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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第二章 鴉隊と勉強編
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第12話 与えられし選択肢

 俺は森の木陰でソフィに怪我の手当てを受け、動くのに支障が無いのを確認して埋葬の為にイスティ達が今も倒れている集落に戻る。

 何度周りを捜索しても生存者……危機から逃れた人の痕跡を発見する事は出来なかった。

 この集落の人達は全員が盗賊に殺されてしまった現実を無理矢理突き付けられた。

 突き付けられた現実を直視出来ない俺は何度も、何度も胃の物が空になっても戻してしまった。

 そんな俺を心配したソフィは、俺に埋葬をさせない為何体ものゴーレムを呼び出し倒れている人達をスキルで掘り起こした穴に埋めている。

 俺は何も言わない無機質なゴーレム達に運ばれ穴に埋められていく人達を思考が働かない頭のまま眺めていた。

 ゴーレムの一体が幼い女の子の亡き骸を持ち上げようとしている――思考が働いていない頭でもその亡き骸(・・・・・)がイスティだと理解できる。

 俺は慌ててゴーレムに近寄り己の腕で(・・・・)イスティを持ち上げる。

 イスティと俺の間にはモンスターに襲われている所を助けだしてあげたって縁しかないけれど、それでも最後の最後まで俺に助けを求めたイスティを……助ける事すら出来ない俺だけど! ……俺が! 俺の手で埋葬してあげたい。

 止めどなく頬を伝う涙、美貴さんの言った通りだ。

 どうしようもない時、遣る瀬無い時、悲しみの前では自然とこぼれてしまう。

 冷たくなったイスティを穴の一つに納め、土を被せていく。


「ごめんな。……ごめんなイスティ」


 完全に埋葬を終えた俺は、その場で崩れ落ちる。

 あの時(・・・)盗賊達を一網打尽に出来ていたら? 見ているだけではなく動く事が出来ていれば?

 伸ばされた手を掴む事が出来ていたら違う結果になっていたのだろうか?


 何が“ココ”まで来ただ!! 女の子一人守れない俺が! 成長した……努力を積み重ねた?

 努力はいつか報われる……何の努力をしたよ? 皆の役に立てる(・・・・・・・)様にと頑張った――違う! 今になって思い知らされる。

 俺がした努力は、何も無い俺が最低限周りの人から認めてもらえるように表面上を取り繕う様な姑息な努力だ!!

 心の片隅でスキルも無い、皆の役に立てる知識も無い俺は周りから必要とされていないんじゃないかって恐怖していた。

 皆から最低限でもいい、必要な(・・・)人間って思って貰える信頼が欲しくて言われるがままに表面を取り繕う様にやってきた。

 自分の考えの浅ましさ、卑しさに負の感情が胸で渦巻く。

 その結果がコレだ!! 俺は後悔の念に駆られ地面を殴りつける。

 何度も、何度も。

 血が出ようが構わずに殴り続けていたら、後ろから急に抱き付かれる。


「血が出てる……そんな事しても死んだ人は蘇らないよハル君……」


 ソフィは俺に優しく声を掛けてくる。


「なぁ、ソフィ……。こっちに来た転移者、墜ち子って地球に帰れないんだよな……」


「…………」


 いきなりの俺の質問にソフィは黙る。

 俺を抱きしめる腕に力が入った事で答えは分かった。


「――薄々気づいていたんだ、地球に帰れないって。……軍所属や最低限の衣食住。ましてや美貴さんや玲ちゃん、墜ち子の方が今も尚エルドランドに居るって現実。俺は考えないようにしてたんだ帰れない可能性を」


 俺は抱きしめてくれるソフィの腕を震える手で掴みながら心の中を曝け出していく。


「帰れないから……周りから必要の無い人間と思われたくなくて、柄にもなく頑張ったけど。俺の勘違いした努力の結果は女の子一人を守る事すら出来ない無駄な物だった……。帰れない俺はエルドランドで生きてくしかないよな? この現実を受け入れるしかないよな! ……この世界で! この現実を!! なにも出来ない俺自身を!!」


 もう戻れない平穏な日常。

 エレナさんは俺の事を思ってスカウトする際に長々とエルドランドについて教えてくれた。

 生きてくために、この世界の勉強をさてくれていたんだ。

 最低限の知識を与える為、冒険者と行動を共にさせた……。




 なにも出来ない自分を、この世界を俺は受け入れるしかない。

 知らず知らずのうちに俺は嗚咽を上げながら泣いていた。


「ハル君は疲れているんだ……。今日は、ゆっくり休みなよ……」


 地面が盛り上がって俺を抱きしめているソフィごと手の平に乗せる様に巨大なゴーレムがゆっくり出現して、俺はソフィに抱きしめられながら王都に帰還した。





 王都に、兵舎に着くなり俺は自分の部屋に籠る。

 薄暗い部屋の中、ベットに腰掛け虚空を見る様に視線を彷徨わせる。

 なるべく頭を空にしようとしても不意に、俺に腕を伸ばすイスティの姿がフラッシュバックする。

 あの時何々をしたら、何々をしていればと、もしも(if)の考えが頭に浮かび頭の中をグルグル思考が回る。

 けれど現実は違うんだよと冷たく諭す自分がいる。

 “何も無い”俺はイスティを助け出す事は出来てないんだよ、と。

 俺に力が……スキルが有ったら! 皆を守れるような知識や力が有ったら! なんで俺は墜ち子としてエルドランドに来たんだろう……。


「俺にもスキルがあったなら……」


 持たざる者の独り言が、部屋に静かに響く。


「力が欲しいのなら、力を与えてあげようか?」


 俺の独り言に答えるように言葉が返ってくる。

 部屋には俺しか居ないはずなのに、いきなり声が聞こえた為に俺は慌てて周りを見渡す。

 声の主は、俺の部屋の扉に背を預ける様に立っていた。

 暗闇に浮かぶような白い肌に、表面に張り付けた様な笑顔をした白髪を長く伸ばした優男だった。

 優男は軍服や兵士服では無く白衣を着込んでいるが、ソフィと比べ物にならないくらい学者っぽい雰囲気を纏っている。


「誰ですか? 無断で人の部屋に入らないでください!」


 俺は警戒心を露わにして男に言葉を発する。


「これは失礼。ノックを何回がしたが返事が無かったので勝手に入室させてもらった。……あぁ、自己紹介がまだだったね。私はアスモール。ビックオ(・・・・)・アスモールだ。初めまして墜ち子の西尾君」


 俺は優男の自己紹介を聞き驚いてしまった。

 前テレサやシェリーさんとロイさんの話に出てきた一番神に近い男!

 なぜビックオ氏が、ここにいる?


「いやいや、西尾晴武君と交渉の為に訪れてみれば……成る程ねぇ」


「何が成る程なんですか?」


 少しビックオ氏の言い方が癇に障って怒りが込み上げてくる。


「癇に障ったのなら謝るよ。それでも君は今、私でも分かってしまうような苦悩に直面してるんじゃないのかい?」


 ビックオ氏は扉から背を離し、少し演技が入った仕草で両腕を拡げながらベットに座る俺の元まで歩いてくる。


「スキルがあれば守れたのに(・・・・・)! スキルさえあれば失わずに済んだのに(・・・・・・・・・)。そう考えているんだろう?」


 まるで俺の心を見透かすように、嘘くさい笑顔を表面に張り付けた顔を俺に近づけてくる。


「私はね。君と交渉をしたくて会いに来たんだが、これなら話は早い。私に君を調べさせてほしいんだ……対価として君に()を与えてあげよう」


 まるで悪魔の誘惑みたいに口元を動かす。


「俺を調べる? 俺の何を調べるんですか?」


 俺はビックオ氏から目線を外さず聞き返す。

 俺に近づいて来た為か光の加減かビックオ氏の顔半分が暗闇に包まれ見えないが、口元だけはハッキリ見える、口角を上げた口元だけは。


「私は今、墜ち子について調べているんだが、君の同僚の大高 美貴や橋本 玲には尽く断られてしまってね。西尾君に交渉しに来たのさ」


「墜ち子について……」


「そう! 墜ち子について私は“ある仮説”に辿り着いた! 墜ち子とは……一種の帰還者だとね。言い換えるならば『魂の帰還者』だと!」


 魂の帰還者? 帰還ってことは元のとこに戻るって事だよな?


「考えても御覧よ。ひょんな事からエルドランドに来る……おかしな話じゃないか! こっちの世界に来るのに、何らかの要因で世界の境界線を渡る? パラレルワールドは無数に存在し隣接しているのに、なぜ狙った様に境界線を越える際にエルドランドに辿り着ける? それは墜ち子は“この世界”を知っていて無意識の内に境界線を越える際に世界を選択しているんじゃないかと私は思うのだが、どうだろう西尾君」


 俺は口早に捲し立てられた言葉を理解しようと必死に頭の中で咀嚼する。


「知っている世界だから辿り着ける?」


「そう! 知っているから辿り着く事が出来るんじゃないだろうか? 墜ち子も転生者の可能性があるんだよ。ただし私達とは逆に、こちらから地球に転生した可能性が! 境界線を渡る際、記憶を……魂に刻まれた記憶を目印にエルドランドに帰ってくる! まさに『魂の帰還者』といえよう!!」


 俺達、墜ち子も転生者の可能性がある……魂の帰還者だって?


「それをどうやって説明するんですか?」


 俺は疑問をそのままビックオ氏に投げ掛ける。


「その為に色々調べたいんだよ君を。実験に付き合ってもらう対価として君には力を与えよう。私のスキルの粋を集めた技術で君に力を――」


 なんて魅力的な提案なんだろう。

 俺も自分が、なぜエルドランドに来れたのか知りたかった。だが、それよりも今は目の前に差し出されている“力”の方が俺の心を誘惑してくる。


「俺も……輝けない星から小説の主人公達みたいに輝ける星になれる?」


 俺は譫言の様に呟いてしまう。

 今日感じた本当の遣る瀬無さ、憤り、悔しさ、後悔……力が無くどうする事も出来ない俺から変われる?


「フフッ、フハハハハハ! そうだ君は輝く星になれるんだ!! さぁ、この手を取りたまえ。この手を取れば君に力を与えてあげよう」


 暗闇に浮かぶ口元が歪に曲がって俺に嗤い掛けてくる。

 俺の目の前には闇に浮かぶ口と差し延ばされた手……もう俺に、その手を取らない選択肢は存在しない。

 力が欲しい!

 何も無い俺にも力が欲しい!!

 現状を変えられる、皆から必要とされる(・・・・・・)力が欲しい!!

 俺は差し出されているビックオ氏の手を取る。


「よくぞ決断した。君に力を与える事を私は創造神エルドに誓う。さぁ、私の研究室に向かおう晴武」


 俺は暗い廊下をビックオ氏の後ろに付いていく。




 あぁ、俺は変われるんだ……。

 輝けない星(・・・・・)から輝ける星(・・・・)に俺は為れるんだ。


 

 ようやくですが、少しずつですがフラグの回収作業が出来てきました。

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