第79話 引継ぎ+疑問=脱出
今回はリリス視点でのお話になります。
なんということでしょう。
このわたくし、今はお嬢様のリリーとして諜報活動に身を投じている修道女リリスが、不意を突かれて意識を失うなどと・・・
元々、わたくしは耐久力が高くない分、回避に重点を置いてはいますわ。
そして、たとえ抜かれても一撃は耐えられるようにも、鍛えてきました。
ですが、今回はそれらの想定を上回られた。
護衛対象のガードを成功させた直後に、避けられない一撃でのノックダウン。
反応速度云々の前に、動けなくさせてできた隙に攻撃を叩き込む・・・わたくしの苦手な攻撃パターンを堅実に攻められた結果ですわね。
まだまだ、精進が足りないようです。
いえ、今はそんな内省よりも、目の前の状況ですわ。
わたくしが目覚めたのは、つい先ほどのこと。
パァン!という破裂音によって、眠っていた意識が叩き起こされたのですわ。
「・・・ハッ!?り、ルタさん!?」
目の前には、一目でわかるほどにボロボロになって血を流しているリタさんが。
思わず、潜入中の名前であるルタさんではなく、リタさんと言ってしまいそうになるほどに・・・それほどまでに、彼女の状態はわたくしの動揺を誘うものでした。
「起きた、ね・・・。状況は、終了。敵は、あっちで倒れてる。一応、魔力は流したけど、罠の確認をお願い。あたし、は・・・もう、限か・・・い・・・。」
「ちょ、ルタさん!?しっかりなさい!!ルタさん!!」
彼女はそこまで言って、すぐに倒れて意識を失ってしまいました。
目の前の彼女を治療したい衝動を我慢しつつ、辺りを見回します。
・・・なるほど。
意識不明者が四で、その内、重傷者が前子爵とルタさんで二、軽傷者が現子爵で一。
おまけに、倒れている敵が一、ですか。
「まずは、敵の完全な無力化と拘束ですわね。」
わたくしは仰向けに倒れている異形の黒い修道服の人物へと近づいていく。
完全に意識を失ってはいるようですが、さっきは不意を突かれてしまった身です。
念には念を入れて、自身の技術と感覚のみならず、魔法での探知を全開にしながら近づいていきます。
あら?
おかしい、ですわね。
ここには、魔法の展開を妨害する術式結界が掛けられていたはず。
なのに、今はこうしてわたくしの影魔法による罠探知が機能しています。
これは、どういうことなのでしょうか?
・・・いえ、今はそれよりも優先すべきことがありますわね。
また結界が発動した時に備えつつ、わたくしは件の異形へと近づきました。
リタさんがやったのでしょう、その顔面のお面は中心が陥没し、そこを起点として放射状にヒビが入っています。
わたくしは魔法で影を呼び出し、異形ピエロの全身を拘束。
さらに、離れた状態からお面を剥がしにかかります。
「・・・!これは!」
異形の風体をしているとは思っていましたが、中から出てきたのは魔物の顔でした。
手が長い猿の魔物で、名前はイビルシルバー。
それが、異形ピエロの正体だったようです。
ですが、それはおかしいのです。
「イビルシルバーは知能の低い魔物。声帯も発達しておらずに喋れませんし、腕が長いと言ってもここまでではないはず。それに・・・」
それに、ここまでの変異個体ならば通常は魔物の範疇を超えて魔人へと進化しているはず。
少し前にリタさんが見つけてきたシュバルツさんが良い例ですわね。
彼は、顔も含めた全身が変化していました。
イビルシルバーには以前に遭遇した経験があるのでわかりますが、今回の敵の顔は完全に魔物のままでした。
個体差?
いいえ、それにしては不自然です。
あまりにもそのまますぎる。
おまけに、このイビルシルバー、わたくしの魔法が捉えた感覚としては、完全に事切れている。
そこから導き出される可能性としては・・・
「まずいですわね。敵に、わたくしたちの顔が知れてしまった可能性が高い・・・。」
わたくしは敵のサンプルとしてイビルシルバーの死体を回収しつつ、倒れている子爵たちの元へと向かいます。
そして、その意識を戻すのではなくこの場から早く離れることを優先して影魔法で包み込み、同じくリタさんも包んで地下を後にすることに。
ここからは時間との勝負。
そう考えて全速力で脱出を敢行したおかげか、この後はスムーズに領主館を脱出することができたのでした。
とりあえず一安心ですが、まずはリタさんと前子爵を安全に治療できる場所へ急ぎませんと。
まだまだ気は抜けません。
街も移した方が無難ですわね・・・
少し大変ですが、全力で駆け抜けますわよ!!
次回の更新は1月31日(土)午前6時の予定です。




