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「病み鍋」  作者: first
4/5

裏一話 「悔残し」 ②


                  ■■■



 



  「おい、馬鹿、それさわんなって、それりなの鉛筆だぜ、さわったら貧乏が伝染るって」




     

  「いや、絶対いや、りなと席をくっつけて教科書を見せるなんて絶対に嫌!!・・・そんな事したら貧乏が伝染っちゃう」



  

  「ひっ、おい、近寄るなって・・・・・貧乏が・・・・・・・・・・」






  

   ――   貧乏が伝染る   ――



  

   彼女の貧乏は一種の感染病の様に扱われた。


  

   その境目はあの夜


   そして、彼女の評判を汚い子から貧乏な子に落としたのは彼


   


   



  

   敷居 莉那は貧乏である



   


   


   そう黒板に大きく書かれた文字だけで、それ以上に言葉はいらなかった。



   朝早く来て黒板に文字を書けば、誰が書いたのかはわからない

   だから、彼は・・・人の目を気にする彼は、自身の家に彼女が来た事を伏せたまま、

   彼女の本来の姿をクラス全員に広める事が出来た。



   汚いのではなく、服を変えないのではなく・・・・変えれない、貧乏な子なのだと。


   

   そしてその情報は瞬く間にクラス中に広がり、今まではただ汚いからと言う理由で拒絶していた生徒達が

   貧乏だからと言う理由で、絶対的な拒絶をしてきた。



   その拒絶方法とは・・・・・



   「貧乏は伝染る」である。   

    

   

  

   当然、貧困が伝染るなんて話聞いた事が無い・・と言うかありえない。


   だが、幼く、思慮に欠ける彼等は、


   彼女が苛められている事が全て貧乏のせいだと思い込んでしまった。   

   貧乏だと、あんなにも惨め、あんなにも汚い、あんなにも省かれる。


   そんな人間に、そんな状況に私はなりたくは無い・・・・

 

   そこまでは、「りなは汚い」と言われていた時とあまり代わらなかった

   だが違うのはここからである。

                  

   

       

   「汚い」のは物理的なことである、たとえばA君が公園で遊んで、泥だらけになっても

   洗濯をして、お風呂に入れば、元に戻る・・・・すなわち、どれだけ汚くても、自身が直そうと思えば

   汚い状況からもとの綺麗な状況にもどるのだ。



   それは、「汚いと呼ばれていた時の彼女」と同じである。


   もし、A君が汚いと言われる彼女に触れたとしても、その手を綺麗に石鹸で洗えば元に戻る。

   それは、A君の意思しだいでどうにかなる事だし、もしかしたら、彼女自身も、服を毎日違う物に変え、

   身なりに気をつけていれば、本当にもしかしたらだが、彼女のいじめの火も、数ヶ月の内に鎮火していたかも

   しれない・・・・まあ、彼女の家庭環境を考えるとまず無理な話ではあるが。




   しかし、「貧乏」と言うのは「汚い」と言われていた時とは明らかに違うものなのである。


   それは、形の無いもので、まるで一種の呪いの様な物。


   本人がどうあがこうと、貧乏を変えることはまず出来ない。


   すなわち、「汚い」は手を洗えば改善できるが、「貧乏」は一度かかってしまえば手を洗っても、泣いても叫んでも

   元の状態に戻す事が出来ない


   

   それが・・彼らにとっては恐怖だった。





   形の無い、物理的に、自分の意思では消し去れない「貧乏」と言う呪い

    

   そして、それにかかれば、このクラスで絶対になりたくない立場の彼女のような状況になってしまう・・・




   この事が彼女をさらに拒絶する事になり、

   さらに、もし、彼女に触れれば、貧乏と言う形の無い逃れられない呪いのような物がうつってしまうのではないかと   

   根拠のまったく無い、脅迫概念に駆られる物が現れたのだ。


   

   それは、貧乏と言うものの本質がわからない「子供」だから引き起こされた事でもある。


  

   貧乏・・貧困と言うものの本質を理解できておらず・・・この数週間で刷り込まれた

  「汚い」=「貧乏」=「苛められっ子」と言う物が原動力になり、貧困(貧乏)の意味が

  良くわからないから、貧乏に触れれば、苛められっ子が移るのではないかと

  恐怖する。 

  

   

   まるで未知の病気だ・・・・未知の病気にかかった人のそばにいれば、

   自分もその病気に感染してしまうのかという恐怖に抱かれる

   それは、本当は伝染ることが無いものだったとしても「わからない(未知)」から、

   なんだかよくわからないから拒絶するのだ。


   そして、それが、伝染らないとわかったとしても、人によってはその人の入ったお風呂や

   食べた食事にはあまり、手をつけたくないと思う人がいるだろう・・・

   それは、もしかしたら、万が一にもかかってしまうかもしれないと思ってしまうからだ。



   そして・・それが、いまの彼等クラスメイトと彼女の関係なのだ。



   貧乏と言う、未知の(彼らが無知だから知らない)病気を持った奴がいる

   そしてそれにかかると省かれて、苛められてしまう。

   その、治療法は無い。


   だから、なんだか「わから無い恐怖」だから拒絶する、自分がその「貧乏」と言う

   病気にかからないように、伝染るはずが無くても、「それがよくわからない」ので極力近寄らない   ようにして、自分が同じような状況にならないように拒絶する。 

     

  



   その悪循環な思考の結果が



   ―― 貧乏は移る 

   

      彼女に近づけば


      貧乏(苛め、惨め、その他もろもろ)が伝染る ――



  である。 





  

  彼女の最悪な小学校生活は、こうやって始まった。



  

  

  汚いとののしられ、貧乏だと拒絶され、挙句の果てには伝染るとまで言われ、この生活は続く


 

  

 


  何か物が無くなれば、それは彼女のせい


  ある日、一人の少年の給食費が無くなった。



  当然、その疑いの目は彼女にだけ向けられる


  ―― 貧乏だから ――



  

  ある日、一人の少女が持ってきてはいけないと言われているのに、ケータイを持ってきて無くした。


  疑いは彼女のほうに向けられる。


  ―― 貧乏だから ――



  

  

  ある日のトイレ掃除の時、彼女は男子トイレの掃除を同じ班の女子に命令された。


  「貧乏な」彼女は彼等に逆らう事が出来ない・・・・なぜなら、立っている場所が既に違うのだから


  男子トイレの掃除を女子がするなんて事普通は無い・・・・だがなぜかその日、それを命じられた。


  

  男子トイレには、複数の男子、彼らはニヤニヤ笑いながら彼女に掃除する様促した、


  女子に縁が無い立ち用の便器を洗剤で洗う・・・男子は何もせずその光景を眺めるだけ。


  

  異様なフインキ、当然彼女もそのフインキには気づいていた・・・が、彼らの指示に従うしかない


  


  個室トイレの掃除をいいついけられ、彼女は個室トイレへと、掃除用具を持って入り・・・・・




  「・・・・・・・・・・・いまだ!!」 



  扉を閉められ、閉じ込められた。


  

  外から聞こえる笑い声。



  「おい、女子、リナを閉じ込めたぞ」


  

  外から聞こえる笑い声


  

  「はやく、バケツ用意した?早く早く」



  バザァ



  唐突に、上から水がかけられ、同時に空のプラスチックバケツが彼女の頭にゴツンと当たりそのまま、外の笑い声が

  消える。



  なぜ、水をかけられたのか?


  貧乏だから?


  貧乏だから、バケツの水をかけられてもいい?



  これは明らかに、今までの事とは異なる事である。

  確かに、給食費や物が無くなった時に、彼女が一番初めに疑われるのは少なからず納得が行く。

  彼女自身も理解していた事だ・・・だが、今回は・・・・



  貧乏とまったく関係性が無い




  だが、水をかけた彼等は口々に言う。



  「貧乏だから、水をかけてもいいんだ、貧乏だから苛めてもいいんだ」

  

  っと・・・・・・・・・・そう、彼女の貧乏は、汚い、伝染、を超えて、人以下の存在を示す、

  「苛めを唯一許される免罪符」とまでなっていた。



  

  べちゃべちゃになった彼女は、誰もいなくなった男子トイレを一人で片付ける。



  鏡に映った自分はどうしようも無く惨めで、いつの日だったか、ボロボロにされたあの靴を思い出させる。



  苛めの方向は、言葉から、物へ、そして、彼女自身へと移っていく。


 


  彼女は、それを理解し、少し安堵する



  なぜなら、それ以上は無いから


  確かにいじめのレベルは今後上がるかもしれない、だが、向けられる対象は、物から私になった事で、それ以下は無い

 

  そう思って安堵したのだ。




  そう、そう思って・・・・・




           ■■■



  人は進化する、人は成長する、人は欲求を持つ

  

   

  よりよい生活へと、刺激を求めて、今より良い未来を、今より楽しい事を、今よりも刺激のある物を・・・




  そうやって、彼女の虐めは小学6年生頃になってピークを迎えていた。


  そしてある意味の飽和を向かえ、回りも、新しい刺激を欲していた。


  そんな時・・・そんな時だったからか、最悪の・・・いたずらで済まされない事が起こる。



  それは、最後の参観日だった



  小学校生活最後の参観日、彼女の両親はその日初めて彼女の授業参観に出た。


  最後と言うのもあった、一度でいいから娘の授業風景を見たいと言うのもあった。


  なぜ初めてなのか?


  仕事で、一円でも多く手に入れようと必死だった為、いけなかったと言うのもある、だが、実際は

  

  綺麗な姿で、きまっている、父母の中に我々のようなボロボロの姿の人間が行けば、比較され、自分たちの

  大切な愛娘が虐めにあうのではないか・・・と考えたからだ。


  

  だが、両親の思いは空しく、彼等が行こうがいきまいが、彼女への虐めは始まってしまっていた。

  それに気づいていないのは、授業参観や、娘の学校の生活を見てきていなかった彼等両親の責任。


  完全に裏目に出てしまった行動・・・・そして、だから、最後ぐらい、一度でいいから、見に行こう・・


  その考えが、さらに裏目に出る事になろうとは、彼等家族も気づいてはいなかっただろう。


  

  授業が始まる前、から数人の父母が、後ろに立っていた。


  いつもと違う授業状態、両親に良い所を見せようと、緊張する生徒・・・・・・当然、その日、多くの父母が

  いる中、彼女への虐めは表面上行われなかった。


  授業が始まり、数人の父母が教室に入る。


  その中に・・・・・・・・・彼女の両親は含まれていた。


  

  「・・・・・・・・・・・・・・」



  おそらくは・・・彼女の両親が持てる、最も良い服装で、個々に来たに違いない、だが・・・・

  そのすがたは、明らかに他の父母と異なる、小汚い服装。



  大人たちは、一度だけ彼等の姿を見ると、直ぐに視線をそらし見なかった事にする。


  当然、彼等は子供を持つぐらいの成熟した大人だ、心の中で・・・少しは、差別する事はあっても

  それを表面に出す事はしないし、家庭には色々な事情があると、大人な対応ができる。


  

  だが、一瞬、立った一瞬だけでも、その差別の様子を、欠片だけでも、この時彼らに見せてしまった。

 


 

  ―― それが、最悪の始まり、大人が貧乏人を差別するなら、俺たちだってっと思い込む最悪の考え方の・・――

  

 


  ソレの姿を見て・・彼らはそのフインキを感じて目の色が変わった。


  授業中、しかも、多くの父母がいるから、その場で非難する事は無い・・・

  

  だが・・・・心の中では、「あれがリナ(貧乏)の両親か、」っと思い、まるで、珍しい動物を見るかの様な目で

  彼らをちらちらと見始めたのだ。  


  

  

    

  そして、彼らは目標を定めた、リナを虐めの対象としていいと、大人たちも、拒絶したのだから問題は無いと


  貧乏な「奴ら」も彼らの、刺激を満たす為のターゲットにしていいと思い込んだのだ。


  

  そう、こないなら一度もくるべきではなかったのだ、


  もしもこなければ、虐めの対象・・・それが、言葉、物、彼女自身から、彼女とその家族へと移ることはなかったのだら


 

  そして、その時・・・・・・・・・このクラスの一部の生徒はこう思いこんでしまった。



  貧乏な奴らは何をしてもいい、彼らは俺たちとは違う、立場の違う下の存在なんだ、

  

  だから、リナになにをしても良かった、そして・・・ここに現れたその両親も・・・・



  ・・・・・・・・・・・・タイミングが・・・刺激がつきかけて来たのが悪かったのかもしれない

  ・・・・・・・・・・・・貧乏人は人以下の存在、そんな思い込みを持たせてしまった環境が悪かったのかもしれない

  ・・・・・・・・・・・・だが、そんな事で許される事ではない、子供のいたずらではすまされない虐めも、

                                   ましてや他人の家を燃やす事も。






            ■■■





  

  失ったのは家族の帰る場所。


  とは言っても、家が無くなったわけではない

  火事は直ぐに隣人によって消し止められ、被害はボヤ程度ですんだわけだが・・・問題はこの後だ


 

  日ごろから家族を煙たがっていた隣人や大家は、この機を見逃さなかった。



  大家は「またこの様な不始末を起こされると困る」と言い

  隣人達は「あんた等家族のせいで、俺たちの住処まで無くなったらどうするんだ」と

  家族を追い出す様に大家を駆り立てた。


  

  

  仕事も地位も何も無い家族が彼らの言葉に逆らえるはずも無く、家族は長年住んだ家を去った。




  当然行く場所など無い


  

  町中を歩き回り、それでも住む場所が見つからない、

  

  夜は公園で家族三人肩を寄せ合い過ごす日々 

 

  町の郊外を探し、橋の下を探し、公園を探す・・・

  だが、この町のどの場所も家族に安定した寝床を与えなかった。

  

 

  そんな浮浪生活4日目の事だ、町の中心に一軒の空き家を見つけたのは、


  その家はおおよそ街の中心に位置する場所にたっていたのだが、その存在感はまるで蜃気楼

  少し目を離してしまえばその場所の特定が出来なくなってしまうかの様な錯覚を覚える程の不確かな場所。


  何度も区画整を重ねたその区域はまるで迷路であり、よそから来た者が迷うのは当然として、

  近所の住人ですら完全に把握できていない


  

  きわめつけは、その家の直ぐ上を線路が通っている事であり10分置きに騒音が聞こえることである。


  これらが相まって、その家が例え町の中心にありながらも「何があっても」「誰が叫んでも」

  「誰もいなくなっても」「そこに誰かが勝手に住み込んでも」誰にも気づかれず邪魔されない、

  存在しないはずの場所となっていた。



  家族は直ぐに少ない荷物を二階の無い平屋である家へと運び、その家を第二の故郷とした。


  

  その故郷は、水は出ず、火もたけない、当然電気も使えない何も無い場所

  隙間風は肌を冷やし、壁や外装は長い間ほおって置かれていた為か、以前のマンションよりもひどく、

  いつ朽ちてもおかしくない状態。

    


  だが、それでも、家族にとってはこれ以上無い楽園であった。

  

  周りの目を気にしなくて良い空間、



  ―――― たとえ、ところどころに拭ききれなかった赤い斑点があろうとも 

  

       たとえ、昔ここで「ある事」が起きていたとしても・・・


       たとえ、その家の一角にどうやっても開かない扉があったとしても ――― 

 

 

 

 

   今の家族には関係の無い事だし、今回の話ではでは交わらない事


  

   ただ、偶然、もしくはそのような運命だったのか「この場所」をあの時と同じ・・「俺たち」と同じく

   ここを家族が心のより所として選んでしまっただけの話。  

  

  

   そう、そんな些細な事、彼等家族にとっては関係ないことなのだ、家族三人で住めれば

   それはどこだって幸せな場所なのだから。  

  

  

   彼らはこの家で、その後二年間仲良く住む事になる、全てが始まる二年後まで・・・




                ■■■  



      

   彼女は、なにが幸せかをしっていた。



   金や地位、人より高い所にいる事、人と競い、比較して得られる何か・・・


   

   そんな物が幸せなどではない事も。



   

   小学校卒業式のその日まで変わらないつらい日々を学校で過ごし、

   自らの家で、家族の温かみに癒された。


    

      

   そんな、つらいく、家族に救われた半年を過ごし、少女は義務教育の二段階目

である中学校へとあがった。


   都会の学校だけあって小学校から中学校にあがった時には、顔見知りは4分の1

にまで減り、それぞれ違う場所へと旅立った。



   それでも彼女は、


   「どうせ中学校に上がったとしても状況は変わらない・・・

        私の事を知る誰かがまた私を、私の事を悪く言う」







    ―― 私は、貧乏だから、回りよりも下の立場にいるのだから ――






   そう思い込んでいた。





   しかし実際には予想と異なり、彼女が配属されたクラスに彼女を知る人間はいなかった。



   他のクラスに配属された元クラスメイトは当然ながら存在する・・・だが、

   もはやクラスの異なる彼女の事など、どうでもいいかと思ったのか、

   彼女に対しての嫌がらせや、虐めをする事が無くなった。






彼女はやっと終わったのだと安堵し、



   これが始まりなのだと、心を決めた。




   ・・・・だが、6年間苛められてきた彼女は、人と・・いや、同年代の友人と

   どの様に接していいのかがわからない。

   


   それに社交性などと言う物は、一朝一夕で手に入る物ではなく、

   今まで虐げられてきた事もあってか彼女が友人と言う存在を中学校に入っても

   作る事はできなかった。


   

   社交性・・・それだけではないのかもしれない、

   知らず知らずの内に心の中で「私は貧乏で周りの人よりも下の存在」

   と思い込み、前に進めなかったのだろう。


   

   彼女は、結局二年間一人の同年代の友達も出来ないまま、中学生活を終える事となる

   ・・だが、無意味に虐げられていた小学時代に比べれば、何倍も良いのも事実。



   

   だが、彼女はこの二年間不幸だとは思わなかった。





   なぜなら、彼女は「幸せ」と言うものを知っていたからだ。



   それは金でも、物でもない・・・大切な家族との時間

   食べ物も無く、娯楽も無い・・・だが、誰にも邪魔されない家、そこで質素すぎるひどい生活



   それでも、やさしい父と母との生活は、彼女の人生の中で何よりも楽しい物だった。



  

   彼女が学校に言っている間、彼女の父は毎日、職を探しに出て、断られ帰る日々



   母は家を出て、町中のゴミ捨て場を渡り歩き、その日食べれそうな物を見つけ、食材とする。




   夕方になり帰宅すると、彼女の母は「今日はお弁当が一つ捨ててあったの」っとまるで

   宝くじで一等があたったかのように喜び、家族で分け合った。





   お弁当一つで・・・そう思う者もいるかもしれないが、家族にとってはこれ以上無いご馳走であった。

   何も見つからず食べれない日々だってあるのだ、それに比べたら最高の食事である。


   

   お弁当を囲んで家族で団欒する・・・彼女が覚えている中でもっとも幸せだった頃の記憶の一部だった。


   

   

   だが時には、長い間食べ物が手に入らない時もあった、そんな時は家族で力を合わせて町中の隅々まで

   食料を探し・・・・だが、それでも食べものが手に入らなくて・・・・





   彼女は一度だけ罪を犯した。





   場所は家から歩いて30分もかかるスーパー


   5日間、水しか口に入れておらず、家族で分担して食べ物を探しに行ったその時だ。


   彼女は、いつも入る事などないスーパーに入り、お弁当コーナーのお弁当と周りの目を

   気にしながらうろうろとその場をうろつき回っていた。






  

   空腹は限界だった。





   これ以上、食べないと死ぬと思った。





   私は死にたくない・・・お父さんとお母さんにはもっと死んで欲しくない


   

   そう思い、彼女はお弁当を手にして、一度だけ罪を犯した。





   お弁当を・・・1つ380円のお弁当をカバンの中に入れ、来た道を戻る。



   

   入ってくる客と逆方向へと向かって歩く



   誰か不信がっているのではないかと思いドキドキする


   

   レジの横を通る。


   

   ブザーか何かが鳴るのではないかと、恐怖する。



   出口をでる・・・・・・・・






  

   出口を・・・・出る。

  






   

   何事も無く、お弁当を彼女は手に入れた。







   店を出て、少し歩き公園があったのでベンチに座り込む。

   冷や汗がたれる、罪を犯した・・・だがそんな感情よりも、

   こんなに簡単に食料が手に入るのかと驚いた。




   そして、こんなに簡単に手に入るのなら次も、次も・・・・っと。




   

   弁当を手に入れた帰り道、彼女の足どりは行きよりも軽かった、

   罪の意識などその時は無く、ただただ食材を手に入れた、しかもお弁当、

   今日はご馳走だと喜ぶだけ。


   ・・・そして、そのお弁当を見つけた私を褒めてくれる両親、楽しく団欒する光景、

   それだけを彼女は思い込み家路に着く。






   だが・・・・家族は、父は、母は彼女を褒める事はしなかった。




   バシン




   初めて父に頬を叩かれた・・・・



   あの優しかった父があんなにも怒っている・・・それだけで彼女はショックだった。



   

   いつも笑顔を絶やさない母がわんわんと泣き、彼女はただ呆然と机に置いた盗んできたお弁当を見て

   立ちすくんだ。




   「何でこんな事をしたんだ」 




   彼女の父は、彼女に怒鳴り込んだ、耳がキンキンとしたのを彼女は鮮明に覚えている。


   

   「ち、ちがう・・これは・・・そう、ゴミ捨て場に落ちていたの・・・」



   

   なぜ、これを盗んできたのがばれたのかわからない


   だが、単純すぎる直感で盗み、何も考えずに持ち帰った彼女にとってそれに気づけるはずも無かった。    

    

   

  「賞味期限が今日の夜の9時になっているだろう・・・・今何時だと思っているんだ・・

   まだ夕方の5時だぞ、誰が、買って直ぐのお弁当を食べずにゴミ捨て場に捨てるんだ・・?」  




   良く考えれば当然の事だった。



  

  「だって、何も食べてなかったから、これだと私も、お父さんもお母さんも死んじゃうと思ったから

   ・・・これをもってけば、みんなで食べて、笑えて・・・」



   彼女は涙をボロボロとこぼしながら、思った事をそのまま言葉にして吐き出す。

   父はそんな彼女を軽くなでて、



  「気持ちはわかる、食べなきゃ死んでしまう・・・・でも、だめなんだよ、人の物を勝手に

   取って自分の物にしちゃだめなんだ」



  「ぐす、でも、でも、私達は貧乏だし、こんな物買えないし、ぐす」


  

  「ああ、家は貧乏だ、だけど、貧乏だからこそ、何も無いから、どうしようもなかったからと

   言う理由で、個人の身勝手で、他人に迷惑をかけるようなまねしちゃいけないんだ、わかるね?、

   たとえ貧乏でも、ものが買えなくて、食べれなくても、もう二度とこんなまねしちゃいけない

   ・・そうじゃないと、それこそ本当に、貧乏である事が、悪事をする理由になってしまう」



   そこで彼女は気づいた・・・・昔苛められている中で、給食費が無くなった時、物が無くなった時、

   ただ貧乏だと言う理由だけで疑われた・・・・何の罪も犯していないのに・・だが、今の私はどうだ

   ・・・あの時、疑っていた者達が嫌っている「貧乏人」その者ではないか・・・

   しかも、今回の私はそれを否定する事は出来ない。




   「・・わかってくれたかい・・・じゃあ、一緒に謝りに行こう・・・」




   犯した罪(弁当)を持って、父と母と彼女は無言でスーパーへと歩く、ひどく惨めで、

   彼女はなんて取り返しのつかないことをしてしまったのだろう・・と自身のばかさ加減

   に悔いを残した。




   店に着き、責任者に事の顛末を伝え、家族三人は深く深く謝った。



  

   その態度と自ら罪を宣言した事に免じて、今回の事は目をつぶる、

   今後二度とこのような事が無いように・・・・そう、責任者は述べて、彼女達家族を解放した。





   帰宅途中、何度も何度も、彼女は両親に謝った。




   両親は「自分の罪に気づければいい」と言い彼女を許した。





   その日の晩・・食事には、死んだ猫と、捕まえてきたネズミが調理されて食卓に出された。

   これは、この日、本当に食べる物が見つからず両親が手に入れたものだ。

  

   ネズミは父が、道端で死んでいた猫を母が取ってきた。




   そして、この猫はつい数日前まで、近所にうろついていた野良猫だ・・・

   



   彼女は、「この猫はどうしたのか?」そう聞くと、母は




  「命あるものはいつかは死ぬわ・・・老死だったのよ、今日の昼間庭で死んでいたの・・

   死んでしまったらすべて終わり、あとは生きているもの達の糧になれれば本望なはずよ」

 

  

   まるで、彼女を納得させるのではなく自身を納得させるかのようにつぶやいた。


   

   死んだネコを見て、墓を作るわけではなく、自身の生きる為の食料にしようと述べた。  




   いままで、ゴミ捨て場の食事や、食べれそうな草、木の実などはあったが、

   こんな、生々しい食材は初めてだった。


   


   始め彼女は一口も口にせず残した、いくら食べる物が無いといってもこんな物は食べない・・・っと




   だが、両親は言った









  「「食残し」てはだめだよ、勿体無いじゃないか」


  「「食残し」ちゃ、死んでいった命に申し訳が無いわ、この命を自分の物にするのよ」




  そう両親に言われ・・・今日の自身の身勝手な行動と、両親の地道な食料探し・・・その結果が

  この食材・・それを比較し、自身の罪滅ぼしも含めて一口、火を通していると言ってもいまだ原型を

  とどめているネズミを口に入れる。







  「おい・・・しい」




  「そうだろうそうだろう」




  父と母はおいしそうにそれぞれ箸でつつく。

  その、腕はすばやく、一刻も早く目の前の物を胃にいれ、自身の命にしてしまおうと言うように。



  「うん・・・おいしい」


  涙を流しながら、自分の分をすべて口にほおりこむ。


  おいしいはずが無い、ひどく不味い味だろう・・・だが、彼女も両親もその言葉しか出なかった。

  決しておいしくないとはいわなかった。


  それは死んだ者に対する礼儀もあったのかもしれない・・・・だが


  彼女は気づいてしまったのだ・・こんなおいしくない物をおいしそうに食べる両親は、

  実は私と同じ考えを持っていたということに、それは・・・・





  ――― このまま、このまま何も食べなければ、

      大切な妻(夫)(父)と娘(母)が死んでしまう ――



 

  そして、本当に食べる物が無く、仕方が無く取った行動、ただ、彼女と違って罪を犯さない・・

  誰にも迷惑をかけない方法だと言うだけの事。





  家族の行動と食事、そして彼らが言った「「食残し」てはいけない」その言葉は

  何が何でも家族に「何か」を食べさせて生きのびさせようと言う強い意思から伝わってくる。



  

  彼女は、それに気づき、家族との強い絆、つながり、そしてその結果がこの料理である

  ・・・そう思うと、私が犯した罪(お弁当)に比べて、このねずみやネコは・・・何よりも

  変えがたいご馳走である・・・私達の命をつなぎとめる為のご馳走であると

  喜んで命を食べつくした。

   


  


  最も低い場所にいる彼女達家族の為に死んでくれた命を・・・・  


       

     

   

      

                  ■■■

  




  

  何も無い・・・家族との思い出以外何も無い


  だからこそ両親は、一度でもいいから、彼女に外の世界を見せてあげたいと思ったのだろう。


  

  小学校時代に彼女はひどい虐めにあっていた・・だが、今は違う・・・それもあって、

  両親は何とか彼女を中学校の「修学旅行」に行かせたいと考えた。


  

  両親は彼女を驚かす為、彼女が学校に言っている間に死に物ぐるいで

 、仕事を探し、少しでもお金になりそうな事なら、何だって行い旅費を集めた。





  その間の食事は彼女が見た限りは普通であった。




  ゴミ捨て場の残り物であったり、ほんの少しのお金で買った食材であったり・・・・

  しかし、あの時の様な生きるか死ぬかの食事はなかった。



  


  

  だが、ただでさえ、今日を生きる、今を食べるのに苦労している人間たちが、今までどおり

  金を得ていても探旅行に行く為の金が溜まるはずも無く・・・



  当然両親は何かを犠牲にしなくてはならかった・・それは朝食であったり、昼食であったり・・・

  疲労の蓄積であったり・・・




  それでも、夜だけ、彼女の前でだけは普通の・・いや、普通では考えられない

  ぐらい、質素で少ない食事ではあるがいつもと変わらぬ笑顔で食事を取っていた。


  


  両親は考えた、昔彼女が苛められるきっかけになったのは我々が貧乏だからだ、

  そして、今学校へは学生服で通っているからいいが・・・修学旅行は私服だ、

  彼女の私服はとてもボロボロで周りに見せれる物ではない。




  だから・・・彼女が着る、綺麗でいまどきの服を買い

  いまどきの中学生が持っているだろうカバンを買い

  ほんの少しだけおしゃれに気をつけれるよう、化粧品と

  旅行中欲しい物があった場合と3000円を与えた。



  当然これらは全て両親が正当な方法で得た金で購入し得た物だ


  

  はじめ、修学旅行へはいけないと思い込んでいた彼女はひどく驚き、

  これだけの物を買うにはどれだけお金を集めなきゃ、どれだけの日を働かないといけないのか

  と思い、こんな物は受け取れないと述べたが両親の強い薦めにより、


  



  彼女は、人生で唯一の旅行を、全力で楽しもうと決めた。



  この旅行を彼女が変わる、大きな一歩になる事を信じて、両親は彼女に全てを与えた。






  

  修学旅行当日


  



  

  綺麗な服と軽く化粧をまとった彼女は、両親がいや、おそらくは誰が見ても

  美少女といえる成り立ちであり、



  母は疲れた顔をしながらも



 「これなら化粧もいらなかったわね」


  などと、笑いながら言った。



  

  父は、げっそりとした顔で


  「旅行先でナンパされてもついて言っちゃだめだぞ、お前は母さんににて美人なんだから」


  と、普段言わない様な冗談を言った。





  「いってきます!!」




  喜びと共に家を出る。



  両親が、二人とも疲れた顔で私に手を振り、両親もそれを返す。



  

  

  そのまま学校へと向かい彼女はこの時決意した、



  楽しい事、お土産になる話、いっぱいいっぱい見てきて・・そして、家に帰ったら、

  それを全て両親に話してあげよう・・そう思った。





  おそらく、この一瞬が、彼女の人生の中で本当にうれしく、希望に胸を膨らませていた

  時だったのだ・・・だから、浮かれていたのも仕方が無い、両親のつかれきった表情や

  体調に気づけなかったのも仕様が無いことなのだ・・・・だれも、彼女を責める事が出来ない。





  それに、彼女がこの旅行で、家族の事を気にしないで・・自分達が貧乏だという事を

  忘れて、ただ一人の少女として、旅行を楽しむ事を誰よりも望んだのは





  両親なのだから。







  

  ―――       3泊4日の修学旅行        ―――




  彼女は、これ以上無いほど楽しんだ。


  それはまるで、彼女が昔から貧乏などではなく

  

  ただの普通の家庭の少女であるかのように・・・




  そして、きわめつけはその容姿だ、集合場所の学校に着いた時には、

  彼女が敷居 莉那だとは誰も気づかなかった程だ、だからだろうか・・・この修学旅行で

  彼女は初めて男性生徒に・・・友好的な声をかけられ。


  また、女生徒からも、一晩でどうやったらこんなに綺麗になれるの?などと友好的な注目を浴びた。




  それは、本当に楽しく、今までの地獄が嘘であったかのようで・・・・


  彼女自身が貧乏である事、つらかった事を忘れてしまえるかのような・・


  家族以外にも楽しい事ってあるんだな・・っと初めて思えた4日間。



  だから、ほんの少しの時間だけではあるがその幸福に沈み、貧乏である事・・そして両親の事までも

  楽しさで、頭の片隅から綺麗さっぱり消してしまっていた。



  それほど、楽しかったのだ。うれしかったのだ。




  ―― この、最後の旅行は・・・・  ―――




  だが忘れるべきではなかった。


  気づくべきであった。



  どれだけの両親の苦労の上にこの旅行がなりたっているのかを・・・







             そして・・・








   ―――  3泊4日の修学旅行が幕を閉じる     ―――







               同時に




 



   ――― この物語の本当の始まりが・・・幕を   ――  


   

  


   彼女が家に帰ったのは、6月28日の午後7時、修学旅行最終日、学校までバスで送られた後

   解散となったその後。









   ――― ブザーが鳴る、そう、始まるのだ。 長い長いブザーが

               まるで何かを警告するかの様に鳴り響く――



        

   家に光が無いのはいつもの事だ、暗い中彼女は、静かに「ただいまぁ・・・」と言いながら玄関へ

   と足を踏み入れる。



   短い廊下を歩く、いつもならここまでくれば、部屋の中の蝋燭の火が、ぼやぼや、っと

   こちらまで光を指すはずなのだが今日はなぜかそれが無い。






   ――― 長い長い警告のブザーが鳴り止み、静寂が回りを包み込む ―――






  

   暗闇の中、居間にたどり着く、「お父さん?」「お母さん?」っと壁伝いに歩く。



   周りは暗くて見えない・・・視覚は暗闇に慣れるまでは使えない・・・が、嗅覚は確実に何か

   いやな匂いを捕らえていた。





    ギュニュ




   何かやわらかい物を踏んだ。だが、それがなんだかわからない。



   彼女はいつも蝋燭をしまっている戸棚を手探りで探し、ゆっくりと火をつける・・・










   ―― 幕が・・・・・・・・・徐々に上がる  ―――








   ボウっと、明かりが部屋を照らし出す・・・同時に彼女にとって見たく無い事実まで照らし出す。








   始めに気づいたのは、足の下の柔らかな肌色・・・普通寝ている時に他人に足や、

   腕を踏まれたらどうなるだろうか?

   


   当然「痛い」と叫び、目を覚ますだろう・・・・

   普通に「生きている人間が寝ている時」の話ではあるが・・・







  


   彼女は父の首を踏んでいた





   「?????!!!!」



 

     

    声にならない声があがる。




  

    直ぐに足を上げて、「お父さんお父さん!!」と肩をゆするがまったく返事が無い 



    当然だ、首を踏まれて起きないのだから、寝ているわけではない。


  






    死んでいるのだ。







   「・・・・・・いや、お母さん・・・?お母さんは?!」



    居間には彼女の母の姿は無かった。



    ろうそくを持って、部屋を飛び出す・・・



    「お母さん、お母さん!?」


  とにかく、誰か助けを・・・その時はまだ彼女はこちら側にいたのだ、

  だから、普通の感性で誰かに助けを求めようと思っていた。




  それはまだ、心の支えが一人でも残っていたからだ・・



  廊下に飛び出す。







  ――  ・・・・いやな感じがした。 ――





  なぜなら、廊下に付属しているトイレの扉がなぜか開いているからだ。


     

  さっきは暗闇で気づかなかったが、今はそれがはっきりと蝋燭による光で映し出されている。



  「お、お母さん・・?」


  

  トイレに恐る恐る足を踏みいれる・・・・・・・・・徐々に見たくなかったものが見えてくる。


  壁に半身をもたらせながら、下半身裸でトイレに座ったままの母の死体が。







  彼女は膝から崩れ落ちる・・・




  落ちる



  落ちる



  落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる

  落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる

  








          堕ちる





  


  ぐだん・・・とした母親をみながら・・・彼女は・・・・うつむき






          堕ちる



 

  

              

  

 

     まどろみと共に彼女の意識は彼岸へと足を進める


              






  ジジジジジジジジジジジジ

 


  プツン


    

  


  

  彼女は家族が来る前からそこにおいてあった、既に電話線の切れた電話を取り

  ダイヤル式のボタンを何度も何度もまわす




  ジジジイジジジジジジジジ


  ジジジジジジジジジジジジ


  ジジジジ


  

  その意図はわからない、なぜ電話に手を出したのかなど誰にもわからない事だ、

  たぶん・・・彼女自身も自分の行動を理解していないのだろう・・・




  じじじじじいじじじじじい


  じじじじじじ


  じじじじじ



  だが、唯一つ言えるのは、貧乏でも苛められても、決して彼女は誰かに助けを求めなかった。

  なぜなら、どんなに苦しくても心の支えである家族がいたからだ。



  じじじじ


  じじ


  ジ



  それがいなくなった今、彼女は、彼女の中にあった不安や恐怖がすべて爆発し・・・


   

  ジジ


  ジ


  誰かに・・・誰かに助けを、自分自身の今の思い全てをぶつけたかったのかもしれない。



  ガチャン





  「もしもし・・・・・・・・・・・・・・聞きたい事があるの」





  かかるはずの無い電話が、






  彼女の独り言が・・・







             あちら(彼岸)に届く





         それはまるで、お客様窓口コールセンター


        




  Q;どうしてお父さんとお母さんは死んだの? ―――  



  A;外傷はない・・誰かが殺したわけじゃない・・・自然死?・・・病死?・・・いや、たぶんこれは






                     餓死 ―――








  Q;なんで、餓死?食べ物だったら、がんばればネズミだって食べれたはずじゃない?!!


  A;・・・・・・・出ていく時のお父さんとお母さんの顔みた・・・・すごい疲れてた、

    過労で動けなかった・・そう言うのも関係しているのかもしれない ――




  



  Q;うそうそうそうそうそ、そんなの嘘、お母さんは、お父さんは死んでなんかいない・・・


  A;目の前の光景が事実 ――






  

  黒い受話器を片手にもう一度ゆっくりと焦点の定まっていない目で回りを見回す・・・

  紛れもない両親の「死体」



 

 


  Q;どうして、どうしてこんなことになっちゃったの?


  A;・・・・・・・私が、私が・・・・・・・・





       修学旅行なんかに行ったから ―――








  Q;私の・・・?私の責任なの?


  A;・・・・・・・・・・・・――


  Q;そうだよ、私の責任なんだ・・・私が、修学旅行なんて行ったから、そのためにお金を

    集める為にお父さんお母さんは普通より少ない食事で、あんなにも疲れるまで・・・

   なんで気がつかなかったんだろう、私、家を出るときに二人の疲れている顔見てたはずなのに・・

   それなのに気づかなかった・・・それなのに私は浮かれて・・ああああああああああ


  A;・・・・・・確かに、お父さんとお母さんの死は私の修学旅行に行くと言う事象と直結している

   でも・・・・だからと言って、私が、お父さんとお母さんを殺したわけじゃない、たまたま、

   悪い偶然が重なっただけ、それに私が行かないと言っても、二人はどうやっても私を修学旅行に

   行かせただろうし、玄関で、「やっぱり二人が心配だから行かない」といって、修学旅行に行かない

   なんて事、あの優しいお父さんとお母さんが許すはずがない。

   「私達にかまわず・・・楽しんできなさい」そう言うはず。



  Q;じゃあ、じゃあ、何が結局悪いのよ?だれを恨めばいいのよぉお!?

  

  A;誰も・・・・・誰も悪くはない・・・だれも誰も恨めない・・・・・

    ・・・・・・・・・・・・・・でも、しいて、しいていうなら・・・






                 貧困  ―――






  Q;もしも、もしも私達の家庭が裕福だったら


  A;こんな事は起こらなかった。





  Q;でも、貧乏は変えられない・・・幼かった私、何の力も無い私にこれを乗り越える事は


  A;出来ない




  Q;だから・・これからも・・私は貧乏・・・そして、今のまま行けば、お母さんやお父さんが

   何も食べれずに死んでしまったように



  A;私も死ぬ



    私も死ぬ私も死ぬ私も死ぬ私も死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ





    死ぬ ―――






   ――  お母さんは、お父さんは、私は、それぞれ死なせないように、食料を探した。 


       死なせないようにして、死んだネズミをネコを私に食べさせた。


       それは、私に死んで欲しくないからだ、わたしも二人には死んで欲しくはなかった。

 

       だけど死んでしまった・・・もし私が、二人と逆の立場だったらどう思うだろうか? 


       もし、何も食べ物がなくて私が、両親よりも先に死んでしまったら・・・・・ ――





  「私はお父さんやお母さんに生きていて欲しい、だから、私が先に死んじゃったのなら、私の肉を

   食べてでも生きていて欲しい・・・・・・・・・そうだよ、そう思うはずだよ・・・・」      

    

    


 Q;お母さんは言っていた、死んだら終わり、もしも死んでしまったなら、後は生きている者の糧

   になれば本望だと、だから、近所の死んだ猫を食べたんじゃないか。

   それと同じなんだ、今の状況は・・だから、お父さんやお母さんが死んだ今、

   私がやらなきゃいけない事・・・・・・・・・それは・・・・・・・・
















 A;   ――   お父さんとお母さんの肉を「食残し」無く食べる事     ――







                   ガシャン

 



  

  

  戻ることの出来ない「あちら側」との通話


  彼女にだけしか聞こえない問いと答えが未だに彼女の中でこだまする。




  心の奥底に未だ鎖のように絡みつく

  自身の幸せを得る為に両親をギセイにしてしまったのでは・・と言う「悔いを残し」

  

  その悔い残しを払拭する為に、彼等(家族)の死が無駄でない事を確かめる様にに、

  無我夢中で、今の胃に入るだけの食事(家族)を食べる。


 





  長かった彼女の過去を土台として  


 


 「彼ノ女」を起こす物語が始まる。

     

  


  



  彼岸花 第三部   



 


   裏一話    「悔残し」


   





 

       

      

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