第94話 迎撃+突入=不意
【イルズ侯爵視点】
壁を突き破り、外へと投げ出された。
迎撃をする立場としては、良いようにやられたと言われても文句は言えない。
しかし、そうではない。
私は、自らの意思で攻撃を受けて吹き飛ばされたのだから。
あのお嬢さんは大したものだ。
敵として相対した私の境遇を看破し、こうして不自然ではない形で私を送り出してくれたのだから。
唯一の気掛かりは、あの場に残してきた影武者・・・いや、双子の弟のことだけ。
しかし、それもあのお嬢さんならどうにでもしてくれると確信している。
まったく、武にしか取り柄のない兄で情けない限りだが、その武を今こそ存分に活かさせてもらおう。
あのお嬢さんは私の指定した角度で完璧に打ち出してくれた。
あとは・・・
「ふん!ぐっ!?」
空中で自らを痛めつけ、傷の化粧と勢いを加速させるだけだ。
さあて、派手にかますとするかっ!
「な、なんだ!?」
「ぐ、ぐうぅ・・・」
「侯爵だと!?バカな、こいつがやられたというのか!?」
外を経由して目的地へと突っ込んでみれば、護衛という名の見張りが満身創痍の私を見て慌てている。
というか、侯爵である私に対して「こいつ」とは・・・
私が逆らえないと思って、わかりやすく増長しているな。
「くそ、寝ているヤツを監視するだけで良い楽な仕事ではなかったのか!」
やはり、ヤツらの陣営だけあって、性根が腐りきっているな。
ただ、ここに配置されているということは、それなりに腕に覚えはあるのだろう。
だからこそ、今の状況はありがたい。
「ぬぐぅお!?」
なにせ、満身創痍の私が牙を剥くなどと、考えつかないだろうから。
だから、私相手に背を向けて外を警戒し、そして背後から私の奇襲を受ける羽目になる。
「き、貴様・・・拘束具はどうした・・・?」
「目の前にあるのだ。視線を下げて確認すればいい」
見張りが目線を下げた先にあるのは、私の右腕。
そこに武器として嵌っているガントレットこそが、私を縛り、自由を奪っていた拘束の魔道具だ。
ヤツらの意思で、私に苦痛を与える機能が備わっている・・・はずだった。
「腕に、ついている・・・なぜ」
「なぜ、激痛が走っているはずなのに動けるのか、って?」
私は右腕を見張りへとさらに押し込みながら、全力で魔力の衝撃波を発生させる。
見張りはそれをもろに浴びて白目を剥くと、膝から崩れ落ちた。
「見た目は無事でも、機構の中身がぐちゃぐちゃだからさ。あのお嬢さんのおかげでね」
もう聞こえていないだろうが、答え合わせをしておく。
そして、改めて周囲に動いている気配がないことを確認すると、私は部屋の奥にある鉄格子へと向き合う。
「・・・待たせたね」
鉄格子の中にいたのは女性と子どもが一人ずつ。
どちらも意識はなく、すやすやとした寝息が聞こえてきている。
「ようやく助けに来れた。さっさとここを出ようか、愛しき我が甥に、義理の妹よ」
そう声をかけると、私は鉄格子を破壊
意識のない二人を抱えて、屋敷を脱出したのだった。
これで、表向きは本物とされている弟を安心させてやれる。
次回の更新は5月16日(土)午前6時の予定です。




