サプライズゲスト
たくさんの人が拍手をする。こんな大勢の人の前に立ったのは何時ぶりだろうか。
「ふぅ…」
呼吸を整える。
「行くぞ」
オレが剣を構えると、ジオも応えるように剣を構える。
「はあっ…!!」
剣を振るい、交え、剣が大きな音を立てる。次は足を引き、剣を左に。次は振り上げ、一気に振るっ…!
「……」
「……」
わあああああああああああっ!
歓声が湧き上がる。成功…したのか。一気に肩の力が抜ける。ジオの方を見ると、彼も笑顔で答えてくれた。
ジオのもとへ向かい、腕を軽く上げる。ハイタッチだ。
パンッ
「お疲れさん」
「楽しかったぜ!」
「まだまだ。終わらせませんよ」
「!?」
声のする方を見上げると、パーティー会場のホールの上にある窓に、見たところオレよりいくつか年上の仮面の男が立っていた。
「お、今年も来たか」
今年も?
男は明らかに十五メートル以上ある窓からどうやったか優雅に下り、サーベルをオレとジオに向ける。
「さあ、勝負です!」
ジオもそれに応えるように剣を構える。
「大丈夫だって。敵って訳じゃねえから」
「じゃあ何者なんだよ?」
「詳しいことはあとだ。行くぞッ!」
ジオが斬りかかると、男はその刃を自分の剣で受け止める。力いっぱいにジオが剣を押すが、男は余裕の表情を見せていた。
「なかなか筋がいいですね。でも、まだまだッ!」
「うわっ!?」
「ジオ!」
ジオが男に弾き飛ばされてしまった!
「他人の心配をしている場合ですか?」
「しまっ…!!」
ジオに気を取られている隙に男がオレの懐の中に入ってきた…!?
やばい。もう駄目だ…
「ンルンワレィディウワ!」
「!」
後ろから一筋の光が男の手を襲った。いや、あれは電気だ。
振り向くとロゼが杖を構えていた。ロゼは追い打ちをかけるようにもう一度術を唱える。
「ウルンワレィディウワウティヤ!」
「くっ…」
さっきよりも強い電気が男を襲った。
「グラン!今や!!」
オレは体制を戻し、一気に畳み掛けるッ!
「…」
オレの剣は、男の首元で止まっている。殺すわけではない。ただ明確に勝敗を決めるためだ。
「…いやいや、参りました」
剣を納め、倒れている男に手を差し出す。
「名前は?」
「そうですね…バームとでもお呼びください」
「んじゃバーム。お前の目的は?」
「お客様の笑顔…と言ったところでしょうか」
バームの視線は、たくさんの観客の方へ向けられていた。
「では、締めましょうか」
そう言うとバームは観客に向かってひとつお辞儀をした。オレとジオもお辞儀をする。すると観客から一気に拍手と歓声が巻き起こった。
「なるほどな」
「グランとジオ、それにバーム様、ありがとうございました!」
大臣の言葉が入ると、バームは仕事を終えたようにその場から離れ、光の中に消えてしまった。
「二人とも、お疲れさまでした」
と、お茶を出すのは王宮魔導師のミネル。
「ったく、人使いが荒いっつーの」
と、愚痴を零すのは王宮魔術師のアトラス。
「いいじゃないですか。なかなか面白かったしょう?」
「オレは魔術で手一杯だったっての」
アトラスが一気にお茶を飲み干す。
「まだまだパーティーは始まったばかりですよ。貴方たちにはもっと働いてもらいますからそのつもりで」
と、笑みを浮かべながら自身に掛かった変身の魔術を説いたのは、執事長のバッコスだった。
俺たちのパーティーはまだ始まったばかりだぜ!