。18歳以下なんて恋愛対象にも当てはまらない、ましてや小学生なんぞ以ての外だ。ついでに愛でる要素も感じられない。


『……私のハル(・・・・)に色目使うとか余程私の鉄拳制裁を受けたいのかしら、そこのビッチ(・・・)は!』


『落ち着けテレサ!まだ事情聴取の最中だ! 怒りを鎮めるんだ!』


 念話越しにテレサの怒りがヒシヒシと伝わって来る。

 いつの間にか俺の袖を握ってくる春香ちゃんの手を、さり気なく解こうと四苦八苦する。別に君の事が嫌いな訳じゃないんだけど今目の前にいるテレサから君を守る為なんだと心の中で言い訳をしながら無理矢理袖を握る手を振りほどいたら、すごく悲しそうな目線を俺に向けてきた。

 仕方が無いので頭に手の平を乗せ優しく撫で君の事が嫌いなんじゃないんだよと態度で示す。

 頭を撫でてあげると目を細め気持ちよさそうな笑顔を向けてきてくれる……可愛いと思うけれど今はそれどころでは無い。

 視界に納めないようにしているがテレサのドス黒いオーラを全身に感じる。ははっ、テレサを直視する勇気が湧いてこねぇーよ俺。

 テレサの事に気を取られ過ぎていたがエレナさん達の質問が核心に迫って来たので意識を変え会話の方に集中する。

 テレサと念話をしている間もエレナさん達の会話は聞こえていたので問題無い。

 忍君も春香ちゃんも気が付いたら異世界に来ていたらしい。一瞬2人が墜ち子かと思ったが話を聞いている限りだとちゃんとした召還陣を用いた召喚によってこちらの世界に来た事が分かった。


「それで何故あなた達は帝国から逃げてきたの?」


 マーガレット隊長の優しい声が二人に向けられたが一瞬で二人の顔が暗くなる。

 先程までハキハキと質問に答えていたのに、言い難い内容なのだろうか?

 急に黙り込んでしまった二人にどうする事も出来ない状況にエレナさんが口を開く。


「春香ちゃんだっけ? 追われる理由はあなた達のスキルにあるんじゃないの?」


 エレナさんの言葉を聞いた春香ちゃんが肩を一瞬震わす。

 まだ子供だけあって上手い事動揺を隠せないようだ。


「先程の戦闘の際、私の光盾を見た時に貴女達……特に春香ちゃんが一番凄く驚いた顔してたのよ?」


 俺はあの時二人を背中に庇う様に立っていた為、二人の顔を見ていない。

 エレナさんは転移者の攻撃から俺達を守る為光盾を使用してくれた時、敵を挟んで向かい合わせの位置に居たからスキルを使用した際に二人の顔を見たんだろう。

 急に黙り込んだ二人は顔を見合わせ決意したかのように頷き合う。

 話す気になったのか春香ちゃんは一歩前に出て皆に見えるように右手の手の平を差し出してきた。


「見て下さい」


 皆が差し出された右手の手の平を注視する中で春香ちゃんの少し手の平が発光したと思われた瞬間、それが現れた。

 一瞬見間違いかと思ったが間違える筈がない……俺は先程の戦闘で命を救われているんだから。

 手の平の上に現れたのはエレナさんが使用した光盾だった。

 エレナさんと比べれば光の輝きも弱く盾の大きさも小さいが間違いなく光盾が浮かんでいる。


「そんな……『光盾』はエレナ隊長のユニークスキル(・・・・・・・)のはず!『光盾』の使い手がもう一人いるなんておかしい!」


 光盾を見た皆に動揺が走る。マーガレット隊長も慌ててエレナ隊長に目線と言葉を向けている。


「ええ、そうね。私の『光盾』は確かにユニーク……神様から頂いた私固有のスキル。しかし実際目の前に『光盾』の使い手がいる。この事実は変わらないわ」


 エレナさん固有スキルのはずの『光盾』を人に依って(・・・・・)召喚陣で召喚した転移者が使える……これが意味する事は何だろう。


「まさか帝国にも神の位に近づける人物(・・・・・・・・・・)が存在しているなんて……」


「神の位に近づける人物?」


 マーガレット隊長が口にした言葉に聞き覚えが有るような気がする。

 俺が投げ掛けた疑問にエレナさんが答えてくれた。


「人の身でありながら神の位に上り詰めることが出来る怪物よ。我が王国で言うならビックオ氏が正に神の位に一番近い男ね。ハル君はビックオ氏から力を与えられているでしょ? でも転生者だろうと転移者だろうと神様みたいに誰かに力を与える事(・・・・・・)なんて普通出来ない(・・・・・・)。しかしビックオ氏は他人にスキルを付与出来る……まるで神様みたいにね」


 言われてみれば、その通りなのかもしれない。俺は力を与えてもらえた事を普通の様に感じていたが本来有り得ない事なんだろう。

 ビックオ氏の刻印によって疑似的にスキルを発動しているといっても本来なら俺には使えないスキルばかりだ。

 他人にスキルを付与する……正に神の所業か。


「帝国にもビックオ氏みたいな方が存在している可能性が在ると?」


「春香ちゃんは、どうやって『光盾』を覚えたのかな? それとも召喚された時から使えるスキルなのかな?」


 事の真相に迫る為マーガレット隊長が春香ちゃんに問いただしている。

 事と場合によっては厄介なスキル持ちが帝国には溢れている可能性がある。勇者召喚だろうが魔術召喚だろうがユニークスキルを付与されて召喚された日には王国は滅亡の危機に曝されたも同然だな。


「この光の盾は、つい最近使えるようになったの。私に付与されているスキルは盾術、魔力操作、光魔法、空間把握能力の四つです。気紛れで四つのスキルを同時に発動したらコレ(・・)が発現したんです」


 春香ちゃんは自分のスキルを明かしながら光の盾に目線を落としている。


「最悪の情報ね。特定の複数スキルを組み合わせるとユニークスキルを再現できる……。帝国は貴女のスキルを知っているの?」


 マーガレット隊長は春香ちゃんから齎された情報に苦虫を噛み潰したような顔をしながらも情報を聞き出そうと声を掛けている。

 確かにユニークスキルを再現出来てしまっては、それはユニークでは無くなる。強力な固有スキル(・・・・・・・・)汎用スキル(・・・・・)のカテゴリーまで落ちてしまうだろう。

 汎用性を持たされた強力なスキル……元よりスペックの高い転移者にユニークスキルを付与出来たら帝国は直ぐにでも戦争を再開するかもしれない、正に最悪な情報だな。


「私は実験の為、研究所に隔離されていたので帝国は知っていると思います」


 春香ちゃんの答えに皆の表情が一斉に曇る。

 これで帝国に追われる理由が判明した訳だ。こんな情報ホイホイ外に漏らせる訳がない、ユニークスキルを人工的に付与出来る……これは帝国にとってアドバンテージになるだろう。

 それ程の情報を知っている子供達だからこそ捕獲が無理なら殺してでも情報漏洩したくなかったのだろう。例えユニークスキルを再現した子供でも……。


「一緒に研究所に居た忍君が、私を連れ出してくれなかったら今頃どうなっていたか分かりません」


「研究所には数十人の子供達が居たんですが……特定スキルの組み合わせが出来ない子供達は処分されていきました。特定のスキルを組み合わせる事が出来る子供はインテグレーター(統括する者)と呼ばれたいたんですが、インテグレーターの中でも序列が存在して俺達序列が低く弱いインテグレーターは処分するって話を研究者達がしているの聞いて春香ちゃんを連れて逃げてきたんです」


 忍君が逃げてきた経緯を話している時、先程振り払ったはずの春香ちゃんの手が再度俺の袖を強く握ってきた。

 今度は必死に俺の袖を掴んでくる春香ちゃんの手を振り払う事なんて出来なかった。何故先程は袖を掴む手を振り払ってしまったんだろう……この袖を掴む手は俺に助けを求める手だというのに!


「私の力が弱いから処分されないといけないの?」


 俺を見上げてくる春香ちゃんは頬を涙で濡らし袖を掴む手により一層力を入れてくる。


「心配しなくていい。忍君、春香ちゃん両名は王国で保護します。私達が守るから安心なさい。それに春香ちゃんの力は弱くないわ……今は魔力量が少ないから私の光盾と比べると小さな光盾しか出来ないけれど、成長と共に魔力量も上がるはずだから数年後には私みたいに立派なれるわよ」


 涙を流す春香ちゃんにエレナさんは腰を折り目線を合わせ笑顔を向けながら慰めの言葉を掛けている。

 俺が二人に目線を向けるとエレナさんから念話が届く。


『ハル君……ごめん!』


 届いた念話の意味が分からない……エレナさんは何を俺に謝ったのか理解できない。


「こんな状況なのに……さっきから(・・・・・)私の胸ばっかり(・・・・・・・)見てんじゃねーよ(・・・・・・・・)! この変態(・・・・)!」


 ええー!! 何でこの状況で俺がエレナさんの胸を見ている事になっているんですかーーーーーー!!

 全然見て無かったですよ! なんで罵られてるの俺!


「ちょ、えっ? 見て無いですよ俺!」


 俺は必死に弁解をする。

 今回は無実だ!何で冤罪被らされなきゃいけないんですか!


「私みたいに立派になるって言葉聞いて瞬時に胸に目線向けるなんてハル君はどうしようもないな……」


 アカン……何言っても聞いてくれなさそうだ。

 真面目な話をしていたはずなのに何でこうなるの?


「フフッ」


 エレナさんに罵られて狼狽する俺を見て春香ちゃんが笑い声を小さく上げる。俺達を見る顔は先程に比べて少し明るい。あぁ、雰囲気を変える為ワザと俺を罵しったんだ……その為念話で先に謝って来たんだエレナさん。


『雰囲気変える為なら別に俺に謝らなくて良いですよ隊長』


 先程までの暗い雰囲気から少し明るくなった。何時までも辛気臭いのは嫌だしな……その為なら俺が道化になろう。これくらいお安い御用だ!


『ごめんね……皆の前で冤罪押し付けて』


『いいですから。気にしませんよ!』


 エレナさんと数回念話のやり取りをした俺は空いてる手を春香ちゃんも頭に置き声を掛ける。


「君の力はいつかエレナ隊長みたいに誰かを守れるモノになる。大きくなったら俺も守ってくれよな?今は俺が君達を……俺達が君達を守るから!」


「うん! 私も大きくなったら、お兄ちゃんみたいに格好良く誰かを助ける!」


 優しく頭を撫でてあげると元気に返事を返してくれた……まったく、小学生は最高だぜ!


「それでは今から行動を再開する!」


 俺が春香ちゃんの頭を撫でていると、ようやく次の行動に出る為かエレナさんから皆に声が掛かる。

 そろそろ移動しないと敵に見つかるか……俺は気持ちを切り替える。


「敵の目を欺くため3班に別れて車まで戻る事とする。まずはマーガレット隊長とラズリアットは忍君を連れて大きく森を迂回する道を。ハル君は春香ちゃんを連れて最短で車まで走れ。私とテレサは殿で敵を陽動しつつ車まで戻る」


「戦力を分散するのは危ないのでは?」


 おぅ、今まで一切口を出してこなかったラズリアットさんが口を出してきた。皆と合流してから一切声を出していなかったから存在忘れていたよ……。

 でも、ラズリアットさんが言う事は間違いではないと思う。戦力を分散しての行動が素人の俺でも危険と分かるんだ。何か秘策でもあるんだろうか?


「私に考えが有る。皆耳を貸してくれ」


 エレナさんの言葉を受け皆がエレナさんの周りに集まる。


「いいか? よく聞いてくれ。まずは――」


 エレナさんから伝えられた作戦に忍君と春香ちゃん以外のメンバーが納得の表情をする。

 これなら上手く敵を陽動できるかもしれない。

 さて行動開始しますか!

 平日の執筆が全然出来ないですね……。毎度の如く更新遅くなりすみません。今回は少し長めです。

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