第2話 任務メンバー
俺とテレサは言葉らしい言葉を交わす事無く3番隊執務室に辿り着き、ノックをしてエレナ隊長に入室の許可を取りつける。
執務室に足を踏み入れると明らかに硬い雰囲気に包まれたエレナさんが椅子に腰掛け俺達を迎えてくれた。
ソフィといいエレナさんといい今回の緊急任務の所為か普段と雰囲気の差異を俺が感じている中、入室した俺達を軽く一瞥した後エレナさんが口を開いてくる。
「今回の任務招集ご苦労さま。私はテレサとティナが同行者として来ると思っていたんだが……ハル君が来たんだ」
俺はエレナさんから掛けられた言葉に反応する。
エレナさんの言い方だとスキルが無い俺が任務に来るとは思ってなかった感じを受けたからだ。
これは俺が勝手に言葉を深読みして、俺が勝手に感じただけだ。きっとエレナさんに他意は無いはず……。
「俺だって戦えます! 皆の役に立てる力も手に入れました! 足手まといになりませんので同行させてください!」
俺は自分も戦えるとアピールをする。
折角、副隊長が許可をくれたのだ今更任務の同行を認めて貰えなかったら何の為にここまで来たのか分からなくなる。
俺の訴えに耳を傾けていたエレナさんが席から立ち上がる。
「ビックオ氏からスキルについて話は聞いています……それとソフィから先日の盗賊の件についても」
エレナさんは執務机を迂回して俺達の前に立つと、しっかり俺に目線を合わせてくる。
「……今回の任務の同行を許可しよう。何の為に手にした力なのかは知らないけれどね」
何の為に? 俺は力が無くどうする事も出来ない現状を変える為、皆から必要とされる為に力を手に入れた。
皆の役に立つ……俺は合わせられたエレナさんの目線をしっかり受け止め返す。
これが俺に出来る最低限の意思表示のつもりだ。
「すでに任務参加が決まっている各番隊のメンバーが兵舎前に集合しています。私達も行きましょう」
エレナさんは俺の意思を汲み取ってくれたのか、それ以上聞いてこなかった。
エレナさんが執務室から出て行くので俺達も後を付いていくが、先程から俺は気になっている事が一つだけある。
テレサだ。俺とエレナさんの会話中もテレサがずっと難しい……険しい顔をしていたのが目に付いた。
今回の任務の事で険しい顔をするのは何となく分かるが、何時もと違い雰囲気が悪く感じる。
今回に限って皆が皆、普段と雰囲気が違いすぎて対応に困る。
それだけ任務が厳しいモノなのか、それとも今後の王国と帝国の関係を懸念する余りに雰囲気が硬くなるのか……俺には分からない事だらけで何とも言えない雰囲気が漂っている気がする。
俺達はエレナさんの後に付いていって兵舎前に出ると、5人の人が兵舎前に立っていた。
男2人に女3人、俺は初めて見る顔触れに少し戸惑いを覚える。
「遅くなって済まない。我々3番隊は以上だ」
エレナさんが兵舎前に立っていた5人に声を掛けているのを後ろから眺める。
「エレナ隊長殿。まさか番外隊からのメンバー選出とは……任務に支障は有りませんか?」
エレナさんの言葉を聞き真っ先に俺達に声を掛けてきたのは、やたら鋭い目つきの柄の悪そうな男だった。
黒髪黒目の眼光鋭く俺よりは年上と思われるが、纏う雰囲気が堅気のモノでは無い。
「0番隊は『千里眼』カイト……君だけか?」
鋭い目つきの男の名はカイトと言うらしい……0番隊は確か諜報系スキル持ちで構成された部隊のはず。
「我ら0番隊は殆んどの隊員に命令が下りてます。その中で俺が今回の任務に適している為皆さんに付いて任務のサポートをするよう隊長からの命令を受けています。今頃他の隊員達も今回の事が本当か四方八方走り回っている事でしょうね」
カイトは他の人達にも聞こえる様にワザと大きな声を出している。
「今回の件……真偽はまだ不明といった所か」
「そうですね。まだらしい止まりの情報ですが……もし仮に盗賊の正体が本当に帝国の転移者達だった場合、番外隊員を連れて行く事に俺は反対ですがね?」
エレナさんの言葉を受け、カイトは俺やテレサに鋭い目線を投げかけてくる。
先程よりカイトは番外隊員を強調してくるが、きっと鴉隊の事を指しているんだろうな。
俺は今も尚、険しい表情をしているが隣にいてくれるテレサに聞こえるぐらいの声で問い掛けてみた。
「番外隊って鴉の事だよな?」
「ええ、そうよ。各隊に存在する別働隊の事を0~3番のナンバーを与えられていない為、番外隊って呼ぶ人もいるわ。各番隊の別働隊が主に受ける任務が後方系担当になりがちで戦力として勘定出来ないから出来損ないの部隊のイメージなんでしょうね……」
テレサの話を聞いた後だと俺達が今回の任務に同行する事がカイトにとっては足手まといなんだと感じる。
だけど俺はともかくテレサは元々1番隊だ。当時はスキルの制御が上手く出来ていなかったかもしれないが今は元の姿で行動する事が出来きている……俺だってシュードスキルがあるから足手まといになるつもりなんて初めから無い。
カイトの物言いに少し憤りを感じていると、静かにエレナさんとカイトの会話を見守っていた他のメンバーが口を出してきた。
「おい、カイト。エレナ隊長に失礼だぞ!部隊は違えど隊長クラスに物言い出来る程お前さんは偉いのか?」
カイトの肩に手を置き無礼を指摘するのは、もう一人の男で大柄で屈強な体躯を兵士服の上からでも窺わせるほど筋肉を携えている。
コイツと本気で戦って勝てる気がしないと思わせるほどの覇気を纏っていて、見た目で言うなら武人って言葉が一番無難に当てはまりそうだな……。
「ジーク! お前も他部隊員に物言い出来る程偉いのか?」
カイトの無礼を指摘していた男……ジークは慌ててカイトの肩に置いていた手を離し、後ろを振り返り頭を少し下げる。
ジークの下げた頭の先に緑髪をショートにした小柄な女性が立っていた。
「今は時間に余裕がない、知らない顔も少しだが見受けられる。自己紹介だけして早急に現場に向かう事を提案する」
小柄の女性の言葉を受けエレナさんが緊張した雰囲気を漂わせているのを俺は感じていた。
見た目非力そうな小柄な女性だ。だけど今回の任務に参加出来る何かが彼女にも有るんだろう。
「私が提案したんだ、私から自己紹介していこう。私は1番隊隊長カナリア・エルエンジュだ。一応今回の任務の取り纏め役を上層部より承っている。仲良くしろとは言わないが任務に支障をきたす言動等は慎めよ」
俺が非力な女性と思った人は1番隊隊長だった。
人は見た目で判断できないというが、まさか武器での戦闘や武芸に優れている1番隊と取り纏める隊長とは……。
この人が攻撃特化の部隊長ならスキルも凄いのだろう。我が3番隊隊長であるエレナさんも凄いスキルを持っているはずだから、一番隊ではカナリア隊長も群を抜いた優れたスキル保持者なのが想像も容易い。
カナリア隊長に頭を垂れたジークが一歩前に出て自己紹介を始める。
「1番隊隊員ジーク・オラウンだ。よろしく」
ジークは言葉数少なく紹介を終えてしまう。
カナリア隊長と違い、こちらは見た目通り1番隊と容易に判断が付く。
もし彼が2番隊や0番隊所属と言われたら間違いなく場の雰囲気を無視してツッコミを入れれる自信が俺には有る……まぁ、俺は空気読む男だからツッコミは入れないけどさ。
ジークの自己紹介に続きローブを纏った銀髪ロングの女性が皆の視界に入るよう移動してきて口を開く。
「私は2番隊隊長マーガレット・サルブフラインです。我が隊は広域戦闘が最大の持ち味になるので、今回の作戦に適任者が少なく私を含め2人しか集める事が叶いませんでしたので、フォローをよろしく願いますね」
マーガレット隊長の自己紹介の後、もう一人のローブの黒髪ロングの女性が前に出てきた。
「2番隊所属ラズリアット・ハーマインです。……足手まといにならない様頑張ります!」
ラズリアットさんの紹介が終わったら先程エレナさんにイチャモン付けていたカイトが渋々自己紹介を始めた。
「0番隊カイト・ホルスマンだ。今回は皆のサポート役として任務を我が隊長から承った。任務を受けたからには仕事はキチンとする」
カイトは自己紹介を終え俺達に目線を向けてくる。
後は俺達3番隊の自己紹介を残すのみ。
カイトのみならず他の人達も俺達に目線を向けてきているが、きっと俺を見ているんだろう……この中では一番新参者なのだから。
「私は3番隊隊長エレナ・スカーフィールドです。捕獲の面で言えば我々も十分活躍出来ると思いますので、よろしくお願いします」
エレナ隊長の自己紹介に続きテレサが少し前に出て自己紹介を始める。
「鴉隊テレサです。今回の任務参加足手まといにならない様頑張ります」
テレサは自己紹介も短く元の位置に戻ってくる。
次は俺の番か……テレサを見習って短く名前だけ自己紹介しておこう。
俺は少し前に出て自己紹介を始めようとしたが、テレサの自己紹介を聞いたカナリア隊長が顔に笑顔を浮かべテレサに声を掛けてくる。
「やっぱりテレサか! 随分と見違えてしまったな! 前見た時は、こんなに小さかったのに!」
カナリア隊長は手の平を自分の胸の上ぐらいまで持ち上げ封印解除する前のテレサの身長を表現している。
「前も事情を説明したと思いますが、こちらが本来の姿ですよ……」
テレサとカナリア隊長が話し始めてしまった為に俺は自己紹介をするタイミングを逃してしまった。
えっと……俺はどうすればいいんだろうか? 話している二人に目線を向けるとカナリア隊長が俺の目線に気付き会話を止めてくれる。
「おっと、まだ一人自己紹介していない者がいたな。これは悪い事をしてしまった」
「いえ。えっと……鴉隊所属している西尾晴武です。よろしくお願いします」
カナリア隊長が会話を止めてくれた御蔭で無難に自己紹介を終える事が出来た。
俺の自己紹介を終えるのを待っていたかのように、またカナリア隊長が口を開く。
「今回の任務、0番隊を除き各番隊の隊長が集結するとは……これで捕獲目標が実はただの盗賊でしたってオチだったら笑えるな。なぁエレナ?」
「そうですね……。私は笑い話で終わるなら、それに越した事はないと思いますが」
エレナさんは緊張気味にカナリア隊長に言葉を返しているが、やっぱり隊長クラスの中でも上下関係が存在するのかな?
「よし! 自己紹介も終わったし作戦内容は移動時にする! 各員移送車に乗り込め!!」
カナリア隊長は今回の任務に参加するメンバーに一通り眺めると俺達に号令を掛ける。
カナリア隊長の号令を皮切りにジークが兵舎前に置いてあるマイクロバスみたいな車に乗り込んでいく。
それに続きカイト、マーガレット、ラズリアットが乗り込んでいく。俺達もエレナさんに続き車に乗り込むと中は左右5席、計10席しかなったが俺は空いている一番後ろの席に腰を下ろす。
見た目とは違い席数が少ない気がするが俺の知った事ではないか……。
「全員乗り込んだようだな! では出発する! ジーク、車を出せ」
「了解です」
運転席に座るジークがカナリア隊長の指示に従い車を走らせ始める。
この車……マイクロバスも魔導式自動車の枠になるのかな? 俺は走り出すバスの窓から外を眺めながらボンヤリと考える。
いや、今は任務の事に集中するべきだと俺は考え事を頭の片隅に追いやり気持ちを切り替える。
今回は対人戦をこなさなければならない。ただの盗賊だろうと帝国の転移者達だろうと、こちらの命の保証は無いのだから油断しない様に気を付けなければならない。
俺はイスティの事やテーピン盗賊の事を思い出し、二度と同じ轍を踏まない様にしなければいけないと心に誓う。
俺だって戦う力を手に入れたんだ……何も出来なかったあの時の俺とは違う!
密かに握った拳に力が入りすぎて痛みを発するが俺には少し心地が良かった……。
ようやく更新出来ました!次からもっと早く更新出来るよう頑張ります!




