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気まぐれ勇者とリンフォリィの街

ドラクエ風の挿絵をかきました。

挿絵(By みてみん) 遠くに街の城壁が見えていた。あと1時間もすれば、リンフォリィの街に到着するだろう。

アレックスはおもむろに、読んでいた本を閉じると、ショーンに話し掛ける。

「ショーン、もうすぐリンフォリィの街に到着するね。」

「そうだな、やっと街に入れるのは嬉しいけど、屋根にいる野盗たちを見て直ぐに大騒ぎにならないか?」

「そうだねぇ、どうせ騒ぎになるのだからサービスをして上げようかな。」

そう言うとアレックスは荷物の中から2組の真新しい服を取り出して、そのうち地味な色合いの方をショーンに渡した。

「僕も着替えるから、君もその服に着替えてくれるかな?」

それは誰でも一目で勇者と従者と解る王国に古くから伝わる装いを国王が高価な布で仕立てさせて、アレックスに謁見の際に着用するようにと、送ってきた物だった。

「こんなの着ていたら、もっと騒ぎにならないか?」

「だからサービスって言っているだろう。勇者の凱旋パレードみたいな物だね。」

「どう言う風の吹き回しだよ。お前がそんな事を言うなんて。」

およそアレックスの彼らしくない物言いに、ショーンは不思議に思った。

(どうしたんだアレックスの奴、何時もなら面倒臭がって絶対やりたがらないような事を。)

不思議に思いながらも勇者の装いに着替えているアレックスを横目に見て、ショーンも自分の服を着替える事にした。

勇者の服は白を基調として青い装飾があちらこちらに、あしらえてある物だ。材質は魔法線維にミスリル糸で刺繍を施した、一般的な鎧を遥かに凌ぐ防御力を備える一級品だった。また、従者の服も色は地味な茶色だったが、同じ素材の劣化互換品と言った物だった。

2人が着替え終わって暫くするとリンフォリィの街の城壁門に到着した。行商人の少ないこの季節は検問所も空いていて、すぐにショーンとアレックスの乗る馬車の順番となった。ショーンは勇者召喚状を取り出して門番の衛兵に見せる。

「俺は勇者の従者のショーン、後ろにいるのが勇者アレックスだ。」

1人の衛兵は召喚状を確認したが、表紙の国王陛下の紋章を見て中も見ずにお辞儀をし、召喚状を返してきた。国王陛下の紋章の偽物を使えば、即刻死罪になる王国内でそんな真似をする者はいないし、2人の姿を見れば勇者と従者だと疑う者はいないだろう。勇者の装いは一目で国宝級の物である事が見て取れた。

もう1人の衛兵は馬車の屋根に縛り付けられている5人の男たちを見て驚いたが、その顔を見て直ぐに草原を根城にしている野盗集団だと気付いた。

広大な草原を根城にした彼らは何度かの討伐隊の派遣でも捕らえる事ができず、街の人々も不安に駆られていた。

門の近くにいた人達も野盗と勇者に気付き騒ぎ出して集まってきていた。

御者の男が自分の事の様に自慢話しをはじめる。

「勇者様が5人の野盗ども一瞬でぶっ飛ばしちまっただよ、そりゃあ強いの何のって。」

お前は寝ていて何も見ていないだろうとショーンは呆れていたが、アレックスは何故か集まってきた人達にニコニコと愛想を振りまいていた。何時もと違うアレックスの様子に何処か不安を感じるショーンだったが直ぐに衛兵の1人に呼び止められ考え事の余裕もなくなった。

「だだいま市長に連絡した所、直ぐに迎えの者を寄こすので、お待ちいただけとの事です。」

「アレックス、どうする?」

「此処で待つより仕方がないね。」

「どうぞこちらに。」

「あの野盗たちを片付けておいてくれると助かるのだけど、あぁ、償金はあの御者の男に上げてくれ、色々と手伝ってくれたのでね。」

「心得ました。」

既に野盗たちは衛兵たちに床に並べられていて、街の人々は野盗と勇者を交互に見ながら騒いでいた。

償金さえも要らないと言う勇者に騒ぎはさらに大きくなっていた。

その後ショーンとアレックスが案内された部屋は貴族用の待合室だった。城壁門の衛兵所にこんな部屋があるのかと思う程だ。

如何にも高級そうな茶器で衛兵長がお茶を持ってくる、もちろん茶葉も高級品だった。

さほど時間も掛からずリンフォリィの市長と保安官あと幾人かの役人が部屋に入って来た。

相当に慌てて駆けつけたらしく、一様に髪が乱れ、汗をかいてた。

「明日、私の屋敷で歓迎会を開かせて頂きますので、今日の所はこちらで用意しました宿屋でおくつろぎください。」

媚びた笑顔を貼り付けたリンフォリィの面々は見るからに勇者の威光にあやかり街おこしでも、企んでいる事が透けて見えた。

小声でショーンはアレックスに話しかける。

「アレックスどうするんだ、あの市長お前の事を客寄せにする気満々だぞ、」

「そもそも勇者は人々の為の存在だから仕方ないね。」

「お前の口から出た言葉とは思えないな、勇者饅頭とか売り出されても知らないぞ。」

「其れも面白いね。」

宿屋までの馬車を市長は既に用意していた。大型の豪華な馬車だったが何故か?と言うか、やっぱりと言う感じで幌が外されている。勇者の姿を市民に見せる為の物だろう。

馬車に乗り込み街に入ると役人が既に宣伝をしていたらしく、少なくない人々が沿道に集まり手を振っている。正に野盗討伐の勇者凱旋パレードに他ならない。

アレックスは沿道の人達に笑顔で手を振り返していた。金髪で美形のアレックスが勇者の服に身を包み微笑む姿は伝説の勇者を思わせたが、何時もと違うアレックスの行動にショーンは何か嫌な予感がした。

その予感は直ぐに現実となる事をこの時ショーンは知らなかった。

宿屋に到着すると人々も散っていって、静けさを取り戻した。市長達も宿屋の主人にくれぐれも粗相の無い様にと念を押して、アレックスに明日の迎えの時間を告げて帰っていった。

宿屋は大きなリンフォリィの街の中でも1番の宿屋だった、建物はレンガ造りで大きく、店員の娘達は美人が揃っている。そのうち最も美しいと思われる店員の少女が部屋まで2人を案内した。部屋は豪華で清潔だった、部屋の説明をする少女はアレックスの美形な顔と微笑み(ショーンから見たら嘘臭い微笑み)ですっかり、のぼせていた。

「ありがとう。」

と言うアレックスの言葉に。

「ごゆっくり。」

と言って少女は顔を赤くしながら部屋から出ていった。

やる事もない2人は早めの食事を済ませて寝心地の良いベッドで休んでいると2人とも、何時の間にか眠ってしまっていた。

ショーンが目を覚ます、隣のベッドで寝ていたはずのアレックスの姿が見当たらない。トイレで用でもたしているのか?と思ったが、やけにベッドの周りが綺麗に片付いていて部屋の中央にあるテーブルの上にたたまれた白い勇者の服となにやら金色の物、そしてアレックスの書いた手紙が置かれている事に、ショーンは気付き悪い予感を感じつつ、その手紙を手に取った。

『ショーンへ、僕はこの町でどうしても調べたい事があるので、勇者の身代わりを頼むね。こんな時の為にリンカスから金髪のかつらを持ってきてあるから、よろしく。追伸 ショーンと僕は背格好が似ているから上手くいくよ。アレックスより』

(やたらと愛想がいいと思ったら俺に身代わりをさせて時間を作ろうとしていたのかよ。金髪のかつらまで用意してあるって事は最初から計画していたのか?市長が来る前にアレックスを探し出すのは無理だろうし。どうしたら・・・)

 ショーンは何か解決策をと考えても、良い案が浮かぶ事もなく暫く眺めていたアレックスの白い勇者の服と金髪のかつらを身に着けて、儀礼用の装飾の派手な実用性のないロングソードを腰に差した。宿屋の部屋には高級店らしく高価な鏡が壁に掛けられていて、それでショーンは自分の姿を確かめた。

 アレックスが言う様に金髪にして勇者の服を身に着けた彼とアレックスは良く似ていた、2人が並んだとしたら、双子には見えないが兄弟には見える。王国東部の人、特有の顔を2人共しているのが理由かもしれない。ほんの少しの間しか会っていない市長や保安官ならば誤魔化せる気もした。

 歓迎会で身代わりになる覚悟を決めて、勇者らしい振る舞いについて考えていると、店員の少女がやって来てドアをノックした。

「失礼します、部屋の掃除にきました。」

(昨日、アレックスにのぼせていた女の子だ、バレないかな?余り顔を合わせないようにしないと。)

「入って下さい。」

 ショーンは鏡の前で、身なりを整える振りをして背中をドアの方に向けて、店員の少女を招き入れる。

少女は部屋を片付けながら、時々チラッと彼の方を見ては赤くなっている。

(良かった、誤魔化せている様だ。この少女で上手く行けば他のみんなも、騙せるはずだ。)

 彼は覚悟を決めて店員の少女に顔を向ける。

「ありがとう。君のおかげで快適に過ごせるよ。」

 そう言ってて微笑んで、少女を見つめた、金髪のかつらが気になり、つい髪に指先で触れてしまったが、その仕草が逆に彼を魅力的に見せた。

「お、恐れ入ります。何だか昨日よりも自然な感じで、もっと素敵です。わ、私ったら何を言ってるのかしら。」

 店員の少女は顔を赤くして部屋の掃除を続けた。雰囲気の違いの指摘に少し焦ったショーンは誤魔化す為、更に言葉を重ねる。

「快適な部屋で一晩ゆっくりとしたので疲れが取れたおかげかな。」

 そう言って、意識して、微笑みではなく華やかな笑顔を少女に向けた。その効果は彼が思っている以上に破壊力があった、少女は顔を益々、真っ赤にして胸の辺りを抑えて立ち尽くしてしまう。彼は気付いていないが実のところ彼もアレックスに引けを取らない程の美形だった。

(何か上手く誤魔化せているんじゃないか、アレックスに気が有る女の子が騙せるなら他のみんなも大丈夫じゃないか。)

 ショーンはそう思って少女を見ていると、勇者に変装したショーンに見つめられる事が恥ずかしいのか、少女がショーンから目をそらしながら話しかける。

「従者の方が早くに出かけて行きましたが、勇者様に何か頼まれたと、おっしゃっていましたけど、何を頼まれたのですか?」

(アレックスは俺に変装してでかけたのか。)

「何か彼は言っていたかな?」

 ショーンが探りを入れてみる。

「私に古道具屋の場所を聞いて来たので、買い物でも頼まれたのですか。」

「旅に必要な小物を幾つかね。王都までは遠いから少しでも節約しないと。」

 咄嗟に思いついた言い訳を答えながら、アレックスが何故、古道具屋に用があるのか考えたが、思い当たる事が無い。何も理由も無く勇者を置いて従者がいなくなるのは不自然だから、用事が有る様に思わせる為に適当な質問をして外出した可能性もあった。そんな事を考えている内に掃除も終わり、少女は頭を下げて部屋を出ていった。

 部屋に1人でいるショーンが朝食を取る時間は、充分に余裕があったが、今日のこれからの事を考えると食欲もわかず、彼は市長たちの到着を部屋で1人待つ事にした。

 勇者の身代わり対策を頭の中で考えていると、時間は瞬く間に過ぎて約束の時となり数人の役人が迎えに訪れた。

「勇者様、お迎えに上がりました。」

「ありがとう。」

「従者殿の姿が見当たりませんが?」

「彼には用事を頼んでいます、彼には直接、市長の邸宅へ向かう様に話してあるので、まずは私1人で、伺います。」

 彼はそう言って微笑んだ。役人達は勇者が入れ替わっている事に全く気が付いていない、ショーンは正式な場に相応しい様に、アレックスの普段の一人称『僕』を敢えて『私』と変えてみたが、問題はないなと感じながら役人達の後に続き部屋を出て行った。



ショーンが初めて勇者に変装ある意味、最初の偽勇者です。彼は何時、真の偽勇者になるのでしょうか?次回は歓迎会で新たなスキルに目覚めるかも。


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