珊瑚海決戦・前編
1942年(昭和17年)5月8日。珊瑚海において、昨日の先手を打った薄暮攻撃に失敗したMO機動部隊。昨日の戦いで主に艦上攻撃機に犠牲を出したが、航空母艦「翔鶴」、「瑞鶴」の艦載機の主力は健在である。彼らは、確実に、ほど近い海上に存在するアメリカ海軍の航空母艦「レキシントン」、「ヨークタウン」に対して決戦を挑むのであった。
午前6時22分、索敵にあたっていた機から発見電がある。
「敵空母見ユ 敵ハ空母二、戦艦二、重巡二、駆逐艦六」
第一次攻撃隊は、「翔鶴」、「瑞鶴」あわせて計69機。今回は、零戦18機がこれに含まれており、艦攻、艦爆の護衛にあたる。
午前7時15分、攻撃隊は敵空母を発見した位置に向けて発進していった。
そして、奇しくも同時刻、アメリカ艦隊からも攻撃隊が発進している。爆撃機46機、雷撃機21機、戦闘機15機、計82機の大編隊である。攻撃隊とすれ違うように、この大編隊は航空母艦「翔鶴」、「瑞鶴」を沈めるべく向かっていた。
午前9時05分、日本軍攻撃隊は海上に敵空母を含むアメリカ艦隊を発見した。「瑞鶴」の艦載機は「ヨークタウン」を攻撃、「翔鶴」の艦載機は「レキシントン」を狙うという暗黙の了解ができており、日本軍攻撃隊はそれぞれの敵空母に対して攻撃を開始した。
「翔鶴」の艦攻隊10機が、敵空母「レキシントン」に向かうと、背後からグラマン戦闘機が襲いかかる。だが、護衛に当たっていた「翔鶴」の零戦隊がグラマン戦闘機を次々に撃墜する。
艦攻隊の雷撃をかわすために空母「レキシントン」は左に大きく転舵する。巨体のせいもあり、空母「レキシントン」は2本の魚雷を受けた。
艦攻隊に連携するように「翔鶴」の艦爆隊が上空から空母「レキシントン」に襲いかかる。魚雷回避で手一杯であった空母「レキシントン」は、艦爆隊の投下した爆弾をまともに受けた。命中2発、至近弾5発。
空母「レキシントン」は魚雷を受けた損傷から浸水。除々に左舷に傾いていった。
一方「瑞鶴」の艦攻隊は、空母「ヨークタウン」に襲いかかる。これにアメリカ軍のグラマン戦闘機が取り付くが、「瑞鶴」の零戦隊によって一機、二機と撃墜されていく。
「瑞鶴」の艦攻隊は、グラマン戦闘機や対空砲火により隊長機が撃墜されるなどの犠牲を出す。しかし、果敢に空母「ヨークタウン」へと魚雷を放つ。計4発放った魚雷は、結果的には空母「ヨークタウン」に全て回避されてしまった。空母「ヨークタウン」は空母「レキシントン」と比べて排水量が小さく、舵の効きが早かったために魚雷が命中しなかったのであろうか。
続いて「瑞鶴」の艦爆隊が高高度から降下しつつ空母「ヨークタウン」へと爆撃を加える。戦艦2隻を含む規模のアメリカ艦隊の対空十時砲火をあびて、艦爆隊の機が撃墜されていく。対空砲火をかわした艦爆機から250kg爆弾が投下される。そのほとんどが海中に落ちたが、一発は空母「ヨークタウン」の飛行甲板に命中し、飛行甲板を貫通した。貫通して爆発した250kg爆弾により、空母「ヨークタウン」は火災が発生、損傷により機関部に損傷が発生するも、決死の応急措置により航行は可能となった。
木曽平吉の同年兵の木村章吉は、愛機の零戦を駆って激しい空中戦を戦い抜いた。零戦隊は、敵の艦上戦闘機グラマン(F4Fワイルドキャット)を圧倒して多数の敵機を撃墜したのだ。この戦闘による零戦の損害は、不時着1機のみである。
「やっぱり零戦は無敵じゃが、グラマンなんぞ目じゃないわぁ。そして、敵空母は1隻撃沈、もう1隻も撃沈確実ってところかの」
木村三等兵曹は、日本海軍の大勝利を確信して笑みを浮かべた。しかし、その頃母艦の「瑞鶴」がいるMO機動部隊が大変なことになっていることを彼は知らなかった。
この戦闘によりアメリカ海軍の航空母艦「レキシントン」は雷撃により漏れ出したガソリンに引火して大爆発を起こして消火不能となる。空母「レキシントン」はやむをえず、雷撃処分となり海に沈むことになった。
航空母艦「ヨークタウン」は、250kg爆弾1発命中の中破であった。のちに本格的な修理のために真珠湾に向かう。事実上の戦線離脱である。
日本軍攻撃隊の”戦闘”による損害は、戦闘機1不時着、艦爆機9機撃墜、艦攻機10機撃墜であった。しかし、MO機動部隊が受けた損害が原因で、この損害は拡大することになってしまう。