第一話―後編―
■■■
夜の9時30分を過ぎたコンビニ、僕は今日買えなかったエロ本の品定めをしていた。
(うーん、この本もいいが、こちらの本も捨てがたい・・・・)
結局昼間のあの「話すエロ本」のせいで、僕は当初の目的である「話さない普通のエロ本」
を購入する事ができなかったわけだ。
だから、あの本が完全に睡眠に着くまでの30分間を何とか我慢して待ちこっそりと夜の街に
繰り出した。
―― 「あと今日はもう寝る事、勝手に外にであるかないでくださいよ」 ――
あのハレンチ本は僕にそう忠告した、結局今考えてみれば、あの本の正体は謎のままで
はっきり言って僕はあの本の言う事をまったくといって信用していなかった。
だってそうだろう?
奴の言っている内容はあまりにも現実離れしているし、特異な力を持つ殺人鬼が街中に
いて僕たち一般住民の命を狙っているなんて、そんなばかげた話信じれるはずがない。
まあ、実際にこの街中で殺人事件や行方不明者が出ているのは事実だが、この事と
本の話を簡単に結び付けれるほど僕は単純でも純粋でもないからだ。
だから、あの本の忠告を無視してこんな夜中にコンビニにいるわけだ。
さて、どの本にしようかな
これ以上悩んでいても仕方が無いと思い
決断する。
よし、これだ・・・これに決めた!!
コンビニのガラス方面に並べてあるエロ本に手を伸ばす、延ばした先に・・・
じーーーーーー
嫌な視線・・・・
エロ本に手をかけようとする僕をひたすら見る女子高生・・・・
手にかけたエロ本をするりと落とし、右30度回転、一歩踏み出して読みたくも無い経済誌に手をかける
つまりどういう事かというと
遅すぎるカモフラージュである。
エロ本に手をかけた事を見られた時点で、恥ずかしいのが、それを無かった事にする。
「さーて、今週の株価は・・・」
まったく持って興味が無い、たぶんカモフラージュもされて無い、けど、それでも
隠さずに入られないのが男のサガだ。
早く置いて、先ほどの本を購入し帰宅したい・・・だが、だが、だが・・・・
未だに窓の外から僕を瞬きもせず見続ける女子高生・・・なぜか、顔が青白くなっている
まるで、幽霊か何かを見たかのような・・・いや、そこまで引くことないんじゃないかな
ぎゃくに、そんな顔をされたらもう、エロ本を買わずに帰るしかないじゃないか・・
数秒後、ちらっと窓の女子高生の顔を見ると、今にも泣きそうな顔をしてこちら側を
見ていた。
ええええぇぇ、そこまでぇええ、そこまで引くううう?!!!
・・・いや、思春期の純粋な少女には男性がエロ本を買う姿があまりにも衝撃的だったのかもしれない
少し反省、そうだよな、やっぱりエロ本はちゃんとX指定コーナーがある所で買わないといけない
と言うことか・・・だが少女よ、そんなに純粋ならこんな時間まで町をあるいていちゃだめだぞ
ただでさえ、この頃ニュースで話されているように物騒なのだから、あのエロ本もいってたとおり
まあ、信じてないけど殺人鬼だっているかもしれないんだから、それにもうこんなエロ本を買う衝撃的
シーンをみたくはないだろう?だから今日は帰りなさい、あーもう、僕もなんか心が傷ついたから
この読みたくも無い経済誌かって帰るから!!
自分を励ます言葉を頭の中でかけながら、ゆっくりと手に取ってしまった経済誌を(欲しくは無いが)
レジに持っていく為に振り返る。
店員の一人が頭から、少女の手に付いた人形に食べられている
「こりゃ・・・・衝撃的だ・・・X指定だよ・・それ」
夜に一人エロ本を買う男性以上に衝撃的な光景がそこにあった。
■■■
さて、どうしよう、まあ選択肢は逃げるか逃げるか、最悪逃げるかしかないわけだが
この脱出劇をこなす事ができたら、俺、結婚するんだ・・・
まあ、今の僕には恋人はいないし、出来そうな予感も無いし・・・・むしろ、
この言葉をいったらいきてかえれないし・・・
それほど現実離れした最悪な状況であり光景なのだ・・・・命のともし火いままさに、死神にふーされてる
感じ、女子高生が青くなる理由も納得出来る。
だが、女子高性と僕だと、まだ女子高生の方がましだ、なぜなら女子高生はコンビニの外。
しかし僕はなんだかよくわからない、人食い殺人鬼ともう下半身しかない深夜店員、そして
レジでおびえすくんでいるバイトらしき若い店員の3.5人仲良くコンビニの中だからだ。
まったく・・・今日はろくでもない日だ、話すエロ本に殺人鬼・・・・しかも手に口
が付いてる異端使用。
さて、もう一度回りを観察する、もう既に深夜店員(男)の姿はなく、残ったのは少女のまわり
の赤い血溜まりのみ・・・・それをおいしそうにすすりやがて、その目はレジに立つ
若いバイトの男性をターゲットとして捕らえた。
踏み出す足は獣より速く
飛び出す殺気は死神より邪悪
両手に付いた牙は全てを捕食する。
強靭な一けりで、少女は店員の前に立つ、元いた場所には削れた足跡、
瞬きをするまもなくその店員の生を一気にむさぼった。
そのタイムわずか4秒.57(推定)
逃げろと言う暇も与えてはくれない、いやそんな事よりどうやら次のターゲットは
僕のようで。
右手に付いた人形で左手の口に付いた血を吹き去り、いきよいよく振った手から
赤い液体がはじけだす。
少女がゆっくりとこちらへと振り向く・・・・・その前に、完全に振り向く前に
脱出経路を定めなければならない、なぜなら彼女が僕をターゲットに認識
すれば、その時点で僕の死は決定する。
それほど力の差は圧倒的だった。
ただの人間とライオン・・・もしくは熊か?
どう考えても勝ち目は無い。
しかも、問題はあの歪な人形についている口や、常人離れした運動能力だけではない
・・・本当に問題なのはあの少女の精神だ、もはや人を殺す事に何の抵抗も無いように見える。
そんな殺人鬼(人殺しの鬼)と鬼ごっこなんてまっぴらだ・・・だが、殺人鬼と殺しあい
を演じるなんてもっと嫌だ。
だから、一秒でも早くこの場から立ち去る、一秒でも早く扉に近づき、
一秒でも早く路上に飛び出し、何事も無かったかのように家に帰って寝る。
さて、どうするか
ゆっくりと目を瞑る
脳細胞を隅々まで行きわたせる
神経を研ぎ澄ませ、もっとも最適の手段を模索する。
――― 次はアイツ・・・・・・・扉に近寄った所を・・・ ――
誰かの声が聞こえたような気がする。
実際に聞こえるはずが無い、おそらくこの声は「俺」の妄想
危機的状況
命のやり取り
生死をかけた戦いの中、全神経をめぐらせて考え付く、殺人鬼の思惑、俺の未来の予測(妄想)
俺は・・・入り口へと走り出す。
その行動に気づいた少女、だが遅い、気づいた頃にはもう外だ、
そして、「少女に背を向けて」念願の脱出・・・・・・・・・・・・・・そして死
扉を出た瞬間、僕は後ろから食われる事となる。
(アウトーーーーーーーーーーーーーーー無理無理無理、出口から脱出なんて
どう考えても不可能、猛獣に背中を見せる事自体、死亡フラグ+即死エンド)
頭の中のシュミレーション結果は最悪、どうやら今回は僕ご自慢の妄想が役に立った
ようで、直感で走り出した自分をシュミレートした結果、見事惨殺決定と言う事に。
(だめだ・・・なら)
近くにあった消火器を持ち上げ、雑誌が並べてある窓ガラスに力いっぱいぶち当てる。
ガシャン、ガラガラ
窓ガラスの割れる音に急いで振り向く殺人鬼
俺の予想外の行動に戸惑ったのか目を丸くしている。
ざまあみろだ、だが安心は出来ない、脱出経路は確保したすぐに脱出する必要がある。
並べてあった本棚を思いっきりけり倒し、道を作ると同時に俺はすぐにコンビニから脱出した。
ソレを見て一手遅れて走り出す殺人鬼、自らの獲物を逃がすまいと目が血走っている。
すぐに殺人鬼は俺を食おうと追ってくるだろう
そう、状況はただ捕食されるだけの逃げ場の無い室内から
逃げ切れば勝利の殺人鬼との「鬼ごっこ」にシフトチェンジ
これに伴って、俺の頭の中もこの状況にチェンジする。
―― ルール ――
ゲーム内容
鬼ごっこ
敗北条件
鬼(殺人鬼)につかまったら死亡
勝利条件
鬼(殺人鬼)を振り切る、もしくは戦意喪失させる。
鬼の死亡。
頭の中を状況に合わせ、恐怖を無くす
冷静かつ、確実に生き残る為に、殺し合いにルールと的確な
勝敗判定を自らに設ける。
脳細胞を全てにいきわたす。
自らが生き残る為に全ての神経を統合する。
――――― スタート ――――
勢い良く走り出す。
遅れて二秒後、どうやら鬼さんもこちらを目視したようで、俺に向かって走り出してきた。
俺は一度も振り向いてはいない、だが分かる、後ろから追ってきたと言う事を・・俺の妄想で
ゴールの無いマラソン・・・いや短距離走か・・・この速度でマラソンしたら普通の人間
じゃ、400mが限界だ。
だが、殺人鬼は難なくスピードを落とす事なく俺に向かって直進している。
対して俺はと言うと・・・普通の人間なのでこのスピードを維持するなんて事は不可能な
わけで、
体力の変わりに頭(脳細胞)を使う
サーチ・・・・・この鬼ごっこに勝利する為の目的の場所を設定、最短ルートを検索
―― い、いたい ――
ノイズが走る
誰の声か?
俺の妄想か?
ぴゅ
ふと、自らの集中を切らした瞬間後ろから手が伸び、俺のコネカミをかする。
血が吹き出る、傷は・・・深くは無い、だが、そんな事より問題は、すぐ後ろに
つかれてしまったと言う事だ。
振り向かずに速度を上げる。
振り向けば死ぬ、その瞬間速度が落ち、がぶりだ
そんなの振り向かなくても分かる、予測(妄想)出来る。
―― い、いたい けど、私がしゃべらない事を・・・・みんなが望んでる ――
ノイズが走る
気のせいではない、はっきりとした言動。
・・・・・すぐ後ろについているあの殺人鬼が俺に向かって言っている?
走る
走る
走る
ノイズが走る。
―― どうせ、私が言ったことは口先だけの事だと思われる ――
何を言っているのか不明
なぜそれが聞こえるのかも不明
理解不能・・・いや、酸欠で頭に酸素が行っていないから、幻聴が聞こえるのだろう
とにかく先を急ぐ、目的の地点までおよそ後約200メートル合計約1km、障害物の多い路地を抜けた
為、ほんの少しだが相手との距離が取れた。
―― だったら話さない方がまし、でも・・・・い、いたい ――
いたい?いたいのはこっちださっき引っ掛けられたこめかみがじんじんする。
カンカンカンカン
今まさに通ろうとしている電車
既に閉まりきった線路
―― 電車を使って私をまくつもり・・・? ――
相手の考えが聞こえてくる
俺はすぐに遮断橋をまたいで逃げようとして、遮断橋に足を引っ掛けて前のめりになって
線路と平行に横になる。
それをのがさない殺人鬼、千載一遇のチャンスと思い、俺を見下ろす形で立つ
スカートの中から島縞模様の柄が見える・・・・役得?
まばゆい光で、殺人鬼はライトアップされる。
ふむ、ここに来て初めて殺人鬼のお嬢さんの顔をま近かで見る事が出来たが、
ブロンド、長髪、スタイルが良い美人なお嬢さんである事に気づく
少女は大きく両手を広げ、ニコッと笑いポーズをとる。
「あ、かわいい・・・・・・・・けど・・・何か・・」
何か・・・・我慢している?
にこやかな表情のそこにやりきれない思いのようなものが見えたような気がする・・・・
何でこんな子が殺人鬼になんて物騒な物になってしまったのか
まあ、死に行くだろうと思われている俺には意味の無い事なのだが。
少女はゆっくりと俺に手(人形)向ける。
俺を捕食する為に
絶体絶命の状況
神に祈る、もしくは自分が主人公ならば何らかの特殊能力、
もしくはヒロインならば、ピンチに助けに来る正義の味方を待つ所なのだろう。
主人公にのみ示される生きる為の、勝利の選択肢。
そんな物を普通の人間なら望むのだろう。
そして、そんな救いの選択肢は現れず、自分がこの物語の主人公で無いと気づき
絶望する。
・・・・・・、そんな都合の良い選択肢、
ピンチに現れるヒーロー
ピンチに覚醒する特殊能力
そんな都合の良い物現れるはずが無い
ただ待っているだけで。
何もしないで
誰かの助け、偶然をまって、そして何も起こらずに絶望して死ぬ
たぶん、この殺人鬼に殺された多くの人間がそう思ったはずだ
自分が主人公じゃないからここで死ぬんだ・・・って
だが、そんなのは関係ない、主人公だろうが、そうじゃなかろうが
そんな都合の良い展開など、ただ待っているだけでは起こらない。
起こらない・・・起こらないから・・・・自分の力でその展開を起こす為の
努力をして、下積みをして・・そして・・・・・
「自分にとって最高の選択肢を、自ら作り出すんだよ」
ガチン!!
カンカンカンカン
それは一瞬だった、俺の上に立っていた少女は鈍い音と共に一瞬で俺の視界から消え
今現在、俺の真上を列車が通っている。
列車はものすごい音と共に通り抜け、俺の顔寸前を走りぬけた。
そう、俺の目的は列車を使い殺人鬼をまく事ではなく、
それすらをおとりに使った、殺人鬼の排除である。
わざと遮断機にひっかかり、線路の隙間に入り込む、
そして、チャンスと思い俺を捕食しに来た少女を「列車」と言う正義の味方
を使って倒す。
俺はというと線路と列車のぎりぎりの隙間でただただ列車が通り過ぎるのを待つ
だけでいい。
つまりだ、この世の中に与えられる選択肢などない、
主人公だろうが脇役だろうが、自らの手で勝ち取った選択肢を選択するしかないのだ。
電車は俺を通り過ぎてから数十メートルして急ブレーキでとまった。
俺はゆっくりとその場に立ち上がる。
あの少女には気の毒だったかもしれないが、俺の勝ちだ、
この鬼ごっこの勝利条件である「鬼の戦意喪失・・・死亡」は今ここに達成された。
どんなに特異な殺人鬼だろうとも、電車と正面衝突して生きていられるはずが無い。
服に付いた砂をほろい、すぐにこの場を離れようとし・・・・
足がもつれて動けずにその場に倒れこむ
「え?」
何が起こったかわからない
ゆっくりと痛みが俺を襲いだす
まるで何かにかまれたかのような痛み、
右足を見る・・・・・・
「なっ?!」
奇妙な光景・・・いや、それだけで言えば今日一日で色々と体験したが、それ以上に
歪な光景がそこにあった。
何も無い空間に口が咲いており俺の足を離すもんかとかじりついている。
「まったくもう、いやですわ、せっかくのわたしのお人形がぼろぼろになっちゃった
じゃない」
電車の上、俺を目視できる所からその殺人鬼に付いた左のぼろぼろの人形(もうほとんど
布が残っていない)が淫靡な声で、俺に話しかけた。
「まっっひゃくや、まひへ、ひんはほほほったへ(まったくだ、マジで死んだとおもったぜ)」
俺の脚に噛み付きながら話す口
かじりながらの為か何をいっているかいまいちわからない
殺人鬼の右手を見るとすでに人形はなく、そこに口もついていない・・が少女は右手を
パクパクと親指と他四本の指を使いながらまるで顎を動かすかのような動きを見せている。
「なんで・・・・生きていられる?ってか、口が・・・しゃべっている?!」
「何をおどろいているのかしら?とうぜん口なんだからしゃべれるに決まっているじゃない」
「みゃは、ワはひが、ひひてひらへたのは、ワはひはひふはひが、あほひっひゅんで
へっひゃにはみふくほとはへひははらはんはがな(だが、ワタシが生きていられたのは
ワタシ達があの一瞬で列車に噛み付く事ができたからなんだがな)」
ありえない・・・・人間じゃないとは思っていたがここまで常軌を逸しているとは
あの列車のスピードと質量を二つの口だけで噛み付いて衝撃を緩和しただと?
そんな馬鹿な。
まあ、くちだけが空間に咲いて俺の脚に噛み付いている状況を見れば、
もう何でも信じられるわけだが・・・・
少女は列車からおり、はいつくばっている俺の両手を踏みつけ逃げないようにした。
「鬼ごっこは終わりだな」
右手に戻ったぼろぼろの人形についた口が言う
「やっと食べれるわね」
左手にある人形すら無い口が言う
少女は大きく両手を広げ、ニコッとわらう・・・・・
―― い、いたい ――
がその一瞬の苦悩の表情を俺は見逃さなかった。
ゆっくりと近寄る両手、俺は最後にその一瞬見た苦悩の表情をたずねる。
「何を・・・・何を我慢しているんだ?」
―― 質問 ――
それは、おそらく自ら作る最後の選択肢、何もしなければ死ぬだけ、
ならば、自ら何かをして道を作り出すしかない、それが出来なければ死ぬだけ
この質問が俺の寿命を大きく変えるか、それともこの場で何の意味を持たずに
終わるのかはわからない
だが、疑問に思ったのは確かだ
何もしないで終わるなんて嫌だと思ったのは確かだ
だから尋ねる
もしかしたらこの問いが、少女の・・そう何かを・・・変える、いや、縛りを
解くかもしれないと信じ
思いを言葉にして自らの口で問う
その質問に右手が答える
「我慢・・・?何の話かしら」
俺は・・・・
「お前には聞いていない」
その質問に左手が答える
「ワタシは我慢なんてしていないぜ」
「お前にも聞いていない」
そう、俺が聞いたのは
「俺はこの二つの「手口」に聞いたんじゃない、君の・・・・君のその閉じて開かない口に
聞いたんだ」
―― い、いたい ――
少女は何も言わない
いや、言えないのか・・・どちらにしても、言わなければ思いは伝わらない
伝わらない思いは重たい枷となり、人を縛り、負担となる。
そこで気づいた
もしも・・・この少女がこの負担に、重さに我慢しているとしたら。
―― いいたい ――
今日何度も聞いた苦痛が、意味を成して俺に届く
―― 言いたい ――
「何か・・・言いたい事があるのか?」
少女の偽りの口はその言葉と共にピタッと前進を止めた。
「言いたい事、そんなこと・・・無いわ」
「ワタシ達はただお前を食うだけだ」
「・・・・・・・」
偽りの口は話せども、少女の口からは何も言わない、何も話さない
―― だって、私が話す事を誰も望んでいないから ――
―― 話すなって言われたから ――
少女の呪いは根が深く
その縛りは一朝一夕では解けない
それほどつらい思いと経験をつんだのだろう。
それは、言葉にせずとも、少女の表情から汲み取れる
だが、それでも、彼女の口から聞かなければ思いは伝わらない
少女の顔が今度ははっきりと先ほどの苦悩の表情を示す。
彼女の苦悩・・・その全てを俺が知る事はかなわない・・・だが
その苦悩・・・いや、心の病みが彼女に呪いを施した事だけは確かだろう
あの本もそう言っていた
―― 「呪われる対象は心に闇(病み)を持つものだけ、元は一般的なただの人間」 ――
病みは闇となり、心は黒く呪われる
そして今この町の一角に、そんな病んだ闇に呪われた6人の人間達は詰め込まれ
様々な狂気のダシの元、一つの鍋となってぐつぐつと世界を歪ませている。
またこの少女も、この病み鍋の中の一つの味をかもし出すダシに過ぎないのだ。
この逃げ出す事の出来ない病み鍋、この鍋から這い上がるには・・・・・
―― 心の病み(闇)を除く事 ――
つまり、この少女の病みとはおそらくは、言いたい事が言えない・・
いや、封じられている事だろう
だから、少女は何も言わない
言えない事に苦悩する
言いたい事を我慢する
もしかしたら、彼女の人を殺す前のあの行動・・・・・
大きく手を広げて、にこりと笑うあの一瞬、あれは
何かを言おうとして、大きく息をすって話そうとする、深呼吸の様な
動作だったのかもしれない
だが、その動作はいつもから回りに終わり・・・・少女は何も言えず
―― 何も言わずに笑ってごまかす ――
そんな事を幾度も繰り返し、その繰り返しの末その苦悩・・・やりきれない行動
を殺人と言う呪い衝動によって緩和していたのかもしれない
何度も何度も、誰かに言いたくて、誰かに自分の・・・自分自身の口から話す
言葉を聞いて欲しくて・・・・そしてそれが叶わなくて・・・・・
彼女は殺人鬼となった
言いたい事が言えず
人を殺し続けた
だったら
「言いたい事があるなら言えばいい・・・俺、何でも信じるし、君の言う事
をさえぎったり、止めたりしないから」
そう言う事が彼女にとっての唯一の救いになると信じて、俺は俺の口から少女に
許しの言葉を伝えた。
「何を言っているのかしら・・・わたしは言いたい事を言っている」
「そうだ、ワタシはどんな事でも言える」
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺が聞きたいのはそんな、他の口を借りた言葉じゃない、君の口から出る
君の言葉を聞きたい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言
―― 話さない、話せない、話してはいけない、離れない、離れてくれない ――
―― あれがいった「お前はもう話すな」の言葉(呪い)が離れてくれない ――
無言
しかし
それでも、言葉は出なくても・・・・体は、彼女自身は言葉を吐き出そうと
自らの声で思いを伝えようと、何度も何度も殺人の前のあの行動を繰り返し
言葉を出そうと努力している。
努力
努力
しかし、もう一歩の所でのどに詰まる、つまっているのはあの呪い、
「さあ、吐き出せ、君の言いたい事を、伝えたい事を・・・・・」
吐き出せ・・・呪いを
吐き出せ・・・言葉を
吐き出せ・・・思いを・・・・
「さあ、言いたい事を吐き出せ!!」
少女は大きく体をそり
びちゃびちゃびちゃ
その口から大量の血肉を吐き出した。
バラバラになった、肉片
ぐちゃぐちゃになった臓腑
腕一本そのままの形で残った物もある。
言いたくて、言えなくて、呪い衝動のまま殺した人々
それが彼女の中で消化されずに殺されたままの状態で吐き出されている。
ぐちゃぐちゃ、べちゃべちゃ
いまだにひっきりなしに吐き出される血肉
そう、言葉に出来ないのは「呪い(あの言葉)」がのどに詰まっていたからだけではない・・・・
その衝動にまかして殺してしまった多くの人々、それら罪悪感がのどに引っかかって
しまっていたからである。
吐き出された人数はおそらく20人は越えているだろう・・・だがはっきりとした人数
は分からない、なぜならもはや人の形をしていないのだから、
おそらくは、この一週間以内に行方不明になった人々だろう大量の肉の塊
が線路の真ん中につまれていく。
うえおえおえお
最後に・・・・・丸々飲み込まれたと思われる人一人が少女の口から吐き出される
口から丸々一人の人間が吐き出されるなんて不可能だ・・・そう思うかもしれないが
実際に目の前で吐き出されているのだから、事実を拒絶する事は出来ない。
涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃに汚れた顔で、最後の一人を吐き出し
殺人鬼は殺人者に戻る。
べちゃ、血肉の後に、短髪の制服を着た少女が吐き出された。
ぜいぜいと、膝と腕をつき、涙とよだれと鼻水、吐き出した胃液と汚物にまみれた口
少女の血にぬれた口で、少女は最後に言葉を発した
「言いたい・・・・・・私は言いたい事を言いたい!!好きな人に好きだって言いたいし
嫌な事は嫌だっていいた、他人に合わせるだけじゃなくて、自分の言いたい事を言いたい」
―― 「私の言葉を誰にも封じて欲しくなんて無い」 ――
そう最後に言い、少女はその場に倒れた。
言いたい事だけ言って・・・・全て満足した顔で・・・すやすやとその場に寝やがった
いやホントに・・・・後の事はどうでもいいとでも言う様に、血肉の塊をその場に残した
まま・・・言いたい事だけを言って。
■■■
「意識の無い少女二人を家に連れ込む20代逮捕、犯人は夜遊びの末お持ち帰りしたと供述
・・・・どういった状況に直面すればこんな状況になるのか説明して欲しいですわ、ヘンタイ」
「いや、ヘンタイ本にヘンタイと罵られたくは無いのだけど」
「へ、ヘンタイ・・本に罵られるって事は、
もう底の無いぐらいどうしようもないヘンタイと言う事でなくて?」
帰宅したのは日が昇り始めた早朝であった、
意識の無い二人の少女を背負いながら自宅まで歩くのは相当の苦労であり
もやしっ子の僕がよく、この二人をお持ち帰り・・・じゃなくて運ぶ事が
出来たな、と素直に感心する。
だけど、その努力は家に住み着いたエロ本には通じないようで・・・帰宅早々
このありさまである。
「で?説明してもらいましょうか?だれなんです?この子達?・・まさか本当に
拉致したわけじゃ・・・」
「してません」
断固拒絶
「少女の名前は知らない・・・ただ」
「名前も知らない少女を家に連れ込んで何をしようっていうんですか・・・・男っていやですわ
っていうか警察・・・・」
「いやだからちょっと待てって」
話が一向に前進しない、停滞オンリー
僕は昨日あった事をかいつまんで全て話す・・正座しながら袋に包まれたエロ本に色々と
言い訳をする姿は滑稽きまわり無い。
「なるほど、つまり、エロ本買いに行ったついでに、女子高生二人をお持ち帰りしてきたと」
重要な所が完全にすっぽり抜け落ちている。
二人の少女は俺のベットの上で仲良く、血とよだれと、汚物をつけたすやすやと
仲良く眠りについており、ものすごい臭いをはっしている・・・いやさすがに寝ている間に
風呂にいれたりきがえさせたりするのは犯罪ちっくだし
「とりあえず、目が覚めたら二人には風呂にはいってもらわないとな・・・」
「ひっ・・・その後何をするつもりなのです・・?ま、まさか・・きゃー死ねヘンタイ」
具体的にヒドイ言葉が交じってきた今日この頃、なんか勘違いが止まらないエロ本
そう、背負ってきた少女は二人
一人は言わずと知れた俺と殺し合いと鬼ごっこを演じ続けたあの口咲女・・・
さすがにあの血肉の中ほっておくこともできずつれてきたのはいいのだが、うーん
警察に引き渡すべきだったか。
そしてもう一人は最後に吐き出された短髪の制服少女、歳はおそらく口咲女と同じ
ぐらいに見える、はじめは死体かと思ったが、あの後良く見ると脈があり、
生きているじゃないか・・・さすがに彼女は被害者だと思い、つれてきたわけだが、
ぶっちゃけ、この子も警察にまかせてしまっても良かった気がする。
まあ、どうにしろ、今僕が警察に目をつけられるのは好ましくないし、あのまま二人を
放置なんて出来ないわけで・・・
未だにごちゃごちゃ何か言っているエロ本を片目に、テレビをつける。
すると、昨晩あったコンビニ店員失踪事件と線路の真ん中に大量の肉片事件が
テレビのトップをかざっていた。
「ほら、このニュース・・・・僕の言ったとおりでしょ?」
動かぬ証拠を突きつける僕
「むむむ、ま、まあ信じましょう・・・・でも・・・・・・・私言いましたよね?
昨日、今日は外に出るな・・・って、その言葉完全に無視したわけですね?あなたは
・・・・自分の欲望のままに」
まあ、エロ本を買いにそとにでたのだからそうなる・・・・そこは否定できない
「まあ・・生きて戻れただけよしとしましょう・・・・でも、本当に良く生きて帰れました
わね・・・・この子の呪い(能力)を見たわけじゃないからなんとも言えませんけど・・・
あなたの話だけ聞けばこの子の呪い(能力)は・・・・・いや、まだ予測の段階にしかすぎ
無いので、断言は止めておきましょう・・・・でもう一人のこの子は何なんですの?」
「さあ?最後に彼女の口から出て来たぐらいで、実際に誰なのか・・・」
「その子は栗丘 朱、わたしのクラスメイトだったこよん」
唐突に聞こえたなまめかしい声、この声は・・・・
「グッモーニ―ング」
口咲女の両手口が交互に俺に対して話かけていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あら・・・・・どうしたのん?そんな怖い顔して」
少女は起きあがってこちらを見ながらはなしている・・・・その手についた口を使いながら
「呪い・・・解けてなかったんだな」
「そうだな、まあ、簡単にとけるもんでもなかったってわけだ」
「でもねん、全てを吐き出せたおかげで、どうしようもない殺人衝動はおさまることができたわん」
それでも少女は未だに自らの口から自らの言葉を吐き出す事が出来ない
それほど、彼女の呪いは根深い所に縛りついている。
「でこの子はなんなのよ?」
エロ本が唐突に話しかける・・がその声は口咲女には聞こえてないようで、
どうやら本当にこの本は僕にしか聞こえない妖精・・・・マジックアイテム的な
何かのようだ。
その為、僕がエロ本の代弁(?)をする。
「で・・・その栗丘 朱は結局の所誰なんだ?」
「・・・わたしが二人目にに食べた子よん・・・・・この子はちょっと
思う所があって・・・苦しませずに一飲みしたの、まさか生きているなんて
思ってはいなかったけどねぇ」
口咲女は加えて、自分が呪われた時の事を話し、その学校の音楽室の中で
食べた子だと言う事も僕に伝えてくれた。
食べられた栗丘 朱は未だに目を覚まさない・・・・いや、目を覚ましたら
その惨劇の記憶とその惨劇を起こした張本人を前に彼女はどんな反応を
起こすのか・・・・・あまり考えたくは無い。
「で、殺そうとした相手にいまさらこんな事聞くのもなんだけど
お前誰なんだよ」
少女の口の悪い左手が僕に質問する。
「いや、その前に君の名前は?まずは自分の名前から名乗ってもらわないと」
少女の両腕がほぼ同時に口を開いた
「倉辺 鈴子だ(よ)」
その後
「ワタシに・・言いたい事を自分の口から言えなんて言った奴、いなかったからな・・」
「あなたには感謝してるわん」
と、もじもじしながら語る・・・なんだろう、心なしか鈴子本人の顔が赤くなっている
様にも見える・・・気のせいだろうか・・・・
「ああ、分かった鈴子・・・・よろしく、僕の名前は・・・」
「私の名前は魔法の本子ちゃんよ、今決めたわ、略してマホちゃんでいいわ、きがるに
よんでいいですわよ」
魔法の本子・・・・・その本の内容にはそれこそ18歳未満禁止の魔法の言葉と
絵が書き綴られているわけで・・・
「で・・・・あんたの名前は何なんだよ・・・ワタシは言ったぞ」
「僕の名前?・・・・・・僕の名前は・・・・・・・」
僕の名前・・・・自分の名前だ、その名前が・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・思い出せない」
僕は自分の名前の記憶を失った。
Bパート 終了
次回予告
「説得?無意味さ、だって俺は君を殺す為に来たんだから」
(マッドハンド)
その手は無限に増殖する狂った手
「百本?二百本?何本だって食らってやるわ(ぜ)」
(ビッグマウス)
対するは全てを食らう口咲女
「違う・・あいつらは被害者なんかじゃない、
加害者よ・・・・ただの・・殺人鬼よ」
目覚める被害者(加害者)
少女は彼等の死をムカデに望む
次回
「百足手」
セブンズレイヤー 第一話 口咲女 完
― 病み鍋 ― 第一話 殺人鬼
殺人者と殺人鬼は違う
何が違うのかと聞かれれば、もっとも簡単な答えはハードルである。
つまり・・人を殺したとしても、その罪を悔やみ、人の命の重さと言うハードル
を下げなければ、例え人殺し(殺人者)でもその本質は人なのである。
だが・・殺人鬼は違う、彼等は一度でも人を殺す事によって、人の命の重さと言う
ハードルを下げてしまった存在の事を指す。
どういう事かって?
すなわち、一人目の殺人には人としての倫理・・・人を殺してはいけないと言う
高いハードルがある為、通常の人間は「人を殺す」なんて恐ろしい真似、早々出来はしないのだ。
だってそうでしょう?
自分の頭より高いハードルを飛び越えようとしたら、普通の人間じゃドンだけ跳ねてもとどかない
しかし・・・もしも・・アナタが人を殺してしまったとしよう、
それは偶然でも恨みでも何でもかまわない・・・ただ、どんだけがんばっても届かないハードルを
たまたま越えてしまっただけの話。
そして越えてしまっただけではまだ「人」なのだ、だが、ここからが問題だ、越えてしまった先に
アナタはある重要な選択肢に直面する。
それは・・・・
ハードルをの高さを「下げるか」、「維持するか」と言う選択肢だ。
もしもアナタが後者を選択したのなら、命の重さを尊重し、例え人を殺した後だとしても
人として生きる事ができる・・殺人し(殺人者)の肩書きを背負ったままではあるが。
その後、変わらぬ高さのハードルを越える事はまずないだろう、例え人を殺した後でも、そのハードル
の高さが変わらないのなら、二度目にそのハードルを越える事はまず無い。
しかし・・・・アナタが前者を選択したのなら
アナタはその時点で人でなくなる。
人の命の重みと言うハードルを下げた人間は、たやすく次のハードルも越えて行く
そして、越えるたびに低くなるハードル、
越えるたび、
殺すたび、
越えるたび
殺すたび
ハードルはジョジョに低くなり、ちょっとした事・・・・普段は絶対にその程度の事で
越える事など無い感情の起伏で簡単にハードルを越える事が出来るようになり・・・・
アナタは、何度も繰り返し人を殺すようになる
それはもう人とは言えない、それは既に鬼である。
すなわち、人を殺す鬼・・・殺人鬼
そして私がこの「殺人鬼」とそれを引き起こす「呪い」をいくつかあるキーワードの一つとしてこの「物語
を書こうと思ったのには理由がある。
その理由それは・・・・・今は言わない。
と言うか言っても意味は無い、なぜならこれはただの独り言なのだから、この独り言を聞く者もその独り言を聞いて私を
許す者も存在しないのならここで言っても意味は無い。
ならば今のこの時間は何かって?
一つの物語の始まりを書いて、その達成感と疲れに酔っているだけの自己満足の時間・・・・そして
私が施設を出てから毎日寝る前に繰り返している、自身を苦痛から安らげる為の確認行為の一部
ただそれだけの話。
他人が聞いて楽しい物じゃない・・・いや、先ほど書いて投稿したあの物語だって、結局の所
私自身の心を癒す為の自己満足行為に過ぎない。
なんだか急に欝になってきて、寝るのもめんどくさくなって来た。
眠れない、ゆっくりと目を開け上半身を起こす。
部屋にある唯一の時計は朝の5時半を指していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
徹夜したのはいつ以来だろうか?
少なくとも、ここ数年はしていない、なぜなら施設では当然夜更かしなんて真似は出来なかったし
そもそもする必要も無かった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何も考えられなくなり、眠れもしないのでテレビをつけて見る。
「緊急ニュースです、昨日歌手の夜杉亜美さんが、謎の失踪を遂げたとの事で、警察は彼女自身が
何らかの事件に巻き込まれた可能性があると考え・・・・」
人気歌手失踪のニュース・・・・どうでもいい、私には関係の無い事だ、チャンネルを変える。
「やあ、キャッシー、見てくれよこの筋肉、どうだい?すごいだろう?たった2週間で手に入れたものなんだぜ
どうやったかって?これをつかったんだ、ボリーズブートキャ」
カチ、カチ
いかつい外国人がこれ見よがしと営業スマイルで筋肉を自慢している、
私はこういうのが嫌いなのですぐに次のチャンネルへと変える、
ゆっくりとベッドから起き上がり、コーヒーでも入れようと思い立ちあがった。
「さて、今日の商品は・・・これ、万能研磨機!!、これすごいんですよ、包丁からハサミ、刀まで!!
・・・って刀はさすがにご自宅にはありませんよね?」
たいして面白くない冗談をさも面白そうに言う姿は滑稽で、その顔は先ほどと同じ外国人と同じような営業スマイルである
この時間はこんな番組しかやっていないのかと思い、私は台所に向かい・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
思い出した。
そうだ、思い出した、私が最後に徹夜したのは・・・・・「あの日」の事だ
あの日の夜、私は徹夜で「包丁」を研いでいた。
綺麗に、鋭く、何者すら切り刻めるほどの切れ味を持たせる為に、
何も考えずにただひたすらに・・・・
いや、何も考えずは無いな、だってあの頃の私の頭の中には・・・・・・・
―― 私が好き「だった」彼の事しかなかったのだから ――
■■■
鋭い銀色の包丁が憎たらしかった少女の腹部に突き刺さる、
徹夜して包丁を研いだ為か包丁はすんなりと少女に引き込まれていき
赤いどろどろとした液体が、銀色の刃を伝って私の腕へと流れ込む、
その暖かさと鉄の臭い、
「う、うっ」とうなるだけの彼女を目の前に私は自らの行ってしまった事を始めて自覚する。
床に広がる赤い斑点は徐々に面積を大きくし、同時に私自身が今の今まで持っていた
彼への異常なまでの「好き」と言う感情が、血の量に反比例して薄れてゆく。
どうしてだろう?
疑問に思う
昨日まであんなにも好きだった少年が、今ではまるでそこらへんに生えている雑草の様に
どうでもよく見える
どうしてだろう?
昨日なんども包丁を研ぎながら彼と私だけのの幸せな生活を願っていた自分が、
1秒毎に私の中から消え去っていく
どうしてだろう?
あんなにも消えて欲しかったこの少女が、今の私にとって絶対に消えて欲しくない存在に
思える。
ガタリと膝から崩れ行く彼女を見たあと私達から少し離れた所で驚きで目を見開いている
彼を見つつ、最後に空を仰ぐ。
青い空に白い雲、視界は広く、見渡す限りに空が続いている
ついさっきまでの私はそれにさえ気づけなかった、なぜなら私の視界は
彼しか写っていなかったから、彼のみが私の視界の全てだったから、
・・・・・・・なんて狭い視界
そしてこの大きな空を・・・視界の広がりを感じた今、私は疑問に対する一つの
結論に至っていた
客観的に、大きな視界で考えた上の自分の結論、それは・・・
「私は・・・・・彼の事を・・・・・・」
―― 「好きではなかったんだ」 ――
それはいたって簡単な結論、
好きでも嫌いでもないただのクラスメイトだったと言う話、
そう、ただ、ただそれだけ、
この少女に慕われ、幸せそうな彼を見て私も彼女達の様な
恋をしたいと願った、ただの「恋や恋愛と言った物への憧れ」
だから
私は本当は彼が好きではなかったのだ
だが私はその憧れを恋だと勘違いしてしまった、
そして、この少女に嫉妬し、彼を付きまとい、彼にとっては嫌がらせ以外の何者でも
無いほどのアプローチを行ってしまった。
言うならば今で言う「ヤンデレ」と呼ばれる存在に近いのかもしれない、
まあ、実際のそれは本当に彼の事を好きになる事により引き起こされる物だが
私の場合はそれがただの「好きなんだ」と言う思い込みだったわけで、普通のそれより
たちがわるいわけだが・・・・・
やがて、人々のざわめきや救急車のサイレン、雑多な音が大きく聞こえ始め
私は施設へ、そして少女は白く細長い箱へと場所を移す事になる。
これが当時中学2年生の時の私・・・・・・繰須磨 菊が少女を殺す為に
包丁をとぎ最後に徹夜した日の朝の物語の一片だ。
■■■
ピーピー
やかんの沸騰と共に私は軽く眠りについていたのだと気づき、あわてて
コンロの火を止める。
軽い睡魔が再度襲い、私はコーヒーを飲むのをやめてそのまま簡素なベッドに横たわった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミーン、ミーン
嫌な事を思い出してしまったような気がする・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
気を取り直して、眠りにつくまで物語の事を考える、むしろほかの事を考えていないと
欝になりそうだったからなわけだが。
さて、私の書いた「セブンズレイヤー」には7人の殺人鬼が出てくる。
その内6人は元は普通の人間だ(まあ、それぞれに何らかの歪な過去や思い
を持った者たちなわけだが・・)そんな彼らが、のこる一人の殺人鬼の「呪い」
によって特異な力と共に殺人衝動に駆られると言う基本設定をしいている。
そう、だからここでのすべての殺人の罪は「呪い」と言う目に見えない原因に
すくなからず責任を押し付ける事ができる。
たとえ何人殺そうと「呪い」と言う言葉で許される免罪符・・・・・
「・・・・・・・・・・・・いいな」
誰にでもなくわたしは述べる、
だってそうじゃないか?誰を殺しても何をしても、それは自分の責任じゃない
私にかかった「呪い」が悪いんだと罪を逃れる理由になるのだから・・・
そして私はそんな呪いにかかった彼等をうらやんでいる、
なぜならば、私が犯してしまった罪は逃れる事なき自らの責任であり、
それを私以外の何かに押し付けるなんてことできない。
だから、この物語を書く事は自分にとっての自慰行為でもあるのだ
「もしも私があの時起こした事が
この物語のような何らかの呪いにかかった状態だったなら・・・と」
そんな事をしたって、自らの罪は変わらない・・・そんな事百も承知なわけだが・・・
それでも、自らの心を守ろうと妄想する・・・それが人間と言う物である。
なんだが作家のあとがきみたいになってしまったな・・・と思い苦笑する、
こんな救いようも無いダメな殺人者が、えらそうに人を語るなんて・・何様だと言いたい
だが、この物語の中で一つ私と彼等6人とで異なる所がある・・・それは
私は確かに昔、人を殺してしまった「殺人者」だ・・・だが、私はそれで踏みとどまった
その後の私は人の命のハードルをその後1ミリたりとも下げずに維持した。
だから・・私は彼等6人のような「殺人鬼」とは違う・・・私はまだ人だ・・
それだけは区別して置かなければならない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」
妄想もひと段落したところ度でやっとささやかな睡魔が私の前におりたってきてくれた
これで寝れる、現在唯一悩まなくてよい時間・・・・それがやっとおとずれ・・・・
■■■
「マクレーン刑事、マクレーン刑事!!大変です」
短パンTシャツの少女が勢いよく扉を開き、オフィスディスクを書き分けて男の下へとかけていく
「うっせえ、木下ぁあ、もう少し落ち着いていられねえのかてめえはぁ」
「無理です、私そう言った落ち着くとか、黙るとか虫唾がはしるんですよ、却下」
そう木下と呼ばれた童顔短髪の少女はバンバンとディスクを叩きながら抗議する
「てめえは、何様だよ・・・なんで上から目線?・・まあいいけどよお、そもそも何でお前はここに顔をだしてるんだよ
おかしいだろう?、お前は部長から地元の北海道への取材をまかされたんじゃなかったのかよ?」
やれやれと言った表情でマクレーンと呼ばれた初老の男性はげんなりと肩を落とす。
「無理ですよ、そんな任務についている暇ないです、私ラーメンを食べるのは好きですが、
血なまぐさい事件を追い求めるのはもっとすきなのです、どのくらい好きかと言うと、マクレーン刑事の四倍は好きです、
ちなみにラーメンの3倍」
「なんだ、俺はお前にとってラーメン以下の存在なわけか?」
「はい!!ラーメンと梅干の間ぐらいです、てへへ」
山下と呼ばれた少女はなぜか恥ずかしそうに、顔を赤らめる
「・・・・いつもわからんやつだか、今日は特にわからんなぁ、まあいい・・・だが
とりあえず、いつも言ってるがその呼び方は止めろ、それに俺は刑事じゃない、警部だ」
「なんでですかぁー、いいじゃないですか、マクレーン刑事!!最強種ですよ?!
ラックにかけては彼の右に出るものはそうそういません、ヘリを車で落とすんですから」
「だから・・・アレは映画だからな?普通は無理だから、俺は人間だから、ただの日本の刑部だから」
「ブー、いいじゃん、落としてくださいよ、車でヘリ☆」
「いや、何の為に?!まだそんなに大それた事件起こってないし、そもそもなんで、
ただの記者のお前が、警察署のこんな奥までなんの制限もなくはいってこれるんだよ?」
山下は腰に手をあて、高々と指を差し
「かわいいから?」
そのままほっぺたに人差し指を指しニコッと笑う、それはそれはかわいらしく
「いや、かわいいからって理由でこんな警察署のおくまで入ってこれるなら、それはそれで
お前にも・・・そしてこの警察所にも問題があるぞ・・・・ってか、改善しなきゃならんな
ここのシステム(怒)」
マクレーンと呼ばれた刑事が入り口付近に立っている警官をにらむと、ゆっくりと視線をそらし
われ関さずといった顔をする。
「で、マクレーン刑事、本題なんですけど」
「だから俺はマクレーンじゃなくて「馬暮」だ」
「で、マクレーン刑事、本題なんですけど」
「・・・・・・・・・」
馬暮は大きくため息を吐き、仕方がなく少女の話を聞き始める事にした。
「ずばり、今回の事件についてですが・・・」
びしっと指先を馬暮に向ける、その格好はさながら犯人を追い詰めた名探偵のごとく
・・・・・ただし、相手は現役刑事なわけだが。
「・・・・何の話だ、事件・・・知らんな」
「とぼけないでください、星は上がってるんですよ、一昨日のコンビニでの店員2名失踪事件、そして
同日夜に起こった列車事故・・・遺体となった十代の男女2名に加え、多量の肉片・・・実はこの二つの事件
関係性があるんですよね?」
馬暮ははぁ、っと一期は大きなため息をつき、やがて決心をきめ
「どっからの情報だ?どの警官が話した?・・・・・言ってみ、クビにしてやるから」
ジトーとまわりのデスクに座っている警官を見渡す、警官はみなそろって自分は違うと
全力で首を振る。
「ちがいますよー、さすがにいつもいつも、皆さんに聞いてる私ではありませんよ、
今回は自分で調べて至った結果なんですから、エッヘン」
「はーそうか、って事はいつもは誰かがリークしてんだな?わかった、それだけ分かれば
あとはそいつを搾り出すだけだな」
ジーと再度回りを見渡すが、今度はデスクの回りの警官全てが目をそらし、忙しい忙しい
と言いながらその場から離れていく
「・・・・・・てめえら全員か?!、くそっ、さすがに全職員を総入れ替えはきついなぁ」
「って人の話し聞いてます?!マクレーン刑事?!」
「ああ、聞いてる、聞いてる、で北海道のラーメンがどうしたって?」
「そんな話してません、ですからコンビニの事件と列車事故、直接関係があるんですよね?」
馬暮は数秒の沈黙の後
「・・・・・・・・・無い」
と一言だけ答えた
だが木下はそれが完全にうそだとみきっていたようで
「そんなはずないですよ、私の調べによると、この二つの事件はつながっていて犯人は
列車事故に巻き込まれた十代の少女なはずです・・・」
と自身満々に答えた。
「ちょ、ちょっとまて、何で本当にお前がそんな事を知ってるんだ?」
「エヘへ、驚いてますね、驚いてますね?そしてようやく私が日本でも1、2位を争うほど優秀な記者だと
きずきましたね、認めましたね」
「いや、お前が優秀とも認めてないし、これっぽっちも思っていないが・・・」
「認めちゃいなさいYO☆」
「断じて認めはしないが・・・だがなぜ・・・」
馬暮は本格的に悩みだす、それもそのはずである、なぜならばこのことは警察署内でも
トップシークレットとされていることだからである。
そもそもの発端は一昨日にさかのぼる。
その日の夜10時に警察所に電話がかかってきた事がこの事件の始まりである。
その内容はこうだ。
―― コンビニに誰も人がいない ――
との事だった
あまりにも唐突な事で、何の事だかわからず応対した警官が詳しく話を聞くと、
、
夜9時55分頃に一人のサラリーマンが店に食事を買いに訪れると、そのコンビニには
客どころか店員もおらず、いくら呼んでも誰も来ない・・・不思議に思ってレジの奥に進もうと
するとそこには大量の血の後が残っていたとの事だ。
結局、すぐに警官が訪れ、そのコンビニの店長に連絡をとると
その日は夜のシフトとして二人の男性が働いていたと言う。
警察は周囲に非常線をはり捜査を行ったがその時は彼等店員の姿を見つける事は出来なかった。
だが、その日の事件はこれで終わりではなかった
それから、2時間たった12時の事だ、そのコンビニから1km離れた電車の踏み切りで
人身事故が起こったのは、被害者は「おそらく」二人の若者(これは急ブレーキをかけた車掌が二人の若者らしき影が飛び出して来たと言った証言が元となる)、
二人は電車に轢かれ、バラバラな状態で発見された・・・・がしかしおかしいのは、明らかにそのバラバラになった遺体の肉片が人二人分では納まりきらないほど多いのだ
血の量、骨、肉の量が事故にあった二人分の量と一致しない・・・そんな不可解な事件が起こったのだ。
あまりに唐突な事件だった為、両事件はある程度の把握が出来るまで、むやみな不安をあおらない為にマスコミにもシークレットとして扱
おうときめたわけである。
その為、通常は、記者だと言ってもこの二つの事件を知る事は困難なわけである(とはいっても、比較的大きな事件となってしまった為
付近の住人にはしられており、聞き込みをすれば状況ぐらいなら把握されてしまうわけだが・・)しかし、この木下は
どういうわけか、いつもの三倍働いたのか、両方の事件を知っており、しかもそれらの事件が関係あるのではないかと言い出したわけである。
加えて、犯人は「少女」であると言い切った・・・そこに馬暮は驚きを隠せなかったわけである、なぜならば、まず捜査を行った警官
ですらバラバラになった遺体をみて少女と少年だと見分けるのは困難であったぐらいであり、おおよそ近所の住人達からの調査ではこの情報は得られない
だから、この遺体の身元を知っているのは警察内部の人間ぐらいなわけである、そしてさらに肉片を調べているうちにその一部が
コンビニ店員のものだとわかり、これもまた警察内部の人間しかしらされていない情報だった。
それが、この二つの事件が関係性があると分かった一番の証拠である・・・もちろん、一般人が知れる事ではない
そしてこの警察所の中でも未だにこの事件の真相・・犯人と呼ばれる存在を特定しかねていたわけである・・・
それが・・・この少女・・木下夕夜は被害者の若者の特定すら困難な状況だったにもかかわらず
若者の一人が少女だと確実に言い切り、さらには犯人だと言い放ったわけである
「うふふぅ、驚いてますね、驚いてますね?警察すら知らない情報をつかむ私!!名探偵!!」
「いや、職業間違えてるから、おまえは記者だろうが・・・それより、なぜお前は犯人が少女だと・・・」
最後まで言葉を述べる前に木下はどこからかノートパソコンをを取り出し、あるサイトを映し出し、指を指した。
「これですよ!!、これ!!私はここから推理したのですよ」
「小説?・・・投稿サイト?」
そこには投稿型の小説公開サイトが写されており、その中で一つの小説が画面上に大きく写されていた。
「はい、わたしここのヘビーユーザーなんですけどね・・・これです、この小説です」
そう言うと画面上の「セブンズレイヤー」と書かれた小説をクリックする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
馬暮はそのサイトを十数分間、その小説を斜め読みする。
その内容は少し病んだ伝記的な内容であり、確かにその被害者の中にはコンビニの店員、そして
踏切での戦闘・・・と含まれて入るが・・・あくまで空想の色が強く、ここから
現実の事件と結びつけるのはあまりにも安直であった。
「どうです?やはりマクレーン刑事もこの事件の犯人はこの少女だと思いませんか?」
自信満々に語る木下・・・それに対して馬暮は
「・・・・話にならんな、ただの小説に過ぎん、これだけで関係性がるとは言えんな、まあ確かに投稿された時間も
事件から5時間過ぎた朝の5時程度だが・・・ただの偶然だと考えられるし、内容から言ってもただ似てしまっただけともいえる」
そう言ってノートパソコンを閉じて木下に手渡す。
「・・・なんですかー全否定ですね、私の推理。」
「そもそも推理して無いじゃないか、ただの予想だろ?もういいだろ、こっちは忙しいんだ早く帰れ」
馬暮はもういいだろっと手でしっしっと木下を追い払う、既に馬暮はその話題に興味が無くなったようで、別の仕事に
着手し始めた。
「でももしかしたら、この作者が実は全ての黒幕で今回の事件を操っているのかも・・・」
「映画やドラマの見すぎだな」
「そして、自らが誘導した事件を元に精巧にカモフラージュした物語を作り、犯罪と言うゲームをたのしんでいて、おそらくは、
この小説が更新されるたびに、新たな事件がこの町で起こるんですよ」
「現実をみろ、実際にそんな推理小説のような事件は起こらん」
完全に自分の仕事に打ち込み始めた馬暮をよそめに「いいですよ、信じてくれないなら私、この小説が事件に関係あるって言う事を
なんとしても証明してやるんですから」っと憤って出て行く木下
ふぅ、と騒がしい少女がその場を離れ一息つく、この時の馬暮は完全に彼女の言葉を信じていなかった。
たしかに、今回の事件自体は異質だがそんな異質な事件がぽんぽんとこの町で行われるはずがないと・・・
そんな現実しか知らない馬暮はその後、この世の中には想像もつかない程の狂気ががあると言う事を知る事となる。
そしてこの時は誰も気づかない・・この事件がこの町と言う鍋を使った多くの狂気をはらんだ材料の最初の一つだったと言う事を・・・
そう・・・・闇鍋はまだ始まったばかりなのだ、多くの殺人者、殺人鬼というプレイヤー(参加者)を席に座らせ、「病み鍋」と言う宴が
いま死臭を漂わせ開始させられる。
そして馬暮自身も今はまだ気づいていなかった、すでに彼自身も参加者(殺人鬼)としてこの鍋の席に強制的に座らせられている事に・・・
いまはただ、順番待ちであるだけ・・・鍋に具材を入れ、それをよそるまでの順番待ち・・・・
この長く狂気に満ちた「病み鍋」の・・・
―― 病み鍋 ―― 第一話 殺人鬼 終




