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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第二章 鴉隊と勉強編
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第11話 土塊の魔女

 

 俺は現実を受け入れる事が出来ないまま目線だけを倒れたままのイスティから離せずにいた。

 まるで糸の切れたマリオネットみたいにピクリとも動く気配を感じさせない……。


 だが今も尚、生気を感じさせない光無き虚ろな瞳は俺に助けを求めているかのように向けられている。

 イスティは俺に助けを求めていた……盗賊達に家族を集落の人達を惨殺され自分も盗賊達の慰み物になった後で殺されるかもしれない恐怖の中で俺を見つけたのかもしれない。

 必死に叫んでた……俺に向かって“助けて”と。

 俺はただ茫然と見てる事しかできなかった……俺の頭の中に先程の場面が何回も何回も繰り返し流れる。




 “助けてあげたかった”




 胸に、頭の中に荒れ狂うように後悔の念が渦巻く。

 心臓が何かに鷲掴みされたように痛む。

 苦しい、痛い……荒くなる息で何とか呼吸を繰り返し、視界が狭くなる中で俺はイスティから無理矢理目線を外してイスティに凶刃を振ったティーハータを睨みつける。


「ひゃはっ! し、静かになった!」


 血が付いたボロボロのショートソードを片手に握り、薄ら笑いを浮かべイスティを見下ろすティーハータ。

 このクソ野郎が!! 人を殺して笑っているなんて! 俺は頭に血が上りティーハータを殴り殺してやりたい衝動に駆られて飛び掛かろうとした。


「かひゅ!!」


 だが俺が動く前にティーハータは首から大量の血を吹き出しながら地面に倒れていく。

 倒れたティーハータは首から血を吹き出しながら数秒に亘り身体を痙攣させていたが、すぐに動かなくなった。

 何が起こったのか分からない為、逆に頭に上った血が下がり俺は少し冷静になる。


「誰が殺せと言ったよ? 馬鹿は死なないと直らないのかね? あぁ、もう死んでるから関係ないかティーハータちゃん」


 倒れたティーハータを片足で踏みつけ血の付いたナイフを握りしめたユージンが冷たさを伴った声色でティーハータを見下ろしながら言葉を吐いている。


「勿体ない事しやがってよ~。はぁ、良い金蔓になりそうだったのによ。……ヤマチィ! てめぇはしくじるな、ちゃんと成果を出せ! 俺の部下に無能はいらねぇからよ!」


 気付かなかった……いや、気付けなかった! 意図も容易くティーハータを殺すユージンの動きが。

 コイツはヤバイ! 頭から完全に血が下り冷静になった俺の身体に冷や汗がドッと吹き出す。

 今度は冷静になった頭に警鐘がなっている気がする……死にたくなかったら逃げろと!

 俺はユージンがヤマチィに檄を飛ばす中、俺を囲っている男達を押しのけ何とか逃げ出す。


 死にたくない!


 死にたくない!


 俺は惨めにも生に縋る為、只々逃げる事を考えている。

 先程のイスティやティーハータの倒れゆく姿が自分に重なり恐怖を感じている。

 情けない! 何が助けてあげたかっただ! 今ですら自分の命を最優先にして逃げ出しているじゃないか!

 俺は息も途切れ途切れに、ひたすら森の出口に向けて走り続ける。

 恐怖に駆られ焦る気持ちのまま走りながら念話を試みる。

 ここはフィリアロックから大分離れている為、念話がギリギリ届くかどうかの位置になる。


「誰か! 誰か繋がれ!」


 苦しい息を繰り返しながらエレナさん、テレサ、シェリーさん、ロイさんと次々念話を試みるが誰にも繋がらない!

 今度はソフィに念話を飛ばす。

 繋がれ! 繋がれ! 頭の中で必死に祈る。

 俺の祈りが通じたのか頭の中で何かに繋がる感じがした。


『はいは~い! どうしたよハル君?』


 焦る気持ちのままに俺は念話をする。


『助けてください! 今盗賊に襲われて――』


 念話が繋がって安心した瞬間、左太腿に激痛が走り足が縺れ勢いよく地面を転がる。 

 走りながら念話を試みていた為、俺は背後に注意を向けてなかった。

 勢いを殺せず地面を転がり土塗れになった身体を起こし慌てて後ろに振り返ると、ナイフについてる血を払っているユージンがいた。

 “いつの間に追いつかれた?”

 俺は考えを巡らせながら痛みを発する太腿を確認すると刃物による裂傷で血が出ている。

 左手で傷口を押さえつけながら尻餅をついている状態から起き上がろうとしたらユージンは俺の右手を思いっ切り踏みつけてきた。


「がっ!!」


 俺は右手に走る激痛に顔を顰める。


「逃げれると思った? 逃がすわけないじゃんよ俺達。応援呼ばれたら堪ったもんじゃないしな!」


 何度も右手を踏みにじられ、頭の中でソフィに繋がっていた感覚が消える。

 ユージンが足を退けた俺の右手は念話用の指環諸共、歪に曲がっている。


「これで念話出来ないだろう? さて、剥ぐモン剥いで撤退しますかね~」


 ユージンが冷たい目線を俺に投げかけていると、続々とユージンの手下達が追い付いてきて俺を再度囲んでくる。

 これでまた逃げ道を塞がれたと危機感に駆られる俺。


「はぁはぁ。お頭、速すぎですよ! 追いつくのに苦労しましたよ!」


 一番最後に現れたヤマチィがユージンの元に近づき息を荒げながら声を掛けている。


「お前達が遅いんだよ。獲物逃がしてどうするじゃんよ? はいはい! さっさと頂く物を頂いて撤退すんぞお前ら! 今ここでコイツを殺せば次の街に移動の時間が稼げる。ここで逃がすとスグに冒険者達が俺達を追っかけてくんぞ!」


 またも先程と同じ展開に持ち込まれたが、今度はより濃い危機感に身体が震える。

 先程は()に鈍感だった。鈍感と言うか意識(・・)していなかったのか……こうも容易く人が死んでいく現状を俺は今までの人生で体験したことが無い。

 幸せな環境に、生き死に関わる兇悪な戦いに身を置く事無く生きてきた人生。

 無縁だった世界、認識の甘さ、ここは俺が生きてきた場所では無い。今さながら己の今いる世界(・・・・・)について無理矢理にも認識させられている。

 今もバトルアックスを高々と持ち上げ近づいて来るヤマチィに()を無理矢理連想させられている俺が居る。

 あぁ、ここで俺は死ぬのか……ゆっくり瞼を閉じ、俺に振り下ろされるバトルアックスを受け入れる様に身体の力を抜く。

 死神の手が肩にかかっている今、俺は死がくる瞬間を待ち続けるが一向に“その瞬間”は来ない。

 俺は諦めていた現実(・・)を見る為、もう一度瞼を持ち上げる。

 開かれた眼が捉えたのは、無数の腕(・・・・)……土で出来ているだろう無機質な腕が地面から生えている。

 その無数の腕がユージンやヤマチィ、手下達を羽交い絞めにしている。

 何が起きている?俺の頭はパニック気味にフル回転して現状を確認をしている。


「くそっ! なんだこれはよぉ!!」


「なんすかコレ(・・)は!!」


 ユージン達もパニックになっている。

 いきなり地面から腕が生え自分達を羽交い絞めにしたら誰だってパニックになるだろう。

 俺も含めて全員がパニック状態になっている場に声が響き渡る。


コレ(・・)とは失礼な言い方だな。私の可愛い子供たちに』


 俺の鼓膜に届いた声は女性のものだった。

 女性っていうかソフィの声だった。

 ソフィの声を皮切りに地面から生えている腕が段々と盛り上がって、肩、頭、身体と全体像を顕わにしていく。

 視界を埋め尽くす様に土の身体を持った人……人型(・・)のゴーレムが現れる。

 そのゴーレム達は、まるで命令を待つかのように盗賊達を羽交い絞めにしたまま動かずにいる。

 俺はゴーレムに羽交い絞めにされていないので、キョロキョロと周りに視線を彷徨わせ声の主を探す。

 声の主、ソフィの姿はどこにも見えず俺は再度逃げ出すべく尻餅をついている状態から立ち上がった時、後ろから地鳴りが聞こえてくる。

 俺は慌てて地鳴りの元を確認する為後ろに振り返ると、ゆっくりながら巨大な何かが地面から盛り上がっていくのが見える。

 全体像が顕わになると、その正体が分かる。

 それはあまりにも巨大なゴーレムだった……盗賊達を羽交い絞めにしているゴーレムが可愛く見えるほどのデカさのゴーレム。

 全長は10mを有に超えるだろう巨大ゴーレム。その肩に3番隊副隊長、鴉隊取りまとめ役ソルフィナ・ザワードが座っていた。

 俺と目線が合うと笑顔で手を振ってくるソフィ。

 一頻り手を振り終えるとゴーレムの肩から地面に飛び降り、綺麗に着地を決めた脚で盗賊達全員の顔を見渡せる位置まで移動し両手を腰に当てる。


「おい、お前達! 私の名を言ってみろ~!」


 今も尚、羽交い絞めにされているユージン達盗賊は、皆が皆現状を理解できてないような顔をしている。


「何言ってんだコイツ、手前なんざ知らねえよ!! そんな事より、このゴーレム操ってんのお前だろ! さっさと俺達を解放しやがれ!!」


 いきなりの事でユージン達も訳が分からないとソフィの言葉を一蹴する。


「そうか。なら冥土の土産に私の名を教えよう! 我が名はソルフィナ・ザワード! 貴様たちに引導を渡す者の名だ、心に刻むがいい!!」


 ソフィの声高らかの宣言を聞いた盗賊達は顔を一様に青ざめている。

 青ざめる盗賊の中、ヤマチィがユージンに声を掛ける。


「お、お頭! コイツ、土塊の魔女(・・・・・)ですぜ!!」


「土塊の魔女って言やぁ、創造神エルドが作った大地、エルドの大地(エルドランド)の精霊に愛されし大地の精霊達の愛を一身に受ける大地の寵児!! 土系統スキルを全て網羅しているって化物か!!」


 ユージン達が騒ぎ立てる中、俺だけは別世界を覗き見ている感覚に襲われる。

 俺の知らない世界が、知らないソフィがいる。


「知ってんじゃん私の事。まぁ、いいか……お前ら全員圧殺な? 私の部下に手を出して楽に死ねると思うなよ! 大地に抱かれて眠れ!! 大地の棺桶(ランドコフィン)!」


 ソフィの掛け声と共に轟音を伴いながら大地が裂け盗賊達を丸呑みにしていく。


「うわぁ!!」


「ひぇええええ!!」


「た、助けてくれ!!」


 盗賊達の叫び声も虚しく、あっという間に抵抗らしい抵抗も出来ずに大地に呑みこまれていく姿に俺は現実味を感じられず、その場で微動だに出来ずにいた。

 盗賊達を丸呑みにした大地は再度轟音を伴いながら元に戻る。


「圧殺終了!! ……ハル君大丈夫だった?」


 ……なんだコレ? なんでこんなにも命が軽いんだ? この世界は命が軽すぎるだろう!!

 俺の視線に気づいたのか、いつもの様(・・・・・)に笑顔を俺に向けてくるソフィに今までにない恐怖を抱く。


 俺は現実を受け入れる事が出来ず、痛む太腿と右手の痛み以外のモノで顔を顰めるしか出来なかった。

 気付いている方もいらっしゃるかもしれませんが、タイトルに!が付かない話数はシリアスなお話になってます。

 そして案外テーピン盗賊の活躍の場は少なかった。まぁ、やられ役ですしね……。

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