買い物
「シンイチさん、おじゃましてもいいですか?」
アイシスの声だ。
「あ、はい。どうぞ」
そう言うと、アイシスが部屋に入って来た。
「シンイチさん、これから買い物にいきませんか?」
「買い物?」
「明日からギルドの依頼をこなしていくわけですから、そのために必要なものは今日のうちに買っておいたほうがいいと思いまして」
「ん~、そうだな。じゃ、行きますか」
「はい!」
オレはアイシスと一緒に宿を出た。
………これって、デートじゃね?
~武器屋~
「シンイチさんは本当に武器は使わないつもりなんですか?」
「ん~まあ、『拳闘士』だから」
「でも、シンイチさんほどの力があるのなら武器を使えばもっと強くなれると思うんですけど……。どうしてそこまで素手にこだわるんですか?」
「まあ、理由はいろいろとあるんだけどね…。戦闘面から言わせてもらうなら、『武器を自分の体の一部のように扱えるようになれ』みたいな言葉を聞いたことはない?」
「はい、剣の先生が同じようなことをおっしゃっていました」
「だから、さ」
「え?」
「自分の体の一部の『ように』、だろ?そしてオレの使っている武器…オレの体は正真正銘体の一部じゃん、生まれてから決して離れることなく自分と共にありつづけた………な」
「う~ん。つまりいくら武器を上手く扱えるようになっても自分自身の体より上手くは扱えない、ということでしょうか?」
「まあ、そんなところかな」
~防具屋~
「ええっ!!まさか防具も買わないつもりですか?!」
アイシスが心底呆れたような顔をする。
「ん~。動きが鈍くなるような重い鎧は論外だし、腕や足に装備するものも金属製だと、感触が変わってしまう?っていうのかな。指や手から感じる細かい感触がよく分からなくなったり、足運びなんかに支障をきたすおそれがあるからなぁ」
「それなら、鎖かたびらなんてどうでしょうか?」
アイシスがそう言って鎖かたびらを持って来た。
ためしに着てみる………。
ヒンヤリとした感触が伝わってくる。
少し体を動かしてみる……。
「やっぱりな~んか勝手が違うっていうか、しっくりこないというか……」
「ダメですか?」
「魔法の布とかで出来た丈夫な服ってないのかなぁ」
「そういったものはこの店には無いですね…。鎧並の防御力のある服だと多分クローディア法国にでも行かないと手に入らないと思いますよ」
「………そうかぁ…。じゃあ今は買わないでおこうかなぁ」
「でも、その服だともし斬られでもしたらひとたまりもないですよ」
「そこはまあ、『当たらなければどうということはない』っていう感じで………」
「本っ当に大丈夫なんですよね…」
アイシスが少し怒ったような顔を向けてくる。
「オレだって死にたいわけじゃないからな。少しでも体が軽い方がオレの戦闘スタイルには合ってるんだ」
オレは真剣な顔で見返した。
「シンイチさんがその方がいいと言うのでしたらいいんですけど……」
「せっかく連れてきてもらったのに悪いな」
「いえ、でもそのままだと………」
アイシスがオレの頭からつま先までをながめる。
「…全然冒険者には見えないですね」
「まあ、オレの知っている強い奴らは大半が普段着のような格好で戦っている連中ばっかりなんだけどね」
漫画のキャラだけどね……。
「そうなんですか?」
「ああ」
「へぇ…、そんな人達がいるんですか」
「もう会えないんだけどね……」
シンイチは遠くをみるような目をしていた。
続きはやっぱり気になるよなぁ…。
~道具・雑貨屋~
店に入るとオレはまずタオルを手にとった。
風呂用に何枚かは絶対必要だからなぁ。
次は依頼へ持って行くためのリュックサックだ。今持っている袋は荷物を全部持ち運ぶためのかなり大きいものしかないからだ。
店内をみていると筆箱ほどの大きさのよくわからないものがあった。
「なんだ、これ」
「それは火をおこす魔道具ですよ」
「火をおこす?」
「それに火の魔石を入れてそこを押すと小さな火がおこせるんです」
アイシスが箱を持ってボタンを押すと火が点いた。
ライターみたいなものか。そして火の魔石が交換用カートリッジってとこか。
「買っておこうかな」
「私、火の魔法使えますから必要ないですよ?」
「念のためだよ」
この店では結局、タオル数枚とリュックサック、ライター魔道具に火の魔石を2つ買うことにした。
買い物を終えて宿へ戻っていく途中、大きな建物の前で馬車から手鎖と首輪をつけた人達がおりてくるところにでくわした。
「あれは……」
「ああ、あれは奴隷ですね。あの建物は奴隷商のお店です」
「……そうか………」
こっちの世界には奴隷が普通にいるのか…。
「私達には関係のないところですよ。行きましょう」
アイシスとずっと一緒にいるわけにもいかないし、もし別れることになったら、奴隷を買って冒険者にしてオレがついていく、というやり方は出来るのかなぁ。
宿に着いた頃には空が赤くなりはじめていた。
オレ達は宿で夕食をとり、その後風呂に入った。昨日は入ってなかったのでとてもさっぱりした。
「それじゃあ、シンイチさん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
オレ達は明日に備えて早めに休むことにした。
明日から、冒険者じゃないけどおれの冒険者ライフが始まる。
不安と期待を感じながらオレは眠りについた。




