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「着艦ヨロシキヤ」

 航空母艦「翔鶴」の爆撃隊隊長は、敵航空母艦への攻撃作戦が未遂に終わったことにより、母艦に向けて帰還しているところだった。日没が近い時間になっての発進、そして零戦の護衛なし。元々が無謀な作戦であった。

 敵戦闘機の編隊に襲われて、狙われやすい艦上攻撃機の編隊に大きな損害が出てしまった。その攻撃機の編隊は、敵機の攻撃を避けるためにバラバラに散って、帰還していった。しかし、幸いというか爆撃機隊には損害は出ていない。

 そして、帰艦しつつある「翔鶴」、「瑞鶴」の爆撃機隊は、母艦と思しき艦影を見つけて着艦の準備を始めていた。



 「翔鶴」の爆撃隊隊長の機は、母艦「翔鶴」と思しき艦に向かって、『着艦ヨロシキヤ』と発光信号を打った。航空母艦の艦橋からは、「了解」と取れる信号があった。「瑞鶴」の爆撃隊隊長も後に続いて、母艦「瑞鶴」と思しき航空母艦に近づいていく。そのとき、彼は違和感を感じた。空母に両側に重巡が一隻づつ、これを重巡「妙高」と「羽黒」だと思っていたのだが、その向こう側に見える大きな艦影。大きさから見て、戦艦クラスである。彼ら爆撃隊が戻るべきMO機動部隊には戦艦はついて来ていない。その戦艦と思しき艦には、籠マストが付いていた。(実際には重巡洋艦の一隻を戦艦と誤認したらしい)


「・・まずい!! 籠マストはアメリカのフネだ。こいつらはアメリカ艦隊だ・・!」


 一方、「翔鶴」の爆撃隊隊長は、着艦すべき母艦に着艦灯がいていないことで自らの誤解に気付いた。隊長が機体を反転させたのとほぼ同時に、母艦「翔鶴」と誤解していた敵航空母艦から対空砲火が始まった。その航空母艦「レキシントン」でも、誤解に気付いて艦長が砲撃を命じたのだった。

 同じ頃、航空母艦「ヨークタウン」の艦橋でも、日本軍機の接近を味方機が着艦を求めていると誤解していた。その割には航空機の数が多いので、そのことには不思議を感じていたのだが。

 すると、見張員から報告が入った。「接近している機はグラマン戦闘機にあらず」と。「ヨークタウン」の艦長は、すぐさま怪しい航空機に対して砲撃を命じた。

 敵を味方を取り違えるという誤解のために、敵機動部隊に急接近していた爆撃機隊。彼らにアメリカ海軍の機動部隊の艦全てから対空砲火があびせられる。


「畜生!! 250kg爆弾を棄ててさえいなかったら・・!! 一発、敵空母の艦橋にお見舞いしてやったのに!」


 MO機動部隊の行動は全て裏目裏目に出ているようでもあった。一機の九九艦爆が対空砲火につかまり、火を吹いて海面に落ちていった。

 戦闘している両軍が、互いに敵味方を取り違えて、危うく着艦しかかったという出来事は、太平洋戦争海戦における珍事ともいえる。しかし、その戦場での誤解によっていらぬ犠牲が出てしまったのであるから、珍事と笑えない。


 約1時間後の午後6時、彼ら爆撃隊は本当の母艦を見つけて、帰還することができた。帰艦した爆撃隊隊長は、すぐさま艦橋に上がって再攻撃を進言した。敵がすぐ近くにいる事を艦長に伝え、すぐに自分を行かせてくれと頼んだのだ。

 無謀な作戦のすぐあとにである。まさに剛の者というべきだろうか。しかし再攻撃は条件が悪すぎた。日没後でもあり、犠牲が大きく、すぐに攻撃に向かえる機が「瑞鶴」で10機にも満たなかったのだ。MO機動部隊は、その日の攻撃を終了することになった。



 その日の薄暮攻撃は、五航戦の攻撃隊が標的の敵空母を発見できず、零戦の護衛が無いところを敵戦闘機から襲われた。そして、奇襲された攻撃隊は、敵機動部隊の上空を通り過ぎたことに気付かなかった。敵戦闘機の撤退という幸運に救われ、爆弾を棄てて引き返した攻撃隊は、偶然か必然か暗い海上に発見した敵機動部隊をあろうことか母艦と勘違いしたのだった。

 だが、彼ら攻撃隊の接近はアメリカ側のレーダーによって探知されていたのだ。そして、迎撃のため発艦したグラマン戦闘機につかまったわけである。日本海軍では電探でんたんと呼んでいたレーダーの性能は、アメリカ軍のそれと大きく差をつけられたままになる。

 今回の攻撃失敗は、失策だった、運が悪かった、だけで済まされないものだった。

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