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第4話 猫被り+ババア=始まり

うららかな日差しに包まれた、とある日の午後。


「はい・・・はい。確かに。納品、確認しました。お疲れ様です。」


「い、いやあ・・・ハハハ。しっかり届けられて良かったよ。」


今日はここ、レイクディーネ修道院に注文した商品が納入される日。


この修道院では月に2回、お得意の商人から買い付けを行っており、今回の当番がわたし(リタ)だったのです。


そのため、お役目として納品物のチェックを行っていたのですが・・・なにやら、商人の方の様子がおかしいですね。


馴染みの方なので、特に問題はないはずなんですけど・・・。


「えっと・・・何か?」


「いやあ・・・慣れないなあ、と思ってね。」


ん?


「だって、もう付き合いも長い分、どうしてもいつものリタちゃんが頭をよぎるからねえ。」


・・・・・・あ゛??


「・・・ったく。人がせっかくよそ様行きの対応してやりゃ、何だとこの野郎?」


「はっはっは。いつものリタちゃんに戻ったね。」


取り繕うのはやめだ、やめ。


まったく。


「人のせっかくの気遣いをなんだと思ってやがる。」


「いやあ、修道院1と名高い問題児さんに気遣われたとは。家内に良い土産話ができたよ。」


目の前の商人(中年)はポッコリ出た腹を揺らして笑っている。


これだから馴染みのやつは・・・。


こんなんでも、ここ『レイクディーネ』に居を構える大店の商店の店主である。


月2回の納入には部下を寄越して自分は来ないときもあるんだから、人の好さそうな見た目からはわかんないもんだよなあ。


「もう5年になるのかな?リタちゃんと知り合ってから。」


「そういや、もうそんなに経つのか。早いもんだな。」


あたしがこの商人と出会ってから5年。


それはつまり、元貴族(あたし)修道女(あたし)になってからそれだけ経ったということ。


かつて、あたしは悪女だったらしい。


自分のことなのに何でそんな言い方をするのかといえば、理由は簡単だ。


あたしには、5年前より以前の()()()()記憶がないからだ。


その代わりにあるのは、生まれる前・・・いわゆる前世の記憶。


ここではない、鉄と木と黒い道が印象的なやたら四角いものが多い世界の記憶。


かなり断片的な記憶で、かつての自分の名前すらも思い出せないが、あたしは確かにそこで生きていた。


今、こうやってここにいるんだから、あたしは一度死んだんだろう。


その記憶もないけど。


ともかく、そんなあたしがこの体になってから、5年。


このあたしが目覚めたときは、周囲はいろいろと大騒ぎだったけど、あたしだって急にこんな体になったんだ。


正直、大混乱したのを覚えている。


それでもこの修道院で引き取られて、あたしなりに精一杯日々を過ごしてきたつもりだ。


そんな日々に思いを馳せそうになったその時だ。


ふと、あたしの鼻に気なる匂いが匂ってきた。


「ん?なあ、おっちゃん。この匂いって、その後ろの荷物からか?」


「ああ、よくわかったね。」


「へへ、鼻が良いのは自慢なんでね。で、これは?」


「詳しくは言えないんだけど、得意の取引先の一つから頼まれてね。運んでる途中なんだよ。」


「へえ・・・。」


独特な匂いで、あたしは苦手だな。


それにしても、どこかで嗅いだことがあるような・・・。


「・・・あ!!」


「うわ!?どうしたの、いきなり声を上げて。」


「おっちゃん、ちょっとまずいかもしんない。」


「え?何が?」


商人のおっちゃんは困惑してるけど、こっちはそれどころじゃない。


だって、気づいてしまったから。


この匂いは、間違いないな。


「おっちゃん、それ・・・麻薬の材料かもしんない・・・。」


「・・・は!?」


あたしが発したあまりの内容に、おっちゃんの驚きが一瞬遅れる。


いや、これ間違いなさそうだな。


あたしはこの匂いを嗅いだことがあって、ものすごい嫌悪感を抱いている。


確か・・・大麻ってやつの原料の匂いだ。


もちろん、今世において麻薬と関わったことなんてない。


これは、前世の記憶だ。


前世の舎弟の一人が、誰かから栽培を持ち掛けられたことがあったんだ。


確か・・・思いっきりぶん殴った上で、ふんじばって警察に連れてったんだったな。


「おっちゃん。そこ動くなよ。おっちゃんは巻き込まれただけなんだろうけど、今動かれたら庇えなくなるから。」


「いや、動くも何も、僕には何が何だか・・・。」


「とりあえず、院長を呼ばないと。誰か人を・・・いや、今は時間が惜しいな。」


対処が大変だけど、仕方ない・・・あれをやるか。


あたしは覚悟を決めると、思いっきり息を吸い込む。


そして全身全霊で叫ぶ!!


『脳まで酒浸りの、バーサクゴリラババアアアア!!!!』


ドゴン!!


「いい度胸してるねえリタ!!そこに直んな!!」


すぐに、目の前の壁を突き破って院長(ババア)が釣れた。


ってかまた豪快に破壊したけど、あれ誰が直すことになるんだろうな?


「どうやらまたあたしの拳骨(ゲンコ)をくらいたいようだねえ・・・!!」


指の骨をバキバキと鳴らす院長。


由緒正しい修道院の院長がやっていい仕草じゃないだろ、あれ。


あたしの師匠でもあるだけあって、人前だろうと関係なくすぐにでも稽古という名の可愛がりに移行しそうな院長。


「おいババア。緊急事態だ。」


「あ?・・・何があったんだい。」


でも、すぐにあたしの様子を察して詳細を聞くモードに入る。


こういうときの洞察力は、伊達に院長してないと思うね。


「今日は商人のおっちゃんが来る日で、あたしがその担当だったろ?」


「ああ、そうだね。・・・なんだ商人さんもいるじゃないかい。いつも世話になってるね。」


「ええ、お久しぶりです院長。」


「ああ。で、そんなお客人の前にあんたはあたしを呼びつけたってのかい。」


事と次第によっては・・・!!そんな言葉が聞こえてくる気がする。


いや、仕方ないじゃん緊急事態だし・・・。


「いつも通り品物のチェックをしてたんだけどさ。そしたらさ、そこの荷物。」


あたしは例の荷物を指さす。


「そいつから、嫌な臭いがしてさ。で、思い出したんだよ。その匂いの正体。」


一度言葉を区切って、しっかりと院長の目を見て言い放つ。


「名前はわかんないけど、麻薬の原料になる草。それの匂いにそっくりなんだ。」


「なんだって・・・!?」


さすがの院長も驚きで絶句する。


しかし、すぐに回復すると商人に向き直って話し始めた。


「・・・商人さん。悪いがその荷物を調べさせてもらえんかね?」


「すみません、これは他の顧客からお預かりした物。簡単に肯いては、こちらの信用に関わってしまいます。」


「だが、あんたもこいつの鼻の良さは知ってるだろう?」


そう。


いろいろあって、あたしの鼻はかなりの信用を得ている。


少なくとも、麻薬だっていう証言が一蹴されないくらいには。


「わかっています・・・ですが・・・。」


「あんたの立場もわかってる。でもな、これはあんたを守るためでもある。」


「だとしても・・・。」


「あんたは、それが麻薬の原料だって知ってて運んでいたのかい?」


「そんな訳ありません!!私の商売人としての矜持にかけて、そんなものを取り扱うことはあり得ない!!」


「だったら、素直に見せてはくれないかい?」


「ですが、これの取引相手は長年信用した相手です。あいつに限ってそんなこと・・・!!」


どうやら、自分が騙されて巻き込まれた可能性を認めたくないようだ。


さっきの発言からすると、深い関係の相手らしい。


そりゃあ、頑なになるよね。


「なあ、ババア。この商人のおっちゃんは良いやつだ。だから、()()を使ってやんなよ。」


「そうさな。これでも人を見る目はあるつもりだし、あんたの勧めもあるんだったら躊躇う理由はないさね。」


あたしが院長に勧めた手段。


それは、由緒ある修道院で長年勤める院長だからこそ・・・いや、どれだけ長年勤めようと、たかが修道院長にそんな権限は本来ない。


でも、このババアはたかが修道院長じゃないし、ここはあの由緒正しい更生施設の追放修道院だ。


「商人ガリット。レイクディーネ修道院長マリア改め、モーガン侯爵家前当主マリア・モーガンの名において、汝に協力を要請する。」


そう・・・このババア、実は偉い人なのである。


貴族としての階級も、上から2番目の侯爵家。


そのご威光には、大店の店主であろうと逆らうことはできないのだ。


「・・・ハァ。そう仰られては、断ることはできませんね。」


おっちゃんは深いため息をつくとそう言った。


渋々といった様子ではあったけど、どことなくほっとしたようにも見えた。


こうして、麻薬なんてものに関わることになっちゃった訳だけど・・・。


ここから先はババアに任せればいいや、なんて。


そんな風に思ってたこの時のあたしは、これがきっかけで本格的に大きな事件に巻き込まれていくことになるなんて、想像できるはずもなかった。



次回更新は4月1日午前6時の予定です。

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