赤ん坊
彼女は誰の子供を抱いているのだろう
優しい笑みを浮かべて
まるで天使のような黒い瞳の赤ん坊を
体を揺すってあやしている
彼女の長い髪が
春の風に吹かれてさらさらと揺れている
赤ん坊は笑ってる
何を見て笑っているのか
彼女の揺れる髪かそれとも私の心か
彼女は話し出す
たとえ言葉がわからなくても
小さな瞳が不思議そうに見返して笑う
赤ん坊は自分の未来を夢見ることはあるのだろうか
彼女の腕の中で
赤ん坊の鼓動と彼女の鼓動が重なりだし
やがて一つになっていく
赤ん坊は暖かさと安らぎの中で
目蓋をふさぎ始める
彼女はゆっくりと体を揺すりながら
それでも赤ん坊を見つめている
赤ん坊を見つめながらも
彼女も夢を見る
腕に抱いた子供の夢を
赤ん坊の将来を夢見ているのか
温かい家庭を夢見ているのか
それが現実とかけ離れていようとしても
今の彼女にはわかるはずはない
私は彼女に聞いた
「その子は誰の子」と
彼女はゆっくりと赤ん坊から顔を上げて
私を正面から見据えると
「あなたの子よ」と答えた
私は夢から目覚める
横には赤ん坊が幸せそうに寝息を立てて眠っている
すぐ近くには妻が微笑む遺影が私達を見下ろしていた
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