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辺境の町リンカス

 3人の若者(1人の女性を含む)は、一様に深刻な顔をして互いを見つめていた。ある程度の時間、言葉を発する事もなく緊張に耐えていたが、それぞれが、意を決して同時に叫んだ。


「ごめんなさい。俺(私)、偽勇者なんです。」


「・・・・・・・・・」


「えーーーーーー。」


 3人の叫び声が城下町の宿屋の一室で上がた。しばらくの沈黙を置いて、25歳程の大男が口を開いた。

「俺の名はグレン、ジョブは『勇者の影武者』だ。」

 続くように15、6歳程の少女も口を開く

「私の名前は、セレッサ、ジョブは『勇者役の女優』よ。」

 そして、最後に15、6歳程の少年が告げる。

「俺の名前はショーン、ジョブは正真正銘の『偽勇者』だ。」

 そしてまた、しばらくの沈黙が続いた。何故、こんな事になってしまったのかを説明するには、3人の若者が王都へ赴く前の話を語らなければならないだろう。

 リンカスは1000人程度の人が暮す静かな辺境の町である。町の中心地の北にあるそれ程大きくないレンガ造りの一階建ての建物、保安官事務所で180Cm程の長身で筋肉質な中年男性が、170Cm位い、年齢は15歳になったばかりの細身の少年に何か話しかけていた。

 2人は茶髪も緑色の目もよく似ていた。長身の男は町の保安官で自分の息子と話をしていたのだった。この男が保安官に任命されたのは、当時、このリンカスの町に戦闘職のジョブ持ちが彼しか、いなかった為だったが、『戦士』と言う中級のジョブを持ったジョージ保安官は十分に優秀だった。

 この世界において、それほど、戦闘職のジョブを授かる事は貴重な事で、現在の年齢であってもなお王都で士官する事も叶う程だった。

 そもそも、ジョブ(天職)を授かる事自体が稀であり、リンカスの町ではこの保安官の男の他には、町長が『農民』町一番の商店主が『商人』のジョブを持っていただけで、残りの住人はすべてジョブなしだった。

 そんな町に突然大変な事態が起きたのは数か月前のことだ。

 町長の息子アレックスが15歳を迎えた日に『勇者』のジョブを授かったのだ。当然の事、噂は瞬く間に王国中に広がり国王の知る事となる。

 しかしこの時王国内に現れた『勇者』はアレックスを含め3人いた。この事が逆に魔王軍との戦争が近い事の様に国王を焦らせ、勇者の王都召喚命令をそれぞれの勇者のもとへと送らせるのに時間はかからなかった。

 町長の元へは、もちろん召喚命令書が届いたが、同時に保安官のところにも、『勇者の王都召喚に伴う護衛の従者を付ける様に』との命令書が届いたのだ。

 何故、そんな中、息子に話をしているかと言えば、息子のショーンも15歳を迎えた日に『盗賊』のジョブを授かった為なのである。

 そんな息子に向かい父である保安官は告げる。

「ショーン、お前も知っていると思うが、『勇者』アレックスの王都召喚に伴い従者を付けねばならい」

「わかってるよ父さん、この町には戦闘職のジョブ持ちは『戦士』の父さんと『盗賊』の俺しかいないもんな。」

 そう息子は答えた。『盗賊』のジョブとは下級戦闘職のジョブで素早さが取り柄である。敵の装備を奪うスチールなどのスキルを習得できる事から『盗賊』のジョブと呼ばれているが、実際に盗賊になる者などいない、人によってはクラスチェンジして『密偵』や『暗殺者』などの中上級のジョブに変化する者もいる。

「俺が従者としてアレックスに付いて行くわけにはいかんからな、お前しか頼めんのだ。」

「あぁ、わかってるよ、アレックスとは同じ年だし、王都まではアレックスのお供をするよ。それに王都に行けば俺より強い従者候補は沢山いるだろうから、王都観光して土産でも買って帰ってくるよ。」

 父は少し心配そうにしているが、息子の方は気楽に笑いながら父に話しを続けた。

「それじゃあ、俺が町長の家に行って従者としてアレックスに付いて王都まで行くって伝えて来るよ。」

「あぁ、そうしてくれると助かる。」

「じゃあ父さん。」

 そう言ってショーンは町長の家へと向かった。


町の中心にある町長の家はリンカスの町の中では立派な邸宅といえるものだった、木とレンガで作られた2階建ての建物で十分な広さがある。ショーンは町長の家に着き、玄関の扉をノックした。

「失礼します、ショーンです父からの伝言できました。」

 子供の頃から度々訪れていた町長の家の前で緊張感もなく待っていると、ほどなく町長が家の中から顔を出した。

 銀髪で顎鬚の紳士という感じの男である。「ショーンか、よく来たなぁ、とにかく上がってくれ。」そう言ってショーンを招き入れた。

「失礼します。」

 町長に従いショーンがリビングまで行くと小さい頃から遊んでいた友人でもあるアレックスとその母である町長夫人がソファーに座っていた、金髪で碧い目の2人はショーンに気付き立ち上がり話しかける。「いらっしゃいショーン。」

「おじゃまします、キャサリンさん。」

「ショーン、わざわざ来てもらってすまないね。」

「気にするな、アレックス」

 4人がリビングで話し始めると、金髪のツインテールをリボンで結んだ12歳のやや目つきが鋭いが可愛いアレックスとキャサリンによく似た少女が2階から降りてきた。

「ショーンいらっしゃい、私に会いに来たの?」

 彼女は茶目っ気たっぷりに話しかけた。

「そんなわけないだろう。」

「あー、つれない。」

 アレックスの妹テスタロッサは頬を膨らせた。小さな頃から兄と共によくショーンと遊んでいたテスタロッサはショーンに幼い恋心を抱いていた。

「町長、俺が従者としてアレックスに付いて王都に行く事になりました。」

「やはりそうか。」

「悪いね僕のために。」

 3人の会話にテスタロッサが入って来る。

「ショーンはシーフのジョブ持ちだから兄さんの従者はあなたしかいないと思っていたわ。」

「まぁ、そうなるよな。」

 ショーンが答えた。

「でも、王都に行けば俺より強いジョブ持ちは沢山いるだろうから、そこまでで交代だろう。」

「何だ、ずっと一緒に居てくれないのか?ショーンは本当につれないよなぁ。」

 妹に顔を向けてアレックスが言った。

「本当よね。」

「いずれにしても、息子をよろしく頼むショーン。」

「お願いしますね。」

 町長と夫人は頭を下げた。

「気にしないでください、アレックスとは昔からの友人ですから。」

 そうショーンが答えると、アレックスがが嬉しそうに笑って話しかける。

「さすが僕の親友だけの事はあるね。」

「それに私の恋人だもんね。」

 続くテスタロッサの言葉にショーンが苦笑いした。

「そんなわけないだろう。」

「ショーンは本当につれないよね。」

 兄妹は顔を見合わせた、ショーン、アレックス、テスタロッサの3人はいつもこんな調子だった。

「せっかくだから夕食を一緒にどうかしら。」

 町長夫人がショーンを誘い微笑みかける、田舎町には不似合いな上品な美人だなと、ショーン、はいつも思うのだった。

「いえ、母がもう家で支度をしているので。」

「そう残念ね。」

「詳しい出発日時など決まったら保安官に伝えるのでよろしく頼む。」

「わかりました、それじゃあ俺はこれで失礼します。またなアレックス、テスタロッサ。」

「またね。」

 挨拶を交しショーンは町長の家から帰路につきながら、これからについて考えていた。

ショーンにとってもアレックスが『勇者』のジョブを得たのは驚きだった、小さな頃からアレックスは運動神経も頭も良く外見も全て優れていたが、あまり物事に積極的でなく色々な事をショーンに押し付けていた。

(アレックスの奴、勇者なんて務まるのか?能力的には問題ないだろうけど。あいつ、いつもやる気がないからな、まあ王様の命令だし、王国に3人しかいない勇者の1人だからな、俺が考えても仕方が無いか。それより、アレックスがいなくなって余計にテスタロッサに絡まれるのは、ちょっとめんどくさいな。

そもそも、アレックスの方が俺よりずっと強いのだから護衛の従者必要ないだろう?2人で王都まで旅するとなれば、面倒な事は全部、俺に押し付けてくるんじゃないか?)

 ショーンは旅の間、雑用を全てアレックスから押し付けられる未来をあれこれと想像して少し嫌そうな顔で帰宅した。

 


 町の中心から1Km程度北にあるショーンの家は木で作られた一般的な1階建だった。

「ただいま。」

 そう言いながら家の中に入ると、夕食の支度をしながら母が息子に返事を返す。

「おかえりなさい、もうすぐ夕食だから手を洗ってきなさい。」

「そうするよ母さん。」

 ショーンはもう子供じゃないのだから、いちいち言わなくても解っていると思いながらも何も言わずに手洗い場に向かうと、父親も帰宅したばかりらしく甕の水で手と顔を洗っていた。

「父さんも帰ってたんだね。」

「母さんにもお前の事をきちんと話して置かないといけないからな。」

「そうだね、心配しないといいけど。」

 そんな会話をしながら2人は食卓の席に着いた。

 食事を半分程平らげた頃、父が口を開く。

「エイミー、勇者の従者としてショーンが王都に行くことになった。」

「まあジョージ、危険ではないのかしら?」

「ジョブを得たショーンはお前が思っている以上に強い、危険はなくはないが、それ程心配する事もないだろう。それに王都までの道のりは比較的安全だ。」

「母さん、心配いらないよ。アレックスも俺も危険な事を好む人間じゃないし、俺は王都にアレックスが着任したら直ぐに帰ってくるから。」

「ショーン、あなたはアレックスの従者を続けないの?」

「みんなにも言ったけど、王都には強い上級ジョブ持ちが沢山いるだろうから初級ジョブの従者は必要ないんじゃない?」

「必要無い事もないだろうが、本人がそう言う考えなら王城の者も無理は言わないはずだ。」

「それなら良いのだけれど。」

 母は薄茶色の瞳を心配そうに息子に向けてそう言った。少しでも雰囲気を変えようとショーンはアレックスとテスタロッサの相変わらずの様子をわざとユーモラスに話し、気付くと楽しい雰囲気の中で夕食は終わっていた。






3人の偽勇者の冒険の話ですが、3人の冒険が始まるのは、もう少し先の話しです。次回は主人公ショーンとアレックスが王都へ向けて旅立ちます。気になった方は次回も読んでいただければ幸いです。誤字脱字、可笑しな文章は指摘していただければと思います。

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