東塔の魔導少女
黄緑色の髪でオレと同じぐらいの歳の男が立っていた。ジオはそいつの質問に答える。
「そうですよ。あ、こいつは新入りのグラン」
「はじめまして。私はここで王宮魔導師をしているミネルと申します」
「こりゃご丁寧に」
「掃除が終わったらお茶でもしましょう。私はあの部屋に居るので」
ミネルの視線の方を見ると、ひときわ大きな扉があった。
「ありがとさん」
………
「やあっと終わったぁ…」
「お疲れぇ…ミネルの部屋に行くかぁ」
ゴミ袋の口を縛り終えたオレたちは、掃除道具を片付けて塔の入り口正面にあるミネルの部屋に向かった。
コンコン
「どうぞ」
ドアの向こうからミネルの声が聞こえた。
「失礼しまーす」
大きなドアを開き中に入ると、部屋は必要なのか不要なのか分からない書類やおそらく魔導に使うであろう道具が部屋中に散らばっていた。
「すみません、私が招待したのに。そこの椅子に掛けてください」
本人は部屋の一番奥の事務机で忙しく羽ペンを動かしていた。俺たちはミネルに言われた通り、なんとかスペースがある椅子に腰をかける。少し経ったらミネルも向かいの椅子に腰を掛けた。
「お疲れ様。お茶、召し上がってください」
「ありがとうございます」
「ふぅ~」
しばらくお茶とお菓子をもらってゆっくりしていたら、ドアからノックの音が聞こえた。
「師匠ぉー。あ、二人とも仕事終わったん?お疲れ様~」
「………」
後ろにメリアも居た。
「ロゼ、どうかしましたか?」
「新作ができたんや!ちょっと見てくれへん?」
「いいですよ。ジオたちも見にきますか?」
「?」
東塔の階段を少し登ったところにロゼの研究室がある。そこはミネルの研究室よりすっきりとしていた。
「これや!」
ロゼが小箱から取り出して見せたのは、赤く小さなガラス玉のようなもの。ミネルはそれを眼鏡越しにじっと見つめる。
「…前回よりも作りがしっかりしていますね」
「せやろ?」
「では早速力を入れてみてください」
「はい…はぁっ…!」
ロゼが赤い玉に念を込めると球が光り始めた。
「うわっ…」
「静かに」
すると玉の中に何かが流れ込んできた。ロゼは玉いっぱいまでそれが流れ込んだことを確認し、力を止める。赤い玉は光ったままだった。
「このまま持てばいいんやけど…」
ロゼの言葉とは裏腹に、玉の中のものの量はどんどん少なくなっていく。最終的には光も消え、実験する前と同じ状態になってしまった。
「…今回もだめでしたか」
「そんなぁ…」
「…一体、なにが起こってたんだ?」
「あーグランには言ってなかったっけ。じゃあまずは魔導と魔法の違いについてでも話そか」
「ああ、頼む」
「簡単に言うと、魔術は移動、魔導は放出なんや」
「??」
「魔導師っちゅうのはいろんなエネルギーを出すことができる超能力者みたいなもんなんや。それに比べて魔術師は貯蔵してるいろんなものを出現させたり瞬時に移動させたりするんや。二つともやってることは似てても根本的な原理は違うんや」
「へぇ。で、ロゼは何をしたかったんだ?」
「ウチが作ったこの玉、ストレにうちが出したエネルギーを貯めたかったんや。失敗してもうたけど」
「諦めてはいけませんよ」
ミネルはロゼの肩に手を乗せ、一冊の本を取り出した。
「新しい本を手に入れました。なにか参考になるかもしれません」
「ありがとう!ほな、早速研究や!」
オレたちは「がんばれよ」と一言残し、ロゼの研究室を出た。
彼女の研究をそっと見守りましょう。