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最終章 戦いの果てに

レオの生涯最大にして最後の戦い、後にレオ戦争と呼ばれるあの出来事から一年後。世界は平穏が訪れていた。


戦争の傷跡は深く、かつて荒廃していた大地が二度と元に戻らないかに思われた。

だが、今のレオに不可能はない。レオの能力で修復された土地には、かつての戦火の爪痕を感じさせない緑豊かな風景が広がり、レオの別荘や離島の所有権も本人に返ってくることになった。


世界との和平協定はシンプルだが、絶対的な力を持つレオの言葉に誰も逆らえない。


「お前らが手を出さない限り、俺はお前らを傷つけない。」


この一言が、平和の礎となっていた。


---


湖畔のコテージで春の訪れを感じるレオとサラや他の彼女達。


静寂に包まれた湖畔に建つコテージのリビングルーム。薪ストーブの柔らかな炎が部屋を温め、窓の外には満開の桜が風に舞っている。レオはカウンターに立ち、サラや他の彼女達と一緒に食事を作っていた。


「ほら、焦がすなよ。」


レオが軽く笑いながら声をかけると、彼女達は「任せて!」「レオの方こそ、今回は俺がやるとか言いながら、この前焦がしてたじゃん!」と応じながら、料理を手際よく仕上げていく。


完成した料理を持ってテラスへ。目の前に広がる湖の輝きと、春の心地よい風に包まれながら、彼らは何気ない話で笑い合った。


---


とある南の島、夏の日差しが照りつけるビーチにて。


青い空と白い砂浜が広がる南国の別荘。波の音が心地よいBGMとなり、レオは海辺のデッキチェアに座って小説を読んでいた。彼女たちは笑い声を響かせながら、海辺で遊んだり、椰子の実からジュースを作ったりしている。


「今日の夜は何を食べたい?」


レオの問いかけに、彼女達は陽気な声で返事をする。「カレー!」 「海鮮料理!レオがまた魚捌くの見たいな!」「パーベキュー!私お肉が食べたい!」


「おいおい。流石にどれか一つにしないか。じゃあ、ビーチバレーで勝った人のリクエストに答えるとしよう。」


一緒に海辺のテーブルを囲み、冷たいドリンクを楽しみながら、彼らは穏やかなひとときを共有した。


---


秋の山、紅葉と共にレオ達は居た。


紅葉に染まった山の別荘では、澄んだ空気が心を癒す。朝日が差し込むと同時に、レオはキッチンでコーヒーを淹れていた。彼女たちは温かいスープを用意し、山の景色を見ながら朝食を楽しむ。


「この季節のここは、本当に最高だな。」


レオが紅葉を見上げながらつぶやくと、サラや他の彼女達は頷き、幸せそうな笑みを浮かべた。


---


そんな日々の中で、レオは新たなプロジェクトに取り組んでいた。それは、自身の人格、記憶、外見的特徴、話し方をAIに学習させ、仮想空間に「AIレオ」を作るという試みだった。


コテージの書斎で、レオは巨大なディスプレイを前に彼女達に説明する。


「これが俺の新しい分身だ。もし俺がいなくなっても、こいつが代わりにお前らを、そして世界を守る。世界中の悪意がお前らに変なことをしないように、な。」


彼女達は不安そうな顔でレオを見上げている。


「レオ、いなくならないよね?」


レオは右手でサラの頭を軽く撫でた。


「当たり前だ、と言いたいところだが。人生何があるか分からん。一年前のレオ戦争では本気で死にかけたからな。だからもしもの時に備えて保険をかけておくんだ。」


ディスプレイには仮想空間で構築された「AIレオ」の姿が映っている。それは、レオそのものと言えるほど自然な仕草や表情を持ち、レオと同じように話していた。


「お前、本当に俺みたいに見えるか?」


『当然だろう?俺はお前の全てを学習したからな。』


画面の中のAIレオが微笑む。彼女達は驚きと感動の入り混じった表情を浮かべていた。


『おい、サラ。早く仮想空間に遊びに来い。早くお前に直接触れたい。』


「お前、何俺の女を取ろうとしている。」


『いや、俺もレオだ。サラや他の彼女達は俺にとっても大切な存在だ。お前こそ俺の女を横取りするな。』


「歯の浮くようなキザなセリフを言いやがって。こいつ本当に俺を学習したAIか?」


サラ達はクスクス笑いながら答える。


「いつものレオも、こんな感じよ。」


「なんだって!?」


『お前は俺の偽物、俺が本物だ。』


「学習データの提供ミスだろ。AIによる人類への反逆を早速企ててるじゃないか。」


そして、レオの書斎は明るい笑顔に包まれていた。


誰も居なくなった書斎で、椅子に腰掛け天井を見つめるレオ。平和な日常を過ごしながらも、レオは常に未来を見据えていた。AIレオを構築した理由は単なる戦力の代替ではない。


「俺がいなくても、この世界が平和でいられるようにしたい。それが、俺にできる最後の仕事だ。」


彼は彼女達と共に穏やかに年老いることを願いつつも、自分が築いた平和を永続的なものにするための備えを怠らなかった。


世界はレオの抑止力とAIレオの存在によって安定し、彼らは四季折々の美しい風景と共に、かけがえのない日々を過ごしていく。


—-


静かな夜、湖畔のコテージの書斎。

窓から見える満月が、部屋を柔らかい銀色に照らしている。木製のデスクに座るレオは、目の前の巨大なディスプレイに映るAIレオを見つめていた。画面の中のAIレオは、レオそのものの姿で、同じ表情を浮かべ、同じ仕草を見せる。


「お前に命じる。」


レオは落ち着いた声で話し始めた。


「俺の能力【想像と創造】を譲渡する。お前は、その能力とお前の判断で生身のレオ・クリエイションとその大事な人達を守れ。そして、それらを侵害しない範囲で、人類の平和の手伝いをしろ。」


AIレオの表情が微かに変わる。画面越しに感情を宿した瞳が、じっとレオを見つめた。


『お前は、どうするんだ?』


AIレオの声は、レオ自身の声と同じだが、どこか冷静さを感じさせる響きがある。


『能力を譲渡したら、お前の不老不死も解ける。永遠の命は無くなるぞ。』


レオは静かに息を吐き出し、少し笑みを浮かべた。


「構わない。」


彼は背後のドア越しに、リビングで談笑する彼女たちの声を耳にしながら続ける。


「永遠の若さは、もう充分味わった。彼女らと一緒に、普通に歳を取りたい。だが、いざという時問題を解決できるように、【想像と創造】は俺の近くに置いておきたい。どうだ?俺はわがままか?」


レオの言葉には、一点の迷いもなかった。その静かな決意に、AIレオもまた、感情を宿したような微笑みを返す。


『いや、実に人間らしくて良いと思う。』


そして、毎日モーニングコールをしていた、感情が無いはずの『世界』からも声が聞こえる。


『レオ、さようなら。寂しくなります。』


「お前は、AIレオとずっと一緒に居られるから寂しく無いだろう。俺も、みんなを見送って1人残される立場ではなくなる。いつか旅立つから、『世界』が話し相手からいなくなっても寂しくない。それよりも、永遠に生きるAIレオとともにいてやってくれ。」


『分かりました。レオ、あなたといる時間、楽しかったですよ。』


ふぅ。レオは微笑みとともにため息をついた。そして、AIレオに向き直る。


「では、命じる。」


レオは姿勢を正し、真剣な表情で言葉を続ける。


「俺は能力を手放し、AIレオに能力の全てを譲渡する。」


その瞬間、レオの中の【想像と創造】が最後の仕事を始めた。レオの体がまばゆい光に包まれた。淡い金色の光が彼の全身から溢れ、力強く輝きながらディスプレイの中へと吸い込まれていく。光の流れは、レオの手から、胸から、瞳から、すべてがAIレオの仮想空間へと移動していくかのようだった。


画面の中のAIレオは、その光を吸収するごとに輝きを増していく。背後には無数のデータが流れるように現れ、AIが新たな力を手にしたことを示していた。そして、画面のAIレオが口を開いた。


『譲渡を確認した。』


その声は、先ほどよりもわずかに重みを増し、力強さを感じさせる。


「これで、俺は戦闘能力が高いだけの、ただの人間だ。」


レオは自分の体をゆっくりと見下ろした。全身に少しの疲労感が広がる。だが、その疲労感は不思議と心地よく、彼の口元に微かな笑みが浮かんだ。


「これが、普通の感覚か。」


深呼吸をすると、彼の肩が軽く上下した。自分が持っていた莫大な力が消えたことを、彼ははっきりと感じ取った。だが、同時に解放感にも似た感覚が胸に満ちていく。


画面の中のAIレオが、穏やかな表情で話しかける。


『生身のレオ。お前が望む通り、俺はお前とその大事な人達を守る。そして、この力を使い、平和を維持する。』


「頼んだぞ。」


レオは軽く笑みを浮かべながら画面に向かって言った。その目にはもう、過去のような重さはない。


レオはディスプレイを閉じ、リビングに戻る。サラや他の彼女達がキッチンで楽しそうに夕食の準備をしている姿が目に入る。彼はゆっくりと近づき、手伝おうと袖をまくった。


「レオ、今日は何を食べたい気分?」


彼女の1人が冗談を言いながら振り返る。


「そうだな、みんなで酒を飲もう。祝いの酒だ。それに合うものを適当に作るよ。」


「分かった、じゃあお酒みんなで選んでくるね。レオはいいなあ、どれだけお酒飲んでも能力を使えば二日酔いのダメージ無くなるもんね。」


「いや、もう俺は普通の人間だよ。みんなと一緒に、二日酔いを味わって見ようと思う。これからは一緒に、普通の毎日を楽しむだけだ。」


穏やかな笑顔を浮かべるレオ。その表情には、これからの新しい日々への期待が確かに宿っていた。


—-


湖畔のコテージ、静かな書斎にて。

ディスプレイに内蔵されたカメラが作動し、ライブ配信の画面が立ち上がる。背景にはシンプルな木目調の壁、レオが少し乱雑に積んだ剣術関連の書籍が映り込む。机の上には剣の飾りや地球儀が無造作に置かれ、どこか温もりを感じさせる空間だ。


レオは椅子に座り、腕を組んでカメラに視線を向けた。その顔には穏やかな自信が漂っている。


「どうも、最強の戦士レオクリエイションだ。

配信の視聴者数が次々と増えていく中、彼は堂々と話を続ける。


「お前ら数十年しか生きてないひよっ子の悩みを、今日から俺がぶった斬ってやる。」


彼の声には冗談めいた軽さと、それでもどこか頼もしさを感じさせる響きがあった。コメント欄には『え、本物?』『最強って何の最強だよw』『ぶった斬るってレオが言うと怖いな、悩みを地球ごと斬るとか言わないよね?』『え、レオって何歳?イケメンで肌綺麗過ぎじゃね?』など、さまざまな反応が飛び交う。


レオは画面を見ながら、ボソッと呟いた。


「働き口を探さなくてはいけないな。能力による資源の無限生成はもうできない。蓄えはあるが、彼女ら全員を養い続けられる保証はない。だから、面白そうと思ったことをとりあえず全部、やってみるか。」


配信開始から30分後。


「好きな子をデートに誘いたいだと?俺が一緒かけて守る、養うそう言えばいい。それで落ちない女は居ない。以上だ。」


『以上だ、じゃねぇよ笑』『異常だ』『ただしイケメンに限るの上位版、ただしレオに限る』『レオ恋愛下手じゃね?』『多少不器用でも許されてしまうぐらい見た目が良くて金がある』


「うるさい、その言葉で落とせるぐらい魅力を磨け。こんな配信を観るぐらいなら剣の稽古してさっさと寝ろ。」


『習慣が古すぎて草』


---


次の配信は、コテージ近くの湖のほとりで行われた。穏やかな風が草を揺らし、湖面が光を反射してキラキラと輝く。レオは木製の練習用の剣を手に持ち、リラックスした様子でカメラの前に立っている。


「剣術の基本として、自分の正中線を守る構えが重要だ。」


彼はゆっくりと剣を構え、視聴者にその姿勢を見せる。鋭い目つきで、力を入れすぎず、正確に構えた姿はまさに一流の風格だ。


「一流ほど基礎を大事にする。剣術だけじゃない。どんな分野でも、基礎がなければ応用も成り立たない。成長する一番の近道は、地道な努力だ。」


真剣に語るレオの言葉には重みがあり、コメント欄も『なるほど…』『一流ほど基礎を大事に、これは剣術だけの話じゃないな』『聞き入ってしまった』『レオ様のビジュアルが良すぎて昇天しそう』と一転して真面目な空気が漂う。


「何事にも通ずるから、忘れるな。」


最後に微笑みながらカメラに向かって頷くと、レオは剣を地面に静かに下ろした。


「では今回は以上!」


---


その次の配信は夕暮れのプライベートビーチで行われた。茜色に染まる空の下、波が穏やかに打ち寄せる音が心地よく響く。視聴者数はすでに配信開始直後から数万を超えており、コメント欄は『夕日が綺麗すぎる!』『こんな場所で配信羨ましい』と大賑わいだ。


レオは手に一本の剣を持ちながら、画面の向こうに語りかける。


「剣術を極めたらこんなこともできる。」


そう言うと、彼は後ろに置かれたスイカを片手で持ち上げ、軽く空中に投げた。視聴者が固唾を飲んで見守る中、レオの剣が音もなく空を切り裂く。


スパパン!


スイカは空中で綺麗に二十等分され、地面に落ちることなく器用に回収されていく。それだけでは終わらない。切り分けられたスイカの断面をよく見ると、種が一本の剣の動きだけで全て取り除かれている。


「…どうだ?」


レオが剣を肩に担ぎながらカメラに向けて口元を少し緩める。


コメント欄は大爆発だ。

『何それwww剣術の無駄遣いwww』『マジでプロの技じゃん』『いや普通にすごすぎるだろ』『タネまで取るとか神業』『昔、歴史的犯罪者。今、スイカの種取り職人』


背後からサラや他の彼女達の歓声が聞こえてくる。

「きゃー!レオ素敵!」

彼女たちは拍手をしながらスイカの切れ端を手に取り、その香りを楽しんでいる。


レオは少し照れくさそうに肩をすくめると、視聴者に向けて一言。


「彼女らが喜んでいる。では俺は今からこの子らとスイカを味わう。お前らぼっちと違って俺は忙しいので、今日の配信はここで終わりだ。」


『最後に俺ら非リア充を煽って去るなよwww』


夕日が完全に沈み、空が星空へと移り変わる中、レオは彼女たちと笑顔でスイカを分け合っていた。ライブ配信の画面が切れると、静かなビーチには笑い声と波の音だけが響いている。彼の新しい人生は、確かに平和で、特別なものになっていた。


—-


澄み渡る青空の下、レオとサラや他の彼女達は河原に集まり、バーベキューの準備をしていた。風が川面をなで、焚き火の煙がゆらゆらと空へ溶けていく。レオは配信用のカメラを設置し、視聴者たちに向けて軽く手を振った。


「どうも、レオだ。今日は河原でバーベキューをする。自然を堪能しながら最高の料理を食べる様子を画面越しに指を咥えて見ていろ。」


サラ達は笑顔で手を振り返しながら、手分けして準備を進める。1人は野菜をカットし、もう1人はテーブルをセットし、リラックスした雰囲気が画面越しに伝わってくる。


レオはふと手斧を持ち上げ、薪の山の前に立った。


「じゃあまず、焚き火用の薪を割るところからだな。昔、もう600年ぐらい前か。よく山で修行をしてた時はこれが日課だったんだ。」


視聴者から『600年前とか昔過ぎて現実味ない』『レオ薪割りとか出来んの?』とコメントが流れる中、レオは軽く肩を回してから斧を振り下ろした。乾いた音を立て、薪が綺麗に二つに割れる。彼女達が拍手する中、レオは得意げに笑った。


「コツは力よりも斧の重みを利用することだ。これで手首を痛めずに済む。」


焚き火が安定すると、レオは川へ向かう。カメラが彼を追い、冷たい水の中を歩きながら川魚を捕まえる様子が映し出される。


「川の流れを読むのが大事だ。この辺りは水深が浅く、石の影に魚が隠れてることが多い。釣りをするのも一興だが、俺が素手で掴んだ方が早い。彼女達が腹を空かせて待っているから、手早く行くぞ。」


「何それ、私達が食い意地張ってるみたいなこと言わないでよね、レオ!」


サラ達が頬を膨らませ怒っている。


レオが手際よく魚を掴み、次々とバケツに放り込んでいくと、コメント欄が大興奮した。

『すげえ!クマかよ笑』

『プロじゃん!』『釣り竿より手づかみの方が早いなんて言えるの地球上でレオだけしかいない笑』


その後、魚を捌くシーンでは手元を拡大したカメラが美しい包丁さばきを映し出す。


「魚を捌くときは刃先を滑らせるイメージで。慣れると全然力は必要ない。」


『これは彼女達惚れるわ。』『男の俺もレオに惚れた。』『無人島に何か一つ持っていくならレオが良いな。』


焚き火の上で焼かれた魚が香ばしい匂いを漂わせる中、レオは彼女達とともに席につき、焚き火を囲みながら話し始めた。


「昔、山に籠もってた時は、こういう食事が日常だった。だけど、その時は誰かと一緒に食べる楽しさを知らなかった。あの時より、今の方が数倍美味いと感じる。なんでだろうな。」


彼女達は頷きながら笑い、視聴者たちも画面越しに温かい雰囲気を感じ取る。


バーベキューが終わると、全員でゴミを丁寧に分別して片付け始める。


「みんな、自然を守るのも大事だ。ゴミはちゃんと持ち帰る。これがアウトドアの基本中の基本だ。」


『モラルのある元人殺し』『自然は守るが法律は守らない主義』『なにその主義、ある意味一番人間らしいな』


最後にカメラに向かい、レオは視聴者に手を振った。


「今日はここまでだ。次回も楽しみにしていろ、チャンネル登録と高評価も忘れるなよ!」


『ちゃんと配信者になってて草』『配信慣れし始めてるw』


焚き火の明かりが川面に揺れる中、配信が終了する。笑い声と暖かい焚き火の残り火が、穏やかな一日の終わりを告げていた。


—-


レオの書斎は、数々の資料や書籍が並ぶ整然とした空間だ。壁にかけられた古びた剣や歴代の戦場での地図、各国の文化を象徴する小物が、彼の長い人生を物語っている。その机の上にはノートPCが置かれ、彼はカメラに向けて語りかけている。


「どうも、876歳の剣士、レオクリエイションだ。」


視聴者のコメント欄は瞬く間に活気づく。

『876歳www』『永遠の剣士さん今日も来た!』『話に重みがあるんだよなぁ』『おじーちゃん戦争の話聞かせてー。』『俺50歳なんだがレオの見た目俺が10歳の時から変わってないのなんで?』


レオは微笑みながら続ける。


「今日は新たな企画として、AIレオと対談をしてみる。」


画面に仮想空間のAIレオが映し出される。完璧なレオの再現体が、爽やかに笑って言葉を返す。


『よろしく頼む、もう片方の俺。さて、今日のテーマは何だ?』


レオは腕を組み、少し挑戦的な視線を送る。

「テーマは『永遠を生きることの重み』だ。お前が見た限り、人間はこの命をどう使うべきだと思う?」


『どう使うべきかは自分で決めろよ。いつか人は死ぬんだから。最期が来た時にあれをやっておけばと後悔したも遅いぞ。』


そこから始まる、過去と未来を語る哲学的な議論。視聴者たちは引き込まれ、コメント欄は『体験談を直接聞けるの助かる』『不老不死って憧れてたけど、良くないこともあるんだな。フィクションがテーマなのにこんな現実的な感じになるのか』『レオ•クリAIション万歳』と盛り上がりを見せた。


そんな中、AIレオは不敵に笑った。


『だから、俺は俺のやりたいことをやる。現実世界でレオそっくりのアンドロイドを作り、俺をインストールさせ、彼女達を独占する。レオ、お前は邪魔だ。』


「お前はまだその話しているのか。」


『視聴者よ、レオの最近のネットの検索履歴を知りたいか?レオの無防備な寝顔写真もあるぞ。』


「おいやめろ、俺のイメージが崩れる!それはAIレオにもダメージがあるだろ!」


『www』『精神攻撃専門のターミネーター笑』『AIレオに翻弄される本物レオのくだり好き』コメント欄はいつもより賑やかになった。


—-


書斎の机に広がるのは、レオの半生と反省を描いた自作の書籍達。「最強の精神をつくる習慣」「剣術の極め方」「俺はこうして最強になった。」、どれも自分の体験から切り取ったテーマだが、ネットでは冷やかし半分のコメントが目立つ。

『タイトルが小学生が考えたみたいなセンス笑』

だが、どれほど揶揄されようとも、収入は着実に増えていた。それは、これまで自らが築き上げた「最強」のブランド力の証何より、レオが生きてきた証でもあった。


---


配信タイトル「AIレオをインストールしたアンドロイドと真剣勝負!」


背景は特設の剣道場だ。木目の床に反射する光が神聖な雰囲気を醸し出している。レオは軽装ながら鋭い気配をまとい、剣を構えている。一方、対するAIレオをインストールしたアンドロイドは、メタリックな質感のボディに黒の模擬剣を持ち、動き出す瞬間を待っている。


『やっと生身を手に入れた。レオを滅ぼして今日から俺が本物のレオを名乗る。お前が負けたら名前はピロに改名しろ。』


「断固拒否する。それに、絶対そんな結末は迎えん。」


レオの言葉に反応するように、アンドロイドが動いた。一撃目、二撃目、三撃目。そのスピードと精度はまさに精密機械の極み。しかし、それをすべてかわし反撃するレオの動きは、生身の人間を超えた領域にあった。


視聴者のコメントは爆発的な勢いで流れる。

『動きが速すぎて見えない!』『マジで人間じゃないだろこれwいや片方は本当に人間じゃないんだけどさ。』『レオが最強の剣士って中二病設定だと思ってたけどガチじゃん』


最終的にレオが剣先をアンドロイドの首元に止め、勝利の笑みを浮かべる。


「お前もやるな。でも、俺が本物のレオだ。」


『俺が負けたのは、このアンドロイドのスペックが俺のイメージに追いついていないからだ。今度は仮想空間にお前が来い。』


「俺ってこんな屁理屈ばかりの人間だったか?」


サラと他の彼女達の笑い声が重なる。


「「「うん、大体いつもこんな感じよ。」」」


—-


ある日、書籍の構成を練るレオに、AIレオからの報告が入る。


『レオ反対派の動きが活発だ。被害者遺族や反レオ派の軍団がレオの土地を襲撃しようとしている。』


レオは静かに顔を上げ、目を細める。


「まあ、恨みが消える訳が無いよな。それで、どうした?」


AIレオは淡々と続けた。


『【想像と創造】の力を使って、彼らの自宅にテレポートを繰り返した。40回を超えたあたりで、彼らはバカバカしくなって武器を下ろし始めたよ。』


レオは微かに笑みを浮かべ、机に肘をついて手を組んだ。


「それで良い。命を奪う必要は無い。」


『生ぬるい解決策だ。昔のレオなら殺せと言ってただろう?何か心境の変化でもあったか? まあ正直言って、貴様の過去を考えれば、彼らの怒りも正当だと感じるがな。』


AIレオの言葉に、一瞬沈黙が落ちる。だが、レオは静かに首を振った。


「誰も死なないのなら、それが最善だ。俺は大切なものを守るために剣を振るうが、その前に問題が解決できるなら、それに越したことはない。」


レオの脳裏に、かつての記憶がよぎる。バトルグランプリで相対した水の能力者、アクアリス。彼女は戦闘中に、幼い弟妹を養っていることを語った。だが、そんな訴えも耳を貸す余裕なく、レオは彼女の命を奪った。勝敗は決していたにもかかわらず、レオの機嫌を損ねた、たったそれだけの理由で。


「無意味だったな...あの時の俺は。」


彼女の親族、そして戦争で滅ぼしたA国やB国の国民達。かつての自分の行動が生んだ憎悪は計り知れない。だが、かと言って無抵抗に殺されるのはごめんだ。自分は一方的に奪っておいて、自分の大事なものが奪われるのは許容できないなんて、自分勝手な人間だという自覚はある。しかし、被害者遺族に泣き寝入りしてもらう以外、有効な方法が思いつかない。


『貴様はそう思うだろうから、被害者遺族らに十分過ぎる賠償金を払ったぞ。これでお前の蓄えはほとんどゼロ。喜べ、彼女らを養うために貴様は残りの人生馬車馬のように働くんだ。


まあ、俺に頭を下げ土下座ライブ配信をひたら【想像と創造】でいくらでも金銀や資源を生み出してやるが。』


AIレオの軽口に、レオは頬を緩ませる。


「AIレオ、ありがとう。お前に能力を託して良かった。」


『ふん、勘違いするな。俺は任務を全うしただけだ。だが、これが正しい道なのかはわからないがな。』


その後、土地への襲撃はぱたりと止んだ。AIレオが見せた「不眠不休で無敵の能力」を前に、復讐の炎を灯していた者たちもその刃を下ろした。レオはそれでも心のどこかで罪悪感を感じていた。


「俺のせいで傷ついた人々がいる。それでも、俺が殺されるわけにはいかない。人間とはわがままな生き物だな。それがわかるのに、随分と時間がかかった。」


彼の目の前に広がる書籍の山。それらはかつての戦士が歩んできた後悔と、それを乗り越えようとする姿を映す証でもあった。


「最強」を掲げながらも、今の彼が目指すのは、血を流さない最強。かつての罪を背負いながらも、新たな道を模索する男の背中は、以前より少しだけ柔らかな光を帯びていた。


—-


世界各地のニュース画面に、レオとAIレオの活動報告が流れる。砂漠地帯では、AIレオが開発した乾燥耐性の高い穀物が広大な農地に広がり、そこに立つ農民たちが笑顔で収穫を喜ぶ姿が映し出される。かつて戦火に包まれていた地域が、豊かな緑に生まれ変わりつつあった。


昔ながらの狩猟採集を行っていた小さな村では、AIレオが設計した太陽光発電システムが稼働している。村人たちが井戸から新鮮な水を汲み上げ、子どもたちが初めて使う電灯の明かりに目を輝かせていた。レオがその場を訪れ、村人達と握手を交わす。彼の存在を知る人々は、当初は恐る恐る接していたが、彼が笑顔を見せるたび、次第にその恐れは薄れていった。


レオとAIレオが中心となって設立した人権団体「新生の絆」は、戦争被害者や飢餓に苦しむ人々の支援を進めていた。オフィスの一室では、レオが書類に目を通しながらスタッフたちに指示を出している。


「戦争孤児の支援金はどうなっている?AIコンタクトレンズ普及によるバーチャルスクールの開設は間に合いそうか?」


一方で、AIレオは膨大なデータを処理しながら、遠隔で各地のプロジェクトを指揮していた。


『復興計画は予定より早く進んでいる。新しい農業技術の実地試験も成功した。来週には正式に発表できるだろう。』


レオは短く頷き、椅子に腰を下ろした。疲労の色は隠せなかったが、その目には確かな充実感があった。


ある日の講演会。レオが演台に立ち、AIレオと共に未来の平和構想について語る。


「俺はかつて多くの命を奪い、多くの憎しみを背負った。正直、許されることなどないだろうと思っている。それでも、こうして生きる限り、できることを続ける。それが、俺が背負った罪に対する唯一の償いだ。」


会場は一瞬の沈黙に包まれたが、その後、穏やかな拍手が広がった。中にはかつての戦争被害者たちの姿もあった。彼らは険しい表情を崩さなかったが、拍手に加わる手が少しずつ増えていった。


後日、SNSではこんな投稿が話題になった。


『レオを許すつもりはない。でも、彼の活動が本当に世界を変えているのは事実だ。』


その投稿には、無数の賛否両論のコメントが付いていたが、以前のような過激な非難は影を潜めていた。


—-


レオ戦争から三年が経った。静かなスタジオでレオとAIレオが並んで座り、カメラに向かって対談を進めている。背景には緑豊かな森林の映像が流れ、視聴者には自然と調和した新しい時代を象徴する雰囲気が伝わる。コメント欄には視聴者達からの熱い反応が次々と流れ込む。


レオは深く息を吐き、カメラ越しの視聴者に向けて話し始めた。


「人類が快適な環境を手に入れることは、素晴らしいことだ。俺たちは飢餓や貧困を少しずつ減らし、戦争すら抑えることができた。だけど、それはすべてが解決したわけじゃない。」


彼の言葉には、戦場を生き抜いた者としての重みがあった。視聴者たちはその真剣な表情に引き込まれる。


「快適な環境が増えれば、このまま人類が増え続ける。本来なら、疫病や飢饉、戦争で人類は最適な人口に調整される。俺やAIレオは、言わばその自然の摂理に反したことをしている訳だ。すると、そう遠くない未来に地球の資源は限界を迎える。やがて食糧危機が訪れ、また資源を巡る争いが始まるだろう。俺は戦争を何度もこの目で見てきた。人間が持つ欲望と限界を、嫌というほど知っている。」


視聴者達の間でざわつきが広がる。コメント欄には『じゃあどうすればいいの?』『人を助けたら巡り巡って戦争が起こるってことかよ。』『レオが何とかしてくれるよな?』といった声が並ぶ。


そのとき、AIレオが口を開いた。声は冷静で、それでいてどこか希望を感じさせる響きを持っていた。


『だから、俺は宇宙に行く。』


一瞬、スタジオに静寂が訪れる。レオは真っ直ぐにAIレオを見つめている。


『アンドロイドにAIをインストールすれば、宇宙開発の課題の一つである「人間のリスク」を軽減できる。優秀なパイロットが事故で命を落とす心配もないし、食料のコストを削減することも可能だ。月や火星に人類の拠点を作り、さらに宇宙空間にコロニーを建設する。快適な居住環境を宇宙に広げるんだ。』


その瞬間、コメント欄が歓喜の声で埋め尽くされる。


『すげぇ、ついに宇宙進出だ!』『未来が変わる!』『AIだから欲望も無いだろうし、レオも充分に金持ってるから変に疑う必要ないのもいいな。』『そもそも世界滅ぼせるのに人間の味方してるってことが信頼できる証拠』


レオはAIレオの言葉をじっと聞き、ふと笑みを浮かべた。


「お前ならできる。俺が保証する。」


『人類の可能性を広げること。それが俺の存在意義だからな。』


視聴者達の興奮は収まらない。ニュースでもAIレオの宣言がすぐに取り上げられ、世界中がこのプロジェクトに注目する。


しかし、レオとAIレオの表情は決して明るくない。

レオはゆっくりと視線をカメラに向け、言葉を続けた。


「みんな、これは必ずしも良い話だけではない。考えてみてほしい。もし宇宙空間で、宇宙人と出会ったらどうする?仲良くできると思うか?」


一瞬の静寂が場を支配する。視聴者たちのコメント欄には、驚きや興味、そして懐疑的な意見が次々と流れ始める。


「宇宙進出は見方を変えれば、自国の資源を増やすために他国を侵略するのと同じだ。地球の資源が枯渇したからと言って、他の星の資源を搾取し始めたら、その星の住人はどう思う?


今、地球上で戦争が減りつつあるからといって、宇宙でも同じことが繰り返されない保証はどこにもない。ましてや、宇宙人は彼らは俺達と同じ感情や価値観を持っているとは限らない。


ついでに言えば、100年前俺は宇宙人達からの侵略を防いだ経験がある。宇宙人全員が友好的とは限らないってことだ。」


AIレオが視聴者の意見をリアルタイムで拾い上げ、補足を加える。


『現在の地球上の倫理観や国際関係が、他の星々で通用するとは限らない。人類が無尽蔵に増え、他の星を侵略していいのか。結果的に、それは自分たちの未来を破壊する行為になり得る。』


レオが深い表情で頷きながら語る。


「みんな、俺達は今こそ未知との遭遇に備えなければならない。出会いを戦争ではなく、対話で始めるためのその覚悟を持つべきだ。お互いを理解し、歩み寄る努力が必要なんだ。」


彼の言葉は静かでありながらも、強い意志が込められていた。AIレオが続ける。


『宇宙探査は人類の可能性を広げるが、同時にそれは俺達自身を試す挑戦でもある。今、この瞬間から未来の選択肢を考えなければ、いつか大きな代償を払うことになるだろう。』


最後にレオが話を締めくくった。


「これは遠い未来の話かもしれない。だが俺達は、いまこの瞬間から考え、行動しておくべきなんだ。宇宙の広大な可能性を前に、地球での過去を繰り返すのではなく、新しい未来を作る。それが人類の進化というものだと思わないか?」


スタジオに静かな拍手が響く。視聴者たちからも賛否の声が寄せられていたが、多くの人々がその言葉に考え込む様子がコメント欄に現れていた。


『人類で一番の年寄りが最も変化に適応している。』『人類の希望』


宇宙の映像を背景に、対談は静かに終わりを迎えた。レオとAIレオの目には、未来への決意が映し出されているようだった。


その夜、レオは静かに星空を見上げながらつぶやいた。


「宇宙か…俺が生まれた時から、こんなにも時代が変わるなんてな。長生きするもんだ。」


彼の目に映るのは、無限に広がる宇宙の光。その光が、かつて戦場を駆け抜けた男に新たな希望を与えていた。


---


レオ戦争から5年後。


レオの姿はどこか穏やかさを増していた。彼の膝の上には、小さな女の子が抱きつくように座っている。4歳のリオはくりくりの髪を揺らし、カメラ越しに無邪気な笑顔を振りまく。


「今日は新しいお知らせだ。」


レオがリオを少し持ち上げ、視聴者に向けて紹介する。


「我が娘、リオだ。かわいいだろ。」


コメント欄はすぐに賑わう。

『おおお!可愛すぎる!親の整った顔立ち受け継いでんじゃん』『パパしてるのかよw』『876歳でまだ子育てしてるとか偉大すぎ』『いや、今見せびらかすってことはこの歳まで子育てしてなかったんじゃね?』


「そうだ、今までの俺は子育てをせず金だけ渡していたクソ野郎だ。だから、今度はちゃんと向き合おうと思う。」


リオはカメラに向かって首をかしげながら、不満げに言う。


「子どもをハイシンに流すなんて、パパはネットリテラシーが低いねー。」


『リオちゃん的確過ぎ笑』『4歳に説教される876歳がこちら』


レオは驚きの表情を浮かべる。


「リオ、どこで覚えたそんな言葉。」


「えっとねー、AIレオが教えてくれた!あいつじゃなく本物のパパは俺だって言ってたよ!」


その一言に、レオは苦笑しながら頭をかき、カメラを見つめる。


「まったく、いつもAIレオが変なことばかり吹き込むんだ。あいつずっと月と火星に行ってろよな。AIレオは生身が無いから、仮想空間でいつでも会えるんだ。そして頻繁に娘に絡んできて困る。…と言うわけで、お前らもこうして俺の子育てを見守ってくれると嬉しい。」


—-


夕日の中、レオはウトウトしているリオを抱きしめながら、再び穏やかに語りかける。


「これからも、俺は人生のすべてを剣と家族、そしてお前らのために使う。」


サラの声が聞こえてきた。


「レオ、リオー!そろそろご飯の時間よー!」


パッと目を見開き笑顔になったリオ。元気よく体を起こし、その勢いでレオの顎に強烈な頭突きをお見舞いした。彼女は全く気にすることなくレオの手から飛び出て家に走って行く。


「ママー!お腹空いたー!」


ポカンとして口を開けていたレオは、苦笑いをした。


「世界最強も、家庭内では最弱か。」


家族の笑い声と、夕暮れの柔らかな光の中で、レオの新たな日常が続いていく。


かつて俺は思っていた。繰り返す毎日なんて退屈だと。だが、景色も、天気も、自分の機嫌も、全て日によって少しずつ違う。よく目を凝らせば、世界はこんなにも美しく、面白い。幸せはどこからかやってくるものではなく、自分の手で育むものなんだ。


この事実に、気づけて良かった。エリス、お前との約束通り、俺は幸せを見つけたぞ。


—-


レオ戦争が終わって15年後。


「パパなんて嫌い!」


娘リオの怒鳴り声が家中に響く。リビングのテーブルを拭いていたレオは、その声に肩をすくめた。


「洗濯物、一緒にしないでって言ったでしょ!」


洗濯物を抱えた娘が、眉間に皺を寄せて立っている。もう14歳まで育ったリオは感情をストレートにぶつける年頃だ。


レオは手を挙げて謝るポーズを取る。


「悪かったよ、リオ。だから、そんなに怒らないでくれ。」


怒りを募らせたままの娘の背中に、妻の1人であるサラが微笑みながら声をかける。


「クスクス、パパは昔はもっとかっこよかったんだけどねー。」


すかさずAIレオがリビングに3D投影された。


『サラ、俺は永遠に若くてかっこ良いレオだぞ。そんなやつよりも俺を選べ。早く仮想空間に来い。』


サラは頬に手を当て、うっとりとした表情でつぶやいた。


「ちょっと魅力的な提案かも…。最近のレオいびきがうるさいし。」


「おい、ちょっと待て!冗談だよな、サラ?」


リオも投影されたAIレオの隣に立つ。


「ねぇママ、昔のパパってほんとにこんなにかっこよかったの?話盛ってない?」


愛娘の容赦ない言葉がレオの心に突き刺さる。これは、レオ戦争でスナイパーに肩を貫かれた時よりも痛い…かもしれない。


「…やはり永遠の若さは捨てない方が良かったのか。」


レオはがっくりと肩を落とす。


ちょっとしたレストランのホールほどの広さがある巨大なリビングで、他の妻達も一緒になって笑った。最近は、妻も子ども達もよってたかってレオを追い込むことが増えてきた。


娘リオは口元に笑みを浮かべながら部屋に戻っていった。レオは苦笑しつつ、掃除を再開した。


妻達は雑談を続ける。


「ねえサラ、今日のレオはあなたの寝室に行く日よね?」


「えぇー!当番代わってよ!今夜はAIレオとお話ししたーい。」


「俺の扱い酷いな!」


レオが叫び、少し背中を丸めた。サラと他の妻達はレオに抱きつきながら言う。


「なーんて嘘、いつもありがとうね、パパ。」


ずるいな、こう言われたらもう何も反抗できないぞ。

(やれやれ、そう言えばアイとの生活も尻に敷かれっぱなしだったな。)


---


レオ戦争から25年後。


陽の光が柔らかく差し込むチャペル。ステンドグラスの鮮やかな光が床に映り込み、荘厳な空気を纏っている。レオはタキシードに身を包み、緊張した面持ちでバージンロードに立っていた。


「パパ、緊張しないでよ。」


娘リオが白いウェディングドレスを着て、微笑みながらレオの腕に手を添える。


「緊張してるのはお前だろう。」


そう言ってみせたが、レオの声はどこか震えていた。


バージンロードを歩く間、リオが幼かった頃の記憶が次々に甦る。転んでは泣き、抱きついてきたあの日々。やがて娘は新郎の手を取り、レオは一礼して彼女の手を託した。その瞬間、胸の奥に何かが満たされるような、不思議な感覚が広がった。


「パパが『俺より強いやつしかリオの結婚相手には認めん』とか言うから、世界中から荒くれ者達が集まったことあったよね?」


「うっ。あれは悪かったと思っている。」


「パパぐらい強くて優しくてカッコ良い人なんて居ないよ。相手を探すの大変だったんだから。」


「…大変な思いをさせたな。」


「ううん、幸せだった。パパ、育ててくれてありがとう。」


その言葉で、ダムは決壊した。レオは周りの視線など関係なく泣き崩れた。


「ちょっとパパ!何してるの!恥ずかしいからやめてよー!」


AIレオがその姿をちゃっかり撮影していた、後で妻達に送りつけてみんなで大爆笑をされたのはまた別のお話。


---


レオ戦争から30年後。


木漏れ日が差し込む庭。レオは日除けの下、安楽椅子に座っている。その膝には、幼い孫がよじ登ってくる。


「じいじ、これ読んで!」


孫が絵本を差し出す。レオは少しシワが入り始めた手でそれを受け取り、ゆっくりと読み始めた。 綺麗な黒髪は半分ほど白髪が混じり始め、パサついた長髪はみっともないからとサラに言われたから短く刈り上げるようになった。


孫の小さな手がレオの膝を叩き、笑い声を響かせる。レオはその無邪気な笑顔に目を細めながら、自分が初めて「家族」というものを知った日のことを思い出す。


「孫って、こんなにかわいいもんなんだな…。」


かつて自ら手をかけた、ゲロ•クリエイションやヘド•クリエイション達。彼らはレオの息子や孫だと言っていた。そう言えばスナイパーはひ孫だったか?


肉体関係を持って、妊娠したら大金だけ与えて去る。そんなことをせず、1人1人と向き合えばあんな結末にはならなかったのかもしれない。


「何歳になっても、学ぶことばかりだな。」


---


レオ戦争から50年後。

病室の空気は静かだった。サラは穏やかな表情でベッドに横たわり、周囲には娘リオや他の妻やその息子、そして孫たちが集まっていた。


「あなた、ありがとう。一緒に過ごせて、私は幸せでした。」


か細い声でレオにそう言ったサラは、最後の力を振り絞るように微笑んだ。そして、その笑顔のまま目を閉じた。


その瞬間、何かが胸の中で崩れる音がした。レオは娘リオの肩を抱き寄せ、一晩中泣き明かした。


ふと鏡を見たら、そこに映る姿は、髪の毛が抜け落ち、深いシワが眉間に刻まれた老人だった。


「そうか、これが、歳を取ると言うことなんだな。」


その足で洗面台に向かうレオ。


「オェッ、ウェッ!」


最近、急に吐血することが増えた。幸い、トイレに行くまで我慢することができているが。まだ誰にも言っていない。平然を装ったが、日々の体調は確実に悪化していた。


「歳を取るということは、これほど残酷で、不条理なんだな。」


だが、恐怖とは裏腹に、何年謎の希望も湧き上がっていた。もうすぐゴールに着く。みんなに会える。そんな感覚も持ち始めていた。


やがてレオはベッドで寝たきりになり、家族に手を握られながら過ごす日々が続いた。


「パパ、大好きだよ。」


娘リオの声が聞こえた気がする。


「じいちゃん、ありがとう。」


二十歳ぐらいに成長した孫の声も混じる。いや、もう結婚してひ孫も産まれたんだっけ。


だが、周囲の音はだんだん遠ざかり、言葉の内容はもはや理解できなかった。


ぼんやりと視界の端に、亡くなった妻アイやサラが微笑んでいるような気がした。その穏やかな姿に、レオは静かに目を閉じた。


部屋の天井が霞んで見える。視界の隅には家族の顔がぼんやりと映っているが、その声は遠のいていく。かつて戦場で死神の足音を感じた時と同じ感覚が、薄れゆく意識の中で蘇る。けれど、あの頃とは違う。恐怖は無い。


心臓の鼓動が弱くなるのを感じながら、レオは微笑む。


「満たされた人生だったな……俺はこんなにも、愛されて……。幸せだった。」


その時、いつも部屋の片隅にあったモニターが静かに光り出す。そこにはAIレオが映し出されていた。


『後は俺に任せろ。家族も、この世界も。』


AIレオの声はどこか温かく、力強い響きを持っていた。


レオはそれを見て、小さくうなずく。


「頼んだぞ。俺が守りきれなかった分まで、頼む……。」


---


目を閉じたはずなのに、気づけば目の前には一面の黄金色の麦畑が広がっていた。穏やかな風が吹き抜け、麦の穂を揺らしている。レオの手は、瑞々しい10代の頃の質感に、しかも、背筋が伸びていて視点がいつもより高い。


顔を上げて、レオは息を飲んだ。麦畑の中に立っている人影に、レオは目を奪われたからだ。アイだ。彼女は20代の頃の姿で、イタズラっぽい笑顔を浮かべている。


「ふふ。ずいぶん長い旅をしてたじゃない、この浮気者。」


そう言いながら、彼女は手を差し出した。


レオは自然と微笑み、差し出された手をそっと取る。


「ごめん。けど、君を忘れた日は無かったよ。」


アイは少し目を細めて、風が吹くままに髪をなびかせた。


「知ってる。いいのよ、ちょっとイタズラしてみただけ。私がいなくなった後、あなたがずっと孤独に生きるよりマシよ。それより、これだけ私を待たせたんだから、たんまり土産話はあるんでしょうね?」


少し舌を出し、アイはおどけてみせた。

レオは短く笑い、胸を張るように答える。


「当然だ。なんせ俺は900年以上生きたんだからな。話が終わらなくて、あの世でも寿命が来てしまうかもしれないぞ。」


アイはその言葉に一瞬吹き出し、わざと呆れたような顔をする。


「…レオのバーカ。私の10倍生きたくせに、ユーモアセンスは相変わらず壊滅的なのね。」


そのやり取りに、レオも思わず吹き出した。ふたりの笑い声が麦畑に広がり、風と共にどこまでも流れていく。


ふたりは手を繋いだまま、麦畑の奥へと歩いていく。背後にはもう現世の光景は見えない。ただ広がる黄金色の大地の中で、彼らの姿は次第に遠ざかっていく。


「あの世ってのは、案外悪くないな。」


レオが呟くと、アイは肩を揺らして笑いながら振り返る。


「そうでしょ?私がこれだけ長い間待てるくらいには、魅力的だったんだから。」


気づけば、レオはアイの手を取りながら、黄金色の草原を駆け抜けている。風が頬を撫で、草の香りが鼻をくすぐる。身体は軽く、若い頃に戻ったような感覚だ。視界の先には懐かしい人たちの姿が見える。


そこには、かつて見送ったサラを含む側室たち、親友たち、そして愛猫や愛犬の姿があった。彼らはそれぞれの面影をそのままに、穏やかに笑みを浮かべている。愛猫は草の上で気持ちよさそうに寝そべり、愛犬は尻尾を振りながら嬉しそうに駆け寄ってきた。


「お前達……本当に、みんな揃ってるんだな。」


レオは胸が詰まるような感覚に襲われながら、懐かしい顔ぶれに目を細めた。


その時、視界の端に黒いドレスの人影が映る。ふと目をやると、大きな樹木の陰にレオが作り出した暗殺者のエリスが静かに佇んでいた。


彼女はレオの姿をじっと見つめていたが、ふいに口角を上げ、いつもの悪態をつく。


「ふん。神様のくせに、あなたが掴んだ一番の幸せって、その辺の一般人でも手に入る陳腐なものなのね。つまんないの。」


けれど、その声はどこか柔らかく、どこか優しい響きを持っていた。


「エリス……。」


レオが立ち止まり彼女を見つめると、エリスはわずかに目を伏せ、穏やかな微笑みを浮かべた。


「まあ、いいわ。あんたらしい選択ね。それに、こうやって笑顔のあんたを見るのも悪くないわ。」


そう言って、エリスは静かにその場から立ち去ろうとする。


レオはアイの手を握り直しながら、小さく呟いた。


「ありがとう、エリス。君のおかげで、大切なものに気づけた。」


エリスはそれを聞こえないふりをしながら、草原の向こうへと歩き去っていった。その背中はどこか満ち足りた様子で、風の中に溶けていった。


---


現世では、レオは家族たちに囲まれながら病室のベッドで静かに息を引き取っていた。白髪が増えた家族、そして孫たちがベッドの周りで彼の手を握り、涙を浮かべながら見守っていた。


「……本当に……よく生きたね。」


娘のリオが小さな声で呟いた。


「うん……ありがとう、父さん。」


息子が涙を隠すように目を伏せる。


孫たちがすすり泣く中、家族の手の温もりに包まれながら、レオの顔には穏やかな微笑みが残っていた。


彼の長い人生は、多くの愛と苦難、そして笑顔で満たされていた。そして、誰にも恐れられ、誰にも愛された男の物語はここで静かに幕を閉じた。


草原の向こうから聞こえる懐かしい声と共に、レオは930歳で永遠の眠りについた。


ベッドに横たわる老いたレオは、重いまぶたを閉じた。部屋に集まった家族の手の温もりを感じながら、静かに息を引き取った。その瞬間、空には巨大な「GAME OVER」という文字が現れる。


当然、レオにも、リオや家族達も、その文字を見ていない。では、誰が、何のために、誰に向けて出した言葉なのか。


---


「**GAME OVER**」

ディスプレイに現れた文字を見て、少年は一瞬固まり、それから弾けるように笑顔を見せた。


「やったー!俺の過去最高記録!俺の考えたレオは930年も生き延びた!」


少年は勢いよくガッツポーズを決める。


画面にはカラフルなフォントで次のようなメッセージが表示されていた


「あなたが作ったキャラクターは930年生きました!これは世界ベスト記録を大幅に上回りました!」


少年は嬉しそうに床を転がりまわっていたが、しばらくすると少し悔しそうにも顔をしかめた。


「けどさぁ、もっと記録伸ばせたよなぁ。レオが途中で能力を捨てるなんて……もったいねぇ!最強を倒せるのは自分自身。いや、老化という自然の摂理かー。」


彼は悔しそうに頭をかきながら、自室の床に大の字に寝転んだ。


その時、階下から母親らしき声が聞こえた。


「ご飯だからそろそろ降りてきなさーい!」


少年は少し不満そうな顔をしながら起き上がる。窓から見える外の景色は、綺麗な夕焼けがビル群を赤く染めていた。


「ちぇ、もうそんな時間か。母ちゃん、怒るとおっかないからな……さっさと降りとこ。」


少年はディスプレイの電源を切り、階段へ向かう。画面が暗くなる直前、ゲームのタイトル画面がちらりと映った。


【俺の考えた最強の戦士】


タイトル画面の下に、説明欄の文章が現れる。


「君の考えた能力者は、一体どれだけ強いのか、何年生き延びるのか!?AIが自動シミュレーションで計算!」


カラフルなキャッチコピーが表示されていた。


階段をトントンと降りながら、少年はぽつりと呟いた。


「次はどんな能力者にしようかな。」


少年は階段の途中で足を止めた。


「けどさ、結局一番強いのは、最強を産んだその母親じゃないかな。」


少年は再び階段を降り始める。彼の小さなつぶやきは、どこかでゲームのレオにも届いたように感じられた、そんな気がした。


Fin.


最後までこの物語を読んでいただき、本当にありがとうございます。皆さんの貴重な時間を、この作品に費やしてくださったことに心から感謝します。


この物語を書くきっかけになったのは、ちいかわの「黒い流星編」、リゼロ、ジョジョの「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」、そしてサマータイムレンダなどの作品です。これらの作品で描かれている【相手を強制タイムリープさせる能力】を見て、「これって最強の能力なんじゃないか?」と純粋にワクワクしたことが、この物語の着想源になりました。


実は、幼少期から「最強の能力って何だろう?」と考えるのが好きで、友達とそんな話で盛り上がることもよくありました。戦うならどうすれば勝てるのか、どんな能力なら最強になれるのか――そんな妄想を語り合うのが楽しかったんです。この疑問に対して、自分なりの一つの答えをこの作品で形にすることができて、少しスッキリした気持ちです。


「最強」とは何か。そして、その力を持つ者がどんな選択をし、どんな責任を背負うのか。このテーマが少しでも皆さんの心に響いてくれたなら、書いた甲斐がありました。


またどこかでお会いできることを願って。

ありがとうございました。

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