第4話 何の為の力
毎度の事ながら、更新に大変時間が掛かりました。
日が完全に沈み、夜の帳が下りた森の中をカイトからの念話を元にエレナさんを筆頭に俺達は駆けている。
『エレナ隊長率いる3番隊は、このまま前進してください! 後少しで斥候と思われる2名と接触出来ます! 既にカナリア隊長達が戦闘に入っている為、陽動の効果は薄いですが目標の目を少しでも釘付けにしてください!』
日が沈んで足元も見辛くなってきている森の中、木の根等々足元を掬われ易い状況でも先頭を走るエレナさんは一向にスピードを緩める気配が無い。
今は作戦が始まって尚且つ予定より早い段階での目標との戦闘行為すら発生しているんだ、ゆっくり行動が出来ないのは承知しているが、エレナさんの進行スピードは尋常じゃない。
俺も何とか離されない様に追い縋るが暗闇に包まれつ森の中を光無しで走るのはキツイものがあり、なんとかエレナさんに付いて行ってる感は否めない。
先頭を走るエレナさんは、足元を照らす光も無いのに躓く事無く走れるな……。
『ッ!! 斥候と思われる先行2名が足を止め後続部隊と合流しました! ……なんだ? 目標の動きが何か変です!』
『どうしました? なるべく伝わる様に言ってくださいな』
カイトの焦るような念話を受け、マーガレット隊長も念話に入ってくる。
『斥候を取り囲むように後続部隊が展開しています! エレナ隊長、マーガレット隊長……我々が斥候役と思っている2名は、我々の勘違いで帝国の転生者や転移者じゃ無い可能性があるかも知れません!』
『斥候役では無い可能性ですか……』
今も頭の中に伝わるカイトとマーガレット隊長の会話を聞きながら暗い森の中を駆ける。
『帝国の転生、転移者に追われる者の可能性があります……。3番隊は後数秒で目標に接触!』
『私等3番隊が目標を直に見て判断をします! マーガレット隊長は回り込んでください!』
先頭を走っていたエレナさんが急に止まり片手を広げ、後続を走っていたテレサや俺に止まる様に指示を出してくる。
テレサと俺は走る事を止め、エレナさんの横に付き前方に注意を向けるとエレナさんから小声で注意が入る
「ハル君、身体から漏れる魔力を消せないかな? 目標に気付かれてしまう」
直ぐにシュードスキル解放を止める。シュードスキル発動中は自然界に存在する魔力を無理矢理集めてしまう為、自然と身体に魔力を纏ってしまう……どうやら俺の『輝星憧憬』は隠形に向かないようだ。
エレナさんが見つめている方向に目線を向けると、長い事暗い森の中を走ってきた為か夜目が利いてきて何となくだが誰かが居るのが見える。
数十メートル先に暗い森の中に似合わない幼い少年少女。
倒れたであろう少女を少年が助け起こそうとしている。
『目標を視認した。……帝国の転生、転移者の可能性はあるが斥候の可能性は薄いな。年端もいかない少年少女、追われているとみて間違いないでしょう』
『確保するべきだと私は思います。事情を聞けば何か分かるかも知れませんしね』
『出来るなら確保してくれ! こちらは動けない!』
エレナさんの報告に対しマーガレット隊長、戦闘中のカナリア隊長からも念話が届く。
戦闘中なのに、よく念話をする余裕があるなカナリア隊長……。
念話から意識を離し、少年少女の方に意識を向ける。少年が少女を助け起こした所で周りを数人の武装した男達に囲まれているのが見える。
囲んでいる人数は6名か……確保するなら行動は早くするべきではないのだろうか? 俺は小声でエレナさんに声を掛ける。
「今出て行くのは危険と思われますが、確保に乗り出すべきでは?」
エレナさんは目線を前方に向けたまま難しい顔をしている。
理由は分からないが帝国の者に追われている可能性がある少年少女を早く助けるべきだろう……俺の中で何故か焦燥感が膨らんでいく。
『カイト、少年少女を取り囲む男達の中に隊長クラス魔力保持者は何名いますか?』
『隊長クラス魔力保持者人が1名います! 囲んでいる男達の魔力保持量も中々のモノです。……マーガレット隊長の合流を待ちますか? 挟撃すれば確保するのに確実性が増します』
囲まれている少年少女を見ていると胸の中で膨らむ焦燥感……あぁ、何故俺が焦燥感に駆られているのか何となく分かってきた。
イスティの時と同じなんだ。今動けば助ける事が出来るかも知れない状況で動くことが出来ない事に苛立ちを覚えているんだ。
もし武装した男達が武器を、凶刃を振わないとも限らない。
何かの口封じの為に追われている可能性だってあるかも知れない……可能性の話を始めれば、どんな可能性だって出てくるだろう。
だけど……本当に命を狙われていて逃げてきたとしたら? そんな考えが頭の中に浮かんでくる。
今動くべきなんじゃないかと考えていると、そっと左手を握られる。
握られた左手の方に目線を向けるとテレサが難しい顔を俺に向けてきていた。
「どうした?」
「何か飛び出していきそうだったから引き留めているの」
自分では気付かなかったが焦燥感に駆られて飛び出しそうになっていたのかも。
今は指示に従わないといけないのは分かっているんだが、こんな状況だと逸ってしまう。
気持ちを静めながら目標集団に意識を集中しようとしたら
『誰か助けて』
少女の助けを求める声が聞こえた。
本来こちらに声が聞こえる距離にじゃないはずなのに俺の耳には確かに少女の声が届いた。届いた気がしたんじゃなくて本当に小さくだが俺の耳に彼女の声が届いたんだ!
その声を聞いてしまっては、マーガレット隊長達を待つという選択肢は俺の中には完全に無くなってしまう。
「エレナ隊長! 西尾晴武出ます!!」
「ちょ、ハル!」
隣にいるエレナさんに声を掛け、左手を握っているテレサの手を解き俺は走り出す。
テレサが俺を止めようと声を掛けてきたが無視する。
俺の頭の中にはイスティの時の事がフラッシュバックしていた。
あの時は動けなくて……動く事すら出来なくてただ茫然とショートソードを振り下ろされるイスティを見ているしか出来なかった。だけどあの時とは違う!
皆の役に立つ力が有る……皆の役に立つ? そうじゃないだろう! 俺の気持ちは、あの時から何も変わって無い! 俺はイスティを助けたかったんだ……俺に助けを求める人を助けたかった! 周りから必要とされる人間? 俺が力を求めたのは皆の役に立つためじゃない! 今の様に誰かに救いの手を伸ばしてくる人の手を取る為なんだ! 今ようやく俺自身の本心に気付けた! もう嘘の建前は要らない!
俺は走りながらシュードスキルを解放する。
「――シュードスキル解放!! うぉぉぉぉぉぉお!!」
『一鬼闘殲』で2段階強化をして跳躍し一気に少年少女の元まで辿り着く。
囲んでいる男達に向け牽制として数発『魔砲』を放ち近くの男に殴り掛かる。
『魔砲』は男達に当たらず見当違いの方向に飛んでいったが、別に『魔砲』は牽制の為に使用したにすぎないので当たらなくても構わない。
いきなりの出来事で男達の反応が遅れている今なら包囲を崩せる可能性がある!
右手に目一杯力を籠め近くの男の顔面を殴ると何かが潰れるような感触と共に殴った男が数メートルに渡り勢いよく吹き飛ぶ。
力加減を少し間違えてしまったかもしれないが今は構っていられない。重症の可能性はあるが殺してはいないだろう。
最初の男を殴った勢いのまま次の男を殴り飛ばす!
「チッ、敵襲か! 相手は一人だ、さっさと対応しろ!」
二人目を殴り飛ばすと男達も襲われていると分かり武器を構えてくる。
俺は少年少女を背後で庇う様に移動して男達の目線を一手に受ける。
「残念、一人じゃないよ!」
敵が俺に意識を奪われている間に、男達を挟むように回り込んだエレナさんとテレサが現れる。
相手は4人だが、挟撃されると思っていなかったんだろう……男達に焦りが伺える。
男達のリーダー格と思われる男が一歩前に出て俺達に声を掛けてくる。
「こんばんわ。実力的に見てホーネスト王国の正規兵の方々ですね? 少し提案があるのだが、よろしいかな?」
暗い森の中だったので相手の容姿に注意を払っていなかったが、声を掛けられた事により自然と相手の顔に目線を向けてしまう。
黒髪を7:3別けにして細い糸目に野暮ったい黒縁眼鏡を掛けたサラリーマン風の男だった。
こいつは間違いなく転移者だ……エルドランドで日本人顔している人は墜ち子か転移者しか居ないだろう。
「提案とは何です?」
男の言葉にエレナさんが反応して言葉を返した。
俺は男の動きに注意を払っている。言葉を掛ける事によって俺達を油断させる魂胆かも知れないからな。
「ここで我々を見逃してくれませんかね? 当然君の後ろに庇っている二人も含めてね」
男は俺の後ろに居る二人に目線を向けながら会話を続ける。
「見逃して頂ければ帝国と王国は今まで通りの冷戦状態を維持できるんです。素敵な提案でしょう」
「見逃さなかった場合は?」
エレナさんの切り返しに、リーダー格の男は厭らしく口角を吊り上げ言い放つ。
「答えは決まっているでしょう? 戦争です。長い事、膠着状態にある冷戦状態から打って変わって大量の血が流れる怨嗟の戦いが始まる事でしょう」
この男は俺達を脅しているんだ……戦争をしたいのかと。
それ程俺の後ろにいる少年少女は帝国にとって最重要機密なのだろう。俺はエレナさんに目線を向けると張り詰めたような厳しい表情をしているのが見える。
やはり戦争を回避したいのが普通の反応なのか、エレナさんが返答に困っているような気がする。
『構うな! 相手の提案を呑む必要は無い!』
俺達の会話なんて聞こえていないはずなのにカナリア隊長から念話が入って来た。
今回の総指揮権はカナリア隊長に有る。俺はカナリア隊長の言葉に従い、リーダー格の男に言葉を発する。
「その提案……断る!」
俺の背後に隠した少年少女が少しでも安心出来る様に両手を広げ行動で示す。
「それは残念だ!」
俺が提案を断った瞬間、少し離れた場所に居たはずのリーダー格の男が俺の認識を上回るスピードで剣を振り上げながら肉迫して来ていた。
そんな! 俺は男から目線を外していなかったはずなのに気が付いたら肉迫されていた!
俺は男から振り下ろされるだろう剣に目線を奪われる……ヤバイ! 今避けたら後ろの二人に当たる! 両手を持ち上げガードをしなければ!
駄目だ……ガードが間に合わない。
俺は、淡々と迫りくる剣を眺める事しか出来なかった。
今後戦闘描写増えていくと思いますが、私の文章力では上手い事表現出来ないかも……頑張って表現できるように執筆頑張ります!




