第57話 暗殺+潔さ=無意味
むっすー。
「いい加減、腹を括りなって。」
「・・・いや、括ってはいるよ。」
「じゃあ、さっさと機嫌直しな。そろそろさね。」
「・・・わかった。」
いつまでも膨れててもしょうがないしね。
ってことで、おっす、あたしリタちゃん。
王族暗殺とかいうアホな任務の実行犯に抜擢されて、しかも強制連行。
そりゃ膨れるよねって内容だけど、仕事は仕事。
そういうのはしっかりこなすのがポリシーのあたしは、渋々、二代目について仕事に来た。
まずは潜入をどうするんだろう、って思ってたら二代目の手引きであっさり成功。
しかも、ここ前王弟のいるお城みたいなんだけど・・・え、警備ザルすぎない?
「そうでもないよ。あたしが前から入ってるから、簡単に入れたってだけさね。」
いや、絶対に簡単じゃないって。
今もすれ違った使用人に「お疲れ様です」って普通に挨拶してるし。
馴染みすぎじゃない?
「あんたもこんぐらい、できるだろう?」
「できるけど、この規模の敵地ではもっと慎重になるって。」
マジですげえな。
いや、でも良く考えたら当然か。
あたしの潜入のノウハウの師匠は今の院長。
そしてこの人はその直下の二代目なんだし。
「あんたも教わったろ、大事なのは雰囲気に馴染むこと。違和感を感じさせないことだよ。」
「いや、それが難しいんだけど。しかも、あたしもいるのに違和感を感じさせてないし・・・」
「そこも、元々想定してそういう動きをしておくんだよ。だれか一人増えたところで問題ないような普段の動きをね。」
「いや、できないから。」
院長に習った時も思ったけど、どう考えても無理だって。
・・・でも、習い終わるとできるようになってるの、何でなんだろうね?
リタちゃん、不思議。
「ま、今度教えてやるとするよ。ほら、今度こそもう着くよ。気を引き締めな。」
「はいよ!」
いつの間にやら、前王弟の部屋の前に到着。
二代目がドアをノックし、楚々とした動きで部屋に入り、あたしもそれに続く。
「・・・来たか、マリア。このタイミングで貴様が来たということは、我が陣営は詰みのようだな。」
「そうですわね。」
「その喋り方は止めよ。寒気がする。」
「・・・へいへい。ま、あんたっていうキングの前にポーンのあたしらがいる時点で、そりゃ詰みさね。」
「貴様がポーンなものか。どう考えてもクイーンであろうが。」
「チェックメイトできればなんでもいいじゃないか。」
軽口を叩きあう二人。
あれ、この人たちって仲良い?
「幼馴染だからな、この程度はあいさつのうちだぞ、娘。」
あ、何考えてるかバレた。
どうして・・・
「顔に出てるよ。いくら何でも、油断しすぎじゃないかい?」
「いや、二代目がリラックスしてるし、いいかなって。」
「ん・・・」
「はっはっは!これは一本とられたな、マリア!まったくもって、愉快!」
「うっさいよ、エリック。」
おぅ、王族相手に名前呼び・・・
すごいな、幼馴染。
「ったく。さて、エリック。今日の要件だけど・・・」
「わかっている。俺の首でも取りに来たのだろう?ほれ、持ってけ。」
「いや、軽!?そんな物みたいに・・・」
「何を言う、マリアの連れの娘よ。」
「あ、あたしリタちゃんです。」
「ふむ、リタチャンよ。」
「いや、すんません、リタです。」
「・・・そうか。すまぬ。」
「いえ。」
き、きまずい。
まさか、シュバルツと同じ間違いをする人がいるなんて。
さては、この人、生真面目だな?
なんか、聞いていた印象とさっきからだいぶ違うし、これ、どういうこと?
「その戸惑いは当然だが、良いのか?俺を知れば、首が獲りにくくなるぞ?」
「あ、そこは仕事なんで、お構いなく。」
「そうか。・・・マリアよ、この娘、アレだな。」
「ああ、言わんとすることはわかるよ。良い拾い物だろ?」
「然り。俺の周りにも一人欲しかったな、こういうのが。」
褒められてるんだろうけど、なんか釈然としないな。
「さて、リタよ。改めて問おう。貴様らは俺の首を獲りに来たのだろう?」
「そうだけど、首だよ?とられたら死ぬよ?」
「然り。だが、貴様らはそれが任務であろう?国の暗部が人を送り込んできた。即ち、俺が見過ごせなくなったのであろう。」
「正確には、あんたの派閥が、だけどね。」
「その頭は俺なのだから、俺を見過ごせなくなったのと変わらんだろう。なんせ俺は、王位に執着する愚かで傲慢な王族らしいからな。」
「それだよ!」
やっぱりおかしいって。
「む?なにがだ?」
「今、話している殿下のその風評だよ。全然そんな風に見えない。むしろ理知的だよね?」
「それはまぁ、演技だからな。」
「普通にぶっちゃけた!?」
それ、隠しておいたんじゃないの!?
あたしは思わず二代目を見ると、二代目も珍しく目を真ん丸にして驚いていた。
「あんた、それは・・・」
「ふむ・・・どうやら、俺はこのリタという娘を存外気に入ったらしい。自分でも驚いているぞ、マリアよ。」
「・・・そうかい。」
あれ、なんだか二代目が面白くなさそうな・・・?
「ふっ。安心するがいい、マリアよ。俺の心は、いつだってお前のものだ。」
いきなり二代目を口説きだしたぞ、この前王弟!?
「・・・何を言ってるんだい、まったく。」
ん?呆れてるように見えるけど、二代目のこの反応って・・・
あ、ヤバい二代目の目が怖い。
あたしは何も気づいてないですよー。
口笛とか吹いてみたり。ぴゅー、ぴゅー。
「吹けてないし、ここで音を出すのはお止め。」
「ごめんなさい。」
潜入中だったね、忘れかけてたけど。
「さて、本題に戻そう。俺の首を持っていけ。」
「いや、さっきはああ言ったけど、やっぱりまともな人の首とか持って行きづらいって。」
良心が咎めるじゃん。
「ふむ・・・だが、俺が死なねば、内戦が始まるぞ。今が最後のチャンスだ。俺を打ち取れば、派閥は瓦解する。」
「いや、そんなはずないだろう?」
前王弟殿下の主張に対し、二代目は呆れ気味に反論する。
「む?俺は派閥の頭だぞ?」
「表向きは、ね。あんた、やりすぎなんだよ。神輿の頭を軽くしすぎて、価値が下がり過ぎた。あんたがやられたところで、裏で牛耳ってたやつが出てくるだけだよ。」
「ふむ、ゴルドラ侯爵か。」
ゴルドラ侯爵・・・典型的な傲慢貴族で有名なやつだ。
貴族以外を人とは思わず、贅沢三昧。
表の前王弟殿下を隠れ蓑にして、好き放題やってるってのが、修道院の調査でも判明してる。
説明してくれた時のサリアが、珍しくすごく嫌そうな表情だったから、印象に残ってる。
「ただあんたを殺したところで、『私が殿下の意思を引き継いだ!』とかなんとか言って出てくるよ、あのハゲ。」
あ、ハゲなんだ、ゴルドラ侯爵。
「むぅ・・・参ったなぁ。」
「はぁ・・・まったく、あんたは昔から肝心なところで抜けてるんだよ。」
「・・・こうなっては、反論できん。」
「そこで、あたしから提案があるのさ。」
「聞こう。」
「あんた、本格的にクエイ公国と内通してみないかい?」
「なに?」
手詰まりの状況を打破するために、二代目はとんでもない提案を前王弟に持ち掛けたのだった。
次回の更新は8月30日(土)午前6時の予定です。




