第31話 国軍+間者=騒動の火種
おっす、あたしリタちゃん。
監禁されてた牢屋から、国軍によって救出されたあたしは、今・・・
「・・・ですから、上司の方にお伝えいただきたいのですが?」
「それはこちらが決めることだ。良いから質問に答えてもらうぞ。」
頭の固い兵士に、イライラしています。
ぶん殴りてぇ・・・
さて、事の顛末を思い出そう。
牢屋の壁を壊して外に出たあたしたちは、すぐに国軍に発見されて保護された。
それでまあ、天幕に通されたから、哀れな被害者として話を聞かれるのかなあ、と思いきやこの堅っ苦しい兵士に捕まって尋問紛いの事情聴取を受ける羽目に。
突入作戦かけてるくせに、情報がうまく伝わってないのかな?
それとも、こいつがとびきりの阿呆なだけ?
・・・後者な気がしてきた。
ともかく、荒事に慣れているようだとはいえ、ミアには国軍兵士からの尋問は酷だろうから、あたしは少し助け船を出すことにした。
「すみません、『鉄のリンゴをお持ちですか?』」
これはあたしたち修道院所属のシスターを示す符丁だ。
末端だろうと軍の兵士であれば、上司への報告・相談の義務があるはずなんだけど・・・
「質問しているのはこちらだ。何故、貴様らは囚われていたのだ?牢の破壊は貴様らの仕業なのはわかっている。隠し立てをすると、相応の罰を与えることになるぞ。」
うん。
「上司の方にお伺いいただけませんか?『鉄のリンゴをお持ちですか?』と。」
「貴様、何様のつもりだ?余計な事を言わず、さっさとこちらの質問に答えよ。」
うん・・・こいつ、ダメだな。
ってか、ヤバいな。
その後も何度か同じ問いかけをしたんだけど、どうやっても通じない。
ってなわけで冒頭のやりとりに戻るわけだね、以上回想終了。
ミアはやっぱり萎縮してるのか黙ってるけど、これそもそも被害者への扱いじゃないよね?
うーん、軍には知り合いがいるから気をつかってやったけど、そろそろ限界かな?
向こうもイラつきを隠さなくなってきたし、こっちも隠す必要はもうないでしょ。
っていうか、こいつもしかしなくても正規の兵士じゃないな?
ちなみに、今はリーフィ侯爵夫人からの依頼でそっちの身分を使っているけれど、国軍には修道院の身分の方が確実に話が通ると思ってそっちの符丁を使っていたんだけど・・・
仕方ない。
「兵隊さま。」
「なんだ?ようやく答える気になったか?」
「こちらを。」
あたしは夫人から預かっている指輪を見せる。
夫人から身分証として預かっているものなだけあって、装飾の中にはしっかりとリーフィ侯爵の紋章が彫られている。
兵士はそれを見た途端に顔色を変えたから、ようやくまともな話ができそ・・・
「貴様、どこで盗み出した!!それは貴様如きが持っていて良いものではない!!よこせ!!」
兵士はそう言ってあたしから指輪をひったくろうとする。
が、あたしはそれをひょいっとかわす。
すると、
「貴様ぁ・・・逆らうな!!」
兵士が剣を抜く。
うん、確定かな。
あたしが派手に牢屋の壁を壊しちゃった件もあって、最初は真面目すぎて融通が利かないのかと思ったけど、そうじゃない。
こいつ、敵だ。
まあ、符丁が通じない時点でおかしかったけど。
摘発に焦って、情報を取りに来たってとこかな。
符丁すら知らないとか、ずいぶん質の悪い間者を送り込んだもんだよ。
ま、でも・・・
「これなら、遠慮はいらないかな。」
あたしは目の前の机を思い切り蹴り上げて兵士の視界を塞ぐ。
もちろん、兵士はすぐに構えた剣で机を切り払うが、視界を一瞬塞げればあたしの狙いは達成された。
兵士の視界が開けたとき、そこにあたしはいない。
思い切り地面を踏み抜いて、空中に身を躍らせていたからだ。
兵士が気づいても、もう遅い。
振り下ろした剣を切り上げるその前に、あたしの蹴りが兵士の顎をきれいに捉えた。
兵士はどさりと大きな音を立てて倒れ、その音に気付いた見張りが天幕に入って来る。
「どうし・・・」
すかさず移動していたあたしは、言い切る前にその腹にボディブローを叩き込み、これもまた無力化する。
見張りをしていたってことは、こいつも敵側だから問答無用で倒して問題ないはずだ。
「る、ルタさん、まずいんじゃない?腹が立ったのはわかるけど、相手は国軍の兵士だよ!?」
「いえ、問題ありませんわ。こいつら多分偽物ですし。」
「に、偽物!?」
「まあ、正確にはどこかの貴族の私兵ですね。うまく紛れ込んだのでしょう。今思えば、タイミングが良すぎました。」
あたしが壁を壊したのは突発的なことだったのにすぐに駆け付けたし、連れて来られたこの天幕も他とは少し離れている。
最初から様子を探っていたんだろうな。
「おい、どうした!?」
少し離れた場所から別の兵士がやってくる。
今度は流石に本物のようだけど、倒れているのは恰好だけを見れば国軍兵士だ。
どう見ても、非はあたしにあるように見える。
よし。
「少しばかり、教育の時間ですね。ミアさんはここにいるように。・・・ああ。」
そう言えば倒れた兵士(偽)も天幕に1人残ってるな。
とりあえず、足を掴んで、外にぽーいっ。
「これで安全ですね。ここから動かないように。良いですね?」
「わ、わかったわ。」
肯くミアを見て大丈夫そうだと思ったあたしが天幕の外に出ると、剣を抜いた数人の兵士に取り囲まれていた。
「1つお聞きしたいのですが、そこに倒れている兵士たちの顔に、見覚えはございまして?」
一応問いかけてやるけど、さすがは正規の兵。
少なくとも目の前のやつらはあたしから視線を外すことはない。
さて・・・それならまずはお灸を据えてやろうと動き出す直前、
「これは何の騒ぎだ?」
他の兵士とは雰囲気も装いも違う男がそう問いかけて来た。
「緊急事態のため、制圧行動中!手を貸されたし!」
あたしを囲んでいる兵士の1人がそう答える。
へえ・・・相手も見ずにこの対応・・・こいつら、いいな。
ぴろりろりん♪
あたしからの好感度が上がった。
「承知した。助太刀・・・を?」
あ、やっべ。
こいつ知り合いだ。
バレる前に動こーっと。
あたしは姿勢を低くして踏み込む。
そして目の前にいる兵士の目の前に瞬時に近づくと、迎撃に降って来る斬撃を拳をぶつけることによって逸らして、思い切り回し蹴りを食らわせる。
兵士が別の兵士も巻き込んで吹っ飛んでいく。
「2つ。」
すると、隙があると見たのか、反対側にいた兵士が斬りかかってきたが、それも跳躍して軽々と避けると、空中で体を捻って繰り出した拳でそいつも吹っ飛ばす。
「これで3つ。」
さてお次は・・・と考える前に、今度は今までとは質の違う斬撃が飛んできた。
あたしはそれを拳で打ち払うと、そこには知り合いの男の姿が。
あたしはひとまず距離をとると、そいつが話しかけて来た。
「暴れ過ぎだ。誰かと思えば、リタじゃねえか。何してんだこんなところで?」
「よっす、リカルド。『鉄のリンゴはお持ちですか?』」
その問いかけを聞き、あたしを囲んでいた残りの兵士の顔色が変わる。
「『錆ならさっき落としておきました』ってんなことやらんでもお前さんのことくらいわかるわ。」
「あんたはそうだよねえ。でもさ、これが通じないのがいたんだよねえ。」
「貴様ら、まさか・・・!!」
あたしの知り合いであり、割と軍の偉い人であるリカルドが怒りを滲ませて周囲を見渡す。
やっぱそういう反応になるよねえ。
それだけ、これが通じないのはまずいことなのだ。
「違う違う。そいつらじゃなくて、後ろで倒れてる2人。」
さすがにかわいそうだから、さっさと訂正してやる。
そんで、それに従って例の間者に視線を向けたリカルドはすぐに苦々しい顔になる。
「・・・誰だ、そいつらは?」
「たぶん、今回摘発された側の間者だろうねえ。捕まった理由と牢から逃げた方法を聞かれたよ。」
「そうか。・・・おい、こいつらを連れて行け。俺も後で行くが、くれぐれも丁重に取り扱うように周知せよ。」
「はっ。」
これは『自殺と他殺の両面から注意して取り扱え』ってことだね。
リカルドがそんなふうに兵士に指示を出すと、すぐに倒れた2人は連れて行かれる。
「そんで、他のは?」
「お粗末な間者に腹立ったから、少し教育してやろうかなって。」
「完全に八つ当たりじゃねえか。」
「そうともいう。」
「そうとしか言わん。」
「まあ、いいじゃん。思わぬ経験が積めたってことで。」
「お前なあ・・・」
まだ何か言いたそうだが、リカルドは言葉を切った。
「国軍、気が抜けてんじゃないの?あんなお粗末なのに入り込まれてさ。」
「まったくもって耳が痛い話だが、こっちもいろいろあってな。お前さん、正規の事情聴取は受けてないよな?」
「うん。」
「なら、あっちで手続きするからついてこい。」
「ああ、待って。被害者もう1人いるんだよね。そこの天幕の中で待たせてる。」
「なら、そいつもさっさと連れてこい。」
そう言ってリカルドは先に歩いていった。
国軍にすら入り込むとか・・・これは思ったより大事に巻き込まれたみたいだね。
一応、夫人からの任務中でもあるし、引き留められないようにだけしないとなあ。
そんなことを考えながら、あたしは天幕にミアを迎えに行ったのだった。
次回の更新は3月1日(土)午前6時の予定です。




