第22話 罪科+少女=赤
*注意
本話には残酷な表現が含まれます。ご注意ください。
メルティーナ・ファイドラは困惑していた。
リタ・ルディガン。
感情の無い目で常に薄ら笑いを浮かべていた不気味な少女。
そんな印象だった彼女が、物理的に幼くなり、性格も活発になった上で自身の身の上を聞いた結果、目の前で頭を抱えているのだ。
彼女は記憶がない、と言っていた。
さっきまでの活発・・・いや、場所を考えれば軽薄とさえ言っていい態度や雰囲気は完全に消え失せ、この少女は本気で頭を抱えているようだ。
メルティーナは公爵令嬢で未来の王妃だったという立場上、様々な貴族を相手にしてきた。
貴族とは、たとえ少年少女であろうと笑顔という仮面を使いこなして思索を巡らせる化け物である。
それはメルティーナも例外ではなく、だからこそ他人を見極める目も育っていた。
そんなメルティーナから見ても、リタは本気で頭を抱えているようにしか見えず、演技をしているとは到底考えられない。
その考えは隣のアンネマリーも同じようで、リタに対して感情を露わにしていた彼女はメルティーナよりも困惑・・・いや、もはや混乱と言ってもいい状態にあるようだ。
彼女のフォローはミミにまかせればいいだろう。
そんな風にメルティーナが考えていたその時、リタが新たに話し出した。
「あー・・・なんて言うか・・・うん、なるほど。そりゃ、さっきもあんな反応するよねえ。あたしだってそうする。ってか、指詰めるだけじゃ足りないわ、こりゃ。」
それは、メルティーナたちに話しかけるというよりも、どちらかと言うと独り言。
「扱いも面倒そうだし、剣で切ってって言っても簡単にはできないよねえ・・・。」
ところで、唐突だが今のリタの状態を説明しておこう。
彼女は今、魔法発動を阻害する効果を盛った手枷と足枷を嵌められた上、鉄格子の牢屋に拘留されている。
面会人であるメルティーナとアンネマリー、そしてその従者のミミがいる地点の斜め前には警護のために兵士が左右に2人控えており、罪人相手の面会で彼女たちに危害が加えられないように守っている形なのだ。
なら、指詰めも彼らに頼めば良いという話になるが、さすがのリタも他人に叩き切られるのには抵抗があるため、覚悟もできて自分でケジメをつけられるように剣を貸して欲しい、と言ったのだ。
というか、中身日本人であるリタには極道映画やゲームのケジメのつけ方の印象が強かったため、そういう提案をしてしまったというだけなのだが。
これもまた平和ボケと言っていいのかもしれないが、ここは異世界でリタは罪人。
剣など貸してくれるはずもなく、聞いた罪状としては首を刎ねられても文句は言えないレベル。
リタは自意識が目覚めたばかりであり、生き残るために必死だった。
だからだろうか。
「本当はやりたくなかったんだけど、仕方ないよね。」
「??あなた、何を・・・」
「お下がりください!!!」
疑問を浮かべたメルティーナへと、護衛兵士からの制止が飛んだ。
魔法が使えないはずのリタの体から、ものすごい魔力の励起を感じたからだ。
そしてすぐ、リタの嵌めていた手枷と足枷はバキン!と音を立てて外れてしまった。
その残骸はシュウシュウと白い煙を上げていた。
「そんな・・・なんてこと!」
「お嬢様方はお逃げください!くっ!なんという魔力量だ!!」
「私の後ろへ!!」
この時のリタは必死だった。
自身が生き残るためにできること・・・償い。
少なくともその意思を示すために、行動を起こしてしまった。
記憶のないリタには魔法を使った経験などもちろんない。
しかし、彼女の肉体の記憶とでも言うべきか、その扱い方はなんとなくわかった。
彼女はその感覚に従い、右手の中に魔力の剣を作り出した。
護衛兵士たちはいよいよ臨戦態勢に入る。
そしてリタは自身の左腕をまっすぐ前に突き出すと、
「・・・何を・・・!」
その刃を、自身の左腕に向けて思い切り振り下ろした。
「「な・・・!」」
絶句した護衛兵士とメルティーナ、そしてアンネマリーとミミの瞳には、赤をまき散らして宙を舞う少女の左腕が映った。
自らの血で自身の顔を赤く染めながら、リタは脂汗をかいた顔でそれでも笑った。
「これがあたしの、ケジメだ。」
しかし、肉体的苦痛と精神力、そして魔力の消耗によって、リタは意識を失って倒れたのだった。
次回は8月5日(土)午前6時に更新予定です。




