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ガダルカナル島の戦い

 1942年(昭和17年)6月 真珠湾攻撃に参加した航空母艦、「赤城」、「加賀」、「蒼龍」、「飛龍」はミッドウェー作戦で沈没する。不時着後に救助された艦載機搭乗員らの損失はともかくも、真珠湾攻撃に参加した6隻の航空母艦の生き残りは「翔鶴」、「瑞鶴」の2隻となり、日本海軍は空母機動部隊の力を大きく損なうことになってしまった。以後、日本海軍は水上機母艦の空母改装や、新造空母の建造など、空母機動艦隊の再建に力を注ぐことになる。空母「翔鶴」、「瑞鶴」はミッドウェー敗戦後の空母機動部隊の中心的存在になる。


 6月15日 瀬戸内海の柱島から駆逐艦3隻を伴って出航した空母「瑞鶴」は、大湊(青森)を経て北太平洋方面に進出する。艦隊は敵と交戦することもなく、空母「瑞鶴」は7月13日に呉に帰港している。

 この間に僚艦である空母「翔鶴」は呉のドックで、レーダーの装備やダメージコントロール(対損害処置)、三連装機銃の新設などを行っている。



 7月14日 九州の鹿屋基地。あいかわらず木村章吉ら航空兵が連日の猛訓練を重ねていた。ミッドウェー敗戦という事情があり、かつての「妾の子」と揶揄されていた頃と違うのだ。

「貴様らともお別れだな、新しい隊長の元でも頑張るんだぞ!」

 木村らの隊長は異動で他所の基地に移ることになる。航空機搭乗員では多くの士官が異動になる。珊瑚海での損失や異動によって、真珠湾以来の士官は数少なくなってしまった。

 木村らの下士官、兵は隊長に敬礼をする。

「ハッ! 『ミッドウェーを忘れるな 一、二航戦の仇をとる』の意気込みは忘れておりません!」

「ああ、頼もしいぞ。だが、今日から少し違うな。本日付けで五航戦改め、貴様らが一航戦だ」

 隊員らは笑ってうなずいた。

 ミッドウェーでの4空母沈没があり、空母「瑞鶴」は空母「翔鶴」、「瑞鳳」、と共に第一航空戦隊に編入された。



「本郷よ、今晩あたり抜け出さねえか?」

 木村は稀少な休憩時間に、同僚の本郷と寄宿舎を抜け出す相談をしている。

「な、何言ってるんですか?先輩。だめですよ」

「なんだぁ? あいかわらず堅いというか、マジメだな。巡検をごまかす方法なんかいくつも知ってらあな」

「そ、そうじゃなくて・・。5分でも、10分でも長く寝たい・・です。連日の訓練でフラフラに疲れちゃって」

「ああ? ヤワだな。俺ぁ、サヨリに久々に会いたいんだよ」

 サヨリという名を聞いて、本郷は首をかしげたが、いつか木村の操縦席に貼ってあった写真を思い出した。今のがたしかハルという女性で、珊瑚海以前に見たのがサヨリだろうか?

「サヨリって、あれですか? 操縦席に貼ってあった写真の女の子?」

 本郷は木村を見ると、遠くの方を見つめている。

「あ・・、あれだ! やっぱりサヨリだ、ちくしょう! 俺に会いに来たんだなぁ」

 本郷が同じ方向を見ると、若い女性が包みを持って歩いてくるのが見えた。確かに以前に写真で見た女性であった。

「お~い サヨ・・・」

 木村は立ち上がって大きく手を振った、が、その動きは止まってしまった。

 そのサヨリは若い士官に笑って包みを渡していた。その士官は新たに一航戦に赴任してきた航空士官であった。

「あ~・・・」

 木村はしばらく呆けた表情をしていた。自分の女と思っていたサヨリと若い士官の仲睦まじい姿を見ていたのだった。

 木村は椅子にドスンと腰を落として首をうなだれた。木村はしばらくサヨリとは会わなかった、それもあるがサヨリの方も木村には真剣ではなかったのだろう。同僚が戦死したときよりも重く落ち込んでいるバカな木村章吉であった。


「あ~・・、本郷・・くん?」

 長い沈黙のあとに、木村は隣の本郷につぶやいた。

「情けねえよな俺、お前でも軽蔑するだろ。でも、できたら今のは見なかったことに・・」

「え? なんのことですか?」

「あ、いや・・」

 木村は、本郷の笑った顔を見て、気まずくなった。木村は、本郷の優しい嘘に内心で頭を下げた。

「先輩、今晩は抜け出すんですか? 特別につきあいますよ」

 木村は、本郷の冗談ともつかない言葉に乾いた声で笑った。九州と呉の、二股かけた木村の汚れた失恋もキレイに流されていった心地であった。

「いいや、やっぱりしっかりと寝ようや! 寝るのも奉公!」



 1942年(昭和17年)8月7日。アメリカ軍海兵隊第1海兵師団の約1万の兵力が、ソロモン諸島ガダルカナル島に上陸した。上陸作戦には、空母「サラトガ」、「ワスプ」、「エンタープライズ」の3空母が援護に当たった。

 ガダルカナル島には日本軍の設営隊と海軍陸戦隊のあわせて600名ほどがいるのみで、同島はあっけなくアメリカ軍の手に落ちることになる。そして、島で建設中であった飛行場がアメリカ軍に奪われることになり、その飛行場の奪還にこだわる日本軍とアメリカ軍の間で半年にわたる消耗戦が始まることになる。


 8月8日 深夜。重巡洋艦「鳥海」、「青葉」、「衣笠」、「加古」、「古鷹」、軽巡洋艦「天龍」、「夕張」、駆逐艦「夕凪」の第八艦隊は、ガダルカナル島上陸作戦中の輸送船撃破のためにサボ島周辺に突入した。

 この攻撃はアメリカ軍の対応のまずさと、日本海軍の夜戦能力で重巡洋艦4隻、駆逐艦1隻を沈める戦果をあげた。代償として第八艦隊は重巡洋艦「加古」を失い、輸送船撃破という目的は達成できなかった。

 輸送船を撃破できなかったことで、ガダルカナル戦に影響を与えることができなかったこの海戦だが、日本海軍の大勝は過大な戦果と共に大本営発表された。この海戦は、「第一次ソロモン海戦」と名づけられことになる。

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