第6話 輝く星とは……
帝国の転移者達に包囲されていた子供達を脇に抱え俺達はひたすら森の中を走る。
カイトが転移者達の位置を念話で報告してくれている御蔭で、今は何と追尾を避けている状態だ。
俺の腕に大人しく抱えられている子供達に目線を向ける。
抱え上げた際は悲鳴を上げていたが今は静かに抱えられている。見た感じ10~12歳ぐらいな黒髪ロングの可愛らしい女の子と中性的な顔立ちをした男の子。
子供達は帝国にとって重要な情報を持っているはず……帝国の転移者達が捕まえるのが無理と分かった瞬間、殺そうとするぐらいだ。
この子達を守れて良かった……まだ完全に安全な場所に辿り着けていない為、油断は出来ないけれど、それでも少女の『誰か助けて』の言葉には応えてあげる事は出来たはず。
先頭を走っていたエレナさんがスピードを緩めたので前方に注意を向けると別行動だったマーガレット隊長達が居るのが視界に入った。
何とか合流できたな……。
『カナリア隊長達の戦闘は終了したようですがエレナ隊長達と合流するには距離が離れている為、再度戦闘が起きるかもしれませんし最悪尾行される可能性が有ります』
『最初と予定が違うが臨機応変に対処しよう。敵は思ったより強い……こちらは隊長格2人逃がしたが一人を捕獲成功、ジークが捕獲した帝国の転移者を車まで運んでいる』
カナリア隊長達の方は一人確保したんだ……。
俺はカナリア隊長達、1番隊の方々の事を知らないから何とも言えないが隊長格の人に強いと言わしめる実力を帝国の転移者達は持っている。
俺達が戦った転移者達も強かった。俺なんて『輝星憧憬』がなかったら太刀打ちも出来ない程に強力な相手だったしね。
子供達を助け尚且つ逃げる事が出来たのは運が良かったに違いない……いや、エレナさんやテレサが居たから可能だったんだ。
『エレナ隊長と合流出来ましたし、今からの行動をどうします?』
合流したマーガレット隊長から念話を通じ皆に声が掛かる。
『予定とは違うが私が全体の陽動と攪乱を行う。最悪、奥の手である『一騎当千』を使えば帝国の転移者の百や二百ぐらい簡単に潰せる。そちらはそちらで作戦を考えてくれ! カイト、案内を頼む!!』
『了解! エレナ隊長にマーガレット隊長、今から俺はカナリア隊長の誘導に重点を置きます。全体を視た時の情報は時折連絡を入れますが先程よりは念話に遅れが出ますので了承ください!』
カナリア隊長とカイトの念話が終わり、難しい顔を突き合わすマーガレット隊長とエレナさん。
俺は難しい話は専門外なので口を出せないから、ただ考え込む二人を見ているしか出来ない。
そういえば俺の『一鬼闘殲』はカナリア隊長の『一騎当千』がモデルになっていたんだっけ? 今更ながらビックオ氏の言葉を思い出す。『一鬼闘殲』の凄さは俺自身が使って知っている……それが元になったオリジナルのユニークスキル『一騎当千』とも為れば帝国の転移者達は全滅じゃないのかな? 始めから使用していれば今回の任務も簡単に終わっただろうに。
奥の手って言っていたから、使用条件や制約があるのかな?俺は次の行動が決まらない為、考えても埒が明かない事に思案を巡らす。
「すみません。降ろしてください」
エレナ隊長達を眺め考えに耽っていると、脇に抱えていた子供達から声が掛かり現実に引き戻される。 俺はすっかり抱えている子供達の存在を忘れていた。
「ごめんな? 今降ろすよ」
腰を少し屈め子供達を地面にゆっくり降ろす。
俺は子供達を降ろすと先程の戦闘で怪我が無い事を確認する為、少女達の彼方此方に目線を向ける。何だか如何わしいお兄さんみたいな絵面だが、俺は決してロリコンではないので如何わしい目線を向けているワケじゃない! と心の中で必死に自分に言い聞かせつつ、一応身体には触れないように気を付ける。
抱きかかえていた時は転移者達から逃げるのに必死だったので気にしていなかったが子供でも女には違いないので無断で触られるのは嫌だろう。
子供達に怪我が無い事を確認してエレナさん達の方に目線を向けると、二人とも如何わしい者を見る目で俺を見ていた。
ちょ、ちょっと二人とも! 変態を見る目で俺を見ないで!! 俺は堪らず二人に抗議の声を上げる!
「エレナ隊長達! 変な目で俺を見ないでください!! 子供等に怪我が無いか見てたんです!」
「へぇ……そうなんだ。ところでこの子達が帝国に追われてたって子供達? ちょっとこっちで話聞かせてくれないかな?」
俺の抗議の声に曖昧な返事をしつつマーガレット隊長が子供達を手招きする。子供達は呼ばれるがままマーガレット隊長やエレナ隊長の所に行く。
俺は何か腑に落ちない感覚に囚われつつもマーガレット隊長やエレナさんに質問攻めに遭っている子供達を離れた場所で見ていると急に腕を掴まれ引っ張られたので慌てて目線を俺の腕を掴んだ主に向ける。
目線の先には難しい顔をしたテレサが立っていて俺の腕を掴んでいた。
「何だよテレサ」
「ちょっと来て」
俺は急に腕を引っ張れた不快感から言葉を硬くしたが、俺の言葉より更に硬いテレサの言葉にたじろいでしまう。
俺はテレサに引かれるままに皆から死角になる木々の後ろまで連れて行かれる。いきなりどうしたよテレサさん……。
木々の後ろまで連れて行かれると、いきなり乾いた音と共に俺の左頬に激痛が走る。一瞬何が起きたか分からなかったが俺に痛みを伝えてくれる頬がテレサによって叩かれた事を教えてくれる。
「バカ! 隊長の命令を待たず、私の制止を振り切って敵地に飛び込むなんて死にたいの!?」
いきなり頬を叩かれた事に怒りそうになるが目の前の目尻に涙を溜めたテレサを見てしまっては俺の怒りが萎んでいく……先程の行動についてテレサから怒られるのも仕方が無い。
「ごめん……」
「ごめんじゃないわよ! どれだけ心配したか! 何で飛び出したのよ!」
謝って済む事じゃ無いのは分かっていたんだが……案の定、謝った所で返ってくる言葉は厳しいものだった。
この雰囲気はテレサが納得してくれるまで話し合うしか収まりが付かない気がする。
「今回助けた子供達がいるだろ? 転移者達に囲まれている時に嫌な事を思い出してな……」
俺はあの時感じた自分の気持ちや考えを整理しながら口を開く。
「ソフィから大体の話は聞いてる……。盗賊に襲われた集落の事とか色々ね」
テレサの口から、その話が出るとは思わなかった。
全くソフィの口も軽いもんだ……。口止めしてた訳じゃないから仕方無いけれどね。そう言えばエレナさんもソフィから話を聞いてると言っていたし身も蓋も無いな。
「あぁ、そうだ。転移者達に囲まれている子供達を見て、あの時の状況と重ねてしまったんだ。盗賊に襲われた時、助けてあげられなかった子とね」
テレサは口を挟まずに静かに俺の独白に耳を傾けてくれている。
「俺がこの世界に来て感じた勘違いや何もない遣る瀬無さによって、周りから必要とされたくてした無駄な努力の結果、俺に助けを求める少女を死なせてしまった。力が無くてどうする事も出来なかった状況とは違い、俺は偽物だけれど与えられたに過ぎない力でも助ける事が……『誰か助けて』と自分ではどうする事も出来ずに居ない誰かに助けを求める少女の手を取ってあげたくて飛び出してしまったんだ」
テレサに話しながら俺はイスティの事を思い出す。
あの時の事を思い出すと悔しくて自然と手の平を握り締めてしまう。
「この任務に参加して転移者達に囲まれている子供達を見るまで、皆の役に立つ為と必要とされる為だと力を手に入れた事に対して嘘の建前を並べていたんだ……。けれど囲まれている子供達を見て俺が何を思って何の為に力を求めたか分かったんだ。俺が力を求めたのは助けを求める人に手を差し伸べる事が出来る様になんだって」
俺は考えは贖罪なのか自己満足なのか分からないが誰かを助けたいと思った事に嘘偽りはない。
ただただ助けたいと思ったんだ。
「……そっか」
ただ静かに俺の話を聞いていてくれていたテレサが俺を優しく抱きしめてくれる。
俺の心の内を知って上で優しく抱きしめられると自然と涙が溢れそうになる。
「結果的に子供達を助ける事が出来たから良かったけど、次からは気を付けなさいよ」
「あぁ、分かった。今度からは気を付ける。心配かけてごめんな?」
俺は優しく抱きしめてくれるテレサから離れ、心配してくれた事について謝罪したしエレナ隊長達の所に戻らなければ。
今はゆっくり話をしている状況では無い。今も刻一刻と帝国の転移者達が迫ってきているのだから……。
俺は皆の所に戻る為足を踏み出そうとしたらテレサから意外な言葉が掛かる。
「気になったんだけど、この世界に来て何を勘違いしたの?」
おう……テレサさんよ、聞かれたくない話を堂々と聞いてこないでくれよ。
俺は話そうか一瞬迷ったが今更だな……大体の心の内は話したし言ってしまっても問題ないだろう。
「……えっとな、俺も小説や漫画の主人公みたいになれるんじゃないかってな。小説や漫画の主人公達は凄い力持ってて輝いてるだろ? 俺もこの世界で輝けるんじゃないかって思ったわけ。夜空に輝く星みたいにな……まぁ俺は主人公みたいな凄い力なんか無くて輝く事すら出来ない男だけどな」
俺の話を聞いたテレサは呆れ顔を俺に向けてくる。
そりゃあ、こんな話を聞いたら呆れるわな。今更ながら話した事を後悔する。
「――ハルは本当に勘違いしてるわね。小説や漫画の主人公達は確かに凄い力持ってるでしょうけど……主人公達が輝いているのは力の御蔭じゃ無いわよ。主人公達が輝いているように見えるのは力が有ろうが無かろうが何かを成す為行動するからよ! 時には英断を迫られ苦悩したり、時には傷つきながらも前に進み何かを成し遂げるから輝くのよ! ハルは、そのスタートにいるだけ……いい歳してガキじゃないんだから考えれば分かるでしょ?しっかりしてよね、もう!」
俺はテレサの言葉を受け、自分の中のちっぽけな価値観が崩れていく気がした。あぁ……俺は本当に何を勘違いしてたんだろう。
テレサの言う通りじゃないか! 主人公達が輝くのは、輝いて見えるのは行動の結果じゃないか! 俺は今スタート地点に立っているんだ。
『輝星憧憬』は俺の憧れだけじゃ無くなる。俺が憧れた輝く星の様に……。
俺の肩を叩きテレサはエレナさん達の方に先に戻っていく。
俺が判断するのでは無くて輝く星になったかどうかは、これから何かを成し遂げて最後まで俺の事を見てくれていた誰かが俺が輝いていると思えば俺は輝く星になるんだろう。
俺は今自分に何が出来るか分からないが精一杯何かを成してみよう。
今は助けを求める人に救いの手を差し伸べよう。俺が手に入れた力『輝星憧憬』に恥じぬように!
俺も皆の所に足を踏み出す。心なしか足が軽い気がしたのは俺の勘違いじゃないはずだ。
ようやく第二章第12話でビックオ氏がハルの輝く星発言に対して何故笑ったのか分かっていただけたと思います。理由はテレサと一緒ですねーwさて、次の更新の為頑張るぞ(`・ω・´)




