駅馬車の旅とショーンの能力強化
フォレスティの街も少しずつ平常を取り戻していた。ショーン、アレックス 共にロングソードの修理を武器屋に依頼したので、1週間ほど滞在が延びたが、街での話題は魔獣や被害の事が中心で、勇者の話題は余りされなくなっていた。
駅馬車の出発を控えたショーンとアレックスの2人は、これからの旅の計画を話し合っていた。
「ショーン、この先は今までと違い、他の旅人と一緒に移動する事になる。出来るだけ一般の冒険者を装って行こう。」
「そうだな、迷惑になるといけないからな。」
2人は一般的な冒険者の旅支度で街の中心から少し離れた、駅馬車の駅に向かった。
駅に着くと大勢の人々が駅馬車の出発を待っていた。駅馬車は客車が2連結されていて、それを4頭の馬が引いて走る形を取っていた。フォレストリア州、州都フォレスティから隣のルコアーノ州、州都アルノコシアの間を7日間で結ぶ路線だった。昼に9時間走り、途中6つの駅でそれぞれ翌朝まで15時間止まる、馬は駅ごとに新しい馬と入れ替えられる。客は馬車の中で寝ても良いし、駅の待合室で寝ても良い。勿論、余裕の有る者は宿屋に泊まる。
出発の時間になり乗客が荷物を持って乗り込むと駅馬車は州都アルノコシアを目指してゆっくりと走り出した。大きな客車は人と、その荷物とで溢れていた。
走る馬車の中でアレックスは相変わらず、『鍵の書』を読んでいた、彼はかつらを付けず金髪のままだったが全く目を引かなかった、アレックスは認識阻害のスキルを発動していた。今までも、そのスキルを発動しようと思えば出来たのだが、考えがあって使用していなかった。また、ショーンも完全に一般冒険者になりきっていた。勿論[偽装]のスキルがそうさせている。
駅馬車の旅は順調に進んでいてやる事も無いショーンは自分が得た『詐欺師』のジョブについて考えていた。『盗賊』から『詐欺師』へクラスチェンジしたのは、スキルの使用頻度やその成功数また獲得した何らかの報酬など、自分の行動が変化の方向を決めたのではないか?いや、むしろアレックスによって方向付けられたのではないか?ショーンはそう考えた。わざわざ勇者として目立ち、そして色々な場面で急にショーンへ代役を押し付ける。その事によっ、彼は何らかの進化要素を得たのではないか。アレックスはジョブや、そのクラスチェンジについて何か知っているのではないか。そう考えると今更になって、アレックスが認識阻害のスキルを常時発動しているのも、ショーンの上達がアレックスが思う通りに達成していて、勇者として目立つ必要が無くなった為とも考えられた。
「なあ、アレックス、お前はもしかして、ジョブについて何か知っているんじゃないか?」
ショーンの質問に少し関心した様な顔でアレックスが答えた。
「ほう、僕がジョブについて何故、何か知っていると思ったのかな?まあ良い、勿論君よりもジョブについてもスキルについても知っていると思うよ。君と僕は親友だからヒントを上げるよ。」
「ヒントだけで、知ってる事は教えてくれないのか?」
「そうだね、まず何故ジョブを持つ人と待たない人がいるのか?不思議だと思わないかい?」
「嗚呼、それは良く思うよ。」
「人の人生は解れ道を選びながら進んで行く様なものなんだよ。でも普通の人は『天職』を得る為の道を選ぶ分岐点へたどり着けない。何故なら分岐点へ続く道へ向かう為の扉を開く事が出来ないからさ。」
「俺やお前は扉を開く事が出来たわけか。」
「さあ、どうだろうね。」
「おまえなぁ。」
アレックスはそれだけ話すと視線を『鍵の書』に戻した。
駅馬車は順調に運行を続け、予定通り3日目の夕刻前にはルコアーノ州との州堺、フォレストリア州最後の町アウテリアに到着した。
「ショーン、少し話しを聞いてくれるかな?」
何時に無く、アレックスが真面目な調子で話しかけた。
「どうした、改まって?」
「僕はここのところ君の戦闘力について考えていたんだ。州都で君が死にかけただろう、この先の事を考えると君の能力強化を進めるべきじゃないかと。」
更にアレックスは続けた。
「ルコアーノ州は北の山脈で魔王領と接している。何処かで、魔族と争いになるかも知れない。」
「なるほど。」
「君とゴーレムの戦闘を少しだけ見させて貰ったけど、あの時の攻撃が君の最大能力だろう。だとすると君のスキル偽装は中級ジョブレベルのスキルの偽装、しかも威力は3割程度じゃないか?」
「あの一瞬でそこまで解るのか。」
「と言う事は大体正解かな、もし構わなければ、君の[スキル偽装]のスキルについて教えてくれなか。」
「そうだな、別に隠さなければならない事も無いし 、お前には知って置いて貰った方が良いかもしれないな。[スキル偽装]のスキルは初級と中級のジョブ全てのスキルを偽装して、使用が出来る正し効力は30%
そして、もう一つはスキル模倣とでも言うべきもので、敵の使ったスキルをスキル偽装して、使用が出来る正し効力は50%。この2つの能力が[スキル偽装]だ。」
「上級ジョブを持った相手が敵対したら、相手の上級ジョブのスキルを偽装出来るかも知れないな。確かめてみないか?」
「どうやって確かめるんだ?」
「僕とショーンで対戦訓練をして、僕のスキルを偽装出来るか試してみるんだ。」
「おいアレックス、お前のスキル技を受けたら俺が死ぬだろう。」
「だから僕は剣の代わりにこの木の枝を使う、そして、君がダメージを出来るだけ受けない様にギリギリのところを掠らせる。僕を信じてくれるかな。」
「解ったよ、やってみる価値はありそうだな。」
2人は町はずれの草原にやって来た、周りに人影は無く、誰かに迷惑を掛ける事もない。ショーンは防御力を向上させる為に従者の服を着て、更にその上に簡易アーマーを装備していた。防御に徹する為に剣は抜かず、両手で鋼鉄の盾をかまえている。アレックスはロングソードを構える様に、木の枯れ枝を両手で握り間合いを取っていた。
「初めはゴーレムを倒した時の技[閃光斬撃]のスキルを使う、剣に光属性の魔力を収束させて、斬撃と共に放つスキル技だ。」
アレックスの体が金色に輝き、その光が剣を模した枯れ枝に収束して行く。一瞬で間合いを詰めて爆発の様な眩い光と共に振り抜かれた枯れ枝から凄まじい風圧が風の刃となってショーンを襲った。鋼鉄の盾のぱっくりと裂けてショーンの頬に傷が入り血が滲んだ。ショーンの左側に反らされた攻撃は草原の草を広範囲で刈り取り剝き出しの土に変えた。
ショーンはやっとのところで、踏みとどまっていた。アレックスの攻撃はショーンの顔の皮1枚を正確に掠めただけだが、彼の体力を7割程、削ってしまった。
「ショーン、今度は君が[閃光斬撃]のスキルを使って僕を攻撃してくれ。」
アレックスは枯れ枝を捨ててロングソードを構える。アレックスの攻撃を受け彼を敵認定した事により、アレックスの[閃光斬撃]のスキルをショーンは偽装することが出来きそうだった。
ショーンの体が金色に輝き出す、その光が剣に収束して行く。一瞬で間合いを詰めて閃光と共に振り抜かれたロングソードから凄まじいエネルギーがアレックスに襲い掛かる。アレックスはショーンはの斬撃の間合いを見極め一歩後退しながら、[閃光斬撃]のエネルギーを剣に闘気を纏わせて左右に斬り開いた。
彼の左右に飛び散ったエネルギーは何百mに渡り草原の草を薙ぎ払った。
「ショーン、上手く[閃光斬撃]の偽装が出来た様だね。」
「凄い技だな、お前の50%の威力でこれとは、俺の魔力、体力、精神力、闘気、全てが攻撃と一緒に持っていかれた。これ以上の検証は無理みたいだ。」
ショーンは自ら攻撃を受ける事で最上級特殊ジョブのスキルでさえも、模倣しそれを偽装して放つ事が出来る事を証明した。しかし過ぎた力は諸刃の剣と言えた。
それから時間に余裕がある時アレックスはショーンに幾つかの攻撃スキルの技を教えた。その全てが常識を逸脱した攻撃力を誇るスキルだった。
ルコアーノ州の州都アルノコシアに到着したときショーンの能力は考えられない程、強化されていた。
ショーンは一歩偽勇者に近付きました。次回は偽勇者に覚醒出来たら良いと思っています。




