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異世界人にとって俺のレゾンデートルは?  作者: 遊司籠
第二章 鴉隊と勉強編
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第10話 盗賊と惨劇

 木漏れ日を全身に浴びながら俺は森を歩いてる。

 時折吹き抜けていく風が気持ちいい。

 今俺が居るのはフィリアロック周辺の森、周辺と言っても王都フィリアロックから大分離れているけど。

 隊長達に武器とお金の相談をしてから早一ヶ月が経つ。

 毎日毎日朝から晩まで勉強の日々……今日は3回目のソロでの毒消し草の採取クエストに来ている。

 俺がソロで行動を許されるまで地獄の日々が続いた。

 薬草採取にシェリーさんとロイさんと一緒に出掛ければ、俺が採取した薬草の9割方は雑草で二人から呆れられ、モンスター戦闘訓練では動きの無駄を長々と二人からダメ出しを喰らう日々。

 まともに薬草等の採取が1人で出来る様になり、1対多数のモンスター戦闘を一人でこなせるようになり初めてソロでのクエスト受注が二人より許可が下りた。

 因みにだが、スライムなら1対4匹まで、ゴブリンなら1対3匹まで相手取る事が今の俺には出来る! まぁ、普通の冒険者なら片手でこなせる戦闘らしいが……。

 それでもソロでオークを倒した際はシェリーさんとロイさんから称賛の声を頂いているんだぜ! これは並の冒険者でも中々難しいと2人は言っていた。

 強いて言うならエレナさんが用意してくれていた手甲の御蔭でもあるのだが、それは言わないが華って事で。

 俺も少しずつだが色々学んで成長して来ている気がする。

 現状出来る事は少ないが、一ヶ月前の俺と比べれば進歩している……成長していると言っても過言ではない。

 まだスキルを覚えてはいないが出来る事は増えてきている。

 これなら少し、そう少しでも皆の役に立てる日が来るのが近い気がする。

 一人遣る瀬無さに泣いた夜から、俺は小さいながら努力を積み重ねて“ココ”まで来た。

 美貴さんが言っていたように、このまま努力すれば“今頑張っている”努力は何時か報われる日がくるはず……。

 そうそう。自慢ではないが前回、2回目のソロでの毒消し草採取クエストの際にスライム一匹とゴブリン一匹に襲われている少女を偶然助けた事もある。

 なんでもこの森に住む集落の女の子で、薬草を摘みに森奥深くまで迷い込んでしまってモンスターに襲われそうになったところを、俺が颯爽と助け出し集落まで護衛してあげたんだ。

 女の子を集落まで送った際に女の子と、その両親、またま集落の皆から感謝を述べられた時は焦ったが、人助けをしたんだ……感謝を述べられるのは悪い気はしなかった。

 噂をすればなんとやら。

 助けた女の子、確かイスティって名前だったかな? イスティが森の中で一人毒消し草採取の為森奥深く足を延ばす俺を森の中で見つけ声を掛けてくる。

 イスティも薬草採取の為に森の中を歩いていたんだろう。


「お兄ちゃ~ん! 今日も毒消し草採取~?」

 

 俺は元気よく声を掛けてくるイスティに手を振りながら声を掛ける。


「おう! 今から採取だ! 前にも言ったが森はモンスターが出て危険なんだ、そうそう一人で出歩くなよイスティ」


「知ってるよ! もう薬草は摘んだから私は村には帰るよ。お兄ちゃんも気を付けてね~!」


 森の中で出会ったイスティに注意を呼びかけると、俺に同じく注意を投げかけてイスティは薬草の採取は終わっている事と、村に帰る旨を俺に伝えてくる。

 俺は帰り道には気を付けつるようにだけ注意をイスティにして、彼女が立ち去るのを見送った後、再度毒消し草採取の為に目的地まで足を進める。

 俺は目的地に辿り着き、さっさと毒消し草を採取し王都に戻る為に来た道を戻る。

 今回は間違いなく採取したものは全部毒消し草だと思いたい……まだ毒消し草に至っては時々毒消し草では無く毒草だったりする。

 初めて毒消し草採取に来た時に持ち帰った毒消し草が全部毒草だったという間抜けをやらかしたもんだ。

 今回は全部毒消し草だと心の中で確信しながら森を歩いていると、変な匂いが鼻腔を擽る。

 変な匂いというか……生臭い鉄の匂い。

 俺自身余り縁が無いが……これは血の匂いじゃないだろうか? 頭の中で警鐘が鳴り響ている感じがする。

 周りを見渡しても動物、またはモンスターの死骸は見受けられない。

 ただし濃厚な生臭さが、大量の血が流れたであろう“匂い”が森に漂ってくる。

 俺はこの異常な状況に逃げ出せばよかったんだが、足が勝手に匂いの元に向かって進みだす。

 ただ確実に匂いの発生源に向けて足を進めるにつれて嫌な予感が広がっていく。

 だって俺が歩を進める先にはイスティが住む集落がある方向だったからだ……。

 不安は段々と大きくなり俺は歩いていてはずなのに、気が付けば森の中を走っていた。

 息も途切れ途切れ匂いの元に辿り着く……俺の頭の中で思い浮かべた一番最悪の予想は的中、集落の入口から家屋まで血を流して倒れ伏せる人達。

 俺は一番近くの、集落の入口に倒れている男性の元の駆け寄る。

 駄目だ……倒れている男性を視界に入れた途端に吐き気が込み上げてきてしまい、その場で吐いてしまった。

 地球に居た時から、ましてやエルドランドに来てからも惨殺死体なんて見た事が無かった……。

 たくさんの切り傷に虚ろなまでの男性の瞳……ましてや苦痛に歪む顔なんて俺の生きてきた人生で初めて見る。

 俺は胃の中のものを全部吐き出して少し気分が楽になった後、ゆっくり周りを見渡す。

 俺の視界に映るのは刃物で切り殺されたであろう人達。

 皆苦痛の表情を浮かべ死んでいる。

 ここで何があった? なんで視界に映る人達は苦痛の表情で死んでいるんだ!

 再度襲ってくる吐き気を我慢しながら周り見渡していて、ある事に気付く。

 生き残りはいるのか? 俺は咄嗟に叫ぶ!


「誰か! 生きている人はいませんか!! ……誰か!!」


 叫んでから俺が取った行動は浅はかだったと気付かされる。

 俺の叫び声を聞きつけたのか、いつの間にか俺の周りを取り囲む様に男達が立っていた。

 男達は麻で出来ているだろう薄汚れた服に皆が皆無精髭を生やし、手にはボロボロのショートソードを握っている。


「おいおい、生き残りがいるじゃんよ? 誰だよ見逃したバカは?」


 俺を囲んでいる男達を割る様に俺に一人の男が近づいて来る、見た目は小さく身長160cmに満たないだろう短身で小柄な男だった。

 頭には汚れなのか元からの色なのか分からない黒いバンダナに顎周りに無精髭、両手にナイフを握りしめている。


「おいヤマチィ! 見廻り番は誰だ!」


 小柄な男が叫ぶと、更にもう一人の男が俺を囲む男達を割る様に姿を現す。


「へい! ユージンのお頭、今回はティーハータのバカです!」


 ユージンと呼ばれた頭に比べるとヤマチィという男はデカかった。

 2mに届きそうな身長と恰幅の良い身体に片手にバトルアックスを握りしめて、のそのそ歩いている。

 くそっ、今俺は何人の男に囲まれている? この人数相手に戦う事を選択するのは馬鹿のする事……何とか逃げなければ(・・・・・・)

 しかし胃の中をぶちまけたせいで身体に上手い事力が入らない……。


「おい、ティーハータ!! こっちこい!」


 ユージンが俺を囲んでる男達から一人呼び寄せる。


「は、はい! お、お頭!!」


 呼ばれた男、ティーハータは声の強弱を上手い事付けることが出来ずに上擦った様な声で返事を返している。


「おい、ティーハータちゃんよ? 何回言ったら分かんだよ? 俺も限界って言葉があるんだからさ……わかんだろ? もう一回村に生き残りいねぇか見直して来い!」


「ひぇ、へい!!」


 ティーハータと呼ばれる男はユージンの一喝を受け、慌てて集落の中に走っていく。

 走っていくティーハータを見送ったユージンが俺の方を振り返り身体中を舐める様に目線を送ってくる。

 目線を俺の両腕のとこで止めて口角をいやらしく持ち上げる。


「おい、ヤマチィ! こいつの格好を見るとこによると鴉だよなぁ?」


「はい、お頭! 黒いツナギって言えば鴉隊でしょう!」


「こいつ、売れば高そうな手甲を着けてやがるぜ。……テーピン盗賊団の懐事情も最近では寒いよなぁ? ヤマチィ、殺してでもいいから剥げ」


「了解しやした!」


 俺はユージンとヤマチィの会話を聞きいた俺は、この集落の惨劇の正体に気付いた。

 こいつらは盗賊で、こいつ等にこの村は襲われたんだ。

 集落に住む人達を皆殺しにしてまで金品を強奪したいのか……人間の屑共!!

 俺は近づいて来るヤマチィを睨みつけ怒りで飛び出しそうになる身体を精一杯押し止める。

 今は怒りに任せて戦うんじゃ無く逃げて応援を呼ぶ事を考えろ!

 折角シェリーさんとロイさんの教えられた事を無駄にしない為にも……。

 ここでお亡くなりになった集落の人には申し訳ないが、一旦逃げて冒険者達を呼んで盗賊討伐をした後で埋葬するから許してくれ! 今はどう逃げるかだ!

 思考を巡らせながらも俺に襲い掛かってくるヤマチィから繰り出されるバトルアックスによる上段からの振り下ろし攻撃をギリギリだが躱し、続けざまに繰り出される振り上げの攻撃を右腕の手甲で防ぎながらヤマチィと距離を取り視界に何人かの男を収めながら対峙する。

 俺は攻撃をいなす(・・・)事は出来ないが、今は攻撃を防ぐ事には成功している。

 ヤマチィが振りの大きい攻撃を繰り出してくれている御蔭で俺でも耐え凌ぐ事は出来ているが、周りを囲まれている為に隙を突いて逃げ出す事が出来ずにいる。

 ここままじゃジリ貧になって追い込まれる……俺が焦りを浮かべていると今の状況で一番聞きたくなかった声が聞こえる。


「やめて! 離して!」


 俺やバトルアックスを振っていたヤマチィ、視界に入る男達にユージンまでも動きを止め声のする方に目線を向ける。

 最悪だ……先程は気が動転していて生き残りがいないか咄嗟に叫んでしまったが、本当(・・)に生き残りが居るってのは想定はしていない。

 これじゃ逃げてる(・・・・)場合じゃない! 助けなくては! ましてや小さい女の子……イスティが生き残っているなら!

 俺は視界にティーハータに腕を引っ張れながら無理矢理歩かされるイスティを捉える。


「離して! 離して! 離して!」


「う、うるせぇ! だ、黙って付いて来い!!」


 イスティは逃げる為必死に抵抗しているようだが相手が大人の為逃げ出す事が出来ずにいる。


「お、お頭! このガキ隠れてました!」


「おぉ? まだ小さいが女は大切にエスコートしろよティーハータ?」


 ティーハータの報告を受け先程より厭らしく口角を吊り上げ下衆な笑みを浮かべるユージンが視界に映る。

 生き残り、まだ小さいが女の子が生き残っていたんだ……この先何されるか分かったものではない。

 早く助けてあげなければ……どうすればいい? 考えろ! 考えろ!!

 焦る頭で思考を巡らせていると、俺の姿に気付いたイスティが騒ぎ出す。


「助けて! 助けて、お兄ちゃん!! 助けてーー!!」


「う、うるせぇーー!!」


 イスティが掴まれていない腕を俺の方に伸ばして助けを求めてくる。

 俺の腕に届くはずもないのに何かを掴むように必死に手を伸ばしているように見える。

 だが、イスティには見えていないのだろう……ティーハータが手にしてるボロボロのショートソードを振り上げている姿が。

 俺の目に映る光景は、まるでスローモーションの様にイスティの背に吸い込まれていく様に振り下ろされるショートソードを映していた。

 振り下ろされるショートソード、飛び散る鮮血、倒れゆくイスティ、俺の目には現実味が全然感じられない光景だった……。


「イスティ?」


 俺は倒れたイスティに喉がカラカラに乾いた時のような擦れてしまった声を掛ける。

 嘘だろ?

 嘘だよな?

 誰でもいいから嘘だと言ってくれ!!


「イスティーーーー!」


 倒れても尚俺に手を伸ばすイスティの姿が……


「お……兄ちゃ……ん。た……す――」


 声も弱々しく俺に助けを求めて伸ばされた手が地面に落ちるのを……俺はただ茫然と見てる事しかできなかった。

 第二章残り少なくなってきました。今回からシリアス展開突入です!

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