それぞれの準備
週に一度にある使用人たちの集会。バッコスはこう話していた。
「今日から来月のハロウィンパーティーに向けて準備をします」
「ハロウィンかー…」
そういえばここ地獄だし、人間界のハロウィンより怖かったり本格的だったりするのかなぁ。
「ハロウィンかぁ楽しみだな!」
ロットはいつもは見せないとてもうきうきしたような眼でこちらを見てくる。一緒に歩いていたジオも一言つぶやく。
「今年はどんな出し物するのかな」
「出し物?そんなことするのか」
「ああ。使用人たちが何人かずつ組んで、一つの出し物をするんだ。結構面白いんだぜ」
「へぇ。…やってみるか」
「…」
「…」
「…?」
「はぁ!?お前何言ってんだよ!あれってみんな結構レベル高いんだぞ!?」
「そ、そうだよ!ただでさえ準備で忙しいのに…」
「大丈夫」
「……?」
オレは腰に刺している短剣を抜き、二人に身軽に振って見せる。
「剣舞ぐらいはできるだろ?」
それからは、仕事の合間を縫ってオレはジオに剣舞を教えることになった。
最初はあまり乗り気じゃなかったジオも、練習していくうちに剣舞を楽しむようになった。
「んじゃ、今日もやるか」
「おう!」
「ほわっ!」
「おっと」
廊下を通っているときにぶつかった、黒く長い髪をしたロゼと同じくらいの歳でロゼと同じようなマントを被った女。
「あ、ランタンが…」
「すまないな。手伝うよ」
ぶつかった拍子に彼女が落としてしまったランタンを拾う。顔型にくり抜いたカボチャのランタンだ。
「ありがとうございます。あ、私、王宮魔術師の弟子をしているシオンっていうの」
「グランだ。ここの使用人だ」
「ああ、貴方が…。ロゼからよく聞いてるわ。生意気なやつだって」
「そりゃ光栄で」
オレは拾ったランタンをシオンに渡した。
「ありがとう。楽しいパーティーにしましょうね」
「シオーぉン?はよぉ手伝ってぇ!」
奥でロゼが大きな声でシオンを呼ぶ。シオンは余裕のある表情で受け応えた。
「はいはい。じゃ、これで」
「ああ」
「今年はグランとジオが剣舞をするみたいですよ」
「では、今年も私の出番ですか」
丁寧な口調で話すのは、王宮魔導師と執事長。そこにはもう一人、黒髪の男性が居る。
「サプライズはいいんだけどさぁ…オレの仕事が増えるのは勘弁してほしいぜ」
「サプライズに多少の苦労は付きものでしょう」
「そりゃ分ってるけどさぁ…。お前はなにもすることないからいいけどよぉ」
執事長は笑顔で紅茶を飲み一息つく。
「今年も期待してますよ。『王宮魔術師殿』」
「ったく…。やりゃいいんだろ」
「聞きわけがよくてこちらも嬉しいです」
「…恐ろしいじーさんだぜ」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」
「はっ」
魔導師が話を変える。
「さて、今年はどのようなものにしますか?」
「そうですね…」
さて、どんなパーティーになるのでしょう