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珊瑚海決戦・後編

 日本海軍の攻撃隊が、アメリカ海軍の航空母艦「レキシントン」、「ヨークタウン」と大戦闘を繰り広げた前話とは、やや時間がさかのぼる。

 日本海軍の攻撃隊が母艦から発艦したのと時を同じくして、アメリカ海軍の航空母艦「レキシントン」、「ヨークタウン」からも攻撃隊が発艦している。TBDデバステーター雷撃機、SBDドーントレス急降下爆撃機、グラマン戦闘機(F4Fワイルドキャット)などの二艦合計で86機の大編隊である。


 午前8時30分、先行していたヨークタウンの攻撃隊39機はMO機動部隊を発見する。

 後続機を待つためにしばらく雲の中で旋廻していた攻撃隊だが、午後8時57分に攻撃を開始する。ドーントレス急降下爆撃機24機は5000mの上空から、デバステーター雷撃機9機は海面を這うように攻撃を開始する。そしてグラマン戦闘機6機はドーントレス急降下爆撃機を追うようについて護衛する。

 このときに空母「瑞鶴」はスコールの中に隠れている。スコールの中では航空機は敵味方ともに飛行が困難になるのだ。そして、空母「瑞鶴」からやや離れて航行している空母「翔鶴」にヨークタウン隊の攻撃が集中することになってしまった。


 ヨークタウン隊の急降下爆撃機に対して、翔鶴、瑞鶴の両艦から上がった零戦隊が迎え撃つ。第一波の急降下爆撃機7機の攻撃はしのいで命中弾無し。しかし、第二波の攻撃が問題であった。急降下爆撃機17機に対して零戦8機が迎撃するも、グラマン戦闘機6機が入ってきて混戦となった。

 零戦隊をふりきった急降下爆撃機は次々に450kg爆弾を投下していく。対空機銃がこれを迎え撃つのであるが、敵機は取り逃がしてしまう。

 第一弾が前部飛行甲板に命中、続いて第二弾が後部甲板に命中した。飛行甲板はめくれ、エレベーターは陥没して使用不能状態になる。一万リットルの航空用ガソリンに引火して火災が発生し、翔鶴は黒煙に包まれた。

 あわせるようにヨークタウン隊の雷撃機による攻撃が行われる。デバステーター雷撃機9機による攻撃があり、2機の零戦が迎撃にあたった。これらによる9本の雷撃を、翔鶴は全て回避した。


 午前9時40分。ヨークタウン隊の攻撃が終わると、レキシントン隊の攻撃が始まった。レキシントン隊は索敵の不備によりMO機動部隊の発見が遅れてしまったのだ。しかも、雲の中で半数が迷い帰還している。

 レキシントン隊21機の攻撃は、翔鶴の不意をつく形となり、急降下爆撃による攻撃の一発が艦橋後方の信号マスト付近に命中して、格納庫に火災が発生した。

 翔鶴を直衛していた零戦隊は空中戦において優勢に戦ったものの、爆撃そのものを防ぐには至らなかったのである。



 三つの450kg爆弾を命中させられた航空母艦「翔鶴」の艦上には黒煙白煙が渦巻いていた。各所で爆撃による負傷者のうめく声が聞こえた。翔鶴の艦上における戦死者・行方不明者は105名になる。翔鶴は中破ということで航行には支障はないが、飛行甲板がめくれあがり航空機の収容が不能になってしまった。つまり、空に上がっている翔鶴と瑞鶴の艦載機ともに瑞鶴に着艦しなければいけないということである。


 航空母艦「瑞鶴」はというと、敵機の攻撃を察してからスコールの中に隠れており、艦には全く損害は出ていない。そのために瑞鶴から旗艦信号が送れなくなり、重巡「妙高」、「羽黒」らも含めたMO機動部隊の陣形が乱れてしまった。瑞鶴が逃避しつづけていたようで印象が良くないが、翔鶴の周りにはスコールの雲が無かったのだった。



 敵機動部隊への攻撃に参加して、母艦に帰還してきた零戦操縦士の木村三等兵曹は、異常に気がついた。

 空母「瑞鶴」に『緊急着艦実施中』の信号が掲げている。緊急着艦とは着艦した艦載機を一機ずつエレベーターで格納庫に降ろすのではなく、飛行甲板前部にクラッシュ・バリケードという柵を立てて、一機ずつその柵の中に入れては次の機を着艦させる方法である。着艦の速度は上がるのだが、着艦する機がバリケードに突っ込むおそれがある。

 木村が不思議に思って旋廻しつつ甲板を見ると、着艦した機体を舷側から海に投棄しているのを見た。


「ああ、翔鶴が着艦不能になってるんだ。だからソッチの機も瑞鶴に降りてきてる。仕方ないが」

 着艦した木村が整備員から話を聞いて、事情をはじめて知った。MO機動部隊の受けた損害の大きさを知ったのだ。

「だから、こうして次々に機体を海に棄てにゃあ、瑞鶴の格納庫が満杯になるんだよ。貴様の機体も棄てにゃあいかんなぁ」

「ちょっと待ってくれ、翼にちょっと被弾しただけだろう。第二次攻撃だってあるだろうし・・!」

 木村は、愛機を海に棄てられそうになって整備員に抗議した。

「ああ、まだ使える翔鶴の零戦が別にあるから、そっちを使うことになるだろう」

 整備員は木村の抗議に首を振って、木村の愛機を海中投棄するために舷側に引きずっていく。

(すまん・・)

 木村は、真珠湾攻撃以来の愛機が海に落とされるのを見送った。


 MO機動部隊は戦力が整わず、第二次攻撃をすることはなかった。艦載機の海中投棄による損失も一因である。そして艦隊は、MO攻略作戦の中止命令を受けて北上した。アメリカ海軍の空母艦隊も、損害の大きさから珊瑚海から撤退した。

 珊瑚海海戦の勝敗は後世でも評価が分かれるところである。しかし、日米両国ともにこの海戦の戦果を”敵航空母艦2隻撃沈”と大々的に報じ、国民を沸かせたのであった。

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