「病気だなんて、本当にお気の毒」
病弱な義妹ネタに挑戦。
「すまない。今日もプルニエが熱があると……早く帰って来て……と」
申し訳なさそうに頭を下げる婚約者のデーヴィッドに、ヴィヴィアンは微笑んだ。
これで何度目になるやりとりか。
確か三回目だ。
「まあ、それはまた、仕方ありませんわね……」
婚約者の微笑みにデーヴィッドは心底から申し訳ないと、へにょりと眉を下げた。
「まあ、まあっ……デーヴィッド、ごめんなさい……!」
ヴィヴィアンは愛しい婚約者にそんな顔をさせてしまったと、すぐに後悔した。デーヴィッドもまた婚約者に謝らせてしまったと同じように。
二人は十歳の頃からの婚約者で、この六年間、互いに互いを思いやり相思相愛なのだ。
アンゲール伯爵家の跡取りのデーヴィッドに、ルカリーリス侯爵家の三女のヴィヴィアンが嫁ぐ形になる。
学園でも理想の婚約者同士と。
けれども二人が謝り合うことになったのは――半年前からだ。
半年間はデーヴィッドの家のことでドタバタしたのだ。ようやく落ち着いたと思ったら、数週間前から義妹が病を……そうして今回、早くも三回目のわがまま。
デーヴィッドの母は四年前に亡くなった。
ヴィヴィアンの母とデーヴィッドの母は学園時代からの友人で、その縁で二人は幼い頃から交流があった。幼い恋心も育まれていた。だから十歳になったときにいっそ婚約させようかとなったのだ。
その頃、ヴィヴィアンのルカリーリス侯爵家が少しばかり力を持ちすぎたので、三女となるヴィヴィアンは逆にあまり目立ったところに嫁がせない方が良いと――お国のパワーバランスだ。
まあ、格下だよねとデーヴィッドの父親のアンゲール伯爵ジュリアンはちょっと肩を落としたけれども、それはそれ。侯爵家とご縁できたことに前向きになって欲しい。
喜んだのはデーヴィッド。幼馴染をずっと好いていたが格上だからと幼いながらに理解してあきらめていたところに、だ。
それは実はヴィヴィアンもであり。
「結婚してくださいヴィヴィアン。ずっと好きでした! これからもあなただけを愛します!」
「まあ、デーヴィッド……わたくしも、大好き……!」
婚約できるぞとなったときに、デーヴィッドはすぐさまヴィヴィアンに求婚までしてしまった。なかなかのおませさん。まずは婚約だとまわりから止められつつ。
息子と娘の様子をみていた親たちやまわりがほっこりとしてしまう。実はばればれの幼い恋心だったのだ。
そうして二人は仲睦まじく過ごしてきた。
けれども四年前、二人が十二歳の時にデーヴィッドの母のエミリアが亡くなってしまった。
もともと心臓が悪かったエミリアは、ヴィヴィアンにデーヴィッドをよろしく頼むと儚くなってしまった。すでに義理の母として優しいエミリアを慕っていたヴィヴィアンはその約束を片時も忘れていない。
死に逝くエミリアの安寧ためにデーヴィッドにヴィヴィアンというしっかりとした後ろ盾のある婚約者を……と、アンゲール伯爵やヴィヴィアンの母が想ったのもあったのだと、少し成長した二人も理解できるようになった。
デーヴィッドもエミリアに「ヴィヴィアンを哀しませないように」と、しっかりと言い置かれた。
その遺言がなくてもデーヴィッドはヴィヴィアンを哀しませたくはないと――していたのに。
状況が、変わったのは。
アンゲール伯爵ジュリアンに周囲から後添いを娶れと、圧が。
自分には愛する亡き妻が……と、ジュリアンはかなり抵抗をしたのだ。
けれども三年の喪が明ければ、ますます。
アンゲール伯爵、息子のデーヴィッドが美形ならば親である彼もかなり。
青味ある銀髪にまた深い青の、切れ長の瞳の美中年である。息子のデーヴィッドは同じ色目だが、若さの分まだどこか柔らかな印象がある。目元はエミリア似としても、むしろデーヴィッドは伯爵の幼い頃そっくりなのだ。
ヴィヴィアンはデーヴィッドは将来義父みたいになるのかしらと、すでに先の姿がわかるのが少しつまらないくらい。
だけれどもそんな美中年が独り身となれば。
後釜――再婚を狙う女たちの良い標的である。
とある夜会でそちらの行き遅れの娘に怪しい薬を飲まされ空き部屋に連れ込まれそうになって。
それがとうとう伯爵の限界を越えた。
正直に言うと――疲れた。
そして同じように夫を亡くして理由あって婚家より出戻っていたミール男爵の妹のカメリアと再婚することを選んだ。
カメリアはきちんとよく弁えた女性だったからだ。
前妻の子であり伯爵家の跡取りのデーヴィッドにも、その婚約者であるヴィヴィアンにも。きちんとした貴族の大人の女性らしく接してくれる。
同じように再婚を――まわりからのお節介な親切に、カメリアも疲れてきていたのもある。
彼女自身も亡き夫を愛し、ジュリアンと同じ状況であったために同士的な関係であると、わかる人にはわかる距離間の再婚である。
そこを突くような藪蛇は、やがてルカリーリス侯爵家から睨まれると理解してない輩である。
そう、理解していない藪蛇は。
それがこんな身近にいるだなんて。
再婚とはいえ、様々な準備でこの半年は忙しかった。それがようやく落ち着いたと思ったら。
カメリアは本当に良い後妻であった。
だがついてきたおまけが、アレだった。
――カメリアが婚家も実家も出た理由の大部分はこれであったかと。
カメリアと亡き夫には娘が一人。
それがプルニエだ。
カメリア夫人も淡い茶色の髪に淡い水色の、どことなく儚げな雰囲気がある未亡人であったが。その子であるプルニエは母親以上にそんな雰囲気があった。たれ目気味な目が、庇護欲を増すというかなんというか。
そんな雰囲気もある子を祖父母やまわりが甘やかさないわけがない。
父親を亡くしたプルニエを、その婚家の男爵家は甘やかした。
プルニエが幼い頃から喘息気味で、少し身体の弱い子であったのもある。
けれども跡取りとなる亡き夫の弟夫婦――夫が亡くなったことにより、継承順位が変わったのだ。幼いプルニエでは男爵家を継げまいと、お国はきちんとお調べになり――その甥姪より、祖父母はプルニエを可愛がった。
いずれは跡取りとなる子らより、プルニエが「かわいそう」だと言って。
これはいけない。
カメリアは本当にきちんとした方だった。
義弟夫婦と話合い、プルニエを引き取り実家に帰った。
もしもプルニエこそがきちんとしていたら。
亡き兄の忘れ形見として、自分たちは中継ぎでもとプルニエを同じく甘やかしていた義弟夫婦は、義姉に言われて目が覚めたと。
彼らにも娘がいたのに姪をかわいがりすぎて悪いことをしたと――かわいそうなプルニエに渡せと、ぬいぐるみや服を奪われた娘の心を癒して欲しい。継承するために男爵家に同居してからはプルニエに嫌な目に遭わされた姪は、急にまともになった父母に怪訝な目をしていた。まだ間に合うだろうか。間に合ってほしい。
貴族。ノブレス・オブリージュ。
貴族だからこそ駄目な子が力を持ってはいけない。
そのために出戻りの汚名を背負ったカメリアだったが。
けれども……今度は実家の己の父母が。またか、とカメリアが兄夫婦と頭を抱えてしまった。
兄夫婦には事前にきちんときっちりと、膝突き合わせて話したため、そちらは義弟夫婦のようにはならないが――やはり祖父母にとっては孫はかわいく。いやそっちにもきちんと話したはずなのに。何とかよお前もか、な気持ちになったカメリアだ。
「おじいちゃま、おばあちゃま……お胸がくるしいの……」
そしてプルニエの儚さっぷりよ。
「だって、かわいそうじゃないか。父親を亡くしたのにこんな空気の悪い都会に……」
確かにかわいそうではある。
婚家の方が田舎で空気はきれいで、喘息持ちなプルニエには良かったかもしれない。
けれどそれは、それ、だ。
「ごめんなさい。せめて窓の外が見たくて……ああ、枯れ木しかない……」
「……わたしのベッド」
日当たりの良い部屋を譲ってあげなさいと祖父母に言われた幼い姪にカメリアは本当に申しわけなかった。
「プルニエは身体が弱いんだから」
それが、いけない。
けれども母親であるカメリアは気がついていた。
――あなた、そんな酷い喘息だったかしら?
確かに息苦しいのは苦しいだろう。辛いだろう。
カメリアは愛する夫の忘れ形見だから本当に娘も愛していた。
そう、カメリアだって愛する夫を亡くしたのだ。哀しみにいつまでも浸りたかった。
――なのに。
そんな折に。
親切なお節介からのご縁だが――アンゲール伯爵の目を見た時に、カメリアは「同士」たる哀しみと疲れを。
「伯爵家に?」
このままこの子を実家には置いてはいけない。姪の被害がまた。
カメリアはアンゲール伯爵との再婚で、条件を一つ。
娘も連れて行かせてください。
実家からも――甘やかす祖父母からプルニエを引き剥がす。
アンゲール伯爵は同じ同士の頼みを引き受けた。御息女の成人まで面倒をみましょう、そんな好条件まで。
互いに愛するひとの忘れ形見と、気持ちがわかるために。
「伯爵だなんて! すごい!」
男爵家から伯爵家にと、嬉しそうに娘は声をあげた。
優しくしてくれた祖父母に未練はないとばかり。
「知ってのとおり伯爵家には二つ年上の跡取りさまがいらっしゃるけれど、ご迷惑をかけないように」
「わかっているわよぅ……二つ年上ならお義兄さまね!」
「……あなたは、養子となるわけじゃないから」
「……養子じゃないほうが、良いかも……くふふっ……籍を入れるなら……」
変な笑いをする娘に、カメリアはそれでもこれで娘を甘やかす相手から引き剥がせると安堵した。
それがまさか。
アンゲール家の先妻の奥様は病で亡くなっていて。
アンゲール伯爵やその息子が、病床にある相手に強く出られないトラウマがあっただなんて。
それが新たな被害者――ヴィヴィアンに迷惑をかけるとは。
まさか、であった。
そしてプルニエは早々にアンゲール家の弱点を見抜いて、再び病弱に。
「生まれつき喘息で……」
自ら病状を。
「それは大変だ」
「ああ、お義兄さま……けほっ、お水を……」
「すぐに用意しよう。飲みやすいよう果汁も入れようか?」
デーヴィッドが彼女の好みであったのもいけない。
養子に入ったのではないから「義兄」とは呼ばないようにと教えていたのに。
生家の男爵家で従兄弟や叔父がちやほやしてくれたのに味をしめていた。
彼ら以上の美形が「何か欲しいものはないかい?」と気を使ってくれる。
甘い物が欲しいと言えば人気の店から菓子を取り寄せてくれるし、ベッドで暇だからと言えば流行りの小説を買ってくれる。
側にいてと願えば、婚約者との約束も反故して枕元にいてくれる。
「ちょろ……最高……!」
――けれど彼女は貴族をわかっていなかった。
菓子を買って帰らないとと言うデーヴィッドに、流行りの店で持ち帰りの菓子を一緒に選んでやりながら、ヴィヴィアンは――微笑んだ。
「遠い遠い国の、確か神さまも三回は許すのよね。微笑うのも三回目までは我慢するのよね」
――ちょっと違うが。
「病気だなんて、本当にお気の毒」
――本当に。
「プルニエ、良かったね!」
「え?」
帰宅した義兄は嬉しそうに。
何が良かったのかしらとプルニエは首を傾げる。
けれど次の言葉を聞いて「ひゅ……」と、息を吸い込んで咽て咳き込んだ。
これはいけないと、慌てて義兄はその背を撫でる。そして連れてきた方に――任せた。
「ああ、いけない。けれどちょうど良かったね。王宮医師を派遣してもらえることになったのだよ!」
王宮医師――普段は王族など高位貴族を診る、この国の医療のてっぺんである。
「はじめまして。王宮医師のマヤリースです」
キリッとした美形の医師に一瞬は見惚れたけれども、プルニエは「まずい」と内心で。
母のカメリアがみていたように――仮病である。
寒い日や季節の変わり目などは確かに具合が悪くなるけれども、ベッドにこもるばかりではない。
先日も今日は具合が良いから買い物に行きたいとねだったりもしたし。
「あ、私……男の医師さまは怖くて……」
マヤリースみたいなイケメンは惜しいと思ったが、欲張ったらいけないと我慢した。生家を母と出されたのはやりすぎたと、意外と理解していたプルニエだった。
――が。
「ご安心を。私、女です。夫もいます。フルネームはクレア・マヤリースと」
キリッとまた改めて自己紹介された。マヤリース医師はよく間違われるのですよと、デーヴィッドや使用人たちと笑っている。
女医でなければ嫌だという言い訳もそこで終わった。
「私は王妃さまや次期王太子妃さまも診させていただいております。ご安心を」
たから女医なのか。
王族の方々と同じ扱いをと、少しばかり心が浮きだったが、やはり診られるのはとあれこれ、今日は体調が良い方だからと言い逃れを三つほど考えたのだが。
「はい、息苦しくて……たん? は、はい、からみます……」
「今は大丈夫だけど、さっきまで微熱が……」
「めまい? はい、します」
けれども脈を取られながら幾つか質問を答えただけで。
「なるほど。お嬢様は確かに難病ですね」
しっかりと。きっぱりと。
騙された――乗りきった。
王宮医師もちょろいと、空咳でプルニエは笑みを隠しつつ。
「こちらのお薬を服用してください」
そして薬を処方された。
「え、苦いのイヤ……」
「じゃ、注射で」
「飲みます」
しっかりとその薬を飲まされた――病気じゃないのに、何で飲まなきゃならないのと心の中でぶちぶち文句を言いながら。どうせ健康なのだからこんなの効きやしないのに――そう、文句を言いながら。
それからまた数カ月ほど経ったろうか。
アンゲール伯爵家から旅立つ馬車があった。中をベッドに改造された馬車が。
「……じゃあ、あちらで頑張って」
「……あ、ふ……ひゅー……」
もはや包帯の隙間から息を吐き出すくらいしか、彼女は……。
身体は赤くただれ膿が。鼻もまた落ちた。いまや意識も朦朧と。
儚げな風情は、いまや痛々しいばかりだ。
「まさかこんなにも酷い病だったとは」
アンゲール伯爵は約束通りプルニエを――いや最期まで養うと妻に。どうせあと幾ばくもないだろう。成人までもつまい。
彼女は王都よりも生まれ育った男爵家の、空気がきれいな土地に。その地にあった病院の一つを王家とルカリーリス家からの援助で「後の世のため」と、療養施設に改築したのだ。
生家の男爵家は空気がきれいなことくらいしか自慢のなかった領を、今後療養地として発展させてもらえると喜んだ。
可愛がっていたかわいそうな孫がその入院患者一号なのは哀しみではあったが。
けれども病室は明るく外の景色も素晴らしい。スタッフも皆一流の医療従事者ばかりで。
孫がそんな最期をゆっくり過ごせることを感謝しなくては。
そう亡き息子で兄の、その妻が。ルカリーリス家と縁を繋いでくれたと、また感謝した。
姪っ子も明るい笑顔を取り戻していた。プルニエが本当に身体が弱かったかわいそうな子だったのかと、哀れんで。そんなにかわいそうな子だったのなら――先が無い子だったのなら、自分ももっと優しくしてあげたのになぁ、なんて。
カメリアは元義実家からの手紙に、ふっと遠い目をした。
プルニエのせいで愛する夫の家から出ることになった。優しい義父母や義弟夫婦とも別れることになった。
再婚さえなければ愛する夫にも、いつでも婚家の領地にある墓地に逢いに行けたのに。
けれどあと数カ月、いや数週間もしたら……また行ける。
確実に一回は――葬儀には。
娘は、義実家の墓に入ることを今のうちから相談する。そんな手紙でもあった。
もう葬儀の話を。そんな段階だ。
元々プルニエはアンゲール伯爵家とは養子縁組をしていない。出戻って実家の墓も考えられたが、療養先がまさか自分の義実家で、娘にとっては生まれ故郷だ。
娘を可愛がってくれた義両親と義弟夫婦。そして甥姪もそうして欲しいと言ってくれている。
決定打は姪っ子の優しさだ。間に合って良かったし――娘が本当にかわいそうだと、同情されたから。
これは偶然か。
――いや。
「……これが貴族よ」
カメリアはぞっとしながらもその背をしっかりと伸ばした。
彼女もまた、男爵家産まれとはいえ――貴族だ。
娘を貴族として育てられなかった後悔はある。
母親だから無条件に子を愛してはいる。
だが、それと同時に責任も孕んだのだ。
母の愛は――カメリアは母の愛でもって、娘の死を受け入れた。
その早まった、死を――娘の自業自得を。
娘も治験役となれば、それで充分生きた価値もつくだろう……。
甘やかした祖父母たちは、その甘やかしによりかわいい孫が先に逝くという罰を受けるのだ。
それはどれほど辛いか……――。
何故、アンゲール伯爵家に王宮医師ほどのすごい存在が派遣されたのか。
それはアンゲール伯爵子息の婚約者がルカリーリス家の令嬢だったから。
そして彼女の姉の一人が、次期王太子妃――王太子の婚約者だったからだ。
ただでさえ裕福で政界にも力をもつルカリーリス家がこれ以上力を持ちすぎるのを懸念されたのは、次期王太子妃の実家となるからだ。
ルカリーリス家のヴィヴィアンの姉たちは。
妹と同じく金の髪に、揃いのロードライトガーネットの瞳をした美しい双子のローズマリーとルイーズマリーは――侯爵家の跡継ぎのローズマリーと、王太子妃となるルイーズマリーは。
そっくりな自分たちを見分けられる妹のヴィヴィアンを溺愛していた。
だからヴィヴィアンの嫁ぎ先は程良く無難を選ばれたが、妹かわいさでそれをアンゲール家にしたのもある。
そんな妹が婚約者のことで悩んで――怒っていることに、同じように悩んで怒ったのだ。
そしてヴィヴィアンを、同じく愛しい婚約者を見分けられることで可愛がっていた王太子も。
可愛い将来の義妹のために。
――王宮医師の派遣を。
そして並行して医療施設も。
これは元々ルカリーリス家が計画していたのをちょうど良いと、地図を見ていたローズマリーのペン先が、かの男爵家の土地を指さした。
孫を真っ先に、優先的に入れてやるとなれば――契約は進みやすかろう。
そうした繋がりを読めないようでは貴族では致命的。
プルニエはわかっていなかった。
自分が狙った相手が、悪すぎたことを。大きすぎたことを。
自分がただ母の再婚の連れ子と弁えていたら、アンゲール伯爵家と縁が――ルカリーリス家にわずかにも繋がれると、とても良い未来だってあったのに。年頃になれば、病弱でも良いと言ってくれる条件良き縁談が殺到しただろう。
まさに、自業自得。
病弱な義妹に婚約者がとられそう?
――じゃあ、本当に病弱になってもらおう。
学園に美しい婚約者たちの笑顔が戻った。
「明日は一緒に美術館に行く約束だったね」
「約束守ってくれる?」
「もちろん! もう……あんなことは」
ふと、デーヴィッドの笑顔が曇った。数週間前までの自分を思い出して。
「すまなかったね、ヴィヴィアン……」
「いいえ、病気のひとに優しくするデーヴィッドを、わたくしは大好きよ」
亡きエミリアのことがある。ヴィヴィアンとて本当に病気のひとには優しくしたい。
そう、二人は数週間前まで、難病にかかったデーヴィッドの義妹のことで大変だった。
二人で学園を早退することもあった。看病のためだ。義母であるカメリアや、王宮から記録――状態を診に、定期的に医師たちは派遣されてはいたが、同世代の二人がどこかに出かけた楽しい話をしたりしてあげるのは、さぞかしプルニエにも気晴らしになったろう。
その目が潤んでいたのは嬉し涙に違いない。
「また、もしもヴィヴィアンが哀しむようなことがあれば……次は、僕が何とかするから」
「まあ、デーヴィッド……もう、そんなことがないことを祈りましょう?」
「そうだね……祈ろうか」
そろそろ葬儀の話が来るだろうから。
一年も満たない義妹との関係だったが。葬儀を欠席するほど嫌ってはいなかった。
ただ、その病弱が――邪魔。
「本当にかわいそうな子だった」
――かわいそうになった子だった。
――祈ろう。
病弱な義妹ネタに挑戦。
でも私が書くと…だけど病弱ってんなら、じゃあ本当に病気になっちまえよ、と。
仮病はいけませんというお話。
過度な甘やかしもね。
何の病気の治験かは、お察しを。
たまには救いなく。いや治験だからのちに彼女のおかげで助かったひとはいたということで。
でも喘息は大変。お大事に。
まだまだ花冷えと、寒さもありましょうから、皆さま御身大事に。




