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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第三章 動き出す歯車編
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第5話 光盾

 俺は迫りくる剣に、どうする事も出来ずにいた。

 ただ避ける事が防ぐ事は叶わなくとも覚悟(・・)する事は出来た。

 帝国の転移者と思われる男から振われる剣を一身に受ける覚悟が。剣が迫りくる刹那の瞬間に、致命傷を避ける為に俺の頭に振り下ろされるだろう剣を肩で受けれるよう頭を動かす。

 今の俺は『一鬼闘殲』で身体強化をしている上に『肉体再生』のシュードスキルもある。即死さえしなければ反撃のチャンスぐらい見出せる可能性だってあるかも知れない! 利き手である右手に力を入れつつ剣を待つ。

 ……だが俺の予想は外れ男が振るった剣は当たる事は無かった。何故なら俺に当たる直前に俺の前に出た光の盾(・・・)よって防がれたからだ。

 甲高い金属を擦り合わせたような音と共に剣が弾かれる。一瞬何が起きたのか分からなかった為、無防備になった格好を正し攻撃に移れるよう構えを取りながら周りを確認する。


「私の目が届く範囲で、我が部隊員や子供達に傷を負わせる事が出来ると思わないでもらいたいものだな」


 剣を弾かれた男越しにエレナさんが周りに聞こえる様に凛とした声を通す。

 今俺を守ってくれた光の盾を出現させたのはエレナさんなのだろう。


「……目標を捕獲から殺害に変更。何があってもガキだけは殺せ!」


 男の号令と共に残った者たちが武器を俺達に向ける。

 余程、俺の後ろにいる子供たちは帝国にとって危険な情報を持っているようだ。

 俺は子供たちを後ろ手で押しながら帝国の転移者達から距離を取る様に下がる。

 リーダー格と思われる男の号令を受けた仲間の一人が剣を抜きながら、こちらに走り出そうとしている。


「私等の事忘れてもらっては困るんだけど!」


 俺の後ろの子供たちに攻撃を仕掛けようとする男を挟む様に対峙していたテレサが、いつの間にか装備したワインゼリー製戦槌で横っ腹を勢い良く殴り数十メートル程吹っ飛ばす。

 ロックスキンベアの時も思ったが女の子が振るうと思えない威力と轟音を伴った一撃で容易くノックアウトする。

 俺も人の事は言えないが吹き飛ばされた男は生きているんだろうか? あ、呻き声を上げているから生きてるようだ……。

 帝国の転移者達も油断していた訳では無いのだろうけど、挟まれた状態の対陣では上手い事動く事が出来なくなっているようだ。


「おい……東屋と篠田! そっちの女2人請け負え! 俺はガキの方を何とかする!」


 リーダー格の男が残り2人になった仲間に指示を出し俺達と対峙する。

 見た目サラリーマン風で初めは紳士みたいに振る舞っていたのに、仲間が減って不利な状況になった為か口調が荒くなってきている……こちらの方が素なのかもしれない。


「はぁ……。ガキには王国の領土まで逃亡を許し三度に渡って強襲喰らうなんて、本当に面倒な役を押し付けられたもんだ。なぁ、そう思うだろアンチャン?」


 リーダー格の男は俺の方に歩きながら、旧知の仲の様な気さくな感じで話し掛けてくる。


「お前等の事情は知らない。知る為に俺達が今ここにいるんだよ……」


 俺は一歩前に出て男の話に答えながら両手を持ち上げ構える。

 先程は反応できなかったのでしっかり攻撃にでも防御にでも出れるようにする。

 男は剣を右手で持ち剣先を地面に向けたまま俺と対峙する。両者の距離は約二メートル離れているかどうか。

 俺は頬を伝う汗を感じながら男の出方を待つ。睨みあう事数秒、先に男が動いた。

 一回男の動きを見ていたのが良かった。先程よりは男の動きに反応でき、凄まじい速さで肉迫して上段から振り下ろしてくる剣を左手の手甲で何とか弾く事が出来た。

 しかし『一鬼闘殲』で二段階強化して、やっと反応できるかどうか……。このままでは前の時と同じ結果(・・・・)になってしまう可能性がある。

 凄まじい速さで迫りくる剣を避けたり手甲で防いたり防御一方に回ってる状況……このままじゃジリ貧だ。少しでも油断したら、あっさり倒されかねない。俺が倒れれば後ろの子供たちが危ない。

 『一鬼闘殲』の三段階強化を身体に施し俺は男に攻撃を仕掛ける。三段階強化は俺が思っていたより凄かった。

 先程まで何とか反応していた男の動きに余裕で付いていける。俺は勘違いしていた……身体強化は体を強化するんじゃなくて身体能力を強化してくれるんだ。つまり運動能力(・・・・)の事だ。運動能力の多くは膂力、持久力、聴力、視力、瞬発力など諸々な事を指す。

 これなら元より高いスペックを持つ転移者相手と戦える! ビックオ氏が“とっておき”だと息巻いていた意味が漸く理解できた。

 俺は男の振う剣の動きに合わせ幾度となく裏拳で悉くを打ち落とした。


「チッ! いきなり動き良くなったんじゃないのアンチャン!」


 俺の動きの方が男を圧倒している為か、少し焦りを含んだ声色で悪態を付く男。

 戦闘開始時点では俺より自分の方が優っている、簡単に倒せると思っていたんだろうが当てが外れたんだろ?

 俺は男の剣の腹を力一杯叩き、半ば位で男の剣を折る。

 これで一応男の武器は無くなったが油断はしてはならない。今は戦闘中だ、ロイさんやシェリーさんに口が酸っぱくなるほど注意を受けている。

 剣を折られた男は直ぐに剣を捨て、俺から飛び退く様に離れ倒れている仲間の剣を左手で直ぐに拾い構える。

 剣が折れるや否や次の武器を拾う行動に移る男の戦い慣れした動きに少し感心する。

 丁度その時、エレナさんから念話が届く。


『こっちは、もうすぐケリが付きそうだ。ハル君も何とかして男を無力化してほしい。先程カイトより念話が届きマーガレット隊長達が近くまで来ていると情報をもらっている。何とか合流したい』


『了解です!』


 俺は剣を構える男を無力化する為、駆け出す。

 男は帝国の転移者だけあって強い……だけど今の俺なら対応出来るはず!

 俺は男に接近しながら左手でパンチを繰り出しつつ男の動きを追う。男は俺のパンチを避けながら左手で下から振り上げる様に剣を繰り出してくるが、俺は一歩足を引き剣を避ける。男は剣を振り上げた為、脇腹を無防備に晒している。

 俺は右足で男の脇腹を力一杯蹴りつける! 強化されている俺の攻撃に男は堪らず苦悶の表情を浮かべているのが見える。

 男に反撃される前に決着をつける為、蹴り出した右足を引きつつ左、右とパンチを男の顔面に放つ。

 綺麗にワンツーパンチが男の顔面に決まった! 踏鞴を踏みながら態勢を崩す男に止めとばかりに渾身の力を乗せた右ストレートを男の鼻っ面に打ち込む!

 男は俺の右ストレートを受け数メートル吹っ飛び動かなくなる。

 ふぅ~、エレナさんに言われた通りに男の無力化に成功した。もし『一鬼闘殲』で身体能力をしていなかったら男を無力化する事は出来なかったと思う。


「こっちは終わりました!」


「こっちも終わったわ! ハル君は子供たちを抱えて走って!」


 俺の敵を無力化した報告と共にエレナさん達の方の戦いも終わった様だ。

 俺はエレナさんの指示に従い両脇に子供たちを難なく抱える。身体強化した俺だから出来る事だろう。


「わぁあ!」


「きゃっ!」


 脇に抱えた際、子供らから悲鳴が聞こえるが今は構っている状態じゃないが、俺が子供たちの前に姿を現してから子供たちから初めて聞く言葉が悲鳴って……。

 子供たちの悲鳴に少し傷付きながらも目線をエレナさん達の方に向けると少し離れた場所でテレサが手招きしている。俺は子供たちを抱えたまま手招きされている方に走る。

 これで何とか子供たちの安全を確保する事が出来ると思っていると、先程殴り倒したはずの男が意識を取り戻して上体を起こしつつ俺達を睨んでる。

 鼻の骨が折れて歪んだ鼻から大量の血を流し、殴られた際に割れた眼鏡を掛け鬼の形相をしている。


「絶対逃がさねぇ!! 俺を殴り飛ばした貴様も子供も!! 地獄を見せてやる!!」


 男は上体を起こしたまま子供を抱える俺に右手を翳す様に向けてくる。

 走りながら男の行動に注意していると男の右手から炎の塊が幾つも俺に向かって飛んでくる。嘘だろ! 先程まで魔法使ってなかっただろが! 今は脇に子供達を抱えている為無茶な動きが出来ない!

 このままじゃ子供諸共、炎の餌食になってしまう! 俺は無茶を承知で前方に転がろうとする。


「先程も言ったが、私の目が黒い内は部下や子供たちに傷を負わせる事出来ると思わないでほしい」


 俺が炎の塊を避ける為、転がる態勢に入る前に俺や子供達を守る様に幾重もの光の盾が炎を受け止める。

 直撃するかと肝を冷やしたが、助かった。


「ハル! エレナさんの『光盾(ライトシールド)』が守ってくれてる間に早く来て! 足が止まっている!!」


 俺は目の前に出現する光の盾に気を取られていた為か足が止まっていたようだ。呆けている場合じゃない! 再度走り出しテレサと合流する。

 後ろを振り返ると男から放たれる炎の塊を悉くを出現させた光の盾で防ぎながら俺達の方に走って来るエレナさんが見える。


「流石、エレナ隊長のスキル! 防御特化の『光盾』を抜ける攻撃なんてカナリア隊長ぐらいなものね!!」


 隣のテレサが鼻息荒くエレナさんのスキルを褒めている。俺は戦闘中初めて見るエレナさんのスキルに見入ってしまう。

 男の攻撃を防ぐ光の盾は、何て綺麗なのだろう……色々な光彩を放つ盾は神秘的だと俺は思った。

 スキルで構成されたはずの盾だというのに何事にも侵しがたい力を感じる。


「二人とも呆けてないで走れ!!」


 俺達に追いついてきたエレナさんの一喝で俺は正気に戻る。

 そうだった今は戦闘中、しかも逃げる途中だった!合流したエレナさんを筆頭に森の中を駆ける。

 男は魔法を放つのが精一杯だったのか追い掛けて来なかった。

 ただ森の中に木霊する様に『絶対逃がさない!』と男の言葉だけが響いていた。


 早くマーガレット隊長達と合流して本当の意味で子供たちを安全な所に匿わないと。

 事情を聴くにも安全が確保されてからじゃないと、おちおち聞けない。まだここは帝国の転移者達が残る『迷いの森』。

 油断するつもりは無いが、何が起こるか分からない。脇に抱えた子供たちに少し目線を向けつつエレナさんが走る後を追う。

……頭の中にあるプロットを文字にする、文章として表現する。これ程難しい作業はないですね(泣)私に文章の神よ……降りて来い (`・ω・´)

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