旅立ち
~シンイチ~
誰かが言った。
『人は命を奪うことを実感したくないのだ』と。
最初は拳で、足で、自らの身体で殺した、こん棒のような鈍器で殺した、剣のような斬撃武器で殺した、弓のような射撃武器で殺した、さらに銃、ミサイルのような近代兵器、と殺し方は進化していった。命を奪えば必ずその感触が残る、殺し方の進化とは、より遠くの相手を、より自らの動作が命を奪う動作らしくないようになっていくということだ。すなわち、命を奪う感触を薄めていくということだ。
ならば、せめてオレだけでも、自らが奪う命をこの手に、この足に、この身体の全てに刻み、背負っていこう。
『命を奪う』ことの意味をわすれないように……。
~???~
アナタはワタシが守るから
12年見守ってきたアナタ
いつも一緒だったアナタ
アナタを苦しめる全てからアナタを守るから
だからこれでお別れなの
アナタを強大な邪な力が蝕んでいく
だからワタシは全てを開放する
アナタはワタシが守るから
オレは目を覚ました。
夢を見ていた気がする。とても優しいものに包まれていたような気がする。
そんなことを考えていたが、目の前の光景がオレを急速に現実へと引き戻していく。
「オレの部屋じゃ………ないな……」
僅かでも期待していなかったわけじゃない。目を覚ましたら全部夢だった、ということを、やはり昨日のことは現実なんだ。
これからどうするべきなのだろうか、元の世界に帰る?帰ったところでもう家族は誰もいない、特別会いたい人がいるわけでもない。途中になっているゲームや続きの気になる漫画はある。でも、そんな理由しかないのなら戻ったところで、親の遺産を食いつぶすだけの引きこもりに一直線になってしまうだろう。
自分でも気づいてはいたんだ、人生に活力がなくなってしまっていることに。
ならいっそ、こっちの世界で心機一転して、新たな人生を送るほうがはるかに有意義ではないだろうか?
そもそも、戻る方法なんて知らないから選択の余地などないのだが。
こっちの世界で生きていくのなら、まずは仕事に就いて生活費を稼がなければどうにもならない。
とはいっても、農業や製造業、接客業のような一般的な仕事にオレが就けるとはどうしても思えない。異世界召喚ものの物語なら冒険者ギルドに入るのがよくあるパターンだろう。幸い腕っ節には相当自信がある。
というか、この世界に冒険者ギルドの制度があるのだろうか?
オレは頭の中の知識を確認してみる………………………。
ああ、良かった。この世界にも冒険者ギルドがあるみたいだ。ついでに魔物も当然のようにいるようだ。
なら決まりだ。
オレはこの世界で冒険者として新たな人生を歩んでいくことにしよう。
これからの目標も決まったところで、ようやくオレはベッドから出た。
部屋を出たところで、急に村長に声をかけられた。
「おはようございますシンイチ様、昨夜はよくお休みになられましたでしょうか?」
オレは一瞬、ビクッと反応してしまった。
そういえば、昨日村長に自己紹介したとき名前しか名乗っていなかった。村長も盗賊のリーダーも名前しか名乗っていなかったから、この世界では王族や貴族にしか苗字はないのだろうと判断したからだ。
やはり家族以外の人に名前で呼ばれるのは少し違和感がある。慣れていかないと仕方ないのだが………。
「あ、おはようございます」
オレは村長に挨拶を返した。
「朝食の用意ができたので、どうぞいらしてください」
「あ、はい、ありがとうございます」
朝食は、オートミールにサラダとチーズだった。正直、物足りなかったがこっちの世界ではこれくらいが普通なのだろう。
食べ終わって、しばらくすると村長がやってきた。
「シンイチ様、盗賊どもの持ち物を集めましたのでご確認下さい」
「え?もしかしてオレがもらってもいいんですか?」
「はい、盗賊を倒されたのはシンイチ様ですから、その持ち物は当然シンイチ様のものです」
村長に連れられて外にでると、剣や鎧が地面に並べられていた。
いきなり、大量のアイテムが手に入ったわけか…。とはいっても、オレの戦闘スタイルは素手なわけだから剣や弓は使わないし、ザガンの斧なんてもっといらない。鎧も動きを鈍らせかねないし、なにより中古を着るのはなんか嫌だ。
そんなことを考えていると、視界の端に革袋を見つけた。
中を見ると、お金が入っていた。金貨1枚に銀貨20枚あった。
お金が手に入るのは正直ありがたい。でも、装備品類は使わないし、荷物になるからいらないや。
「この金だけもらいます。残りはいらないから村の方で適当にしてくれますか?」
「よろしいのですか?!」
村長が信じられないというような顔をしている。
「ええ、いいですよ」
「は、はい、ではこちらで引取らせていただきます」
村長が村人をよんで、残りの装備品を持って行かせた。
「ところで、シンイチ様はこれからどうされるおつもりですか?」
「冒険者ギルドに登録しに行くつもりです」
「え?シンイチ様は冒険者ではなかったのですか?」
「違いますよ。それはそれとしてこの村には冒険者ギルドは…ない……ですよねぇ…?」
「この村にはございません。1番近いのは街道沿いに西へ行ったところにあるハインツの街のギルドです」
「わかりました、ではそこへ行きます。あと、この村になにかお店はないですか?」
「この村にある店はあそこの雑貨屋だけでございます。武器や防具はほとんどございませんが日用品はなかなか良い品揃えなんですよ」
「わかりました、じゃあ、オレはもう行きます。お世話になりました」
そう言って、店の方へ行こうとすると村長によびとめられた。
「あ!ちょっとお待ち下さい」
そう言って、村長は急いで家に入っていき、なにやら袋を持って出てきた。
「これはあの頂いた装備品と村を救っていただいたお礼です、どうぞお納めください」
「あ、はい、ありがたくいただいておきます」
袋の中には銀貨が30枚入っていた。
「じゃあ、これで」
「はい、またいつでもおこしください」
村長は深々と頭を下げて見送ってくれた。
オレは早速雑貨屋へ行った。
旅に必要なものを買い揃えることにした。
まずは、靴下に下着、替えの上着にシャツ、ズボンを数着ずつ、あとはフードのついた茶色のコートを買うことにした。さらに、革の靴と肘の近くまですっぽり入る革の手袋を3つずつ。靴を複数買うのはオレは人間離れした力で地面を踏み締めて動くから靴がダメになりやすいからである、革の手袋は素手で触ると危険なものへの対処のためだ……毒性のあるものとか。水筒にパンにチーズ、ミルクを3食分。魔物の換金可能部位を切り取ったり、肉を捌いたりするための大きめのダガーを1本。そして、それらを入れるための大きめの革袋。合計で銀貨10枚にまけてもらった。
オレは店の奥を借りてパパッと買った服に着替えた。
着ていた服は唯一の元の世界のものだから大事にしないといけないからだ。
革の手袋をはめ、靴をはきかえる。
これで準備は万全だ。
オレは意気揚々と村を出た。
「月は2つだったけど、太陽は1つかぁ」
青空を見上げそんなことを考えながら西へと歩いていった。
1時間ほど歩いていると街道の右手に森が見えてきた。かなり大きくて深そうな森だった。元の世界ではテレビを通してぐらいしか見たことのない森らしい森だ。
さらに30分ほど歩いたところで、なんだか妙な気配を感じた。なにやら森がざわついているようだ。立ち止まって様子をみていると森から人影が飛び出してきた。白い軽装鎧を着た金髪のポニーテールがこっちに向かって走って来ている。冒険者だろうか?しきりに後方を気にしているようだ。再度前を向いたときにバッチリと顔を確認する。15、6歳くらいのかなりの美少女だった。
そんなことを考えていると、今度は森から巨人が出てきた。身長は5メートルほどだろうか?どうやら少女を追いかけているようだ。
少女は振り返りながら手から1メートルほどの火の玉を巨人にめがけて飛ばした。
火の玉が巨人に命中する。しかし、ほんの少し怯むていどでほとんど効いていない。
「あっ」
巨人にばかり気をとられていたようで、少女は足がもつれて転んでしまった。
オレは荷物を地面に置いて少女の方へ向かって走りだしていた。




