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夜空の月が笑う時  作者: ぶちょう
地獄編
1/63

青年は地獄に落ちた

『笑い月を見ると何かが起こる』


オレの村で昔からある言い伝えだ。

ある人は埋蔵金を見つけたり、またある人は家に雷が直撃したりと、何が起きるのかは人ぞれぞれらしい。

そしてオレ、グランはさっきその笑い月(といっても上弦の三日月の上に目のように星が二つ光って顔のように見えるだけなのだが)を見ていたら、


地獄に落ちた。



どうしたことか、オレは夜空を見上げていたら地獄に落ちてしまったらしい。オレも最初はどこにいるのか解らなかったが、近くに立ててあった看板で現在地を確認することが出来た。

『ここは地獄の三丁目』

どこかで聞いたことがあるフレーズだが、看板にそう書いてあるから間違いはないのだろう。

しかし地獄というのはこうも賑やかな所だったのか?賑やかというか治安がいい。確かに角や大きな牙を生やした人はいるが、みんなガラが悪いようには見えない。試しに現在の場所を道端の人に訊いてみると

「ここは地獄の三丁目ですよ。あなた、人間ですよね?珍しいですねえ」

と、喧嘩を吹っ掛けられる訳でもなく、金を請求するわけでもなくすんなりと教えてくれた。

なんだか自分が今まで思っていた地獄とは違うようだった。


とはいえ、人間界に戻るにもここで暮らすにも金がないとやっていけない。オレは親切な地獄の人たちの中でも人が好さそうな人に仕事を募集している所はないかと訊いてみた。

「それなら魔王様のお城に行ってみるといいよ。あそこは給料は少ないけど寝床を用意してくれるし、絶対に雇ってくれるよ」

魔王城!?

でもこんないい人たちとまとめている人だ。きっといい人に違いない。オレはさらに魔王城の場所を訊くと、親切にもその人は魔王城のもとへ連れて行ってくれた。

魔王の城は予想通り、とても大きな城だった。親切な地獄の人と別れ、オレは正面にある大きな門の近くに居た門番に働きたいと話すと、メイドが一人迎えに来てオレを案内してくれた。

城の内装はよくある城の内装と変わりなかった。オレはメイドにある一室に案内され、入ると年老いた執事がオレを迎えた。

「はじめまして。この城で使用人をまとめさせていただいています、バッコスと申します」

「グラン。はじめまして」

「グランさんですね。どうしてここで働きたいと思ったのですか?」

…案の定面接だった。オレは地獄に興味を持って移り住みたかったということで話を進めることにした。


特に変わったこともなく面接を終えたオレはまず城内の掃除をすることになった。バッコスから貰った執事服を着て廊下に出ると、背中まである長い白髪に赤い目をしたメイドの女が居た。

「はじめまして!あたしはロット。あんたのお世話係だ。よろしくな!」

「グランだ。よろしく」

その後はロットに仕事の説明を受け、日が暮れる頃に掃除は終わった。その日に教えてもらった寮に向かう途中、オレはマントを被った見たところオレより少し年下の女に会った。


挿絵(By みてみん)


「あ、あんた噂の新入り?うちここの王宮魔導師の弟子やってるロゼっちゅうもんや。うち七丁目生まれやから喋り方普通の人より変やけど、よろしゅうな!」

『七丁目』というのはおそらく『地獄の七丁目』ということだろう。ピンクにも近い眩しい赤い髪をしたロゼはオレに手を差し出した。オレも手を出しそいつの手を握る。

「グランだ」

「聞いとるで、おまえさんのこと。バッコスさんや先輩のロットにも敬語使わんってな。たいしたもんやなぁ」

「そうか?」

「せやでぇ。せや、お前さんにいいものやるわ。ほら、手えだしてみ」

するとロゼはマントの中から銀色の懐中時計を取り出した。

「はい。まあ就職祝いってもんやな。うちのお手製やから少なくとも百年は針が狂わないはずや」

時計の蓋を開けると時計の針の奥にある透けたガラスから歯車がカチカチと動いているのが見えた。

「へえ…。すごいな、お前」

「せ、せやか?あ、ありがとう」

ロゼは顔を赤くして頭の後ろを掻いていた。

「あ、もうそろそろ戻んないと。じゃ、時計ありがとな」

「う、うん。また明日な!」


地獄暮らし一日目終了。未開の地でいまいち不安だが、寝床も確保できたしとりあえず生活面で苦労することはないだろう。とにかく一刻も早く人間界に戻りたい。

新連載です。よろしくお願いします。

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