四章 選択肢の未来
「………………」
「お……………」
「お――い」
「お――い、咲夜?」
新太は、ぼーっとしている私に話しかける。
「…………え?」
私達は学校の屋上でお弁当を食べていた。
「どうした?ぼーっとしてるけど……」
「…………う、ううん、大丈夫」
「あ――私抜きで一緒にご飯食べてる!!」
りーちゃんが私達のいる屋上に走って来た。
「何だよ……お前そんな走って来て」
「それはこっちのセリフだよ“二人仲良く”いちゃつきながら食べてるなんて…………」
「別にいちゃついてねぇよ!」
あーちゃんは否定しながらも満更でもない表情していた。
(………………)
(…………何これ…………)
「それより二人とも来週勉強会しない?」
りーちゃんは明るくそう提案して来た。
「何だよいきなり…………もしかしてまた、点数悪かったんだな」
「ギクッ!?」
「新太…………何でその事を?」
「大体お前が勉強会を開くなんてそれぐらいしかないだろ……」
あーちゃんは明確にりーちゃんの事を見抜いていく。
「うぇぇぇ――ん」
「咲ちゃん酷くない?」
「新太こんな事言ってくるんだよ――!」
「確かにあーちゃん言い過ぎだよ!」
「うぇ……お前まで…………」
何気ない会話をしているうちにお昼休みが終わった。
そして、もうすぐ午後の授業が始まろうとしている。
私達は全力で教室まで走っていた。
ふと廊下の窓から校門側を見る。
(違う…………)
外は変わらない街並みの風景だった。
「咲夜、どうしたんだ?」
「ようだよ――早くしないと先生に怒られちゃうよ――」
(違う……こんな世界は…………)
「ほら早く、教室戻るぞ!!」
「そうだよ……また、“いつもの”授業だから」
新太は私の手を握り締め引っ張るように教室に向かう。
けど…………。
私は走る足を止める。
「あーちゃん、りーちゃん…………ごめんね」
「私は一緒に行けない……」
「………………」
「………………」
二人は沈黙する。
「あなた達は私にとってかけがえのない“大切な存在”…………」
「……だったの」
「…………だけどね、『夢』のあなた達に言っても、思いは届かない」
「だから、私は“一緒にいられない”」
「………………」
「“外”にはお前の想像を超える絶望的な世界になっているんだぞ…………」
新太とは別の、もう一人の男の人と声が重なり喋り方も変わる。
「それでも、私はもう目を逸らして耳を塞いだ子供じゃない」
「だから…………」
「私の歩みを止めるのはもうやめて“お父さん”!!」
無意識に『お父さん』と叫んだ。
いや、ずっと前からわかってた。
疑いたく無かった、けど…………
私をこの世界に閉じ込めた彼と話がしたい。
すると、梨沙は姿が消え、新太の姿は変化し、父、『天音京司』の姿に変わる。
だけど、本人ではない、『楽園ノ夢』が彼の感情や思考をコピーした存在、私を閉じ込める為の“管理者”として…………。
「わかっていたのか…………」
「何となく…………」
「でも、どうして私をこの世界に」
お父さんは険しい顔をし口を開く。
「お前を守る以外、何があるんだ」
「外の世界の状況は彼女達から聞いたよ」
「それが“真実”だ」
「お前を危険を遠ざけるのは親として当たり前だ!!」
声を荒げ怒鳴り始める。
だけど、私はお父さんの本当の本心を言う。
「違うよね……お父さんは私の『力』を失うのを恐れてるだけだよね……」
「私の中の……“お母さん”の……」
「それで、私をこの世界に…………」
「………………」
「でもね、私は自分の目で“本当の世界”を見て行きたいと思ってるの……」
「だから、ここでいつまでも燻っていられない」
「親である私の言うことを聞け!!」
お父さんは次第に情緒が安定しなくなり、体もノイズ混じりにぼやけていく。
「な、何故お前はいつも…………私を困らせるんだ」
「何故…………お、親の言うことを聞かない!!」
「お……お、お前は!!」
「もう、私は“自分で全てを決める”!!」
ゴゴゴゴ――――!!
地響きが鳴り始める。
すると、上からシャルが降りてくる。
「凄い、表現だね……」
「しゃ、シャル……今までどこに……」
「『楽園ノ夢』が君だけを強引に持ってっていって」
「ほんで、あたし達の技術である『結界』で守られたからね」
シャルは落ち着きながら自分の腰に手を置く。
「で、今、『結界』を張った“本人”が緩めたことであたしは入れた」
「じゃあ何で緩んだの…………?」
「“自己否定”されたからだよ」
シャルはそう言う。
「自己否定…………」
「君たち人間たちは自分達で物事を決める」
「そして、“失敗”しても次に続けてそうやって人間社会は生まれていった」
「だけどね……機械は違う」
「機械は役割を決定された存在」
「その“役割”を果たさなければ捨てられる“物”なんだよ」
私は再び崩壊する父を見る。
「あれはそれを視覚的にわかりやすいな……」
「『楽園ノ夢』……“人工知能”がある分、君の“進む意思”が『楽園ノ夢』の否定を意味する」
「それに人間から“生み出された”事でもある」
「結果的に人間に生み出され、人間に命令され、そして人間に否定される」
「真面目だからバグっちゃったね――」
「でも……そんな事してまで、何で君を守ろうとするんだろう……」
シャルは『楽園ノ夢』が意識の“バグ”を引き起こすほどなのか疑問に思っていた。
「わかんない……」
「?」
「そんなの、人間の私でもわかんない…………」
「そう……なの?」
(多分…………本当のお父さんは私を娘として、『愛』があったかもしれない)
(だから……私を『幸せの世界』)
(“楽園のような夢”にしたのかもしれない)
[…………える]
[……聞こえる!?]
ヘロの声が聞こえる。
「ヘロ!!」
「もう……終わったのか!!」
「えぇ……『楽園ノ夢』が何故か自我の崩壊をし始めたから思ったより早く終わったの!!」
すると、天の先に光の裂け目が見える。
「早くその光に飛び込んで!」
「あなた達まで崩壊に巻き込まれる!」
すると……シャルは私を抱きかかえフックワイヤーで光の裂け目まで、飛ぶ。
だが…………。
「うっ!?」
シャルの足に巨大な“手”のようなものが掴んでいる。
「おイてけ、実験タいのそ、そソぞ、そいつを!!」
『楽園ノ夢』は私を外へ出さない為、悪あがきの抵抗だ。
「くっ!!」
バン!バン!
シャルは掴んでいる“手”を銃で撃ち抜くも、効果がない。
「ど、どうしよう……このままじゃあ……」
私が弱気な事を言った瞬間……。
「ふぅん!!」
「わ!!」
私は中を舞うように光の亀裂に投げ出された。
「シャル!!」
私は必死に裂け目の隙間から手を伸ばす、だが……
「行って……咲夜……」
「え……?」
「言ったろ、あたしの役割は“君をこの世界から出す”事だと」
「任務は果たした……」
「何言ってんのよ!!」
「早く私の手を…………!!」
「ダメだよこの『世界』は“崩壊”を始めた」
「その、“崩壊”ウィルスに変換し、今あたしのコアに進行している」
「だから、“機械”のあたしはここに居ないとね」
「嫌だ!! 早く私の手に!!」
シャルは微笑みながら、私を見つめる。
「咲夜……今君の表情は一体どういう感情なんだい?」
彼女を救おうとする私は“涙”を出していた。
だけど、今の私の感情はぐちゃぐちゃだった。
そして……シャルの問いに対して咄嗟に口にした。
「怒っているんだよ!!」
「あなたはそうやってまた、私を困らせるんだ!!」
[もう……限界……シャル……!!]
そして、裂け目は消えた。
シャルは崩壊の世界と共に消えて行った。
私は光に包まれ、“目を覚ます”。
――西暦2132年――5月――
「咲夜!」
そこには心配そうなヘロといつまでも、目を瞑ったままのシャルがいた。
私は震える手を握る。
「…………まだ、許していないのに……」
「……まだ…………」
深く失意にも近い悲しみの感情…………
だが、そこには“涙は無かった”
機械となった体には涙は無かった。
「咲夜、彼女は任務を果たしただけなの」
「それが…………任務だったのよ……」
悲しみを負っているのは私だけじゃない…………。
それ以上にヘロの方が辛いはず……。
「…………」
私は地面に足をつき、立ちが上がる。
今の私はここに存在している。
助けてくれた彼女は任務と言う『プログラミング』だったかもしれない。
でも、最後に裂け目が閉じた瞬間の彼女は笑っていた。
それが彼女の意思なのか今となってはわからない。
「泣いていられない…………」
それでも、私は進み続ける。
彼女が私に託した無限にも近い“未来”という名の“選択肢の道”を…………。
「ヘロ……行こう……」
「あなた達の世界に…………」




