第71話 門番+すり抜け=暴露
辺境の街『ベリアーザ』。
シエル王国に属する街であり、近郊に初心者向けの迷宮を擁することから『試練の街』とも呼ばれている場所だ。
と、言えば聞こえはいいのだが、実際は初心者がそれなりにやってきてそれなりに栄え、人通りもそこそこ多く、同時にそれなりに寂れている辺境の地方都市である。
そんな辺境の街の門番は、今日も真面目に気合を入れて、けれど同時に適度に気を抜いて勤務に当たっているようで、あくびをかみ殺している。
「ふあぁぁ・・・ん?な、なんだぁ!?」
そんな、どこかほのぼのとした空気が一変する出来事が起こる。
門番が遠目にたくさんの人数の来訪を確認したのだ。
いや、正確にはたくさんの人数が仕立ての立派な馬車の後ろで引きずられている光景をその目に捕らえたのである。
「い、いったい何が!?と、とにかく入れるわけにはいかん!おーい、そこの馬車、止まれー!!」
門番は慌てて大声で馬車に呼びかけると、現場に向かって来ようとする。
しかし、職務を放り出す直前に隣の詰所にいる同僚に声をかけて変わってもらうことを思い出したようで、詰所にしっかりと声をかけてから、件の馬車へと向かってきた。
「おーい、そこの馬車、止まれ止まれー!!」
大慌てでやって来た門番が目撃したのは、馬車の後ろで小柄なメイドが大勢の人間を縄で繋いで引きずっている光景だった。
まあ、そのメイドってのは、あたしことリタちゃんなんですけどね。
ってことでちわーっす、あたしはリタちゃん。
閉鎖した馬車の中で冒険者たちとオハナシした後、倒した跡賊どもを放っておくわけにもいかず、ベリアーザに来たってわけ。
「め、メイド!?いや、あなたは確か、今朝ほどに出発していった・・・」
「キャロライン子爵家所属のルタでございます。実は・・・」
あたしは門番に丁寧に経緯を説明した。
キャロライン家のお嬢様と試練の遺跡に向かったところ、跡賊に追われた冒険者と遭遇し、共に撃退したこと。
そして、そのまま遺跡に潜る訳にも行かず、戻ってきたことを伝えると、門番は大慌てで詰所へと戻っていった。
まあ、貴族絡みだし、彼一人で処理できる案件じゃないだろうしね。
ちなみに、あたしが名乗ったキャロライン子爵家は、シエル王国に実在する貴族の家だ。
貴族を騙るのは重罪だから、そこはしっかりと本物の貴族の名前を使っている。
まあ、あたしらは修道院の所属だから、騙ってると言えなくもないけど、そこは本物のキャロライン子爵家と王国から名乗る許可をもらっているので問題なし。
じゃあ、身分が存在するシエル王国で平民が貴族を名乗るのは大丈夫なのかと言えば、そもそもあたしら修道院に所属する人間は貴族なので問題なし。
表向きは平民と同じ扱いや清貧な暮らしはしてるけど、貴族としての身分は残ってたりするのよね。
その方が、職務上便利な場面も多いし。
そんなことをつらつら考えながら時間をつぶしていると、十分ほどで門から門番が応援を連れてやってきた。
「お、お待たせいたしました!あとはこちらで引き取らせていただきます。この後はどうされるご予定で?」
「思わぬハプニングで、我が主はお疲れです。街で休ませていただこうかと。構いませんか?」
「問題ございませんが、規則ですので、身分証明をお願いいたします。」
「もちろんですわ。」
あたしは身分証の書類を提示すると、その流れで馬車へと声をかけてリリスの顔を出させる。
「お勤めご苦労様。手間を増やして申し訳ございませんわ。」
「こ、これはお嬢様!ご丁寧に恐縮です。これも職務でございますので、お気になさらず。ささ、お疲れでしょう。どうぞお通りください。」
「ありがとう。」
リリスが少し顔を出すだけで、馬車の検査等はなく街への入場を認められる。
ちょっとセキュリティが雑に思えるけど、身分社会な上に辺境だからね、こんなもんだよ。
そんなこんなで、あたしたちはベリアーザの街に入り、貴族向けの高級宿へと到着。
そこは高級なだけあって、外から見えない専用の降車場が確保されている。
あたしたちは、そこで馬車の中で寝ている冒険者四人を降ろして宿へと運び込んだ。
いくら貴族向け高級宿とは言っても、こんな誘拐じみたことをすれば普通は咎められる。
でも、ここはそうじゃない。
ここはあたしたち修道院がよく利用する、王国直轄の協力機関の一つ、つまりは身内の場所だからね。
特に問題もなく客室へと四人を運び込むと、あたしとリリスはのんびりとティーブレイクを始めた。
ちなみに、高級宿なだけあって部屋はそこそこ広く、防音は完璧。
調度品も部屋に合わせてシックな雰囲気でまとめられていて、宿の主人のセンスの良さがうかがえる感じだ。
「今日は無難にダージリンですわ。」
「おー、うまいやつー。・・・ぐびっ。うまー。」
あたしは椅子に体を預けてだらりと紅茶を飲む。
「メイド服のままだらけるのははしたないですわよ。」
「いいじゃん、身内しかいないんだし。」
「俺もいるのだが・・・む、うまいな。」
御者をしてたビステも一緒にお茶休憩。
さっきまでなんだかんだ気を張っていたからねー。
息抜きは大事よ。
と、まあそんな風にリラックスして紅茶を数杯飲み、お茶請けのクッキーもだいぶ消費してきたなって辺りでもいまだに冒険者連中は目を覚まさない。
なので、リリスが秘密の粉末を取り出して、影の魔法で冒険者たちの鼻元へと運ぶ。
すると、「「「「ふがっ!?」」」」と冒険者連中が目を覚まし始めた。
「つぅ・・・ここは・・・」
「たて・・・もの・・・?」
「知らない・・・天・・・?」
「なんだか・・・いい匂いがする・・・?」
いや、気付けの薬を嗅いだ直後に、なんで紅茶の匂い嗅ぎ分けてんの?
このルミって女冒険者、ある意味逸材なのでは・・・?
「あ・・・あ!あんたらは!!」
リーダーのラッシュがいち早くあたしらに気づく。
「おはようございます、皆さま。ご気分はいかがかしら?」
「悪くはないが・・・ここは、いったい?」
「ここはベリアーザの高級宿ですわ。」
「は!?いや、待ってくれ・・・ベリアーザで高級宿ってぇと、貴族街の側にあるあそこか!?」
「まあ、そこ以外ないし、間違いないだろうね。」
「マジかよ!?街の人間の憧れの宿に、知らないうちに入っちまってた!?」
「運が良かったね。あたしらに感謝するといいよ。」
「おう、ありがとうな!・・・って違ぁぁぁう!!」
「あら、キレイなノリツッコミ。」
「タイミングも満点だね。起きたばかりでこのツッコミ、才能あるよ。」
あたしらが冷静に品評する中、ビステは「何の才能だ。」と冷めた反応だ。
まあ、頭の回転って意味では冒険者の才能ではあるのかな。
「ある程度の話はさっき聞いたし、俺たちが危ない状況だってのもわかってる。元々、巻き込んだのは俺らだし、助けてもらって感謝してはいるが、話の途中で急に眠らされて起きたら憧れの高級宿ってのは、いったいどういう状況なんだ!?」
「こういう状況。」
「だから、どういう状況なんだよ!?」
わお、パニックになってるのか普通に噛みついてきた。
まあ、いい加減にかわいそうだし、そろそろ普通に説明してあげようかな。
「えっと・・・ねえ、ゴリア、この人たち誰??」
おや、そういえば、このルミって子は気絶してたからまだ話してなかったね。
これはどう説明すべきかな、と悩み始める直前に、ゴリアが「後で説明してやるから、今は静かに話を聞いておけ。」とたしなめてくれた。
正直、助かる。
「ここに連れて来たのは、君たちの身を守るためだね。君ら、今、行方不明扱いだからね。」
「「「「は!?」」」」
「正確には、そうなるようにあたしらが工作した。」
眠らせたのもそのためだ。
あの場所で長々と彼らに説明する手間がもったいなかったのもあるし、敵の先手がとりたかったという事情もある。
敵というのは、もちろんさっき引き渡した跡賊の後ろにいる者たちだ。
「君たちはやつらの蛮行の証人だからね。少し無理やりでも保護したかったのさ。」
「そういえば、あの跡賊どもは?」
「ここの門兵に引き渡したよ。」
「なら、もう安心・・・」
「とはならないんだよね、残念ながら。」
「へ?」
「多分、あいつらすぐに出てくるからね。」
「は?何で?」
「・・・その疑問の答えは本来聞かせるべきではないのですが、あなた方には知る権利がありますので、お答えしますわ。」
リリスは、一度言葉を区切った後、冒険者たちに向かって、
「ここの行政に、あの跡賊どもの上役が紛れ込んでいる・・・というより、隣国のスパイが役人と癒着して幅を利かせているのが、このベリアーザの現状ですの。」
「「「「はい!?」」」」
普通に内部事情をぶっちゃけたのだった。
次回の更新は12月6日(土)午前6時の予定です。




