第69話 冒険者+疾走=出会い
今回は三人称視点でのお話となっております。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
「ルミ!!頑張れ!追いつかれたら終わるぞ!!」
「顔色がまずい!おい、ダンズ、ルミを背負って走れるか!?」
「わかった!おいルミ、こっち乗れ!・・・無理か。抱えるぞ!!」
「ハァ・・・ハァ・・・ッ!!・・・ぜー・・・ぜー・・・。」
深い森の中を息も絶え絶えに疾走する男女がいた。
服装は皮でできた鎧やバックパック、それに剣だけでなくつるはしやカンテラといった装具を持っている者もいる。
彼らは「冒険者」。
街の雑用から盗賊や魔物の蔓延る街道の護衛、そして遺跡での宝探しを生業とする、冒険によって未知を切り開く職業の者たちである。
構成としては、重装備の男が三人に、軽装で弓を背負った女が一人。
男たちはラッシュ、ゴリア、ダンズで、女はルミという。
二十代のラッシュたちに交じり、ルミだけが十代後半といったところか。
そのルミは見るからに苦しそうに息をしており、体力が切れかけて過呼吸に陥り始めているのが見て取れる。
さて、先も述べたように、ここは深い森の中。
足場も悪く視界も悪い。
そんな中を、この冒険者たちは木々を避けながら全力疾走で逃げている。
そう、つまりは何かが追ってきているのだ。
その正体は?
こんな森の中だ・・・凶暴な獣や魔物?
その可能性も高いが、今回はそうではない。
その証拠という訳でもないが、走っている冒険者の一人の真横を、ヒュンっと音を立てて矢が通り過ぎて行った。
「ッ!!くそ!こんだけ距離があるのに、真横をかすめやがった!まさか凄腕か!?」
「威嚇だ!当たるはずがない!!」
当たらずとも、追いかけてきている何者かは、複数の矢を間断なく打ち込んできている。
「いいから走れ!!おいルミ、やたら息を吸うんじゃなく、吐け!!」
「ぜー・・・ぜー・・・!」
ルミを背負っているダンズが矢を避けて走りながら過呼吸への対処を教えるも、当のルミの呼吸はこの状況だからか改善される気配がない。
まさに、絶体絶命。
「くそ!なんでこんな旨みもねえ場所に跡戝なんか出るんだよ!!」
跡戝・・・それは、遺跡に出る盗賊の呼称である。
遺跡探索を生業とする冒険者の帰りを狙い、その成果を横取りするのを目的としている者たちだ。
当然、稼ぎの大きい遺跡に出没するのが多いのだが、今回ラッシュたちが潜っていたのは辺境の寂れた遺跡だ。
成果物もほとんど存在せず、冒険者たちが実力を上げるために、もしくは遺跡探索というものを体験するために潜る、いわば入門と修練の遺跡。
そんな場所で、ラッシュたちは行きを跡戝に襲われたのだ。
完全に不意を突かれたラッシュたちだったが、彼ら三人は若手の有力株。
大きな怪我もなく逃走に移れはしたものの、ルミはそうではなかった。
そもそも、ラッシュたちはすでにここに潜ったことがあった。
今回潜ったのは、新たに仲間に加わったルミを鍛え、連携を強化するため。
安全マージンは十分にとったはずだった・・・それでも襲われてしまったのだから、彼らも運がないと言うべきか。
それとも、この状況は偶然ではないのか。
答えがすぐにわかることはないものの、その糸口がすぐそこまで迫っていた。
「おい、そろそろ街道に出るぞ!!」
「これで引いては・・・」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!!
「くれないよなチクショウ!!」
むしろ矢の雨は激しくなってしまっている。
ここから街道に出てしまえば、遮蔽物が無くなってしまう。
それでも、ラッシュたちにはここで立ち向かうという選択をとることはできない。
「ええい、もうなるようになれだ!!ゴリア、ダンズ、ルミ!飛び出すぞ!!」
森の木々をかき分け、漏れ出る光のその根源へと、彼ら四人は思い切り身を晒した!!
もはや破れかぶれの行動であったが、彼らの不運はこれでは終わらない。
「「「な!?」」」
飛び出したその先に、一台の馬車があったのだ。
彼らは冒険者として、いや、街の外を行動するものとしての禁忌である引き連れ行為をしてしまったことになるのだ。
しかも、不可抗力とはいえ、相手は跡賊だ。
目の前の馬車はどう見ても仕立てが良く、立場のある人物が乗っているのは確実。
「そこの馬車!!急いで離れてくれ!!跡賊だ!!すまない!!」
ラッシュは端的に状況を伝えて退避を促すも、全力で走って来た彼らを追って来れている跡賊の速度を超えて、目の前の馬車が急加速できるはずもない。
完全に、巻き込んでしまった形になる。
こうなっては、せめて自分たちで迎え撃つ他にない。
ラッシュたちは馬車を背に反転、跡賊を迎え撃つ形をとる。
「すまない、完全に巻き込んでしまった。ここは俺らで引き受けるから、今の内に逃げてくれ。」
「例え死ぬことになろうと、そちらに攻撃は通さない!」
「とはいえ、それにも限界はありますんでね。巻き込んだ立場で悪いけど、早く行ってくれると助かる。」
「・・・・・・。」
ラッシュ、ゴリア、ダンズの三人は御者に対してそう声をかけるが、ルミはいつの間にやら完全に意識を失ってしまっている。
そんな極限の状況の中、追って来た跡賊も森からその姿を現した。
人数としては十五人ほどか、薄汚れた服と鎧を身にまとい、一目でしっかりと整備されたとわかる弓や剣、斧といった武装をしている。
その中央で、装飾すら施された剣を持った男がにやにやとした笑みを浮かべてラッシュたちを見ている。
問答無用で仕掛ければいいものを、見下した目つきで武器を構えるその様から、なぶり殺しにするつもりなのは想像に難くない。
ここに、駆け出しを連れた冒険者たちの悲劇が始まる・・・そう思われたその時だ。
バン!と音を立てて、馬車から人影が飛び出してきた。
その人影は一足飛びで跡賊の頭目へと近づいた次の瞬間、さっきまで下品なにやけ面をしていた頭目の体が宙を舞っていた。
跡賊も、ラッシュたちも、目の前で唐突に起こった展開に理解が追い付かない。
「ぐがっ!?」
「げば!?」
「「「あぎゃあっ!?」」」
「「ごがぼぉ!?」」
そんな風に宙を舞う頭目に注目している間に、別の悲鳴が聞こえて来た。
ラッシュたちが我に返ってそちらを向けば、ラッシュたちから見て左側の跡賊たちが倒れている。
そこにも、さっきの人影はもうない・・・・いや、視界の端にちらっと引っかかった!
視界の右端に、小さな大きさの何やらフリフリした布が映る。
急いで視界を動かせば、ようやくその正体がわかった。
いや、正確にいえばやっと理解が追い付いた。
フリフリした布、その正体は風に靡いたメイド服。
つまり、馬車から飛び出してきたのは背の小さなメイドの少女であり、状況からして彼女が跡賊の半分をすでに倒したことになるのだ。
話で聞けば信じられない状況だろうが、これは目の前の現実だ。
そうこう考えている間にも、メイドの少女は残りの跡賊へと向かって行く。
メイドの少女が武装した跡賊に立ち向かうのだ、その非力を補うために彼女は全身から暗器を取り出し・・・なんていうことはなく。
メイドの少女は、その拳で、肘で、蹴りで、時に敵を掴んで投げて跡賊どもを無力化していく。
そんなこんなで残っていた跡賊七人をあっという間に無力化した跡賊の少女は、何事も無かったかのようにラッシュたちの元へと歩いてくる。
結果として、ラッシュたちの前から跡賊の脅威は排除された。
しかし、無表情で近づいてくるメイド少女の存在が、助かったという実感を覆い隠してしまう。
そもそも、彼らは極限状態故に気づいていなかったのだが、巻き込んでしまった馬車の状態はおかしかったのだ。
どう見ても整えられた車体をしており、立場のある人間が乗っているのは確定的だった。
御者も整った身なりをしていた。
しかし、護衛が車外に一人もいなかったのだ。
これは、どう考えてもありえない配置だ。
そんな違和感を見逃した罰なのだろうか、ラッシュたちの目の前に少女が立つと、綺麗に一礼。
「冒険者の方々ですね?皆さま方、ご無事で何よりでございます。さて、我が主が皆さま方をお呼びでございます。そちらの方も休ませた方がよろしいでしょうし、どうぞ、車内へとお入りください。」
そして、そう声をかけてラッシュたちを馬車へと誘い始めたのだ。
巻き込んだ上に助けられたラッシュたちだ、その誘いを断ることなんてできるはずもない。
そうでなくとも目の前のメイドから逃げ切れる未来が見えないラッシュたちは、示し合わせるまでもなく、おとなしく馬車へと足を運ぶことにしたのだった。
次回の更新は11月22日(土)午前6時の予定です。




