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燃えるパールハーバー

 木村章吉らの第二次攻撃隊約170機は、先行した第一次攻撃隊に1時間以上遅れてオアフ島の上空に達した。この頃には第一次攻撃隊の大部分は母艦に向けて帰投していたのだが。

「これは・・・!?」

 零式艦戦の搭乗席の木村は、思わずつぶやいた。

 真珠湾ことパールハーバーの上空は黒煙で覆われていた。第一次攻撃隊は奇襲に成功したのだろうか? 木村が現在いる位置からは確認できなかったが、地上で大規模な火災が発生している。

 空母「翔鶴」「瑞鶴」の約50機からなる水平爆撃隊は、敵航空基地の破壊を命じられており、木村ら3機の制空隊は水平爆撃隊の援護についていた。目標が近づくとパールハーバーの様子が視界に入ってきた。

「なんと・・・!!」

 戦艦や巡洋艦らのアメリカ海軍の大型艦船が傾いて炎上していた。湾内の小島、フォード島の航空基地にある敵航空機のことごとくが火に包まれていた。上がった黒煙は、雲のごとくパールハーバーの上空を覆っている。

「これじゃあ敵機は上がってこれない・・かな?」

 そう思っていた木村だったが、アメリカのマークを付けた敵機数機が、果敢にも戦闘を仕掛けているのが確認できた。地上の対空砲は、第二次攻撃隊に向けて意趣返しとばかりに砲火を上げている。

 五航戦らの水平爆撃隊は、予定通り航空基地へ攻撃を開始する。九七式艦攻が爆弾を投下すると、地上の航空機は爆裂して炎を上げた。


 第二次攻撃隊の攻撃は約1時間続いた。水平爆撃隊の護衛をしていた木村は、当初の緊張が解かれて、余裕のような感情が生まれていた。五航戦の味方に損害は出ていないようでもあるし、空中の敵機もこちらへは向かっていないようだ。

「俺らも地上攻撃に参加するかな」

 木村は、背後に付いている僚機をちらりと見やって、合図を送ると地上に降下していく。そして、まだ火がついていない地上の敵機に向けて機銃を放った。零戦の20ミリ機関砲を受けた敵機は、炎上したりはしなかったもののバキバキとちぎれ飛んだ。

(よし、もう一回・・!)

 木村は、機体を返して地上の敵機に狙いを定めた。

「・・・な!!?」

 木村が、機銃の引き金を引こうとしたその時、機体の陰に隠れていたのだろうか敵兵のひとりが射線上に姿を現したのだった。その敵兵は、木村の機体を見て驚いた表情をした。

 木村がためらいの感情を持ったときには、機銃の引き金は引かれ20ミリ機関砲は火を噴いていた。大型の砲弾を撃ち込まれたその敵兵が、大きな血しぶきを上げて倒れる姿が木村の目に映った。それも一瞬のことで、木村の機体は航空基地の上空を通り過ぎて高度を上げていった。

「な・・!? 俺は・・、俺は・・!」

 動揺してはいけない、と木村は自制して機体をコントロールする。

「そうだ、まだ敵はいるんだ・・・。警戒・・しないと」

 木村は本来の役目を思い出して行動する。しかし、自分に殺される直前の敵兵の顔が目に焼きついてしまった。



 後世に真珠湾攻撃と呼ばれるこの作戦で、アメリカ海軍は戦艦5隻を撃沈され、大破中波も含めると軍艦15隻もの被害である。パールハーバーのアメリカ艦隊は全滅といってもよい大損害を受けた。しかし、アメリカの航空母艦4隻はパールハーバーにおらず、攻撃をまぬがれることになる。生き残ったこれらの航空母艦の存在は、緒戦において日本海軍を苦しめることになる。

 航空母艦「瑞鶴」の航空隊は、この戦闘で未帰還機ゼロという成績を残した。



 機動部隊は帰投した攻撃隊を収容すると、その30分後には北方へと離脱した。パールハーバーへの第二撃を加えるべきとの航空兵らの意見具申があったが、離脱行動は予定通り行われたという。

 航空母艦「瑞鶴」の機関部では、木曽平吉三等兵曹が同僚と話していた。

「作戦はどうなったんだ? 攻撃隊は帰還したみたいだがよ」

「俺に聞いてもわからんよ。航空兵らに聞いてみなよ」

「それもそうだったわ、スマンな。しかし、水杯まで交わすから心配したが、なんか無事終わったみたいだなぁ」

 その同僚は、木曽の顔を呆れた顔で見た。

「終わった? 何が終わったんだよ? これで、アメリカとの戦争が始まったんだぜ。始まりなんだよ、これがよ」

 木曽は、同僚の目をじっと見た。そしてうなずく。続いて同僚は機関部のボイラーを見て、言う。

「今、この船はだいたい24ノットで航行中だ。まるで、アメリカさんから急いで逃げているようでもあるじゃねえか?」


 空母「瑞鶴」の航空兵らは戦いの勝利に祝杯をあげていた。空母「瑞鶴」搭載機においては損害ゼロなのだから、なおさら喜びが大きい。

「木村先輩~。やりましたよ~俺たち大勝利ですよ~。日本海軍、世界最強ってことなんじゃないっすかね~」

 木村の僚機の搭乗員、本郷三等兵曹は文字通り勝利に酔っていた。が、木村の浮かない顔に気がついた。

「どうしたんですか? 木村先輩? 何かあったんですか?」

「いいや・・・、何でもない。スマンな・・・」

 木村は、今日の忌まわしい出来事を忘れようと努めた。

第18話を書いたあとで、失敗に気付いたのですが。空母「瑞鶴」の戦闘機は6機しか出ておらず、第一次攻撃の方に入ってます。

今後もおかしい所は出てくると思いますが、それはフィクションということで。

奇しくも真珠湾攻撃の日に近い時期に投稿となりました。

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