第30話 ダメ貴族+偽物淑女=脱出
おっす、あたしリタちゃん。
あの後、寝たり筋トレしたり、それでミアがツッコんで騒いでまた怒られ・・・
なんてことを繰り返してたら、時間が経ってたよ。
ってわけで、引き渡し当日。
そいつは、すごく偉そうに牢屋のある部屋へと入って来た。
「ふぅんむっ!これが、今回の商品かね?」
いかにも偉そうなヒゲ(いわゆるカイゼルひげってやつかな?)をピンピン撫でつけながら、こちらを品定めする視線を送ってくる。
な、殴りてぇ・・・。
とりあえず怯えたフリで誤魔化してるけど、殴る衝動を抑えるのがツラい!!
これは思わぬ強敵だぞ!
「・・・・・・(じとー)」
一晩を同じ牢屋で過ごしたことであたしの性格を少しは把握しだしたミアの視線が痛いけど、気にしないことにする。
「なあんだか、パッとせんなあ。まったく、これだから下民の目利きは・・・。」
うっわ・・・わかってはいたけど、典型的なダメ貴族だぞこいつ。
護衛の数は2人・・・ミアを守りながらでも突破は余裕。
この拠点の人数はわかんないけど、まあどうにかなる・・・というよりご丁寧に正面突破する気もないしね。
まずは、このムカつくおっさんから情報収集かな?
「あの・・・。」
「む、誰が口を利いていいと言った?」
「ひっ。」
護衛が剣をわざとジャキン!て鳴らして脅して来たから、怯えたフリをした。
やっぱり、こいつ話が通じないタイプの馬鹿だ。
面倒だなあなんて考えていたら、あたしが怯えたことに気を良くしたのだろう、バカ貴族が話しかけて来た。
「それで、なんだ?」
「そ、その・・・私たちはどうなるのでしょう?」
「貴様なんぞにそれを知る権利なんぞない!・・・と、言ってやりたいところだが、自身の先は気になるか。良かろう、慈悲深いこのワシが、愚民に叡智を授けてやろう。」
うっぜえええええええ!!
でも、流れとしては好都合・・・耐えろ、耐えるんだあたし!!
「貴様らはこれから、とあるお方のために働くことになる。これはとても名誉なことなのだぞ?こんな田舎ではなく、もっとしっかりとした都会で、我ら栄光ある貴族の役に立てるのだからな。」
いや、ミアの故郷でもある最寄りの街は王都との中継地としてそこそこ栄えてるから、言うほど田舎じゃないぞ?
ってことは運ばれる先は王都か、もしくはどこかの大領地の領都か。
「都会・・・王都でしょうか?」
「ふん、それに負けるとも劣らぬところだとも。」
さすがに具体的な地名までは聞き出せないか。
「良いかね、そもそも貴様ら下民は・・・」
なんか、貴族と平民の身分差とか貴族の偉大さとか、そこらへんの持論を聞いてもいないのに語り出した・・・。
うげえ・・・。
・・・・・・。
うん、そろそろ限界だ。
あたしは後ろ手でミアに下がるように伝えると、勇気を振り絞るかのような演技をしてバカ貴族の方へと近づいていく。
「ふんむ?」
バカ貴族は油断している。
いかにも儚げな少女に何ができるのかと見下している感じだ。
魔封じの腕輪で魔法も封じているからね。
護衛も特に行動を起こしはしないようだ・・・これはありがたい。
牢屋の格子には隙間がある。
あたしはノーモーションでそこに腕を突っ込んでバカ貴族の襟を素早く掴むと・・・
「ゴァバっ!?」
思い切り引っ張って格子に叩きつけた。
せっかくだからと手首のスナップを利かせて威力を上げた効果か、バカ貴族は良い感じに白目を剥いて気絶した。
んー・・・ 爽☆快 。
「貴様!!何をやっている!!」
護衛が剣を抜く。
けれど、あたしは既に次の行動に移っている。
バカ貴族を気絶させた影で、あたしはさりげなく鉄格子を曲げて、移動できる空間を作り出していた。
その空間にうまいことバカ貴族を通らせて、情報源を手元に確保。
そしてすかさずまた鉄格子を閉じて追撃を防ぐ形だ。
「な!?」
「どんな馬鹿力だよ!?」
「だったら、扉から入るまで!!おい、鍵を開けろ!」
「へ、へい!」
護衛が剣を抜いて扉から入って来るが、問題はない。
あたしは素手のまま護衛と相対する。
「ルタちゃん!!」
護衛の剣が振り下ろされる。
普通の少女なら、ここでジ・エンド。
でも、あたしはあの修道院のシスターだぞ?
「遅い。」
半身を逸らして剣閃を躱すと、護衛の腹に思い切り拳をめり込ませる!
「ぐえぇ・・・。」
まず、1人。
「この、化け物がぁ!!」
残りの1人が魔法で火を放ってくるけど、それすらも問題はない。
魔法は魔力によって構成・再現された物理現象だ。
なら、こっちも魔力を纏った手刀でその核を切り裂いてやれば・・・!!
「ば、馬鹿な!?」
現象の核を失った魔力は霧散する。
そんであとは敵の前で迂闊にも呆けている護衛に蹴りを1発っと!!
「がふっ。」
ほい、護衛は制圧。
あとは盗賊の見張りだけど・・・
「げはっ!?」
お?
「こっちは片付けておいたよっと。」
昨日から雑談に巻き込んでた見張りのおっちゃんが、別の見張りを無力化していた。
「え、どうして・・・。」
「やっぱり、あなたはこっち側でしたか。」
「おや、気づいてたの?」
「ええ?」
ミアが置いてけぼりをくらっているから、説明してあげよっか。
「ミアさん、この方は多分、国軍の方ですわ。」
「ええ、軍!?」
「おいおい、そこまで気づかれてたのかよ。」
おっちゃんは目を見開いて驚いている。
まあ、それに関しては同じく体を動かす身の上だからなあ・・・。
「身のこなしでわかります。」
「いや、バレないように訓練しているんだがな。そちらさんもなかなか・・・どころかかなり強いみたいだが・・・。」
「そこはまあ・・・私は湖畔の出身ですもの。上司の方にご確認くださいな?」
湖畔の出身というのは、レイクディーネの修道院への所属を示す符丁だ。
「なるほど、通りで。」
「あら、これがすぐ通じるということはそれなりのお立場の方でしたか。そして、そんな方がこんなところにいるということは・・・」
「ご明察。」
おっちゃんの返答と同時に、扉の外がにわかに騒がしくなる。
「どうやら、軍の本体が突入してきたようです。もう安心ですよ、ミアさん。」
「そ、そうなんだ・・・良かった・・・。」
ミアは安心して腰が抜けたようで、ペタンと座り込んでしまった。
「おやおや。本当はお嬢さん方には外に出てもらいたいが、俺はまだ仕事があるからエスコートは厳しくてな。ここで待っててもらえるか?」
「それには及びませんわ。」
「?」
あたしはおっちゃんに背を向けて、壁の方へと歩き出す。
そして、少し触って感触を確かめてから、壁に思いっきり拳を突き出した。
ゴガァン!という音と衝撃が響けばあら不思議。
そこには、外に繋がる穴が。
「これなら、簡単に退場できるでしょう?」
そう言ったあたしを、ミアとおっちゃんは目をまんまるにして見つめていたのだった。
次回の更新は2月22日(土)午前6時の予定です。




