第68話 尋問+罠=混乱
『ま、待て・・・止め・・・!!』
『・・・・・・』
『そ、そこはよしてえェェェェェ!!』
「店の奥から、なんか聞こえてくるんだけど・・・」
「あ、地下室の扉、閉めるの忘れてた。」
うっかりうっかり、みたいな感じで目の前の小さな少女はテヘペロしている。
「嘘を吐くんじゃないよ。わかっててやってるだろ。」
そんな小さな子リスみたいな少女“シェリー”に呆れた目線を向けた院長が指摘する。
「ごめんごめん。でも、意味はあるんだよ?扉が開いてるっていう解放感で、吐いちゃう場合もあるんだから。」
「逃げられるかもしれない、っていう希望からある程度の情報漏洩は切り捨てるってこと?」
「そうそう。ま、それを足掛かりに全部吐かせちゃうんだけどね。まあ、まだ始まったばかりだから。ここからがウチらの腕の見せ所ってやつだね。」
シェリーが得意げに胸を張ってそう語っているここは、穴熊亭。
表向きは路地裏にある飲食店『穴場の店』として、修道院に協力している。
ってことで、おっす、あたしリタちゃん。
現在、穴熊亭にてご飯を食べながら尋問待ち。
『いやぁぁぁぁ!ごめんなさぁぁぁ(バタン)』
「あ、ドア閉まった。」
「仕上げに入ったね。・・・え?早くない?」
「穴場の店が優秀で、院長のあたしとしても鼻が高いってもんさね。」
「いえ、それにしてはシェリーの様子が・・・」
ババアはハンバーガーを齧りながら誇らしげにしているが、シチューを食べるリリスは違和感に気づいたようだ。
あたしも親子丼を食べる手が止まる。
「何かあったのかも・・・。ちょっと、あたしもあっちに行ってくるね。みんなはゆっくり食べてて。おかわりもカウンターに置いておくから。」
シェリーはそう言って慌ただしく地下へと降りて行った。
そうして、五分後。
なんとも言えぬ微妙な表情で、シェリーが帰って来た。
後ろには喋らないでお馴染みのガタイの良い従業員も一緒だ。
「どうしたんだい、シェリー。何かトラブルかい。」
「いや、その・・・トラブルっていうか・・そのー。」
「なんだい、歯切れが悪いねえ。はっきり言いな。」
「いや、あのね・・・全部、喋ったみたい。」
「「「は?」」」
思わず声が揃う。
「お、お待ちなさいな!まだ尋問し始めて一時間も経っていませんわよ!?」
リリスが困惑を通り越して狼狽してるけど、気持ちは良くわかる。
これ、普通に異常事態だ。
だってさ・・・
「今、尋問してたのって、刺客たちのリーダー格だよね?しかも、ゴルドラ侯爵直属の部下じゃなくて、クエイ公国から派遣されてる方の人間でしょ?あれ?他国に派遣されてる工作員って、対尋問・拷問の訓練を受けてるはずだよね!?」
あたしも思わず語気が強くなってしまう。
「ぎ、欺瞞情報を掴まされたんじゃないのかい?いくら何でも早すぎるだろう。」
「それが、他の刺客からとった情報との整合性もとれてるし、諜報部からの報告とも矛盾してない・・・。え?何?・・・うん・・・全員の中で最速で吐いた?・・・えぇぇ・・・?」
報告してる従業員も困惑してるし、シェリーも戸惑いを通り越して動揺してる。
うわっ!ババアが冷や汗までかいてるよ!
敵とはいえ、情報管理がヤバすぎてみんな戦慄が隠せない。
「と、とにかく、手に入った情報を整理しようかね。」
ババアがとりあえず話を進めにかかる。
まず、さっきも少し会話に出てきたけれど、今回捕まえた刺客はゴルドラ侯爵の手の者で確定な上、クエイ公国の工作員も交じってる。
人数は十人。
その中で侯爵の手の者が七人、クエイ公国の工作員が三人って内訳ね。
そんな彼らに尋問をした結果、今回のレイクディーネへの侵入はリーフィ侯爵夫人の誘拐を狙ったものだとわかった。
ていうか、少し前にあたしと夫人が出かけてるときに襲ってきたのも同じ目的だったらしいから、そのリベンジだね。
性懲りもないというか、学習しないというか・・・。
目的としては、リーフィ侯爵が現国王に重用されてるから、人質として確保したかったらしいよ。
侯爵を支配下においた功績をもって、内通の主導権を取り戻そうとしたっぽい。
・・・いや、どう考えても無理だよね。
他の貴族にも同時に襲撃をかけてるみたいなんだけど、どれも聞く限り警備の厚い人間ばかり。
功を焦るにも程がある。
どれも成功するとは思えないけど、後で確認はした方が良さそうだ。
それと、今回捕らえた敵・・・クエイ公国の工作員のリーダー。
そいつが結構な地位にいるらしくて、いくつかの情報がわかったんだけど・・・
「まあ、十中八九、罠だね。」
「ですわね。」
「だよねえ。」
だって、さっき吐くのが早すぎたし。
そんなやつが重要な情報を持たされるだろうか?いや、持たされるはずがない。
「諜報部の情報で裏がとれてるとかさっき言ってたけど、この場合はそっちも怪しくなってきたね・・・」
「ええ。敵もまさか思ってなかったでしょうね。こんなところから情報の真偽を疑われることになるなんて・・・」
「うーん、いや、そうでもないさね。」
「というと?」
「こんなやつが情報を持たされてるはずがない、という思い込みを利用した大胆な策かもしれない・・・こっちを混乱させるのが目的だったなら、かなり上手い手さ。」
「「いや、そこまで考えてないでしょ。」」
「正直、あたしもそう思うが検討しないわけにもいかない。厄介なことだよまったく。」
ババアは溜息を吐くと、ハンバーガーの最後の一切れを口に入れて完食。
「ごちそうさん、シェリー。」
「はーい、お粗末様―。」
「とりあえず、情報は掴めたし、あたしは修道院に戻るとするかね。」
「んじゃ、あたしらも食べ終わったら戻るよ。」
「おう。」
席を立ったババアだが、店を出る直前に「二人とも帰ったら院長室に顔出しな。」と言いつけて出ていった。
どちらか単体でなく、二人同時に呼ぶあたりに疑問は感じるけど、ともかくあたしは親子丼のおかわりをシェリーに頼んだ。
この時、親子丼を楽しんでいたあたしと、さりげなく自分もおかわりを頼んだリリスは知らなかった。
修道院に戻って言い渡された指令、それによって共同で仕事に当たることになるなんて。
しかも、その仕事が潜入任務な上に長びく羽目になるなんて、あたしたちには知る由もなかったのだった。
次回の更新は11月15日(土)午前6時の予定です。
【修正報告】
最後におかわりを頼んだのがリリスではなくシェリーになっていたので修正しました。




