第73話 案内+傲慢=虚飾
馬車のドアを開け、降り立った先に待っていたのは、病的なまでにがりがりに痩せて生気の無い目をした老執事であった。
ういーっす、あたしリタちゃん。
いや、そういえばここではルタちゃんって名乗ってるね。
今は結界で意識を抑制された状態にされてふらふらしているメイドさんね。
え?その割にはしっかり思考できてるって?
だって、実際は操られたフリしてるだけだし。
「・・・・・・。」
それは、あたしが手を引いて馬車から降ろしたリリーお嬢様ことリリスも同様。
務めて幽鬼みたいな演技して目の光も消してるけど、実際には意識をしっかりと保っている。
今宵、あたしたちはこのベリアーザの領主に呼ばれてこの大きな屋敷に来た。
そして、来る途中には意識抑制の結界と、おまけに着いたら着いたで目の前のこの老執事だ。
もう、やましいことしてますって白状しちゃってるようなもんじゃない、これ。
「・・・・・・。」
ここで本来なら老執事から「案内します」の一言でもあるんだろうけど、それすらなくただ無言で老執事は背を向けて歩き出す。
意外としっかりした足取りの老執事に続いてあたしたちも黙って歩いて行くけど、いよいよ隠す気がないね。
さてさて、あたしたちはどこに連れていかれることやら・・・。
なんて、思っていたけれど、意外にも連れていかれたところはどうやら領主の執務室。
まあ、客室や応接室じゃない時点で来客への歓待って点では論外だけど、普通に部屋に通されたのは意外だね。
「ほおぅ、こいつらが例のお転婆娘どもか。」
無駄にギラギラした装飾品や絵画を並べた品のない執務室で待っていたのは、いかにもバカ貴族って感じの傲慢な男。
こいつが現領主かな。
「この大事な時期に余計なちょっかいをかけてくれおってからに、まったく。だいたいな・・・」
目の前にあたしたちがいるにも関わらず、どこか虚ろなくらいに濁りきった瞳でべらべらと不満を垂れ流しているこの男は、確かにゴルドラ侯爵の手の者なんだろうなって感じがする。
重要な情報があるかと思って黙って聞いてたけど、特にそんなこともないね。
内容は一応覚えておくけどさ。
「・・・ふん、まあいい。それで・・・ほほぅ。」
うっわ、ぞわっときた!!
こいつ、気色の悪い視線を向けやがって!!
こういう権力者にはありがちだけど、こいつも好色なタイプか。
「そっちのちんちくりんは好みじゃないが、そこのお嬢様は悪くないな。」
あ゛?
・・・いけない、思わず殺気が漏れるところだった。
抑えろ、抑えるんだ、あたし。
この視線をもろに受けているリリスのがヤバい・・・だから、今は耐えるんだ。
「それ、ついてこい。今晩はお前に相手させてやろう。」
バカ領主がリリスを連れて行こうとした瞬間、リリスが服の裾を握った。
これは、作戦開始の合図だ。
あたしは事前動作を挟まず、一息に敵との距離を詰めるとその背後に回り込む。
その瞬間、正面にはリリスが回り込んでいる。
その手には鎖につながれた鉄球であるモーニングスターが握られており、それはすでに敵の胴へと迫っていた。
これまで観察していた様子から、相手は凄腕、さすがに対処されるかと思いきや、さすがに予想外だったようだ。
素早く回避行動に移るも、加速していた鉄球に追い付かれて攻撃は胴体を直撃。
敵がくの字に折れ曲がって吹き飛んだところを、あたしがかかと落としで地面へと沈める。
そして、首に魔力で作った灰色の剣を添えれば、チェックだ。
「お生憎ですが、夜のお相手は牢獄でお探しいただけるかしら?」
リリスはモーニングスターを優雅に振り回しながら、
「クエイ公国の執事さん。」
あたしに踏まれて首に剣を添えられている、この事態の黒幕であろう老執事に、そう声をかけた。
「ぐ、なぜわかっ・・・ぐはっ!?」
「はーい、余計な術を発動しようとしない。こっちは全部わかってるからねー。」
老執事に物理的に圧力をかけると、表面上は抵抗をやめる。
でも、その目で何かを企んでいるのは丸わかりだから、まだ油断ならないんだよねえ。
だから、本当はリリスの魔法で拘束したいところだけど、様子が見ずらくなるのを嫌ってそれもできてない。
そもそも、この老執事は最初に出て来たときから怪しかった。
いくら操られている人間を装うにしても、その風体ががりがり過ぎる。
いかにも嫌々従わせられてますよー、ってわかりやすく演出しすぎだ。
それまで敷地の中に入らないと結界はわからなかったのに、急に怪しくなったら、逆にそれが怪しいでしょ。
加えて、足取りが戦いを収めている人物のそれだった。
それも、軽い体で動くのを前提としている人間の足運びだ。
戦闘をしないお嬢様とメイド相手だったらバレなかったかもだけど、ここにいるのはバリバリ戦闘をこなす修道女なわけで・・・まあ、運が悪かったね。
「聞きたいことはたくさんあるけど、まずはこれを聞いておこうかな。あんたが今回の主犯かな?」
「・・・・・・。」
「おや、だんまりか。まあ、それでもかまわないけどね。リリー。」
「ええ。」
あたしがリリスへと呼びかけると、リリスは魔法で眠り薬を老執事へと投与して意識を奪う。
すると、それと同時にさっきまで傲慢に振る舞っていた領主と思しき人物もばたりと倒れこんだ。
やっぱり、彼も操られている側だったんだね。
そっちはリリスに任せて、あたしは老執事が完全に眠りに落ちたのを確認すると、持ち込んでいた縄を取り出して老執事を拘束、ついでに所持品を漁ればなにやら立派な怪しい鍵が。
「でも、さっきまでの変装を見るに、こいつはわかりやすい手がかりを使って騙しにかかってきそうなんだよねー。リリー、そっちは何かあった?」
「ええ、なにやら古びた鍵束が出てきましたわ。それと何も書いていない手帳が一つ。」
「おっけー。たぶん、どっちかが当たりだろうし、それ持って行こうか。と、その前に・・・」
「この方ですわね。どうなさいます、このまま寝かせておくのもまずいのではなくて?」
「そうだね、とりあえず、起こそうか。」
あたしは拳をポキポキと鳴らしながら領主に近づいて行く。
「ですが、ここには意識を抑制する結界が張られてますのよ?」
「大丈夫、大丈夫。まあ見てなって!」
「ふ、不安ですわ・・・。」
とか言いつつも、リリスは場所を譲ってくれる。
ひとまず、あたしがやる分には問題ないってことだね。
それじゃあ、遠慮なく。
あたしは領主のとなりに立つと、拳と拳をガチン!と合わせる。
そこで魔力を活性化させて拳に灰色のスパークを纏わせると、そのまま一息にぃ・・・
「ぐぼぁっ!!!??」
領主の腹を上から殴りつける!!
灰色のスパークは領主の体へと移り、体内を駆け抜けて顔面に上り、開いた目と口、そして耳からピガー!!と噴出した。
「ぼへあああぁっ!?・・・・ハッ!!ここは?」
そして、領主は目を覚まし、
「何だお前たちは!?ってなんか縛られているぅ!?」
武装した少女とメイド、そして縛られた老執事という状況に驚くしかないのだった。
開口一番この反応・・・こいつ、もしやノリがいいのでは?
次回の更新は12月20日(土)午前6時の予定です。




