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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第三章 動き出す歯車編
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第1話 動き始める歯車

第3章突入!

 夜の深い闇の中、月明かりに照らされた森の中を走る二人の人影。

 ここは王都フィリアロックよりかなり離れたホーネスト王国でも辺境の森の中。

 闇に乗じて走る二人の人影は大人にしては小柄で観察が鋭い人ならば一目見ただけで子供だと判断できるだろう。

 闇の中を走る二人の人影の内、後方を走っていた一人が足を何かで引っ掛けたのか、それとも足を縺れさせたのか地面に勢いよく倒れる。

 先頭を走っていた人影が足を止め、慌てて倒れた人影に近づき助け起こす。


「大丈夫か?」


 倒れた人影を助け起こす人影の声は暗闇の中に似つかわしくない幼さが残る少年のものだった。


「大丈夫。怪我は無いと思う」


 助け起こされた人影も、やはり夜の森に似つかわしくない幼い少女のものだった。


「もう少しで森を抜ける。ようやくここまで来たんだ。ここさえ抜ければ奴らだって簡単に僕達を追いかけて来れないはず……。頑張って走ろう」


 少年が少女の手を取り再び走り出そうとしたが、それは叶わなかった。

 何故ならば月明かりに照らされた森の中、二人の少年少女を取り囲む様に数人の男達が武器を構えていた。


「いや~……逃げ足速いね君達。おじさん追いつくのに時間掛かっちゃったよ。でもね、追いかけっこはここまで。大人しく捕まってね?」


 少年少女を取り囲む男達を押し退け一人の男が姿を現す。

 姿を現した男は、少年少女を取り囲む男達が出す雰囲気とは一線を画す程に纏う雰囲気が異質だった。

 幼い少年少女ですら分かる強者のオーラに、二人は尻込みしてしまって動けずにいた。


「お前等、捕まえろ」


 男の号令で少年少女を取り囲む男達が一斉に動き出す。

 視界に男達が迫りくるのを映しながら少女は祈りの様に声を絞り出す。


「誰か助けて」


 暗闇に誰にも届くはずが無い声が小さく……そう、小さく響き渡る。





 時は遡り数時間前。

 ビックオ氏の手術を終えた俺は鴉隊執務室にいた。


 自分の新たな力シュードスキルを試すべく冒険者ギルドで簡単な討伐クエストを受ける為に足を運ぼうとしていた際、兵舎出口で鴉隊取りまとめ役のソフィに呼び止められた。


「ハル君、緊急任務が各番隊に来ているわ。直ぐに執務室に来て」


 いつもは笑顔のソフィが至って真面目な表情を浮かべ用件だけを告げるのは俺にとって初めてだった。

 纏う雰囲気が、いつもと違いすぎる為に少し戸惑いを覚えながらも執務室に足を運ぶ事となった。

 執務室には鴉隊全員が集結している。

 これは鴉隊の隊員との顔合わせ以来初めてじゃないんだろうかと心の中で思う。

 皆が沈黙を貫いていると取り纏め役のソフィが口を開く。


「皆集まってもらって済まない。上層部より緊急任務が通達された。私達鴉隊にも任務がきている」


 普段と違い執務室に漂う空気は緊張を含み自然と身体が強張っていくのを俺は感じていた。


「珍しいわね私達鴉まで任務通達が下りてくるなんて……」


 鴉隊の皆が沈黙を守る中でテレサが一番最初に沈黙を破る。

 俺は俺で任務の事を色々聞きたかったのだが、言い出すタイミングを逃して口を開けずにいた所をテレサが先にソフィに声を掛けてしまった。


「ホーネスト王国の端に位置するメニア村付近に盗賊らしき集団が確認され、冒険者数名が討伐に当たるが失敗し全滅。次に討伐に向かった冒険者達も返り討ちに遭い生存者1名を残し全滅。生存者からの証言から、盗賊と思われていた集団はガストニア帝国の転移者の可能性が出てきました」


 執務室に居た隊員全員の顔に緊張が走るのを見逃さなかった。

 今王国と帝国は冷戦状態にあるのに我らが王国の領地で敵国の転移者らしき集団が確認されたのだから皆が緊張するのも仕方のない事なのだろうと考える。


「相手が帝国の転移者の可能性があるから軍が動くと?」


 テレサは真面目な表情でソフィに問い掛けている。


「私達鴉隊からも二人ほど人員を裂く様に通達が来ている。今回3番隊からはエレナ隊長(・・・・・)自ら任務に当たるそうだ。我々鴉隊はエレナ隊長の任務補佐だろうよ……」


 都市防衛を最大の任にしている3番隊まで今回の件に駆り出されるのか。

 俺は疑問を感じた為ソフィに今回の任務内容について聞いてみる事にした。


「軍が動くとして任務内容はなんですか? まさか転移者の可能性がある人達の討伐ですか?」


 俺の言葉を聞きソフィは片眉を少し吊り上げ俺に目線を向けてくる。


「今回の任務内容は帝国の転移者の可能性がある集団の捕獲だ。貴重な情報源を討伐してどうする?」


 普段と違い真面目なソフィの口からちゃんとした意見が出た事に少し驚きつつも、ソフィの意見通りだと己の浅はかな質問を恥じる結果となってしまった為に顔が赤くなるのを俺は自覚してしまう。


「私達鴉隊からはテレサとティナを出そうと思う。意見がある者はいるか?」


 ソフィの意見は間違ってないと思う。

 元々1番隊に所属していた二人なのだから対人戦もこなせるだろう。ましてや捕獲するなら相手を無効化出来るスキルを持っていた方が有利だろう……しかし俺の中に今回の任務に付きたいと思う感情もある。

 試すというと不謹慎だが手に入れた力を使う良い機会だと考えた俺はソフィに進言する。


「俺も任務に行きたいです! 行かせてください!」


 俺の言葉を聞いたソフィやテレサが驚いた顔をしている。

 それはそうだろう……スキルを持って無い俺が任務に同行したいと言えば誰だって驚く。

 ましてや転移者の可能性がある集団の捕獲とくれば足手まといになるのは目に見えている。

 だが俺には『輝星憧憬』がある。


「ハル君……君は言ってしまってはなんだがスキルを持って無いだろう? 今回は大人しくしていてくれないかな?」


「ハルは今回お留守番お願いね」


 やはりソフィとテレサから反対の声が上がる。

 2人から反対の声が上がるのは分かっていたが、ここで俺の力を見せれば意見を変えてくれるはず……。

 俺はシュードスキルを解放する事にする。


「シュードスキル解放」


 俺の身体はスキル解放に伴い蒼白いオーラに包まれる。

 俺の姿を見たソフィやテレサだけではなく鴉隊隊員全員が驚いた顔をしている。


「俺だって戦えます。お願します!!」


 俺はソフィに向かって頭を下げて懇願する。

 一向に返事が返ってこないが、俺は返事が返ってくるまで頭を下げ続けるつもりだ。

 何分くらい頭を下げただろうか? いや……何十秒か?


「はぁ……ティナには悪いが今回はテレサとハルに任務に当たってもらう。皆いいな?」


 俺の懇願がソフィに届いたのか了承が下りる。


「では。二人はエレナ隊長の所に向かってくれ」


 頭を上げソフィに目線を向けるとソフィは少し悲しげで何か言いたそうな表情をしながら俺を見ていた。

 何となく言いたい事は分かる。

 俺が己に力が無く、助けを求めていた女の子を助ける事が出来ずに泣いていた姿を見ていたのだから俺の力について聞きたいのだろう。

 だけど俺はソフィに話す気には何故かなれなかった。

 心の内を曝け出した後だから余計に力を求めた事についてソフィに話す事は無いだろう。

 今は完全に心の整理が付いている訳じゃないし、ソフィの少し悲しげな表情が俺の心のささくれた部分を刺激してくるのを耐えている状態だと思うから話せないのかな……。

 俺は執務室を出て行く皆の後を追い執務室から退出する。

 隣には俺に少し視線を送り何か言いたそうにして言い出せない雰囲気を纏ったテレサがいる。


「それじゃ、エレナ隊長の所に行きますか」


 俺が3番隊執務室に足を向けるとテレサは無言のまま俺の隣に付いてくる。

 2人無言のまま3番隊執務室に向け足を運ぶ。

今回から伏線回収作業開始です!

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