第74話 説明+探索=抗議
「なんだお前らは!?それに、ウチの執事が縛られ・・・いや、誰だそいつ!?」
「あ、元から雇っていた人じゃないんだ、こいつ。」
やあやあ、あたしリタちゃん。
ルタって名前のメイドとして、リリーお嬢様を名乗るリリスと一緒にベリアーザの領主館に来たあたしたちは、屋敷に向かう途中で意識抑制の結界に入ったことを察知。
そこで、あたしたちは魔道具で操られたように偽装してついて行って、術者と思しき老執事を拘束した上で眠らせた。
そうしたら、操られていた領主が倒れちゃったから、腹パンで起こしたら状況がカオスで混乱しちゃったのよねー。
あっはっは・・・なんか、正直すまんとは思ってる。
「ではいったいどのタイミングで操られたのでしょう?」
「それは寝ているこいつに聞くとして・・・」
「ええい、何の話をしている!!本当に何者なのだ貴様ら!!」
あ、罪悪感に目を逸らしたくて、存在を無視してたら声かけてきた。
うーん、こいつのことは修道院の事前調査でも謎が多かったんだよねー。
ま、さっきの様子を見るに、それだけ長い間操られていたっぽいんだけど。
ちょっと試してみようかな。
「落ち着いてくださいな、ご領主さんや。」
「誰が領主か!!それは私の父の方だ!!」
お!ってことは領主になる前には操られてたみたいだね。
「それは失礼を致しましたわ。」
「良い。いや、ずいぶんと自由過ぎるメイドは本来よろしくないが・・・それより、もう一度問わせてもらう。貴様らは何者だ?そこに寝ている見覚えのない執事といい、返答次第ではただでは・・・」
「『鉄のリンゴはお持ちですか?』」
「!!」
修道院の所属であることを示すいつもの問いかけを投げたら、態度が変わった。
「そうか、そういうことか。・・・ああ、『錆ならさっき落としておきました』。これで合っておりますね?」
「ええ、問題なく。」
正答だ。
こちらの所属がしっかりと伝わった証拠に、口調も改まっている。
「それで、なぜあなた方がここに?わが父は立派に領主として務めあげておりますが・・・と、言いたいところですが、さっきの知らぬ顔の執事が、ここ領主執務室にいた。それだけで、異常が起こっていることは理解できます。」
どうやら、バカ息子と噂であったこの人物は、実際は有能な切れ者らしく、すでに状況を把握し始めている。
これは、話が早く済みそうだ。
「ご説明いただけますかな?」
「はい、それは構いませんが、念のためにあたしは周囲を検めます。リリー、説明を頼める?」
「ええ、構いませんわ。それでは、ゼリア子爵様。」
「私は次期子爵の身であります。」
「いいえ、あなたはすでに子爵を継承なさっておいでです。」
「なんですって!?」
「そこも含めてお話いたしましょう。ですが、完全には状況が読めていないため、手短かつ簡潔に失礼します。流れとしては・・・」
リリスがこれまでのことを簡単に子爵へと話していく中、あたしは執務室にある本棚を調べにかかっていた。
「ここにも何かありそうなんだよねー・・・。」
あたしの勘がそう囁く理由は簡単、さっきの老執事はそうとう意地が悪いとみているから。
さっき、リリスが気絶した老執事の持ち物を漁ったときに出て来た、わかりやすく立派な鍵と、何も書いていない手帳と古い鍵束。
立派な鍵は当然のごとく敵の目を引くための囮だとして、残りの二つもあからさまな手がかりすぎて信用ができないんだよねー。
あの感じ、たぶん老執事はクエイ公国の諜報部の人間だ。
事前の予想では、ゴルドラ侯爵に協力する輩に実力者なんか基本的にいないだろうって話だったけど、あくまでも基本的に、だ。
こいつの今回のやり口、規模は十分に基本だった想定を超えてる。
なら、クエイ公国の中でも相応の実力者だと判断した方がいいと思うんだよね。
だから、こんな風に考え事をしながら、あたしは本棚をしっかりと確認していく。
さっきは簡潔に済ませるって言ってたリリスのゼリア子爵への状況説明だけど、内容が濃すぎるせいでどうしてもある程度は時間がかかる。
だから、あたしもそんなに焦らずにじっくりと本の種類や内容、手触りやほこりの有無とか確認してたわけなんだけど・・・
「お?これは、おあつらえ向きに鍵をはめ込めそうな本が出て来たね。」
本を開いた中に、鍵の形の凹みがある。
もちろん、立派な方の鍵ね。
でも、あたしの予想ではあの立派な鍵は囮。
つまり、これは罠の可能性が高い。
一旦戻・・・
「ほう、この鍵が入りそうではないか。」
「はい!?」
そうとしたら、いつの間にかやって来ていたゼリア子爵がそんなことを言ってきた。
「え、ゼリア子爵、どうしてこちらに!?」
「いや、どうしても何もだな・・・」
「説明が終わったからですわ。あなた、長くなりそうだったからといって、じっくり見すぎでしてよ。」
「うぇ!?」
ぜんっぜん気が付かなかった・・・
うわぁ、リリスの呆れた目が痛い・・・
くっそ、なんか悔しい!!
「ともかく、その本に入りそうな鍵があるが、それではダメなのかね?」
「・・・それは、罠ではないかと考えております。いくらなんでも、あからさますぎましたので。」
「ふむ。だがな、メイドの娘よ。それはそなたの考えすぎではないのかね?」
「それなら良いのですが、相手は多分隣国の諜報部です。いくら用心をしてもし足りません。」
「そうですわね。わたくしも同じ見解ですわ、子爵。」
「ふむ・・・一つ聞きたいのだが、仮にそのあからさまな罠が発動したとして、君たちは対処が可能かね?」
何やら少し考えた後、ゼリア子爵はそんなことを聞いてきた。
「・・・御身の安全までは保障することができません。」
「なら、君らのみなら対処が可能だと言うのだな?」
「ええ・・・それは・・・まあ。」
あたしが物理に強く、リリスは魔法に強い、それがあたしがリリスと組まされた理由だ。
だから正直、あたしとリリスがいれば大体の罠はどうとでもできる自信がある。
自信がある、安心感のある組み合わせのはずなのに・・・どうしよう、あたし、今猛烈に嫌な予感がしてる。
それはリリスも同じみたいで、あたしと苦い顔が合った。
「ならば問題はあるまい、よ!!」
「「ちょ!?」」
ゼリア子爵が止める間もなく本に鍵をはめ込んだ!!
嫌な予感はしてたけど、本当にやりやがった!
あんた、曲がりなりにも子爵家当主でしょ!?
自分から危険に突っ込むなんて、予想できなくて止められなかったよ!
ちっ!やっちゃったものは仕方がない。
あたしは急いで子爵の手から本を奪い取ると、魔力で本を包み込んで隔離。
一方、リリスは子爵に影魔法を纏わせて保護している。
これから何が起こる・・・あたしとリリスは全神経を警戒に回しながら、周囲をうかがう。
「「「!!」」」
すると、部屋がかすかに揺れだし、目の前の本棚が音を立てて移動していく。
他には、他の仕掛けは・・・!
そう思って、部屋の中を観察するが、他の変化は特になく、本棚の移動が終了。
その移動した後から、隠し通路が現れた。
その後も罠を警戒してみるが、五分経っても特に何もなく、あたしとリリスは一先ずこの部屋の中のみ警戒を解除する。
「やはりな・・・。」
したり顔でゼリア子爵はそんなことをほざく。
なので、さすがにあたしは我慢できず、
「やはりな・・・じゃない!!あんた、何考えてんの!!罠だって言ってたでしょうが!!」
思いっきり食って掛かった。
もう、相手が子爵だとか知るか!!
「だが、実際、罠ではなかったようではないか。」
「結果論でしょ!!罠だったらどうするつもりだったのさ!!」
「その時は、君たちが守ってくれたのだろう?」
「それは、そうだけどさ・・・!!」
そんなこと言われたら、こっちは黙るしかない。
「んん!!子爵、困りますわ。わたくしたちがお守りするのは当然ではありますが、万が一というものがあります。確実に守り切れるとは限りません。」
そうだそうだ、リリス、言ってやれ!!
「ふむ、だが、君たちはあの修道院の者たちなのだろう?父から話は聞いていたからね、問題ないと判断してしまったよ、はっはっはっは!!」
「いや、はっはっはっは、じゃなくって!!」
何を呑気に笑ってるんだこいつは!!
「さっきは切れ者だとか内心で評価しちゃったけど、やっぱりバカ息子でしょ、これ!!」
「こらこら、声に出ているぞ。うっかりなやつだなぁ。」
「声に出してるんだよ!!」
嫌味としてねぇ!!
「ともかく、罠ではなかったのだ、先に進もうではないか。」
「・・・それには同意ですが、その前にお聞かせいただけますか?なぜ、あれが罠ではないとおわかりになったんですの?」
リリスが出したその問いかけに、ゼリア子爵は楽しそうな雰囲気を一変させ、真面目に答えた。
「我が家の執事を騙っていた者は、大規模な仕掛けを施していたであろう?それも念入りに。ならば、それが破られる想定もしていたのではないか、と考えたのだよ。」
「だから、あれは罠だと思ったんだけど?」
「いいや、それは破られる想定をしていた相手が異なる。私はな、やつが自身と同じ諜報員に破られる想定をして、その裏をかこうとしているのではないか、と思ったのだよ。時間を稼ぐためにな。」
君たち諜報員なら、あんなあからさまな罠は試しても最後だろう?とゼリア子爵は言うが、その通り。
あたしたちはその職務上、どうしても深読みをする必要に迫られる。
それを利用された形か。
あたしとリリスは悔しい思いを抱えつつ、けれど時間稼ぎが目的ならば急がなければと隠し通路へと進むことにしたのだった。
もちろん、次は勝手なことをしないようにと、ゼリア子爵に強く言い含めながら。
・・・マジで次は拳骨落とすからね??痛いよ、院長直伝のあたしの拳骨は?
次回の更新は12月27日(土)午前6時の予定です。




