第16話 少女+眠気=ゆるふわ~
追記:6月30日
商人の名前が「ガンツ」になっていたため、「ガリット」に修正しました。
修道服をごりっごりにカスタムした、眠たげな女がそこにいた。
なんて、他人行儀なことを考えたけど、こいつはれっきとしたあたしの同僚。
「お、やっぱ来てたか忍者女。」
「いつも思うけど、その“ニンジャ”って何?」
名前はサリア。
レイクディーネ修道院の諜報担当の1人だ。
「まあ、細かいことは気にしない。で、ガリットのおっちゃんのとこにいるってことは何か情報持ってんでしょ?」
「もち。抜かりない。」
「さすが。」
今日、あたしたちはあの副リーダーに逃げられた。
その段階でやつを怪しんでいたあたしが追いかけなかった理由が、サリアの存在である。
「あんがとね、部屋貸してくれて。」
「気にしないでくれよ。元々、こっちが巻き込んでしまった側なんだから。」
この場にはガリットのおっちゃんも同席している。
実は、ここはおっちゃんの商会の支店にある応接室。
普段から商売に使うだけあって盗聴対策も万全で、人払いも済んでいる。
報告を聞くにはもってこいって訳だね。
「で、何がわかったの?」
「まず、あいつのこと。」
「燃やされた副リーダー?」
「そう。・・・あいつ、実は燃やされてない。」
「え?マジで?」
「まじまじ。あれ、偽物。」
「うっわ、そうなんだー。まんまと騙されてたよー。」
「でも、眼鏡は本物。しかもお気にだったとか。」
「お!それはいいね!!一泡吹かせた気分。」
「これ、報告を聞いてるんだよね?君たち、会話が軽すぎない?」
おっちゃんに苦笑されるが、あたしとサリアはいつもこんな感じなのでどうしようもない。
情報は手に入ってるし、問題ないでしょ。
「で、偽物使ってまで逃げたってことは、あいつ今回の件に結構?」
「うん。たぶん、がっつり。っていうか・・・。」
「ん?どした?」
「あたし、あれのこと多分知ってる。」
「え!?本当!?」
超大切な情報じゃん!!
「サリアが知ってるってことは・・・貴族関係?」
「そう。ここの隣の領地にいる貴族の使用人にそっくり。たぶん、本人だと思う。」
「隣かあ。」
このディライトがある領地の名前はディーン辺境伯領。
国の西端に位置して魔物も強いという、まさに辺境だ。
ちなみに、レイクディーネも同じ領地だ。
そして今回話に出たお隣の領地。
該当する領は3つあるが、話題に上がった領地がどこかはだいたい予想がつく。
「ディーンの北東のオルレ伯爵領の領主のとこ。」
うっわ。
「よりによってあそこの領主かぁ・・・。」
「うーん、厄介だね・・・。」
あたしだけでなく、おっちゃんも渋い顔をする。
さっき予想できた理由だけど、このオルレ伯爵領はここ数年荒れているんだよね。
数年前に前の領主が急死して、そこを継いだのが甘やかされた一人息子。
流石に目に余るってんで矯正か養子って話も出てたようなのが、領主に収まっちゃったからもう大変。
贅沢はするわ、我がままだわ、横暴だわといった具合らしい。
それでも領地運営は最低限古い家臣が回してるけど、一部の重臣がバカ息子を甘やかして裏で実権を握ってるってのがもっぱらの噂だ。
そんな悪い噂しかないところの奴が隣の領に来て何をしてたのか・・・うっわ、面倒ごとの匂いがすごい。
まあ、今更だけど。
「実はね、2人とも。僕に例の荷を預けた取引先ってオルレでも商売をしてるみたいなんだ。」
「それは・・・だんだん話が繋がってきたね。」
「うん、さすがに偶然では片付けられないレベルかな。」
「実際、間違ってない。副リーダーが逃げたの、北東方面。」
ウチの情報担当は優秀だなあ・・・きっと、副リーダーくんは偽物で誤魔化せたと油断してたんだろうなあ。
「じゃあ、リタちゃんの次の目的地は北東かい?」
「そうなるだろうね。あー、せっかくこの街にも慣れてきたのになあ。」
「評判は聞いてるよ。楽しくやってるみたいだね。」
「まあね。思ったよりも楽しくて、あたしも自分でびっくりしたよ。」
もしや、修道女よりも天職なのでは?
・・・うん、いつかはこっちの道に進むことを検討してもいいかもね。
今のあたしは、修道院以外では身動きが取れない身分だからね。
なんでも、記憶を失う前のあたしがやらかしたらしい。
まあ、とくに不満もないし、別にいいんだけどね。
「じゃあ、数日中には出発するのかい?」
「そうなる。わたしたちも支援の準備があるから、2日後以降だったら・・・」
サリアとおっちゃんが打ち合わせを始めている中、あたしはそんなことを考えたりしていたのだった。
次回は6月24日(土)午前6時に更新予定です。