第15話 断絶+尻尾=修道女?
追記:6月30日
商人の名前が「ガンツ」になっていたため、「ガリット」に修正しました。
今、あたしの目の前には焦げた遺体がある。
その近くに転がっているひしゃげた眼鏡は、さっきあたしが殴り飛ばした副クランリーダーの物だろう。
さっきのカインとの話し合いで、この副リーダーが怪しいのはわかった。
小物臭がすごかったから、泳がせて敵の情報を探ろうと考えてしまったのはあたしだけじゃないだろう。
でも、その判断はどうやら失敗だったらしい。
目の前の状況は完全に、口封じ。
レイクディーネ修道院で見つけた麻薬の原料。
そこから始まった一連の事件における敵は、大胆にトカゲのしっぽを切り捨てたんだ。
あたしは野次馬から抜け出すと、様子を見て待っていた皆に状況を説明する。
店長やミユキ姉の顔が険しいのは、惨状へのものだけでなく、あたしと同じ思考に至ったからだろうな。
「そんな、ルータスが・・・」
「一応、確認してきてください。黒焦げで顔の判別も厳しい状態だったので。」
そんなあたしの提案に、素直にカインは従って野次馬をかき分けて行く。
そして戻ってくるなり青い顔を更に白くして「ほぼ間違いない」と告げた。
「眼鏡もそうだけど、背格好が彼と一致する・・・なんてことだ・・・。」
あまりの事態にカインは衝撃を隠し切れない。
この場はひとまず、クランハウスに戻るという話になった。
クランハウスの執務室には現在、カインと数名のクランメンバー、そしてあたしと店長とミユキ姉が集まっていた。
「まったく、やられたよ。」
重い沈黙の中、最初に口を開いたのは店長。
「そうですわね・・・まさかこんなに早く手が打たれるなんて。」
あたしたちの行動が遅かった訳ではない。
ただ、敵が想定より動きが早かった・・・というよりも、事態が重かったというだけなのだ。
「最初はバカな若いのがいるなあ、くらいに思ってただけだったのに、こんなに重い事態だったなんてねえ。カインにお灸を据えに来たつもりが、事態に気づけなかった僕も人のことは言えないよ。」
「それを言ってしまえば私もです。最近の『誓いの剣』の近況、噂から異変に気付くべきでしたわ。」
この2人、なんか後悔してるっぽいけど、あんたら食堂の店長とウェイトレスだよね?
気づけないのが普通なんだよ?
いや、そういえばこの店長、街の有力者だったわ。
ならこの思考も当然・・・なのかな?
「まさか、ルータスに利用されてたなんて・・・ボクは街にとんだ迷惑を・・・。」
「それはそうだね。」
「そこは庇えませんわね。」
「うん、もっとしっかりして欲しいですね。」
「・・・ボクが全面的に悪いけど、君たち本当に容赦ないね・・・。」
迷わず即答したあたしたちに、カインが項垂れる。
周囲のメンバーは口々にカインを慰めてるけど、さすがにこっちとしては庇えないって。
今回は完全に、カインのやらかしな訳だし。
閑話休題。
ともかく、これから問題になってくるのは、街に薬物を持ち込んでクランの乗っ取りをかけた敵への糸が切れてしまったことだ。
あたしが1週間前から潜入してようやく掴んだ手がかりだったのに、それを知ってそうなやつは燃えていなくなってしまった。
デカい獲物は消えちゃったけど、取り巻きもいたからそっちから追えばいいかと言えば、実はそうでもない。
あの取り巻き連中の死体は出てきていないが、今頃は確実に処理されている頃合いだろうし。
全てが後手に回ってしまっているのが現状だ。
でも、あたしはその辺は心配していなかった。
だって、今回の口封じ、状況的には副リーダーを焼き殺した犯人がいる。
その線から目撃者などを追えば問題はない。
もちろんそんなことは店長とミユキ姉も気づいているが、その目撃者を探すのが難しい。
本来であれば。
その場ではあたしは何も言わず、カインとは少し話をしてその場は解散となった。
こんなことがあっても、店長とミユキ姉、そしてあたしは食堂に戻って通常通り業務を再開するしかない。
だから、あたしが動けたのはお店が終わってから。
夜も遅い時間にあたしがガリットのおっちゃんの商会を訪ねると、やはりそこには目的の人物がいた。
「やっほ。」
眠たげな顔であたしにそう挨拶して来たのは、1人の修道女。
袖をノースリーブにしてスカートを短く、そしてあみあみのタイツを履くというゴッリゴリのカスタム修道服を着込んだ同僚があたしを待っていたのだった。
次回は6月17日(土)午前6時に更新予定です。